039 信じてる




――あの飛行艇は無事に地球を発進したが、その艇内に、生命反応は……なかった。






 それが、敵に捕らわれ意識を取り戻した私に告げられた、信じられなくも冷たい言葉だった。

 テイナイニ セイメイハンノウハ ナカッタ……?

 彼の言葉の最後を頭の中で反芻する。そして一瞬の後、その言葉の意味を理解した。

 うそっ!!! 絶対に嘘よっ!!

 私の体と心が即座にそう反応した。
 その気持ちを伝えるために、私の前に立つ敵将の姿をきっと睨んだ。けれど……彼の表情はぴくりとも変わることはなかった。

 私を見つめるその男は、私を哀れむでもなく、あざ笑うでもない。ただ無表情にじっと私を見つけるだけ。
 けれどその静かな姿が、敵将でありながら、なぜか彼の言葉に嘘がないような気にさせた。

 ということは、彼の言っていることは事実……だとしたら、それはつまり……!?

 カレガ……シンダ……?




 いやぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!

 自分の今の状況もまったく忘れ、私はベッドに突っ伏して泣いた。大きな嗚咽をあげるたびに、それが肩の傷に響いて痛みを増したが、それでもその痛みも、私の心の悲痛に比べれば、ずっとずっと耐えられるものだった。
 あの人がこの世にいないのだと考えるだけで、私の心は凍りつき、激しく痛み、いびつに軋んだ。

 その悲しみと痛みで、私は再び気を失ってしまった。




 それからの数日は、ただ空虚に時だけが進んでいった。
 怪我の痛みが少しずつ薄れていくのに反して、心の痛みは日々増すばかり。さらに今の自分や地球の置かれている立場を理解するにつれて、地球の未来への苦悩も増し続けた。

 一方、私を撃ち、そして助けた敵将は、一日に一度、決まった時間に現れては当たり障りのない会話をし、私の様子を尋ね、そして短い時間で去っていく。
 彼はそれ以上、何も求めることもなく、また何も告げようとはしなかった。

 私もまた、もう一度彼とヤマトのことを尋ねることはしなかった。例え尋ねても、この男の答えは変わるはずがない。それがわかっているだけに、再び同じ事実を――彼が死んだということ――を突きつけられることが、辛かったのだ。

 けれど、今の私は囚われの身。待遇はとても捕虜とは思えないほど良かったけれど、それは傷が癒えるまで待っているだけなのかもしれない。この後、私の身に何が起こるのかは、全くわからなかった。

 最悪の事態も考えられる。戦敗国の女性達の憂き目は、遠い過去からの歴史が物語っていた。
 けれど、あの人がいない今となっては、もうどうなってもいいような気さえしてくる。

 地球軍の残党は、地下に潜ってパルチザン隊を結成したらしい。
 小高い丘の上にあるこの邸から見える、毎夜あの憎らしい爆弾の周りでチラチラと輝きは、その戦闘のせいだと思えた。時々ここの兵士達もかり出されるのか、騒然とした様子で大勢出かけていく夜もあった。

