033 叶わぬ恋


 
届かない思い

ほのかな恋心

切ない心の行き着く先は……



生まれて初めて本気で惚れた

今までだって付き合ってきた人はいたけれど

それはただの友達の範囲を超えなくて

ただの軽い気持ちのままだった


初めて惚れたその女(ひと)は

宇宙から来た美女にも良く似た美しくて清らかで

そして何よりも……

恋音痴の親友すらも

一目で惚れてしまったほどの

とびきりの女性


最初は脈もありそうだとも思っていた

けれどそれは彼女にとっては……

ただの優しい友情だけだったんだ


それに気付いたのは旅の半ばのことだった

あいつに示した彼女の遠まわしの恋心を

あいつよりも先に知ってしまったあの日のこと

彼女のあまりにもあからさまな愛の示唆にも

全く気付かなかった鈍感な親友が

俺の前で繰り返した

彼女の短い告白にも似た言葉を聞いたとき

俺の心は奈落の底に

突き落とされた……


絶対にあいつには教えてなんかやらないぞ!

生まれて初めての自棄酒と

失恋の涙と一緒にそう誓ったあの日の夜

あんなにも酔いながら

ちっとも眠れなかったあの一夜


結局あいつはあれからも

彼女のあの思いを未だに知らずに時を過ごしている

彼女があいつにどんなに惚れてるかってことも

彼女があいつをどれだけ心配しているってことも

あいつはまだな〜んにも知らない


でもなっ!

絶対に教えてやるもんか!!

あいつが先に告白するまでは……

あいつが度胸をすえるその日が来るまでは……


それが俺のたった一つの最初で最後の意地悪さ

俺に叶わぬ恋をさせてしまった親友への

たった一つの仕返しだ

それくらいは……いいだろう?


地球に無事に降り立つ頃には

お前はあの美しい彼女を

自分のものにすることができるんだから

俺と違って叶う恋をしてるんだからな!!


こんちくしょ〜〜〜!

それから……

仕方ないから言ってやるよ

おめでとう……幸せになれよっ!!




生まれて初めて知ったの

恋というものが存在することを

人を愛するという意味を……


お父様でもお母様でもないあの人は

叔父様という若い人

お父様にどこか似ていて

お父様よりずっと若くて

でも……

お父様に負けないほど優しい瞳を持った人


始めて会った時に感じたほのかな愛情が

心を焦がす恋心に変わるのに

それほどのときは必要なかった

体の成長と一緒に

心もあっという間に

大人への階段を登った私だから


けれど私が恋したあの人には

もう……

心から愛し合う人がいた

その愛する人は遠く地球に一人残されて

愛する人と離れ離れになったあの人は

心に大きな傷を負っていた

だから時々とても悲しい瞳をする

心の置き場を失って

うつろに宇宙(そら)を眺めてる……

そんなあの人の背中が

私も悲しくなっちゃうほどに

とても淋しげだった


ねぇ……

私じゃその人の代わりになれないの?

私が一杯愛したら

愛するその人のことを

忘れることは出来ないの?


けれど……

返ってきたあの人の答えは

ごめんね……のひとことだけ


わかっていたわ

わかっていたの

私じゃだめなことくらい

私じゃ代わりになれないことは

叔父様だから叔父様だもん……

だけど……だけどね

わかっていたけれど

それでもとっても辛いのよ


届けられないこの思い

どこへ持って行けばいいんだろ?

どこで消してしまえばいいの……!?


きっと……

どこに行っても消えることはないでしょうね


消せない思いを胸に抱いて

私は私の運命(さだめ)を果たすわ

初めて愛したあの人の

瞳にもう一度喜びの火が灯ることを祈りながら……


大好きな……叔父様が

心の底から笑顔で笑ってくれる日が来ることを

夢に見ながら……


さようなら……




初めて恋したその女(ひと)は

びっくりするほどすごい美人

その上ものすご〜く仕事のできる人で

でもってちょっと年上で

さらには……

心に決めた人がいた!!!


恋したと気付いたまもなく即行で

失恋してしまった僕だった


どうして最初に教えてくれなかったんだよ〜!

あの人には決して恋をするなって

あの人には

どんなに惚れても無駄だってさ!!


だけど……

そんな風に周りに八つ当たりしてみたところで

万が一

そんな話を聞いてたとしても

僕の気持ちが変わったとは思えない


あの人が誰を愛していたとしても

僕を見てくれないとわかっていたとしても

ぼくはきっとあの人に……

恋をしていたはずだから

それほど素敵な女(ひと)だから……


ただ……今は

あの人とあの人の愛する人は

他にしなければならない大切なことがあって

二人が二人のためだけに過ごせない

ちょっと悲しい

けど僕にとっちゃちょっと嬉しい

そんな現実がここにある


だから神様

今は……今だけは

僕にその間にいさせてくれませんか?

いつか二人がお互いのためだけに

過ごせるその日が来るまでは

僕に少しだけ……

あの人との時間を分けてください


そしていつか

二人の幸せを阻むことがあったとしたら

僕がきっとその障害を

壊してあげますから!


僕が大好きなあの人のために

命を懸けられるのなら

それが僕の本望だと

そう思うから……


Fin
 


叶わぬ恋をした3人のモノローグ。それぞれに思いを抱きながら、伝えることも出来ない思い、叶わぬ恋。

愛し愛され深く繋がっている二人だけれど、その周りには思いを叶えることが出来なかった人たちもいることを、二人は決して忘れない、忘れてほしくはない……
そんなふうに思う私です。
あい(2006.8.1)

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(背景:Holy-Another Orion)