ヤマトパーティ〜'2003ヤマトパーティ開催に寄せて〜
              〜宇宙戦艦ヤマトV 第24話より〜

 

 「ヤマトパーティだって?」

 宇宙戦艦ヤマトの艦長室で、艦長の進にそう進言しているのは、生活班長の森雪と土門竜介だった。

 今朝ルダ王女やシャルバートの長老に連れられて訪問した王家の谷で、ヤマトは地球を救うハイドロコスモジェン砲を譲り受けることになった。その積み込み作業も始まり、明日にも地球に向け発進する予定だった。

 「ええ、今夜にでも。シャルバートの方へのお礼をこめて地球のお料理と音楽やダンスを楽しんでいただこうと思って…… 急なんですが、新人さん達が中心に運営してくれるって言うので」

 「はい! 僕らで全部やります。ハイドロコスモジェン砲の収納の邪魔はしませんので、お願いします!」

 土門がいつも以上に元気な声で頭を下げた。進の顔がほころぶ。

 「シャルバートの方々が来てくださるって言うのなら構わないが。こちらからも何かお礼をしたいとは思っていたからな。しかし、料理にダンスだなんて、準備できるのか?」

 「それは大丈夫です! 料理の方は食材を大量にシャルバートからいただきましたし、ダンスと言ってもその……フォークダンスをしようと思って。それなら簡単だし誰でも参加してもらえるかと……」

 「うん、そうか、それならいいだろう。雪、土門、君達に任せるよ」

 艦長の快諾を得て、雪と土門は嬉しそうに頷きあった。

 「ありがとうございます!」

 「じゃあ、さっそくシャルバートの長老に連絡を取ってみます!」

 「ああ、頼んだぞ」

 こうして、シャルバートとの別れの会を兼ねたヤマトパーティの開催が急遽決定した。



 そして夜。シャルバートから差し入れられた食料と幕の内ら調理チームの努力によって、急仕立てとは思えないほどの和洋中様々な料理が、会場となったヤマト側方展望室の周囲をぐるりと並んでいた。
 予定通り開催された会場では、非番のヤマトクルー達が招待したシャルバートの住民の代表たちと歓談しながら、食事を楽しんでいる。

 機材の搬入をチェックしていた艦長の進も、少し遅れてその会場に着き、シャルバートの長老と話をしている雪と島を発見して合流した。

 「長老、今夜はわざわざご足労いただきましてありがとうございました」

 「いえ、我々も珍しい料理を口にできてとても喜んでおります」

 「何もありませんが、どうぞごゆっくりおくつろぎください」

 進が長老にそう告げると、今度は横にいる雪を見た。

 「雪、ご苦労だったな」

 「ううん、私はほとんど見てただけよ。新人さん達がそれはもう張り切っちゃって…… うふふ、本当に頑張ったのよ、彼らも」

 「ああ…… 頼もしい限りだ。立派なヤマトクルーになったな」

 二人が笑顔で微笑みあう。すると、それを聞いていた島が、くすりと笑った。

 「それを言うなら、お前達も最近になってやっとらしくなったんじゃないか」

 「えっ!?」 「な、なんの話だ?島!」

 客の前で何を言い出すのかと焦る進と雪をからかうように、島はさらに言葉を続けた。

 「艦長だ生活班長だって意地張ってるとかわいくないってことだよ!」

 この旅に出たばかりの頃は、頑なに業務に邁進しようとする進と、黙って任務をこなす健気な雪の二人が、島を始めとするメインクルー達には、かえって痛々しく見えていた。それが、ここのところやっと昔の二人に戻りつつあることを島は喜んでいた。

 「なっ!?」

 「ははは……」

 真っ赤になった進を見て島が大笑いすると、そばにいた長老も、進と雪の関係を理解したらしく、優しい笑顔になった。

 「男女の仲の良きことは、平和の象徴でもありますからな。よろしゅうございますな」

 そんな風に笑われて、進も雪も恐縮するしかなかった。



 しばらくすると、前方に設置された小さな舞台の上に、マイクを持った2人の人物が上がった。

 『さて、皆様、お食事は十分に取られましたでしょうか? それではそろそろこの本日のヤマトパーティのメインイベント、ダンスパーティを始めたいと思います!!
 司会は私、相原義一と坂巻浪夫で進めさせていただきます!
 シャルバートの皆様、ダンスといっても難しいものではありません。フォークソングという誰でも簡単に踊れるものですから、すぐに覚えられますので、どうぞお気軽にご参加ください!
 さあそれでは、さっそく第1曲目に入りたいと思います。まず皆さんは輪になってください。曲目は地球の皆さんはよくご存知のマイムマイムです!』

