052 そばにいるだけで……



 君が僕のそばに立った……

 ベッドに横たわって僕の視線は、短いスカートから見える君のスラリとした太ももに釘付けになった。

 ドキリ……

 僕の胸が大きく鳴る。君の姿がまぶしすぎるんだ。

 ふわり……君が僕の体の上におおいかぶった。君のかぐわしい香りが僕の鼻腔をくすぐる。
 そして上半身裸の僕の胸に、君の手がそっと触れた……

 ドキッ……

 君の手が動きほんの少し僕の胸に触れた。その瞬間、僕の心臓の鼓動は大きく脈打った。

 ドキドキッ……

 ああ、僕の心臓は激しく動き回って、胸の中から飛び出しそうだ。
 だけど僕は動けない……

 すると彼女はニコリと笑って、体を起こして「ちょっと待っててね……」と囁いた。

 ドキッ……ドキドキッ……

 柔らかな君の声が僕の耳元で聞こえるたびに、僕の鼓動は再び揺れ動くんだ。

 ああ…… 彼女がそばにいるだけで…… 僕の心臓はドキドキしっぱなし……どうにかなってしまいそうだ……

 雪……











 「はい、もう結構ですよ、古代君! 上着を着て医務室の方へどうぞ」

 「あっ、は、はい……」

 はっと我に帰って見上げると、看護婦姿の雪がにっこりと笑って俺を見下ろしていた。
 そうだった…… ここはヤマトの医療区の中の検査室。今は健康診断の真っ最中だった。

 俺はゆっくりと起き上がると、そばにおいてあった上着を引っ掛けて、検査室を出た。
 すると、そこに座っていた佐渡先生がちょいちょいと俺を手招きした。手元には何かデータらしきものを持っている。俺は呼ばれるままに、先生の向かいにある椅子に座った。
 すると……佐渡先生は、やたら心配そうな顔で俺の顔をじっと見た。

 「あのなぁ〜古代、お前最近どっか調子悪かったりせんか?」

 「は?」

 「乗艦前の健康診断ではなんでもなかったはずなんじゃがなぁ〜 これからの長い航海に支障ができたらこまるからのう」

 「何か異常でも?」

 「うん……時々胸が苦しくなるとか、気分が悪くなるとかそういうのはないか?」

 先生、なんでそんな質問するんだろう? 俺に覚えはない。俺はいたって元気な――何が元気かはあまり詳しく聞いて欲しくはないが――宇宙戦士なんだから……

 「いえ……特には」

 そう答えてから、ちらっと横を見ると、医務室のすみで作業をしている雪が、俺たちの受け答えをちらちらと心配そうな顔で見ている。
 大丈夫だよ。俺、どこも悪くないから……と、口に出して言えないので、心の中で呟いた。

 「そうか、うむ…… あのな、古代、今の検査でな」

 「はあ?」

 「ひどい不整脈が出とる」

 「ふせいみゃく……ですか?」

 「ほれ見てみい〜 こことここと、ああ、ここもだな。ひどく心拍が乱れ取るんじゃ」

 「あっ……」

 その時俺は初めて気が付いた。さっきのあれだ……と。

 「ん? やっぱり心当たりあるんじゃな?」

 「い、いえ……違うんです。あの……それは……」

 なんて言い訳していいかわからなくて、ふっと横を見たとき、ちょうど顔を上げた雪と視線がばっちりあってしまった。

 ド、ドキッ!!! うっ、うわっ!!

 俺は慌てて顔を先生のほうに向けた。そしてなんとか言い訳をしようと

 「だから、もう一度……あの……検査」

 とそこまで言ってから、先生の顔がさっきとは180度変わっているのに気付いた。眉間に寄っていた皺はきれいに取れて、口元がニヤ〜〜リと笑っているのがわかった。

 「ははぁ〜〜ん、そういうことじゃったのか。はっはっは……」

 「いっ!?」

 先生は俺の言いたいことをもう全部理解したらしい。そう思うと、またさらに顔が赤くなってしまった。
 すると佐渡先生がまだにやつきながら、俺にこう言った。

 「古代、検査は明日もう一度やりなおしたほうがええな」

 とここまでは普通の声で、そしてその後、俺の耳元で……

 「明日は、雪のいない時間に呼ぶからのっ」

 俺はまだ心配げに見送る雪の顔を見ることもできずに、医務室を逃げ出すように後にした。
 後ろからは、佐渡先生の笑い声が聞こえてきた。




 地球を旅立ったばかりのヤマトの中のほんの小さな出来事だった。

おわり


 雪への恋心が芽生えたばかりの古代君。いきなり裸の胸を触られたりしたらドキドキですよね?(笑) なんにも知らない雪ちゃんは罪な人? そして、早々に気が付く佐渡先生はなかなかの人物ですな!
 でも、こんな風に不整脈でたの、古代君だけじゃなかったりしてね(笑)
あい(2003.9.30)

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(背景:pearl box)