008 願い星  (宇宙戦艦ヤマト第12話より)



あれは遠い昔。

まだ地球が青かった頃のこと……





ねぇ、雪、あの星座知ってる?

どぉれ?ママ?

ほら、あそこ、みっつ星が並んでいるでしょ?

え〜っと、あっ、あった! 真ん中に3つあって、上にも四角、下にも四角がくっついてるのね?

そうそう、それから手や足になる星もあるのよ。

ふうん…… 人の星座なの?

ええ、そうよ。オリオンっていう人の星座よ。だからオリオン座。

オリオン座……かぁ〜

とっても見つけやすくていいでしょ? 冬の星座を探す時にはこれから探すといいのよ。

うん! わかった!! ねぇ、ママ……

なぁに?

あの3つ並んだ星の中のいっこ、すごく明るくて綺麗ね〜

あら、よくわかったわね。あれはオリオン座のα星よ。

あるふぁ星?

そうよ、α星って言うのはね、星座の中で一番明るい星なの。

そうなんだぁ、本当に赤くて大きいね!

そうね。そうそう、雪、知ってる? あの星はね、『オリオンの願い星』っていって、お願い事が叶う星なのよ。

おりおんのねがいぼし?

そう…… 雪も何かお願いごとがあったら、あの星にお願いしてみるといいかも。

うんっ!

お願い事した?

したよっ! え〜〜っとね〜
マリンちゃん人形をください。パパがファンタジーランドに遊びに連れってくれますように。それから、お菓子のお家に一度住んでみたいです……って!!

まあっ! 3つも?よくばりさんね、ふふふ……

う…… よくばりさんはだめ?

そうねぇ、あの願い星は、そういうお願い事は聞いてくれないかもね。

えっ? どうして?

あの星はね、本当に心の底からお願いしたいことがあるときだけ、その願いを叶えてくれるそうよ。

心の底からの?

そう、だから、おもちゃが欲しいとか、遊びに行きたいとかじゃなくって、大切な一生懸命なお願い事。

たいせつな……? あっ、じゃあ、私、パパとママとず〜〜〜っと一緒にいられますようにってお願いするわっ!

まあ、そう。うふふ、うれしいわ。

えへっ!

あらっ、でも雪はお嫁に行っても、パパとママと一緒にいるの?

えっと、え〜〜っと……う〜んと、あっそうだ! パパとママも一緒にお嫁に行けばいいでしょ?

まあっ、うふふふ…… そうねぇ〜 パパもママも一緒でもいいって言うお婿さん見つかったらね。

大丈夫! 雪、きっと見つけるもん! かっこよくって優しくって、パパとママも一緒にお嫁に来てもいいっていう人!!

ふふふ、そう? それは楽しみに待ってなくちゃね。

うんっ!! じゃあ、一生懸命お願いしてみるね、願い星に……

ええ……




幼い頃の他愛もない願い事

オリオンの星は、ただ静かに聞いてくれていた……





オリオンの願い星が

こんなに近くで見ることができるなんて……



あの願い星の話をママから聞いたのは、確か小学校に入ったばかりの頃だったかしら?

あれからも、時々いろんなお願い事したけれど

ママが言ったとおり、本当に心から願ったことはよく叶えてくれた。

とっても不思議なほど……





そして今のあたしに……一つお願いしたいことができた。

心からの、一生懸命な、大切なお願い事……

それは……



大好きなあの人が、あたしのことを好きになってくれますように……って

あたしが好きなのと同じくらい、あたしのことを好きになってくれますように……って



ちょっぴり不謹慎なことだけど、今のわたしの中では、実は……

地球の平和よりも大切な思い……

だってだって、恋する乙女にとっては、どうしても叶えて欲しいお願いなんだもの!

毎日顔を合わせる彼

最初の頃は、嫌いって思ったこともあったけど

いつの間にか、あたしの心の中に忍び込んだ彼への思い。

今は、心の底から大好き……



たぶん……

彼もそう思ってくれてるんじゃないかな?って思うこともあるけれど

みんなも、彼があたしのことが好きなんだって言ってくれるけれど。

でもそれでも、まだ確信ではなくって……

たぶん、きっと……の希望的観測。



だから、お願いするの。

あの願い星に……





あの人がわたしのことを好きになってくれますように……



あら不思議……

お願いしてたら、本人がやってきた……!





―雪、なにしてるんだい?

―あら、見てわからないの? 願いをかけてるの!

―誰に?

―あそこに輝いているオリオン座の三ツ星の一つα星に。

―あの星は願い星とも言ってね、昔の人はいろいろの願い事をしたものなの。
 地球から見たら、遠いオリオンの願い星が、ほら、あんなに近くて大きい。きっと願い事をよく叶えてくださるわ。

―炭素や酸素や水素の塊にしかすぎない星をそんなふうにも考えられるなんて、女って不思議なもんだなぁ。
 で、なんてお願いしたの?

