011 ライバル
俺の名は古代進。現在は地球防衛軍の最新鋭戦艦シリウスの艦長職を務めている。
妻は古代雪。俺の最愛の女性だ。彼女も防衛軍の司令本部で勤務している。若いころは長官秘書をしていたが、今は厚生部に所属して、所員たちの福利厚生のために日夜励んでくれている。
彼女のとの馴れ初めはというと…… 今更ちょっと恥ずかしい話だが、もう10年以上前になるが、俺は彼女に出会ったその日に一目惚れした。
それから一緒にヤマトに乗ることになって、地球に戻ってくるまで片思いをしていた。
彼女はヤマトのヒロイン的存在で、恋人にするまでに、いや恋人にしてからも、彼女を巡る恋のライバルは数限りなく存在して、俺をヤキモキさせたものだった。
まず最初のライバルは、俺の親友の島大介だった。
地下都市で初めて出会った時も島と一緒だったし、ヤマトでの航海でも同じ第一艦橋勤務。最初は、雪はあいつの方に気があるんじゃないかとか、あいつのほうがずっと雪に似合ってるんじゃないかって思ったこともあったもんだ。
だからまさに、ヤツが最初で最大のライバルだ……とその時は思ったもんだった。
それがあいつもいつの間にか戦線を離脱して、今は女房子持ちのいい親父になった。
恋人になる前は、他にもライバルうじゃうじゃといた。というより、ヤマトの独身男みんながライバルのようなものだったような気がする。
それでも、地球に帰りついたその時、彼女は俺を選んでくれて……それから俺たちは、正真正銘本物の恋人同士になった。
だが これでもう安心っていうわけにはいかなかった。恋人になって婚約してからも、何やかやと、いろんな男が彼女にちょっかいを出してくるんだ。とにかく彼女はもてた。そんな中でも、俺は何とか彼女を自分の手の中に守り通すことができたんだ。
ライバルの中でも一番危うかったのは、彼女の幼馴染の上条ってヤツ。あん時は彼女の幼馴染だけに好感度も高かったし、ヤツはとにかく文句の付けようのないいい男だった。
マジに俺なんかよりずっと彼女を幸せにできるんじゃないかって思ったほどだった。
だもんだから、俺はひどく落ち込んで、一時はあきらめようかと思ったこともあったが、まあ、それでも最後には何とか彼女を自分の手に留めることができた。
その時は、あいつこそ雪を巡る俺の生涯で最大のライバルに違いない……と思ったものだったが……
そうそう、あいつも、今はもうちゃんと最愛の妻子を愛するごく普通のいい父親になっている。うん、いいことだ!
そして結婚。それからも彼女に憧れる輩はいたにはいたが、俺もそれほど気にすることもなくなった。
子供が生まれ家庭ができて、彼女と俺の絆をしっかりと感じるようになって、俺にも余裕ってモンができた気がしたからかもしれない。逆に俺の方が、単身赴任中にある女性と妙な感じになって、彼女の方を大いに心配させたが、これはご愛嬌というもんだ。
そして最近はもう、ライバルなんて存在を心配することもなくなったと思っていた……
ところがここに来て、俺は彼女を巡る最大にして最強のライバルに出会ってしまったのだ!!
えっ? それはどんなヤツかって?
そう……まず、ヤツは若い! 俺よりずっとずっと――これをひどく強調しておこう――若いんだ。若さ勝負は、絶対に俺は勝てやしない。
それになんてったって、ヤツは甘え上手だった。例え女房相手でも、俺はあんなに臆面もなく素直に甘えられない。男の沽券にかかわるからな。
なのにヤツは、そんなことお構いなしに臆面もなく甘えるんだ。それが雪の心をすこぶるくすぐるらしい。甘えられて目をとろんとさせている。
それからヤツは――ここが一番ポイントなんだが――彼女からマジで愛されている。もしかしたら、俺よりも愛されてるんじゃないかと思ったことも、1度や2度じゃない。
えっ? それじゃあ、お前は既に女房を奪われちまってるんじゃないかって?