 相原の案内に従って、ぞろぞろと人々が中央に集まり輪を作り始めた。人員整理は新人達の仕事だ。すばやく輪の中に駆けていって、手際よくヤマトクルーの間にシャルバートの人々を配置していった。

 「じゃあ、私も行って来るわ!」

 それを眺めていた雪も、持っていたコップをそばのテーブルに置いて、進と長老に会釈して輪の中に駆けていった。
 生活班長としては、率先して参加しようという意気込みだろうか。いつも一生懸命な彼女の姿に、進は目を細めた。

 曲が流れると、皆が隣と手を繋ぎ、ご存知マイムマイムの踊りが始まった。最初は戸惑っていたシャルバートの人々も、簡単な踊りにすぐに慣れて楽しそうに踊り始めた。数回曲が繰り返されるうちに、すっかり和やかなムードになっていった。
 そして曲が終了すると同時に、わぁという明るい歓声と拍手が起こった。



 1曲目が好評に終わり、気を良くした司会の二人は、早速次の曲の紹介に入った。今度は坂巻がマイクを持つ。

 『それでは次にちょっと趣向を変えまして、わがヤマトのふるさと、日本の曲を一つご披露いたします。盆踊りと言われる種類のもので……曲目は、炭坑節です!!』

 そう紹介すると、ヤマトクルーの間から大きな笑い声があふれた。
 と同時に、会場の真ん中の方へ医師の佐渡酒造がしゃしゃり出てきた。片手にいつもの酒瓶と、もう一方には団扇(うちわ)を持っている。

 「さぁさぁ、わしが手本を舞うてやるからのう! みんな、わしを真似て踊るんじゃぞ!」

 再びどっと笑いがわき、続いて音楽が鳴り始めた。「スッチャラカチャンチャン……つっきがぁ〜でったで〜た〜」というおなじみの曲が流れ出すと、三度(みたび)笑い声が部屋中に広がった。中央では佐渡がおかしな恰好で見本とやらを踊り、それを見ながら皆も踊り始めた。
 若いクルー達は佐渡を真似てひょうきんに踊るし、雪やメインクルー達はなかなかスマートに踊っている。

 それを興味深そうに眺めているシャルバートの長老に、進は参加を勧めた。

 「いかがですか、長老も?」

 「ははは、これなら私にもできそうですな。ちょっと行ってきますかな」

 長老は、嬉しそうに答えて輪の中に入っていった。雪がそれに気付き、自分のすぐそばに招いた。長老は、雪の手ほどきを受けると、すぐに上手に踊り始めた。明るい笑い声とともに和気藹々と踊りが続き、2曲目も盛況のうちに終了した。



 『さて、次はまたまたフォークソングに戻ります。今度はできれば男女別で2列の大きな輪を作ってください。曲はオクラホマミキサーです! 皆さん、学生時代に好きだったあの子と手を繋げるチャンス!なんて思った思い出ありませんか?』

 との相原のかけた声に、皆がははは、と笑う。

 『ヤマトのみんなは、シャルバートの美しい女性の方々と手を繋げるチャンスです! そしてもちろん、われらがヒロイン森生活班長もいらっしゃいます!』

 おおっ!と歓声が洩れる。雪やシャルバートの女性達がちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。そして間髪を入れずに、相原が言葉を続けた。

 『艦長!艦長も参加してくださいよ!! フィアンセの手を握られっぱなしってわけにはいかないでしょう!』

 どっと笑いが流れ、皆の視線が進に集まった。

 「まったく、相原のやつ……」

 進は苦笑いながらも、皆の期待に答えるべく輪の中に入っていった。ただし、なんとなく気恥ずかしい進は、雪がいる場所からは相当離れた場所に入ることにした。

 『それじゃあ、曲が入ります!』

 シャルバートの女性とパートナーを組むヤマトクルーはニコニコと嬉しそうに踊りを教え始める。男性の方が多かった関係で男同士の組合せになったところもあり、そんなカップルはゲラゲラ笑いながら踊っている。

 進も次々と相手を変えて踊っていったが、雪まではまだ遠かった。ちらっと雪のほうを見ると、嬉しそうに鼻の下を伸ばすクルー達に、いつもの優しい笑顔を向け手を差し伸べている。

 (揃いも揃ってみんな嬉しそうな顔しやがって…… ちょっとばかし妬けるもんだな)

