002 片思い
お前、人を好きになったことないのか?
女に興味ねぇのかよ!?
あきれた顔でそう尋ねられたこと、何度もあった
人を好きになるだって? ばからしい……
ずっとそう思ってた。多分、あの日から……
母さんと父さんを亡くしたあの日から……
俺の心にあったのは
敵を憎む心とライバルを押しのける心だけ
人を好きになるだなんて、愛するだなんて……惚れるだなんて……
俺には必要ないと信じてた
愛なんて……ただの幻想だと思っていた
俺がやらなきゃならないことは、愛することじゃないって思ってた
俺のやりたかったのは、敵と戦い、敵を殺すことだけだった
そして俺は、宇宙戦士としてヤマトに乗った
それなのに……
戦うための艦(ふね)の中で、僕は初めて知ったんだ
人を好きになるということを
人を愛しいと思い、大切にしたいと思い、そして守りたいと思うことを
それがとても切なくて苦しくて、だけどとっても甘いものだということも
ようやく知ることができたんだ
戦うだけが生きるすべじゃないんだと
ずっと忘れていたそのことに……
今、僕は気が付いた
君の存在に……
僕の奥底に眠っていた温かい心に
僕はやっと気が付いた
君の笑顔が、君の優しさが、そして君の激しさをもが
僕にとって何よりも大切で愛しい
だけど君は、そんな僕の気持ちに気付いているんだろうか?
僕のこの思いを……
僕が人として人らしい思いに初めてふれたことを
君のおかげで知ることができた世界を……
君は知っているのだろうか?
たぶん……知らないんだろうな
だって僕は、君を密かに愛し始めたのだから
君の心もわからないし
君の笑顔の先に誰がいるのかも知らない
それでも……僕は君を見つめ続ける
君の名前は、森雪……
僕の初恋の人
僕の片思いの相手
この非常時に何考えてるの!
今はそんなときじゃないでしょう!
ずっとそう言い続けてきた
ずっと……そう思ってた
地球がどうなってしまうかも、わからないこの時代に
愛だの恋だの、そんなことしてる暇がどこにあるの?
そんなことに浮かれているくらいなら、少しは勉強したらどう?
少しは、人の役に立ったらどうなのよ!
外見だけで人を判断するように
わたしに同じ反応をする男の人たちに
わたしは幻滅していた
今は、わたし、恋なんてしたくない
愛なんて、平和を手に入れてからゆっくりすればいいじゃない
今はただ、早く人のためになりたいの
だから、まだまだ時間のかかる医者になる夢をすてた
もっと早く人のためになりたくて
看護師の道を選んだ
だから今の私には恋なんていらない
必要ないんだもの
そしてわたしは地球の人々を救うために
ヤマトに乗った
それなのに……
どうしてこんなに気になるの?
どうしてこんなに心配するの?
彼の姿を見ただけで
どうして……こんなに幸せになれるのかしら
きかん坊で横暴で、ちょっぴり意地悪で、でも寂しがりや……
そんな彼の何もかもが、私の心にひっかかる
それって……それって……
彼が……好き?
そうなんだって初めて気付いたとき
わたし、ものすごく驚いた
恋なんて、しようと思ってするものじゃないことを
したくないからしないものじゃないってことを
初めて知った
恋は、にわか雨のように
突然降ってきたような……そんな気がする
戦いの中でも、辛い時苦しい時も
人を好きなることが、こんなに人を幸せにしてくれることに
わたし……生まれて初めて気がついた
でも彼は、わたしのこんな気持ち、きっと知らないんだろうな
嫌いじゃないくらいには思ってくれてるかもしれないけれど
あいつ女に興味ないんだよな、って誰かが言ってた
でもいいの
今はただ、そばにいられるだけでとっても幸せ
わたしの片思いの人
古代……ススム……
FIN
ヤマトに乗る前の二人の心境と、出会ってからの心境の変化。まだまだお互いの気持ちも知らない頃の出会ったばかりの二人です。
あい(2003.11.17)
(背景:Holy-Another Orion)