020 告白
2200年6月、もうそろそろ暑くなり始める季節だ。と言ってもここは宇宙、季節なんか感じられるもんはなんいもないけどさ……
そう今は、イスカンダルからの帰り道。地球到着まであと2ヶ月あまりの予定なんだ。
このまま行けば地球の滅亡をギリギリ救えそうだ。そうなれば、ヤマト艦長代理としての俺も任務ももうすぐ無事に終わるはずだ。
はぁ〜 今日も星の海をただひたすら走るのみ……か。
こんな風に行きの航海とは雲泥の差でのんびりやってる俺にとって、今の最大の関心事は彼女のことだ。
彼女とは――もちろん森雪のこと。18歳、ヤマト生活班長、美人、スタイルもよし!……そして俺が心底惚れちまった初恋の人だ。
今から思えば、俺が惚れたのはヤマトが地球を立つ前、ほとんど一目惚れのような気がする。
と同時に、ヤマトに乗った他の奴らも彼女にぞっこん惚れていた。特に島、あいつも俺と一緒に彼女に出会って、二人してあっさり陥落した。
航海が進むに連れて、彼女への思いはどんどん大きくなっていって…… けど、ライバルはやけに多いようだし、彼女をモノにするのは、そりゃあ大変なことになるだろな、と思いつつも、それは地球に戻ってからのこと、まずは地球を救ってからとは思ってた、というか思おうとしてたんだ。
だけど……最近、どうも微妙に周りの様子が変わってきたような気がするんだよなぁ。
というのも、最大のライバルと目していた島の野郎が、なぜだか戦線離脱を宣言しちまったんだ。
あれはいつだったかなぁ、イスカンダルを出てすぐぐらいだっただろうか?
「俺は降りたから、お前、早く告白しろ!」 だと!?
一体どうなったんだかわけわからん。その上、第一艦橋の周りの奴らもそうやってはやし立てやがるんだ。
南部にしろ、相原にしろ、最初はあいつらも雪に憧れてたはずなのに、それはどうなったんだっていうほど、最近は俺を煽ってばかりだ。
けどなっ! 俺としては地球の危機を救うまでは、そんな色恋事に現を抜かすつもりはない! 彼女に告白するのだって、地球に無事着いてからだっていつもあいつらにも言ってるんだぁ〜〜!
…………ってのはいわゆる建前ってやつで、実は告白するのが恐いというのが本音なんだけどさ。
そりゃあさっ、最近の彼女とのやり取りを思い出すと、もしかしたら彼女も俺のことを好きなんじゃないかなぁ?なんて浮き立つ気持ちにさせてくれることがなきにしもあらずなんだよな。
展望台とか農園とかで二人きりになれたときなんか、結構彼女嬉しそうに話をしてくれるんだよ。俺の話も、それはもう嬉しそうに聞いてくれるしさぁ。
南部なんかは、そういう場面を目ざとく見つけては茶化しに来るんだ。
この間も、農園で彼女と二人でトマトを収穫してたのを見つけて、ささっと俺の背後にやってきたんだ。
「へぇ〜〜、こっだいく〜〜ん、なかなかいい線いってんじゃないっすかぁ〜〜」
「ば、ばか言えっ! 彼女の仕事手伝ってただけだよ!」
「でも、雪さん嬉しそうだったぜ」
「そりゃあ仕事手伝ってもらって文句言う奴なんかいねぇよ!」
「そ〜おかなぁ〜 そんなことないって思うけどなぁ〜 なぁ、もうすぐ地球に着くんだし、そろそろ思いきって告白してもいんじゃないの?」
「や、やだよっ!」
「だめだったらそんときそんときっ! 戦闘班長なんだしさぁ、お前らしくガンガン行ったらどうだ? ほら、当って砕けろって言うじゃないか」
なんてのんきな顔で言いやがる。誰が砕けると思ってんだよ、お前はぁ!ばかやろう!
お前はいいよな、こっちがだめでもあっちってスペアが一杯いるらしいからなぁ。俺の場合は、こっちがダメならあっち、ってわけには、いかないんだぞ!
それになによりも…… もし、彼女が色よい返事してくれなくって、申し訳なさそうな顔して「お友達でいましょうね」な〜んて、月並みなお断りをされたとしてみろよ――彼女は優しいからきっとそんな風に断ると思うんだ――
そんときゃ、俺、次の日からどんな顔して彼女に会えばいいんだよっ!
お友達でいましょうだって!? とんでもないぜ。
自慢じゃないが、俺は彼女にめちゃくちゃ惚れてんだ。もしも告白してダメだったら、1週間、いや1ヶ月は落ち込んじまうに違いないんだ。まあ、そんなもんですめばいいほうだけどさ。もっと落ち込んじまうかもしれないな……
どっちにしたってその間中、この狭い艦内で彼女の顔を毎日何食わぬ顔して見るなんて、俺にはできそうもねぇよっ!