 進は自分の悋気に苦笑した。生活班長としての彼女の笑顔がクルーみんなのものであることは重々承知しているはずなのに、目の前でそれを見せつけられると、艦長ではない素の古代進がひょっこりと頭をもたげてしまう。

 踊りは続き、少しずつ雪との距離が縮まっていく。

 (もう少ししたら、雪のところだな……)

 ただ手を繋いで踊るだけだというのに、なぜかわくわくしている。まるで彼女と出会ったばかりの自分に戻ったみたいで、進は可笑しかった。
 そして遠かった距離が曲が進むに連れて縮まり、とうとう進の目の前に雪がやってきた。
 そして雪の手を取った瞬間、演奏が終わった。

 「あぁっ……」 進が至極残念そうに声をあげると、雪も「あらっ、もうおしまいかしら?」と首をかしげた。

 「あいつらぁ、企んだようにぴったり止めてくれたなぁ」

 「うふふ……残念ね」

 雪の笑顔に苦笑しながら、進が仕方なく握った手を離そうとした時、会場全体が急に薄暗くなって、再び音楽が流れ始めた。
 今度のはフォークダンスとは違って、スローでとてもムーディーな曲だった。

 『ダンスパーティも最後の曲になりました! それでは皆様、いよいよお待ちかねのチークタイムです!』

 坂巻がもったいぶった発表に、ヤマトクルー達の間からおおっという低い歓声が上がった。
 その言葉にも、進はきょとんとしている。

 「なんだ?チークタイムって?」

 「あらまあ、こんな計画聞いてなかったんだけど…… うふふ、チークタイムってね、ムード音楽にあわせて、二人が体を寄り添わせてゆっくり踊る時間なの」

 進の問いに、雪がくすくす笑いだした。チークタイムを知らない進もそうだが、こんな爆弾?をこっそり用意していた新人達にも、あきれるやらおかしいやらだ。だが、チャンスは有効に使うものである。

 「えっ!?」

 進がびっくりしてまじまじと雪を見つめると、彼女はいつもより艶かしい笑みを進に返した。その後ろから、司会者の相原からの催促が飛ぶ。

 『さあ、ヤマトの諸君!お近くの女性に勇気を持ってダンスを申し込んでください! シャルバートの方々も、よろしければどうぞお付き合いお願いいたします。失礼なことをする輩(やから)がおりましたら、蹴っ飛ばしてくださっても結構ですので、どうぞご安心を!』

 そんな言葉にくすくすと笑い声が漏れる。そしてさっそくヤマトクルー達が、目の前のシャルバートの女性に礼儀正しく踊りに誘い始めた。島も南部も、上手にエスコートして会場の真ん中に出ていく。

 その様子を一通り眺めてから、雪が進の誘いを待つように仰ぎ見ると、彼は案の定、そわそわし始めた。

 「お、俺は……いいよ。あ、その……そろそろ見まわりをする時間になるから」

 と言い訳して逃げ出そうとした。するとタイミングを計ったように土門、坂東、徳川の3人が駆けつけてきた。

 「艦長!班長!ほらほら行ってくださいよ! 一番お似合いのお二人が行かないと始まりませんよ!」

 「お、俺はいいって」

 「あれ? ってことは班長はフリーですか? じゃあ、僕と一緒に」 「いや、俺とお願いします」 「俺の方が……!!」

 「あら、困ったわね。うふふ…… 艦長、どうします?」

 雪が可笑しそうにくすくすと笑う。と、進はそれに答えず、今までの逃げ腰が一転、ムッとしたまま雪の手を引いて中央の方へずかずかと歩き始めた。
 雪は引っ張られながら顔だけ振り返って、3人にウインクする。声には出さないが口が「ありがとう」と動いていた。土門たちは、顔を見合わせると肩をすくめてくくっと笑った。

 「よしっ、これでOKだな。あとは、坂東に借りた赤外線スコープをつけて……と」

 工作班が用意したらしい何やら怪しげな眼鏡をかけて、3人はこそこそと走り去った。



 場に出て来たものの、進は何をどうしていいかわからずに困ってしまった。なにせチークダンスなるもの、生まれてこの方踊ったことがないのだ。

 「おいっ、どうするんだ?」

 「うふふ……」

 雪は笑うと、進の首筋に両手を絡めた。そして、

 「私の腰に腕を回して……あとは、音楽にあわせて揺れてるだけでいいのよ」

 進の耳元で、誘うように甘い声でそう囁いた。

 「あ、ああ……」

 思わずドキリとさせられる。ただの艦長と生活班長の間柄でいようと、ずっと自分を制御してきた進だが、あの雪の遭難事件のあとは、少しその箍(たが)をはずした。それでも雪との関係をできるだけフランクにする努力はやめていない。
 それがここにきて、地球を救える算段がついた上に、こんな風に体を密着されられては、さすがの彼にも限界がある。
 雪の甘い香りが進の鼻をくすぐり、進の体中にアドレナリンが駆け巡る。鼓動が早くなり、雪への思いが沸き上がっていった。