いや、それがそうではないんだ。たぶんヤツに完全に奪われることは絶対にない、と断言できる。
なぜかと言うと、ヤツは俺のことも大好きなんだ。ヤツの一番は間違いなく雪だろうが、その次はかいかぶりもなく俺だと思う。
そして俺も……ヤツを心から愛している。
あはは……ここまで言えばもうわかっただろ? ヤツの名は……古代航。俺と彼女の間に生まれた3人兄弟の真ん中、次男坊で最愛の息子の一人だ。
しかし同時に、今やヤツは俺の大事な雪を争う最大にして最強のライバルとなってしまったのだ!
何がそんなにライバルなのかというとだな…… まず根本的に、ヤツは俺と雪が隣に並んで仲良くしているのが気に食わないらしい。もちろん、口でははっきりとはそんなことは言わないが、態度ですぐにわかる。
例えば俺と雪が二人で並んで座っていると、無理やりに間に入ってきてその間にどっかりと座る。それも嬉しそうに……
それから、雪と二人でちょっとそこまで散歩しようとすると、必ず感づいて「僕も行くっ!」と宣言し、お邪魔虫になってくれる。
でもって、わざとヤツに見えるように――ここがミソだ――雪を抱きしめて見せたりした日には、ヤツはぶっ飛んできて、俺たちの間を引き離しにかかるんだ。そして俺の代わりにちゃっかり雪に抱きついてやがる!
まあ、かわいらしいヤキモチってやつなんだろうけどな。俺も妻もその姿を見て笑ってはいるけれど…… 本人は俺と雪の間に入ってご満悦だ。長男の守はそんなことはほとんどしないんだけどなぁ〜
航、わかってるのか? お前、完全にマザコンだぞ!!
ま、俺も子供の頃のことを考えたら、人には言えんがなぁ〜 あはは……
そして、こんなかわいいライバルとの楽しい日々が続いているある日のことだった。
その日俺は宇宙での任務を終え、深夜遅く家に戻ってきた。時計を見ると深夜0時を過ぎている。
いつもなら、時間の都合がつく限り、雪は家族で俺を迎えに来てくれる。だが、さすがにこんな時間に迎えに来てもらうわけにはいかない。先に寝てるように言っておいて、俺は一人で家に帰ってきた。
玄関を入ると、薄暗く静まり返った居間を通り抜けて、まず子供達の部屋をそっとのぞいた。
子供の後ろ側の頭が一つ二つ見えた。一人足りないな。ま、たぶん寝相の悪いヤツが、頭と足がさかさまになって眠っているんだろう。掛けたブランケットがこんもりとふくらんでいるところがある。
もう真夜中だし、起こすのもかわいそうだな。今夜はあきらめて、子供達との再会は明日にしよう。
とにかくみんな元気に眠っているようだし、明日の朝、ゆっくり顔を見ればいいさ。
それから俺は自分のベッドルームに入った。薄明かりのもと、ベッドには愛する妻が、気持ち良さそうに眠っているのが見えた。その寝顔を楽しみながら、俺は制服を脱いでパジャマに着替えた。
ふうっ、やっと我が家だ。疲れたし眠い。だけど久しぶりの雪には食指が大いに動くよな? 横に潜り込んでみて、雪が目を覚ましたら、ちょっと手を出してみるとするかなぁ?
などと、心の中でそんなよからぬ?ことを考えた俺は、着替え終わったとたん、その予算通り妻の横に潜り込もうとした。
と…… あれ?いつも俺が寝ている場所に何か塊が? なにやら小さな物体がある……よな? ん?なんだ?これは??