 本来なら私もその部隊に参加すべきなのだ。それなのに…… ただここからその戦いを眺め、ここを逃れる術さえ、いや、逃れようとすらしていない。

 あの人がいない地球で……生きていく意味なんて、ありはしない。あの人のいない地球なんて、なんの意味もないもの……



 それからも、沈黙の日々が続いた。言葉を交わすのは、やはり一日一回私の治療をしてくれる医者との間のみ。

 彼は地球人でごく一般の開業医で、占領軍からの指示を受けて、私の治療をしているようだ。地球人の治療は、他星人である占領軍の医師では難しかったのかもしれない。

 けれど、いつも敵兵の監視付きのため、治療に関する以外に余計な会話はほとんどできなかった。

 「生きる気力だけはなくさないように……」

 悲しげな視線を私に向け、その医師はそれだけを毎日繰り返した。それに対して私はただ力なく微笑むだけだった。



 それから数日後のこと、私の傷がほぼよくなって抜糸を済ませた。仕事を終えた医者が、ほっと安心したように微笑んだ。

 「もう大丈夫ですね。傷跡はしばらく残りますが、痛みは全く残らないと思いますよ」

 「ありがとうございました」

 礼を言う私を見て、医者は微笑んだ。そしてこう告げたのだ。

 「私の仕事は今日で終わりました」

 「お世話になりました」

 「いえ……」

 短い言葉を交わし、互いの境遇を推し量るように見つめあった後、その医者は、何か思い立ったかのように、兵士の隙をみて私だけに聞こえる小さな声で囁いた。

 「絶対にあきらめないで。ヤマトが敵の星に向かって発進したと言う噂を聞きました。それが本当なら地球はきっと……」

 そこで兵士に気付かれたのか、医者は言葉を止めた。

 「えっ!?」

 私は更なる情報を求めて医者の顔をじっと見つめたが、敵兵に銃を突きつけられたままの彼は、もうそれ以上言うことはできないようだった。

 ただ、部屋を出る前に振り返った彼の瞳が、もう一度「あきらめないで」と訴えているように思えてならなかった。

 けれど私にとって、その医者の一言が、囚われてから今までの悲痛から、私を引っ張り上げてくれるには十分な力があった。



 ――ヤマトが……発進した!?――

 その一言が私の心を躍動させた。噂とはいえ、もし、もしも、ヤマトが発進したのなら…… それなら、彼が乗っている可能性はないとはいえないじゃないの!

 あの飛行艇に生命反応がなかったという情報も間違っているのかもしれない!! あの人たちは、何らかの策を講じて、この地球を無事に抜け出せたのかもしれないのだ。

 もちろん、飛行艇の到着を待たずヤマトが発進したことも考えられるけれど、でも……!!

 彼が……生きているかもしれない!! そしてもし生きていてくれて、今もヤマトで戦い続けているとしたら?

 ううん、きっとヤマトと一緒に、彼なら絶対に……!!

 そう思えてくるだけで、私の体にふつふつとエネルギーがわきあがってくるのを感じた。
 彼の死を告げられたあの日からの空虚な日々が遠い過去のことのように、今はただ彼の命を信じる思いが心の底から溢れてきた。

 そうよ、私ったら今まで何を考えていたんだろう。だって彼が死んでしまうわけないじゃないの!! だって誓い合ったんだもの。

 どんなことに巻き込まれても、どんなに遠くに離れることがあっても、彼は必ず私のところにもどってきてくれる。そう約束したんだもの。
 その彼が、私を置いて一人で死んでしまうはずなんて絶対ないんだもの!!

 彼は……絶対に……生きている!!



 そう信じられることが、私に全てを蘇らせた。命への執着も、地球への思いも、そして私自身のすべき使命も……

 それは、今も地下に潜って戦い続ける地球の残党軍のために、あの巨大な爆弾の秘密を知ること……

 私を囲っているあの男は、敵の情報将校。それに彼は少尉の身でありながら、その身分以上に厚遇されているような気がする。
 この邸宅だって、一将校が住まうには立派過ぎるし、敵である私をこんな風に置いていても、誰一人文句を言わない……

 もしかすると、彼は表向きの階位以上の重要な位置に座しているのかもしれない。それに情報将校であるわけだし、あの得体の知れない爆弾の秘密を知っている可能性が高い。

 彼がヤマトとともに地球のために戦っているのなら、私も私にできることをしよう。この囚われの身を利用して、得られる情報を求めてみよう。

 そしてそれを地球の残党パルチザン隊にもたらせば…… あの爆弾の起爆装置を取り除けられれば……
 きっと、ヤマトの戦いも楽になるはず…… 彼とヤマトの戦いも、きっと……

 ええ、わたしはやれる。どんなことをしてでも、その目的を果たそう。地球のために、ヤマトのために…… そして彼にもう一度会うために……

 だって私、信じているから。彼が生きているということを。彼の命を。
 きっときっと彼は、帰ってきてくれるって……

 信じてる、信じてる、信じてる…… 私の愛する彼の命を!
 

おわり


PSヤマトゲーム『宇宙戦艦ヤマト 二重銀河の崩壊』発売記念に……

アルフォンに囚われた雪が、進の死を聞いて失意に陥ってから、再び立ち上がるまでのモノローグです。

飛行艇の中に生命反応がなかったと告げられてから、一旦はあきらめてしまった雪が、ほんのちょっとしたきっかけで、彼が生きているかもしれないと思えるようになり、そしてさらに自分と彼の約束を思い出して、その思いに確信を持つようになって……

彼の命を強く信じる気持ちが、雪の決してあきらめないという意志を支え続けていたのだと思います。
あい(2005.4.7)

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(背景:pearl box)