 その心の中を見透かしたように、あたりはさらに明度を落としていった。そしてとうとう明かりはほとんど消え、とうとう外からの星の光だけになった。
 曲はまだ続いている。付近で人が踊っている気配はするが、それが誰なのかはっきり判別できなくなった。

 「古代……くん……」

 その暗さに気を緩めたのか、いつも人前では艦長としか呼ばない雪が、進をそう呼んだ。そして胸に預けていた顔をゆっくりと上げる。その瞳が進を包んだ。

 「雪……」

(by めいしゃんさん)

 進の心に雪への愛しさがこみ上げる。同時に雪の心にも…… 二人には周りの存在が見えなくなっていった。そして……二人の顔がゆっくりと近づいていく。ゆっくりゆっくりと近づいていって、その唇があと1センチで届きそうになったその時……


 ピカッ!と明るい照明が二人を照らし出した。真っ暗な中に、二人のところにだけスポットライトが当ったのだ。それは、さっき赤外線スコープを付けていた連中の仕業だった。

 「キャッ!!」「ウワッ!!」

 二人は慌てて飛びのいたが、もう後の祭りだ。うわぁ〜とかピーという声や音が、二人の耳に次々と聞こえてくる。

 だんだんと明るくなって周囲が見えてくると、会場の皆がニコニコ―いや、ニヤニヤかもしれない―笑いながら二人を見つめているではないか。

 「な、な…… み、見せもんじゃないぞ!!」

 進が真っ赤になって叫ぶと、どっと笑いが起こった。再びやんやの喝采とピーピーという冷やかし半分の口笛があちこちで響き渡る。

 『古代艦長! 森生活班長! 地球に帰ったら、すぐに結婚式ですよね!! 披露宴には僕らみんなを招待してくださいね〜!!』

 坂巻がマイクでそう叫ぶと、事情を察したシャルバートの人々も含めて全員が拍手をした。

 「うぐっ……」

 真っ赤になってうつむく進の隣で、雪は恥ずかしそうに、だが、とても嬉しそうに微笑んでいた。

 「おめでとう!」「お幸せに!」という数々の祝福の言葉に囲まれて、つかの間二人はアツアツの恋人同士に戻ったのだった。



 『さて、楽しかったダンスパーティもとうとう終わりの時間になってしまいました。それでは最後に、ヤマト艦長から一言お願いいたします!』

 散々な冷やかしに照れまくっていた進だったが、その声にすっと落ち着きを取り戻した。マイクを持ってきた坂巻からそれを受け取ると、艦長の顔に戻った。

 「シャルバートの皆さん、本日はこのヤマトパーティに参加くださいましてありがとうございました。

 地球は……人類は……皆様のおかげで、再びその命を取り戻すことができることになりました。本当に本当にありがとうございました。
 そして今日のこの出会いを私は決して忘れはいたしません。シャルバートの皆様もヤマトクルーの皆も、ここに会した人達とは、また出会えるかもしれませんし、もう二度と会えないかもしれません。ですが、今日ここでの一期一会を、素晴らしいひとときを、一生大切にして貰いたいと思います。

 地球とシャルバートとの友情と、両星の永遠の繁栄を心から祈ってご挨拶に代えさせていただきたいと思います。本日は本当にありがとうございました」



 こうして進は拍手喝さいに包まれ、その後シャルバートの長老から招待の礼を述べる挨拶があった後、シャルバート人を招いて開催されたヤマトパーティは無事に終了した。
 そして翌朝、ハイドロコスモジェン砲を積んだヤマトは、地球を目指して旅立っていった。


 この作品は、2003年11月23日のヤマトパーティで配布したチラシのおまけとして作ったお話です。HPに公開するにあたって、一部修正して掲載しています。

 一度は参加してみたかったイベントですが、今年も遠方であることと仕事の関係で出席することができませんでした。
 何かの形でなんとか参加したいと思って、このようなお話を作りました。
2003/11/24 あい

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(背景:Studio Blue Moon)