あなたをユ・ウ・ワ・ク




 「あ、ここでいい」

 進はマンション入り口で運転手に声をかけると、タクシーは静かに停止した。進は提示された金額を見て、財布からそれより少し多めの札を取り出すと、運転手に渡した。

 「釣りはいいから……」

 格好をつけるつもりはなかったが、急く気持ちがそう言わせる。それから進は、雪の手を握ったままタクシーを降り、その手に引かれて雪も降りた。

 さっきまでの賑やかな繁華街と違って、住宅街になっているマンション前には人気(ひとけ)はなく、静かに街灯が光っているだけだった。

 進はふうっと大きく息を吐いてから、隣に立つ妻をぐいと引き寄せた。

 「部屋まで持つか、自信ない。早く行こう!」

 「わたしもよ、あなた……早く行きましょ」

 雪は嬉しそうに頬を染め、夫の腕に強くしがみついた。上気した顔の妻の顔を見つめる進の瞳も燃えている。
 それから、2人は絡み合うように歩き出した。進は、股間のものと妻にまとわりつかれているおかげで、ひどく歩きにくかったが、そんなことなど考えるより、とにかく前進したい気持ちで必死に歩いた。

 エントランスをくぐり抜け、まっすぐにエレベータに向かう。エレベータは既に1階で待機していて、すぐにドアが開いた。人はいない。

 エレベータに乗ると、進は雪の頬に軽くキスをした。くふっ、とくすぐったそうに笑う雪を見つめながら、進が尋ねた。

 「もう焦らすのは終わりでいいんだろ?」

 「ええ、私が……もう我慢できない……もの」

 答えるのと同時に、雪は進に強く抱きついて自ら進んで唇を寄せた。不意をくらって目を開いたままその唇を受け止めた進も、すぐに抱きしめる手を強めて、ゆっくりとキスを返した。
 甘くねっとりとしたキスを味わってから、進は唇を離した。

 「こんなところで……キスしてもいいのか?」

 進が司令本部でたしなめられたことを逆手に妻に問う。だがその瞳は、本心は別のところにあることを示していた。欲望で強く光っている視線を感じながら、雪もその思いを伝えた。

 「だって、待ち切れないんだもの……」

 「監視カメラ付いてるぞ」

 ニヤリと笑って言いながらも、進は雪の首筋にキスを降らせる。それを受け止めながら、雪は答えた。

 「常時監視してるわけじゃないわ。それに司令本部じゃないんだし、愛する旦那様とキスしてたって誰にも文句言われないわ」

 その言葉に、進は一旦顔を上げて妻の顔をじっと見つめた。顔は笑っている。

 「はは……都合のいいことだな。まったく、今日の雪はとんでもなく大胆だよ」

 「そうかしら? でも進さん、そんな私って嫌い?」

 おどけた顔で小首をかしげる雪は、とても愛らしい。

 「ふふっ、俺に向けられてる分には大歓迎さ。ただし……」

 「ただし?」

 「あんまり焦らされるのは、辛いけどな」

 「んふふ…… あんっ……」

 進は、嬉しそうに甘い声を上げる雪を強く抱きしめて、背中からお尻へと、なぞる手を下ろしていった。

 ほどなくエレベータが目的の階に着いた合図のベルを鳴らして止まった。エレベータから2人の部屋までは10数メートル。待ちきれない思いを確認しあうように、2人はキスを交わしあい絡まりあいながらも歩を早めた。



 部屋の前に着くと、雪がバッグからキーを取り出してドアを開けた。なだれ込むように玄関に飛び込んだと同時に、進は雪を力いっぱい抱きしめた。もう誰かの視線を気にする必要も、誰に遠慮をする必要もない。雪も負けじと抱きしめ返す。

 それからは、互いへの溢れんばかりの欲望のままに行動へと移した。
 進は雪の唇を荒々しく奪いながら、右手を忙しく動かしてワンピースのボタンをはずし始め、雪も進が上からはずしていくボタンを下からはずしていく。

