029 My Sweet Home


 カチャカチャと食器の音がする。

 トーストとバターの香ばしい匂いと、レモンティーのすきっとした香りもしてきた。

 もう、朝なのか……?



 それから、僕の体を優しく揺り動かす手。

 ――古代君、起きて…… 古代君……

 君の声が聞こえる。

 起きて? ああ……そうか。

 僕はまだぬくぬくとしたベッドの中。

 まだ夢の中に……いるんだな……

 まだ眠いよ、雪……



 ――古代君、起きてってば!

 またかわいい声が聞こえてきた。だけど……

 ――う〜〜ん、もうちょっと

 僕は甘えるようにそう答えた。

 愛しい彼女と温かなブランチが待っているこんなに気持ちのいい朝は、もう少し惰眠にふけっていたいんだ。

 なぁ、雪……そうだろ?

 もう少し……もう少し眠らせてくれないかい。

 ――うふふ、寝ぼけてるの? でもだめよ、もう起きてちょうだい。

 ころころとおかしそうに笑う君の笑い声が聞こえてくる。

 ああ……きっと……

 君は、いつものあの白いエプロンをしてるんだね?

 あれはいい……

 あのエプロンを身につけた君は、初々しくて……食べてしまいたいくらいかわいらしいから。



 ああ、いい気持ちだ。

 僕がいて、君がいる部屋。僕らはいつも一緒だよね。

 思い出すよ……

 結婚式もうっちゃって、戦いの中に飛び出していった俺を追いかけてきてくれた君。

 どこにいてもあなたと一緒にいることが私の幸せよ。

 そういってくれた君に、ありがとうって言ったよな?

 それから……

 どんなに遠く離れていても、僕の命を信じると、

 君はずっと待っていてくれた。

 僕は、そんな君が愛しくてたまらなかった。



 そう言えば……

 いつから始めたんだったっけ? 君との生活。

 どっちが言い出したんだっけ? 一緒に住もうって……

 それから、それから……

 あれ? それから、どうしたんだっけ?




 まあいいや。今が幸せだから……

 君と暮らす部屋。君と眠るベッド。君と笑うリビング。

 君と過ごすすべての時が……ここにあるような気がする。

 それが僕にとっての一番の場所。

 それが僕らのSweet Home。



 ――古代君! いい加減にしないと怒るわよ!

 あっ、雪、怒ってるんだろ? 声が少し険しくなってきたぞ。

 そろそろ起きないと、まずいかなぁ〜?

 ここだけの話だけどさ、彼女が怒ると……宇宙一恐いんだ、くっくっく。

 ――やだ、古代君、夢を見て笑ってるの?

 ん? 夢じゃないさ、君のことで笑ってるんだ。

 なんてったって、君の怒った顔もかわいいなって思ってるんだからさ。

 ――もうっ、古代君ったらっ!! 寝ぼけてないで、起・き・な・さ・いっ!!



 雪の手が俺の腕を揺さぶる。

 ふぁ〜〜 うるさいなぁ。

 よぉ〜し、こうなったら実力行使だ!

 君をベッドに逆戻りさせてやるっ!!

 それから……それから、君をもう一度たっぷり愛してあげるから。




 僕は腕を掴んでいる彼女の手を、逆に反対の手でぐいっと抱き寄せた。

 ――きゃっ!

 君はかわいい声を出した。

 あはは、僕の勝ちだな。

 さあ、もう一度。これから僕らのLove Time、たっぷり愛を語り合おう。

 ――雪、愛してるよ。

 だから、雪。もう少し寝ようよ。もう離さない。

 僕と一緒に、なぁいいだろう?













 ――こ、古代君っ……!? だめっ……艦長っ!!!


 え? かんちょう……?????

















 ――うわぁっはっはっはっ…… ぎゃはっはっはっ…… が〜っははっはっ……



 な、な、なんだっ!? 雪の焦った声と一緒に聞こえてきたのは、低い音の笑い声?

 男……?? なんで俺たちのSweet Homeに男がいるんだ?それも複数!?




 うわっ〜〜〜〜〜〜!!!


 僕は完全に目を覚ました。そしてそこで見たものは……













 僕の周りに立っていたのは、それはそれは真っ赤っ赤な顔の雪と……そしていつもの野郎ども。

 状況を把握した僕の顔は、一瞬真っ青になって、それから雪に負けないほど赤くなってしまった。


 そう、ここは……………………ヤマトの中の会議室だったんだ。


 僕は、ヤマトの会議室で寝てしまったらしい。

 そう、僕は今朝、まだ夜が明けないうちに起き出して、早朝会議の資料を最後チェックをしていたんだ。
 だが、積み重なる疲れ――特に精神的だろうな、きっと――のためか、すっかり二度寝してしまったらしい。

 会議の準備のためにやってきた雪が、俺が寝ているのに気が付いて、食堂に来ていなかった僕のために気を回して朝食を持ってきてくれたらしい。
 それから僕を起こそうとしていたんだ。

 そこへ朝食を終えた奴らも、頼みもしないのに早めにやってきたというわけだ。

 その後は…… ああ、もう聞かないでくれ! 情けなくて言葉にならない。

 古代進、一生の不覚っ!





 それからの俺は、どっぷりと奴らのおもちゃに成り下がってしまった。
 横にいる雪も、赤い顔をしながらも嬉しそうに笑ってるだけで、ちっともフォローしてくれない。


 「古代〜〜 お前たまってんじゃないのかぁ?」

 「古代さん! よだれ出てますよ〜〜」

 「いったいなんの夢見てたんだ?」

 「どうせ、雪と暮らしてた頃の夢見てたんだろ?」

 「雪、愛してる〜〜だもんなぁ〜」

 「あ、僕たちしばらく外で待ってましょうか? ラブシーンはそれからゆっくりとどうぞ」

 「やっぱ、彼女のキスで起こしてほしかったんだよなぁ? すっすむく〜ん」

 「たまには、一緒に朝を迎えたいよなぁ〜」

 etc……etc……

 「ば、ばかやろぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜!」

 その叫び声が、どれほどむなしく響いただろうか……

 それからしばらして、やっと収拾して始めた会議で、いったいどんな話をしたのか、何を決めたのか、いまだに思い出せやしない。




 けれど……

 噂ではその日一日中、生活班長はいつになくご機嫌だったらしい。

 これだけは怪我の功名だったかもしれないな。




 そして僕らは、星の海の中をひた走る。

 新しい僕らの地球を探し出すために……



 待ってておくれ、僕の愛する君。

 きっといつか、必ず帰ろう。

 僕らのSweet Homeへ……

おわり


IIIの古代艦長です。既に何ヶ月かの航海が過ぎて、ちょっとばかりお疲れ気味の頃でしょうか?
甘い夢をたっぷり見た古代君…… でも、ちょっと場所が悪かったようですね(笑)

しっかし、あいワールドの古代君、『一生の不覚』を何回やってんでしょう〜〜〜(^^;)
あい(2004.3.17)

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