うふふ…… 古代君、聞いたら驚くわね? でも言〜わないっ!

―うふっ、内緒!

―ふっ、わかってるよ。ヤマトの航海の成功だろ?

―いいえ

―え〜? じゃあ、人類の未来?

―ぜ〜んぜん! 違うわっ!

―え〜〜? なんだよいったい?

―うふふ……あっ!!




ふうっ、大変な願い星通過だったわ。でも何とか無事に通り過ぎられてよかった。

さすがに、あの星の真上にいたときは、お願いすることも忘れてたけれど……ふふ

でもまだ、あんなに大きく見えてる!最後にもう一度、お願いしておこうかな?




あら? また古代君が来たわ! うれしい……

やっぱりあの願い星はとっても効き目があるのね。

きっとあたしの願い事、叶えてくれる……そんな気がしてきたわ!!



―どうだい、願い星の正体なんて、あんなものさ。これで星の恐ろしさがわかっただろ?

―いいえ、あたしに願い事がある限り、願い星は願い星よ。

もう、古代君ったらぁ! あたしのロマンチックを壊しちゃうこと言わないでってばぁ〜

―え? しつこいんだね、君も。で、いったい何をそんなにお願いしてるんだい?

―内緒って言ったでしょ?

うふふ、古代君ったら、興味持ってる〜〜!

―教えてくれたっていいじゃないか。

よぉ〜っし、この際だから、言っちゃおうかなぁ〜 あ、でも、もちろん古代君の名前は言わないわよ!

―じゃあ、言うわ。私の願い事って言うのはね〜 ある人が私のこと好きになってくれるようにって。

―なぁんだ、そんなことかぁ。くだらないっ! はははは……

あ〜ら、なによ! くだらないですって? もう知らないわっ!

―へ?えっっ!? おいっ! ある人ってどんな人だいっ?

あらっ? 今頃焦ってるの? もうっ、古代君ったら、ちょっと遅いわよ! でも、今は絶対教えてあ〜〜げないっ!!

―それこそ内緒よ!!

―ね、ゆき、雪ちゃん、頼む、教えてよっ!!

―きゃははは……



だってだって、あたしからはまだ伝えたくないの。

いつかあなたから

あなたの方から、言ってもらいたいんですもの。



君が、好きだよ……って



ね、願い星さん!!





時は過ぎて、そしてまた母から娘へ……





ねぇ、ママ…… あのオリオン座のα星って、願い星なんでしょう?

あら、よく知ってるわね?

うふっ、おばあちゃまに聞いたの。

まあっ、そう…… ママも小さい時に、おばあちゃんに聞いたのよ、その話。

良く願い事を叶えてくれるんでしょ?

ええ、そうよ……

ママはどんなお願い事したの?

そうね、いろいろしたけれど…… ふふふ……

やあね、思い出し笑い?

あら、ごめんなさい。ええ、ずっと昔のこと。

ふふ、その顔は、きっとパパのことね?

あら、ばれちゃった?

ママ、わかりやすすぎ!!

ふふ、そう? 実はね、昔ヤマトであの星の近くを飛んでたときにね、お願い事したの。
パパがママのことを好きになってくれますようにって……

それで叶えてくれたのね?

ええ、しっかりと、ふふふ……

それじゃあ、わたしもお祈りしようっと!…………………………

何をお祈りしたの?

ママと同じことよ。

お相手は……?

うふふ、内緒!!

言わなくてもわかってるけれど……

やんっ! もうっ!!







シンが、わたしのことをず〜〜っとず〜〜〜っと好きでいてくれますように……





オリオンの願い星は、きっと叶えてくれるわ。
おわり
 

言わずと知れた、宇宙戦艦ヤマト第12話ベースのお話です。先日から、DVDでPART1を見直しているのですが、やはり12話は、古代君&雪ちゃんファンには、たまりませんね〜(*^^*)

やっぱり何度見ても、このときの雪ちゃんは既に余裕モード。絶対、古代君の気持ちを知ってるぞ〜〜〜って気がします(笑)
ま、バレバレでしょうけどね、彼の気持ちなんてのは……(^^;)

おまけで、愛ちゃんのお願いも書いてみました。古代家の娘たちは、これからも代々お願いし続けるかもしれませんね。

ところで、余談ですが……
オリオン座のα星は、ペテルギウスなんですが、この星は、三ツ星の一つではないんですよね〜(^^;)
星座で見ると、左肩一番上にあるのが、ペテルギウスになります。ちなみに次に明るい星(Β星)リゲルも、三ツ星じゃなくて、右下の星になります。
どうして、ヤマトでは三ツ星の一つがα星になったんでしょうね????
あい(2006.12.12)

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(背景:Holy-Another Orion)