ゆっくりとブランケットをはぐってみると……
「あ〜〜〜〜!!! 航!!!」
俺が声なき声を上げると、その気配に気付いて、雪が目を覚ました。
「あら、お帰りなさい。さっきまで起きて待ってたんだけど、夜中過ぎて眠っちゃたみたい。すっかり眠ってたのね。あなたが帰ってきたのにも気付かなかったわ。玄関にも迎えに出れなくてごめんなさいね」
寝巻き姿で上半身だけ起き上がった彼女は、そう言って謝った。その顔には全く化粧っ気もないにも関わらず、相変わらず美しかった。なんとも言いがたい愛しさが募る。
「ああ、ただいま…… 迎えはいいさ、こんな時間なんだからな。それより、なんだこいつ?」
と俺が呆れ顔で、丸くなってぐっすり眠っている航を指差すと、雪はくすくすと笑い出した。
「えっ? ああ、航ね…… うふふ、なんだか恐くて一人じゃ眠れないんですって。今日、学校で戦争の話を聞いたらしくて、そのことを思い出してすごく恐くなったんですって」
そうか3年生にもなると、あの戦いのことを勉強するのか。宇宙からの侵略者達との戦いのことを…… 確かにあれは悲惨な出来事だったが、二度と起こることのないようにという願いを込めて、皆に語り継いでいってもらいたい出来事でもある。学校で習うことはいいことだ。
だが、こいつはそれが恐くて眠れないってか……!?
「はぁ〜? 宇宙戦士の息子の癖に戦争の話が恐いってか? まったくどうしょうもなく恐がりなヤツだな。もう3年生にもなって情けないやつだ。愛だって一人で寝てるっていうのに、兄貴の癖にどうにもならんなぁ」
俺の声を聞いて、雪はまたくすくすと笑った。
「うふふ、でも航は根っからの平和主義で、戦争は大嫌いなんですもの。考えただけで泣きたくなるんですって」
「それはわかるさ。俺だって戦争なんて大っ嫌いさ」
そうなんだ。実は、航は争いごとってのが大嫌いな子だった。けんかも苦手で、何か揉め事があっても対抗できなくて、兄の守がかばってでもやらない限り、間違いなく泣かされて帰ってくる。
どうして兄弟で、こんなに違うんだろうな? 守は泣かされて帰ってきたことなんて、一度もないのに……
いやそれだけじゃない。2つ下の妹の愛とけんかしても大抵負けてしまうんだから、そのレベルのほどの想像がつくというもんだ。
情けない……とも思うけれど、子供の頃の俺は、実は航によく似ていた。
ガミラスの攻撃で両親を亡くすまでの俺は、戦争はもちろん、けんかも嫌いな平和主義者で、どっちかというと泣き虫なほうだった。もちろん、泣かされて帰ってきて母さんに慰められたことなんて数え切れないほどあった。
ということは、航は兄弟3人のうちで一番俺に似ているってわけだよな? あははは……
「でしょ? それに、『僕恐くて眠れないの、今晩はお母さんのところで寝てもいい?』って目をウルウルさせてやってきたら、かわいそうになって、ダメなんて言えないのよねぇ」
雪は、それはそれは愛しそうに、眠っている航の頭をなでながらそう言った。
確かに雪の言葉には一理ある。そんなふうに甘えられたら親としては抱きしめたくなるってものだ。
それに、寝ているときの子供は無防備で、なんともいえないかわいさがある。もちろん、大事な大事なわが子でもある。
俺は今夜はこのかわいいライバル君に、一歩譲ってやることにした。
「しかたないなぁ。で、俺はどこで寝たらいいんだ?」
全く、この最強ライバルに一本取られたというところか? ま、それも仕方がないだろう。ちょっと悔しくもあるのだが……
「ベッドは広いんだからお好きなところにどうぞ」
と雪は笑顔で二人が掛けていたブランケットをはがした。
確かにベッドはキングサイズ。航が寝ていてもまだ人一人分くらい寝れるスペースは開いている。真ん中を占領している航を挟んで川の字で寝るしかいないってわけか……?
