あなたをユ・ウ・ワ・ク




 古代進と森雪が晴れて結婚式を挙げてから、早、半年あまり。二人は、先日も半年記念の旅行なども行ったりして、ごくごく普通で幸せな新婚生活を続けていた。

 そして秋の様相を見せ始めた頃、古代進は最新鋭の戦艦の製造アドバイザーとして、地上での勤務がしばらく続いていた。今日は、その製造責任者の真田との打ち合わせがあり、今さっき終わったところだった。

 「ふうっ……と。これで、今日の懸案はおしまいですね」

 進が資料を整えながら笑顔で声を掛けると、真田も嬉しそうにニッコリと笑った。

 「ああ、もう最終調整の段階だからな。いいのができるぞ」

 「さすが地球防衛軍に加えて、南部と揚羽の精鋭が終結しただけのことはありますね。すごい艦になりそうだ。しかし、僕に使いこなせなかったらどうしましょうかねぇ?」

 冗談半分にそんな心配を口にする進に対して、真田は大きく笑い声を上げた。

 「あはは…… 古代進が扱えない艦など、今の地球防衛軍じゃ誰も扱えんよ。それに、これはお前が指揮を取ることを念頭に置いた艦だ。きっとピッタリくるはずだぞ」

 「はい、ありがたい話です」

 「だが、これでお前に活躍してもらうような事態になってもらっても困るんだがな」

 「あははは……確かにそうですね。もう、戦いはいりませんよ」

 その言葉に真田も大きく頷いた。

 「ああ…… 今は平和だ。それをたっぷり満喫しないとな……っと、まあ、お前んところは120%満喫してるらしいがなぁ」

 真田の表情が、今までとは打って変わって柔和になった。その視線と口元は明らかに進をからかっている。

 「な、何の話ですか!?」

 突然向けられたその視線の意味を、さすがの進もすぐに理解した。新婚生活のことを言っているのだ。進の慌てぶりを見て、真田はさらに嬉しそうな顔をした。

 「聞いたぞ、この間も二人で旅行したんだってな」

 「え? ええ、まあ。しかし、そんなことまでよくご存知ですね、ははは……」

 実は、二人は先日の結婚半年の記念に三浦半島のほうへ一泊旅行に行った。なかなか充実した旅行で、特にホテルでの夜は、妻を十分に堪能することができた。

 真田はその旅のことを誰かから聞いたらしい。どうせ、南部か相原あたりだろうと思いのながら、進は照れ笑いした。

 「いいことだ。結婚しても宇宙を飛び回ってるんだ。たまに地球にいるときくらいはたっぷり女房孝行してやらんと」

 「はは、そうですね、地球にいるときくらいは……」

 「ということは、今夜あたりも奥方とデートだったりしてな」

 真田は、意味深な表情でニンマリと笑ってウインクした。

 「えっ?真田さん、それをどうして!?」

 全くの図星に、進が顔を真っ赤にすると、真田はさもおかしそうに大きな声で笑った。

 「あははは……当たりか? そりゃあ、早々に退散しないといけないな。あ、そうだ。来月の完成パーティには、その最愛の奥方同伴で出席してくれよ。そういう席は俺は苦手だからな、お前に任せたぞ」

 「え? え〜っ!?」

 進が照れて焦っているうちに、気がついたらなんだか大変な大役を仰せつかってしまった。

 「それじゃあ」

 「あっ、真田さんっ! ちょっと……!!」

 進の声など全く聞く耳を持たないとばかり、真田は片手を軽く挙げると部屋から出て行ってしまった。閉まったドアをため息まじりで見つめながら、進は大きなため息をついた。

 「ったく、これだもんなぁ〜 パーティなんて俺だって大の苦手だって、ふう……」

 時計を見ると、まもなく午後5時になる。さっき真田にからかわれた通り、今夜、進は妻の雪と仕事が終わってから待ち合わせて出かけることになっていた。

 本来ならば、今日明日は進も雪も休みをとり、のんびり休日を過ごすという計画だったのだ。
 ところが進の仕事が片付かず、彼一人が出勤する羽目になってしまった。その代わり、今晩は進のおごりで外食でもしようかという話になった。

 食事をしてアルコールも入っていい気分になれば――そう考えると進は一人顔をニヤつかせた――妻はなかなか色っぽくなる。この間の旅行がそうだった。

 ――今夜も、思いっきり雪をかわいがってやろう……ふふん……

 昔は朴念仁だの鈍感だのと言われていた彼であったが、長年の付き合いの末、夫婦生活ではすっかり主導権を握りつつあった。
 任務中は清楚な美しさを見せる妻が、自分の言うがまま、なすがままに乱れていく姿を思い起こすと、思わず妖しげな笑みがこぼれてしまう。典型的至極幸せ満喫中の新婚半年目の夫であった。

 「さぁて、よし、あと一仕事だ。この資料を完成させてプリントアウトしてしてしまえば今日は終わりだ! これで明日こそは休暇が取れるな!」

 5時半には、玄関前に雪が迎えに来てくれることになっている。時間通り終わるべく、進はパソコンの前にどっかりと腰を下ろした。

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(背景:Four seasons)