地球に着いて、無事に任務を果してから…… そうしたら告白する大義名分も立つしさ。
なんてったって……ヤマトを降りてからなら、万一振られちまっても彼女の顔を見なくてすむじゃないか! うわぁ、そんなこと考えたくもねぇけど……
だ・か・らっ……俺はまだ告白できないんだよっ! くそっ……
あ〜あ、やっぱり、告白は地球についてからしかねぇよなぁ〜〜〜はぁ〜〜
「ねぇ、雪って古代さんのことが好きなんでしょう?」
生活班の同僚達からそんな言葉をストレートにかけられるようになったのはいつからだったかしら? その度に平静を装って、
「えっ? 古代君? ええ、好きよ。同僚としてね、とってもいい人だもん」
なんて適当にごまかしてるけど、きっとみんなわかってるわよね。だってその後、「うふふ……」なんて意味深な笑いをして行っちゃうんだもの。
それに佐渡先生ったら……
「あいつはまだな〜んも言わんのか?」
最近私の顔を見るたびにそんなことばっかり言ってる。
「あいつって誰ですか?何を言うんですかぁ?」
なんてとぼけたって先生はお見通し。「ふぁっふぁっふぁっ……」なぁんて笑いながら一升瓶をぐいってやるばっかりだもん。思わず頬が火照っちゃったわ。
んっ、もう、やぁねっ、佐渡先生ったらぁ〜、うふふ……
でも……古代君、ほんとに私のこと好きなのかしら? みんなはそうだって言ってくれるけど…… 私もそんな気がするけれど……でも……
彼は、まだな〜〜んにも言ってくれない。
行きの航海の時、オリオンの星に好きな人のことを願った事も知ってるし――本人の目の前でお願いしたんだもん――、ビーメラ星で助けてくれた時は思わず胸に飛び込んじゃったし、二人で一緒に写真とった時は思いっきり意味深なことを言ったのになぁ〜〜
それからまだあるわ! バレンタインには特別なチョコもあげたし、お雛様も作ってあげたわ。それからそれから…… ああ、もう数え切れないほどいろんな意思表示したつもりだったのよ、私。
なのに彼ったら、その言葉の裏にある乙女心って言うのを、ぜ〜〜〜んぜんわかってないんだもん!
島君や南部君に言わせたら、あいつほど女心に疎い奴は宇宙中探したっていやしないって言うけれど――ちなみに、あの二人には私の気持ちもばれちゃってるみたい――
でもねぇ、それでもねぇ〜 もうっやんなっちゃう!
ううん……でもわかってるのよ。古代君が時々私に熱い視線を送ってきてくれてること。私が振り返るとあわてて目を逸らすけど、背中にビンビン感じちゃうもの。
そう言えば古代君…… イスカンダルでお兄さんとスターシアさんを見送った後、私の顔を見て「今度は俺達の番だ」って言ってくれたのよ。あれってお兄さん達の次は古代君と私が……って意味じゃなかったのかしら?
あの時は恥ずかしくてそれ以上尋ねられなかったんだけど……
それからね、帰りの航海じゃあ、展望室やヤマト農園で二人っきりになることも話すことも増えたのよ。
そんな時の彼って、ほんと優しい目をするの。私がドキドキしちゃうくらい……素敵な笑顔も見せてくれる。まるでデートでもしてる気分にさせてくれるわ。
だから、きっと古代君も私のこと好きでいてくれる…… そう思うんだけど…… ただ、彼はこの任務をきちんと終えるまで自分のことを後回しにしてるだけなんだって…… そう思いたいの。
そんな彼と私だから、周りからもはっきりしないのが気になるらしくって、同僚の子たちも「雪から告白しちゃえば? 古代さん待ってるのよ!」なんてせっつくのよねぇ……
でも、でもねっ! 女の子って、やっぱり男の子から「好きだ!」って告白されたいじゃない? そうでしょう!
だから私、さりげなくいろんなアプローチしてみてるのよ。彼のたった一言が聞きたくって…… ドキドキしながらずっと待ってるの。
それに……ここだけの話だけど、もし彼と付き合うことになったとしても、先に告白したのは誰かで、二人の立場が微妙に違ってくるじゃなぁい? こういうことは最初が肝心って言うし……
だ・か・ら……私からはぜ〜〜〜ったいに告白なんかしないんだからねっ!
あ〜あ、やっぱり……告白してくれるのは、地球についてからかしらねぇ〜 ふうっ……
カップル直前の二人…… それぞれに思惑があって、不安があって、そして期待があるんですよね(笑)
でも……いつも思うんですが、もし地球直前であの事件がなかったら、古代君ってどんな風に告白したんでしょうね? 地球についてからも相当かかったりしてね(笑)
あい(2004.3.9)
(背景:Holy-Another Orion)