いや待てよ…… 夜はいつも俺が雪を独占できる時間だったはずだよな。別に俺がこいつに遠慮することもないじゃないか、と急にむくむくとそんな思いがわきあがってきた。
なにせこの強力ライバル君は今ぐっすり眠っている。こいつを出し抜くのは簡単なことなはずだ。
ちょっと子供相手に大人気ない気がしなくはないが、深夜にもかかわらず、妻は目を覚ましてくれた。ここで、こいつに占領されたまま黙って引き下がるのはもったいないじゃないか。
それに、俺にとっては2週間ぶりの地球だ。たまるものもたっぷりとたまっているんだ。と……さっきのよからぬ?妄想が現実味を帯びてきて……
「よしっ、よっこらしょっと!」
俺は突然思い立って、航をベッドの端まで一回転ころりと転がした。
「う〜ん……」
航は小さく声を上げたが、よく眠っているらしく転がされても全然目を覚まさなかった。
「よしっ! これでよしと!」
航は、ベッドの端っこに追いやってやった! それから、彼に一人分の別のブランケットをかけてやって任務完了だ。すかさず俺は、雪の隣に滑り込んだ。
「もうっ、あなたったらぁ、うふふ…… 航、落ちないかしら?」
俺の行動を見ていた雪が笑う。だがここでこの小さなライバルに妻を奪われてしまうわけにはいかないんだ。俺が地球にいる間の貴重な時間、特に夜は絶対にヤツに譲れるものか!!
「大丈夫、大丈夫! 落ちたって怪我もしやしないさ。航はよく寝てるから心配ないって」
俺はそう言いながら、さっそく妻を抱きしめて唇に軽くキスをした。
「仕方ないわね、んふふ……お帰りなさい、あなた」
仕方ないとか言いながら、妻の反応もまんざらではない。そりゃそうだよな。こっちが久しぶりなんだから、あっちだって同じだけ久しぶりなんだ。それでなかったら、問題だよな、あはは……
「なぁ、ちょっといいだろう?」
どっかの怪しいオヤジのようなセリフだなと思いつつも、俺は雪のパジャマのボタンの隙間から手を差し入れた。
「あん、だめよ…… 航がいるんだから……」
「だからぐっすり眠ってるだろ? 声を出さなきゃ大丈夫だよ」
「だめよ、航ももう3年生なのよ。赤ちゃんじゃないんだし、目を覚ましたりしたら困っちゃうわ」
そりゃまあ、そうだ。二人がナニしてるところをまともに見られたら、相当やばいのはよくわかる。
だが、それでももう止められない状況になりつつあるってのが、男の性(さが)ってものだ。
それに、この機会に雪に一番はこいつじゃなくって俺だってことを示してもらわないといけない。かわいいライバルに差をつけろ!だ。そう思ったら、俺はやけに燃えてしまった。
「だから静かにするからさ。雪が声出さなきゃいいんだよ」
「だって、もうっ…… あっ、ああ……ん」
こんな会話をしている間も、俺の手はせっせと作業を続け、既に妻の上半身はあらわになっていた。
手の中に納まるふっくらとした乳房は、三十路の体のわりにはまだ十分に弾力がある。それをゆっくりと愛撫していくと、雪は……
「ん…… はぁん……」
なんていい声を上げ始めた。もちろん、俺にだけ聞こえるようなほんの小さな声ではあるけれど……
ここまでくれば、こっちのもんだ。俺は一気に妻の着ているものを剥ぎ取ると、俺もさっききたばっかりのパジャマを脱ぎ捨てた。
それから、少々急ぎ気味に一通りの愛撫を済ませると、妻の体はもうすっかりお迎えモードに突入していた。
「いくぞ……」
俺は小さくそうつぶやくと、懐かしくて温かい妻の中へと入っていった。それからゆっくりと上下に動く。
「ああ……あなた……」
雪も幸せそうに俺の耳元で囁く。その声に俺はさらに興奮して、激しく力強く動き始めた。
声は殺したままの作業であるから、部屋の中は、ただ微妙にぎしぎしと揺れるベッドの音だけが響く。
だんだんと高揚してくると、隣に寝ている例のヤツのことも忘れて、俺はクライマックスに向かってさらに動きを激しくさせた。雪の手にも力が入る。もうすぐ……もうすぐ……!!!