 あっという間に雪のワンピースは左右に開かれ、かくしてその白く輝く裸体が進の目の前に現れた。
 流線型の美しい肢体を、双丘の上に息づく桃色のつぼみと、唯一の濃い色を呈する深い茂みが飾っている。いつ見ても飽きない美しい眺めだった。

 「ああ、雪……」

 進は雪を玄関の床にゆっくりと押し倒した。揺れる乳房を強く握り締め、もう一方の乳房を口に含んだ。

 「ああっ、あなた……」

 雪の歓喜に満ちた声が進の耳をくすぐり五感を刺激する。そして進は、熱に浮かされるように夢中で愛撫していった。
 最後の砦を求める手を妻の股間に差し入れると、そこはじっとりぬめぬめとした沼地になっていた。

 「すごいよ、雪…… ああ、だめだ。もう、我慢できない」

 「私も……よ。お願い、すぐに……きて!」

 雪は夫の背中を強く抱きしめながら、声を上げた。

 それを聞き終わるか終わらないかのうちに、進は自分でスラックスのベルトをはずしチャックを下ろした。今まで狭いところに閉じ込められ、もがいていた進自身が、やっと解き放たれ喜び勇んで飛び出してくる。
 進はそれを手に取ると、眼下で期待を込め自分を見つめる妻の泉の中に、一気にうずめていった。

 「ああっ……」

 雪が感極まったような声を上げる。そして進はその上で必死に動き続けた。

 「雪、ああ、すごい……よ。なにかにからみつかれているみたいだ」

 「あぁ、はぁ〜 あふっ……」

 雪の発する声は、もう言葉にならない。

 「ああっ、ゆきっ!!」

 進がそう叫んだとたん、二人の動きがぴたりと止まった。快感のきわみに到達した2人は、ただただ強く相手の体を抱きしめ続けていた。



 しばらくして落ち着いた頃、進はゆっくりと体を起こした。下には、まだぐったりと、だが満ち足りた表情を浮かべ横たわる妻がいる。その頬をそっと手でなぞった。

 「大丈夫か?雪」

 ゆっくりと目をあけた雪を、進は抱き起こした。

 「ええ…… でも背中が、ちょっと痛いわ」

 苦笑しながら雪が答える。玄関先の固い廊下での行為は、下になった雪には少々辛いところがあった。進はばつが悪そうに微笑んだ。

 「はは……ごめん。夢中でそんなこと考えてもいなかったよ」

 「ううん、いいのよ。私も……そうだったもの」

 互いの顔を見合わせて、再び微笑みあう。それから進は、妻の両腕をワンピースから抜き出し、柔らかな胸をゆっくりと包むように愛撫した。雪は夫の首に腕を絡ませ、気持ち良さそうに喉を鳴らした。

 「あっという間にいっちまったな」

 「ほんと……ね」

 雪はくすくすと笑いながら、夫の胸に顔を預けた。

 「ま、今夜はあれだけ焦らされたんだからな。仕方ないだろ?」

 「ええ、私もおんなじよ。あなたが入ってきた瞬間、いっちゃいそうだったわ」

 体を摺り寄せる雪は、まるで飼い猫のように甘えている。

 「なんだ、人を誘惑するとかえらそうなこと言って、自分が気持ちよくなってたのか?」

 「だって……すごく感じてたんだもの」

 あの格好は、決して夫の欲求をそそっただけではない。雪も自らを燃え上がらせることになった。

 「俺も……」

 雪は進の顔を愛しそうに見つめてから、視線をゆっくりと下へとなぞるように下ろしていき、それから突然、肩を揺らして笑い出した。

 「うふふふ……」

 「何笑ってんだよ」

 「やだ、あなたのその格好」

 指摘されて初めて、進は自分の格好に気付いた。上半身は服を着たまま、下半身も中途半端に脱ぎ下ろしているだけで、あらわになっているのは、腹部から太もものあたりだけ。確かに少々情けない格好だ。

 「え? あ、ああ…… 急いでたんだ、ほかんとこは脱ぐ暇なかった」

 「うふふ……やだ、カッコ悪〜〜い!」

 妻に笑われながら、進はスラックスを引っ張りあげた。

 「こいつ言ったな! 君こそなんだよ、そんな格好で来たくせに……」

 進は再びあられもない妻の裸体をじろじろと見た。その視線に体の中が熱くなっていくのを感じながら、雪は言葉を返した。

 「あら、結構喜んでたんじゃないの?」

 「ある意味ではな。けどあんなにあちこち街を歩かされるとは思わなかったよ」

 進はさっきまでの出来事を思い出していた。

 「うふっ、すごくドキドキしちゃったわ」

 「とてもそんな風には見えなかったけどな」

 ドキドキさせられたのはこっちのほうだと言わんばかりに、進は雪を優しく睨む。

 「でもなんだかとっても開放感感じちゃった」

 「おいおい…… あんまり癖にならないでくれよ」

 けろっとして今夜を振り返る妻に、進は少々慌てた。こんなこと何度もされたら、たまったものではない。だが……

 「うふふ…… でもこういう誘惑は嫌いじゃない、でしょ?」

 「え? ま、まあ……基本的には……嫌いじゃないかもな」

 と答える進。焦らされてもドギマギさせられても、その後の満足感を考えると悪くはない、と思ったりもするのだ。

 「うふふ、もうっ、やぁね。やっぱりあなたってえっちなのね!」

 そう突っ込まれると、なんともごもっともで言い返せない夫であった。進は、返事をする代わりに苦虫を潰したような顔で立ち上がると、妻の手をとって引き上げた。

 「っるさいっ! ほら立てよ。シャワー浴びて寝るぞ」

 「ええ、でもシャワー浴びるだけ?」

 雪は夫の手に引かれて立ち上がりながら、期待を込めて熱のこもった視線を送る。もちろん、それに答えない夫ではない。

 「それだけで済むと思ってるか?」

 進の瞳も光る。

 「いいえ、うふふ、それから寝るだけ?」

 雪が夫の首筋にぐるりと腕を回して抱きついた。

 「さっきまでのお返し、まだまだ足りないからな。そう簡単に寝られるか!」

 そう言い放って、進を雪を抱き上げた。雪は夫の胸にしっかりとしがみついた。

 「ねぇ……今夜は私がしたいこと言っていいでしょう?」

 今夜は一晩中、自分が主導権を握る……それが雪の当初からの望みだった。

 「え? ああ……お望みのままにどうぞ。今夜は君に誘惑されてるんだったからな」

 進もそれに異存はない。

 「んふっ、それは楽しみだわ」

 「こちらこそ、お手柔らかに頼むよ」

 雪を抱き上げた進はバスルームへと消えた。

 玄関に残るのは、転がるショルダーバックに大きく脱ぎ広げられたワンピース。それから無造作に脱ぎ捨てられ、あっちこっちに転がっている男女の靴が2足……

 しばらくして、シャワーの音に紛れて、微かな笑い声とあえぎ声が漏れ始め…… 2人の長い夜は、今、始まったばかり。



 たまにはあなたも、大胆に旦那様をユ・ウ・ワ・クしてみてはいかが?

 

Fin

BACK   TOP


 やっと書き終えました……100万HIT記念作!!(笑)

 なんともはや、妖しくも大胆不敵?な雪ちゃんとチョッピリかわいそうな古代君でした。
それにしても、いちゃいちゃしまくりの夫婦でございますわね〜〜(^^;)

 いつもの違う雪ちゃんに、ちょっと違和感もたれた方、ごめんなさい。でもたまには、女だって大胆になって愛する人を翻弄してみたいものなのです(たぶん(^^;))

 とにもかくにも、当サイトの2人は、いつまでも幸せ一杯なのでありました!

 最後になりましたが、100万という大きな数字を数えるほどに、当サイトへ遊びに来てくださった大勢のヤマトファンの皆さま、本当にありがとうございましたm(__)m
 これからも、ヤマト本編とは一風変わったいちゃいちゃサイト『古代君と雪のページ』をどうぞよろしくお願いいたします。
2005.9.13  あい

トップメニューに戻る       オリジナルストーリーズメニューに戻る

(背景:Four seasons)