と……突然、端っこに寝ていた航が、むっくりと顔を上げた。
「お母さん?」
とたんに、俺と雪はブランケットを肩まで引っ張りあげ、動きをぴたりと止めた。それか何事もなかったかのように、航をちらりと見た。
俺の心臓がバクバクしまくっている。そして多分雪も同じだろう。ヤツにこのままこっちのブランケットに入ってこられでもしたら、俺たちが何も着ていないことがばれてしまう。それはまずい、非常にまずいぞ!
そんなことなど露とも知らない航は、眠気まなこで俺の顔を見た。
「あれ、お父さん? いつ帰ってきたの?」
「あ、ああ…… さっき帰ってきたんだ。今は夜中だから、明日ゆっくり話そうな。ほら、もう寝ろ」
心の中はドギマギしながらも、俺は平静を装って笑顔で答えた。すると航も「うん」と答えてニッコリと笑った。
だがこのまま寝るはずだと、ほっとしたのもつかの間、突然航がこんなことを言い出した。
「ねぇ? 今さぁ、なんか揺れなかった?」
「へっ!?」「えっ……」
俺と雪は思わず返事する声がひっくり返りそうになった。さっきのベッドの揺れを、ヤツは眠りの中で感じていたらしい。さすがに最後はちょっと激しかったからなぁ。
う〜ん、やばい、まじでやばいっ…… どう答えるんだ!?
一瞬の沈黙があったが、とっさに思いついた俺は、こう答えていた。
「あ、ああ…… 今、地震あったみたいだな。でもすぐ揺れは収まったから大丈夫だ。ほら、もう夜中なんだから、早く寝ろ」
冷や汗がたらリと流れる。まだ航が不審がったりしたらどうしようと心配になったが、案外あっさりとそれを信じたようだ。
「地震? ふうん、そっか。じゃあお休み……」
それだけを言うと、航は再び頭をこてんベッドに落として、あっという間に寝入ってしまった。
航はそのまますぐに規則正しい寝息をたて始め、俺たちは最悪の事態を逃れた。
「はぁ〜〜〜〜〜」
俺たちは二人で一緒に大きくため息をついてから、互いの顔を見て苦笑してしまった。
「もう、あなたったら地震だなんて、やぁね、もうっ」
チラッと横目で笑いながら睨む雪に、俺は肩をすくめた。
「仕方ないだろ? とっさにそれしか浮かばなかったんだよ」
「うふふ、上手ないい訳だったわよ」
そうだな、言われてみればなかなかいい言い訳だった、うん。
安心したら今度は、さっきの消化不良が急に体中を駆け巡り始めた。あともうちょっとのところだったのに!!
何がもうちょっとだったって? おいっ、そんなこと聞くなって!
俺はさっそく雪に提案した。またヤツが起きてきたらもう言い訳なんて使えそうにない。
「それはそうと、おい、ちょっとリビングに行こう」
「え?」
雪が不思議そうに小首を傾げたので、俺は彼女の耳元で囁いた。
「このままじゃ寝られん!」
「あっ、え、ええ…… うふふ」
そういい捨てた俺に、雪が恥ずかしそうに笑った。
そうして俺たちは、リビングのソファで子供達が突然起きてこないことを切に祈りつつ、ドキドキしながらさっきの続きを完遂したのだった。
とにもかくにも、無事に思いを遂げることができたし、最大のライバルを出し抜いてやれたことで、俺はしごく機嫌よく眠りについたった。
我ながら、『地震』とはうまい言い訳を考えたもんだ、などと思いながら……
そして翌朝のことだった。ちょうど土曜日で、子供達も雪も休みだったので、隣から雪の両親も呼んで、少し遅めの朝食を食べることにした。
朝食の間の会話の中心は、俺。久しぶりの地球に子供達、妻、そして義父母達との色々な会話を楽しんでいた。家族団欒とはこういうことをいうのだと、満足しながら。
とその時だった、航が何かを思い出したように、「あ、そうだ!」と叫んだ。
「どうしたの? 航」
雪が尋ねると、航は得意そうにこう言ったんだ。
「ねぇ、昨日の夜、地震あったよねぇ!」
「えっ?」
守と愛、そして義父母はきょとんとした顔をしている。そして俺と雪は……一瞬、顔面蒼白になる。その後守が「ははは」と笑った。
「地震なんかなかったよ、なぁ〜愛」
「うん、愛も知らな〜い」
守と愛が顔を見合わせて頷きあった。だが航は引かない。
「え〜〜! 絶対揺れたよぉ〜 こう、ゆっさゆっさと何回も揺れたんだぞぉ! ねぇ、お父さん、お母さん! 一緒に寝てたから知ってるよねえ?」
「えっ、あっ、そうだったかしら?」
「お、俺も気付かなかったような……」
「だって、昨日お父さんが地震だって言ったじゃないかぁ!」
「さ、さぁ〜」
航の必死の訴えにも、さすがに「うん」とは言えない俺と雪は、とぼけるしかなかった。すると、最後は守にあきれた声を掛けられている。
「航ぅ〜 お前夢見て寝ぼけてたんじゃないのかぁ?」
「兄ちゃんこそ、寝てて気付かなかったんだよ!」
まだ何か言いたそうな兄弟二人をなだめるように、俺が口を開いた。
「まあ、いいじゃないか、たいしたことなかったんだからさ。ほら、飯食ってしまえ。あっそうだ。今日は飯食ったらみんなでドライブでも行こうか!」
などと、苦し紛れの楽しい話題なんかを引っ張り出して、何とか二人を別の話題に引っ張っていき、地震の話題はそれで終わった。
と思ったが、ドライブに盛り上がっている子供たち三人を尻目に、義父と義母は、互いの顔を見合わせて、必死に笑いを堪えていたかと思うと、義母が意味深な視線で俺を見たのだ。
うぉっとっと…… こりゃまずい。あれは明らかに航と俺たちの深夜の会話の意味を理解したに違いない。
俺はちらりと雪の顔を見たら、雪も同じことに気付いたらしく、二人してめちゃくちゃ恥ずかしかったのは言うまでもない。
その後、俺と雪はご飯を終えるまで義父母の顔を見ることができなかった。
そしてその夜、雪からは、「やだもう、すっごく恥ずかしかったわ。これからは、航が一緒にベッドにいるときは絶対手を出さないでね!!」ときつく言い渡されてしまった。
「航、地震の話、よその人に言わないわよね〜」とぶつぶつつぶやきながら。口止めしておこう。
その上航ときたら、次の日からもずっと、俺が地球にいる間中「恐いから一緒に寝る!」と、毎晩俺たちのベッドに入ってくる始末だ。
そのおかげで、俺はこの休暇の間中、すっかり欲求不満に陥ってしまった。
古代航――まったくもって、油断ならない愛すべき強力ライバル野郎である。
今日の日記に書いておこうか……
『古代航 あなどりがたし……』ってな
ん?どっかの武将のようだって? さぁてね〜
おわり
美しい妻を巡る最大のライバルは……外敵ではなく、家の中にいた!? なんちゃって(笑) ママ大好きの航君は、パパとママの取り合い合戦を繰り返すのでありました! ちゃんちゃん(*^^*)
すみません、どうでもいい与太話でした(^^;)
でもそのうち航君には、ママより愛する女性ができちゃうんだから、進パパそれまで我慢してあげてね〜(^^;)
それに、パパを巡るライバル合戦も、ママと愛ちゃんの間で繰り広げられていることでしょうから、お互い様ですしね!
あい(2005.8.9)
(背景:pearl box)