057 コスモゼロ



 「ようっ、ゼロ! 今日もご苦労だったな……」

 俺は、いつものごとく共に訓練を終え戻ってきた愛機に声をかけた。

 ガミラスを打ち破った今、イスカンダルからの帰路は、あきれるほど安穏な航海が続いている。

 だが、俺たち戦闘班は気を抜くことはしない。

 いつどんな事態が起ころうとも、ヤマトを守り抜かねばならないのだから。

 ヤマトが無事に地球へ戻るために……

 イスカンダルで受け取ったコスモクリーナーDを、必ずや地球に持ち帰るために……

 そんな俺たちと今までずっと一緒に戦ってきてくれたのが、俺のコスモゼロとそして加藤達のブラックタイガー。

 あいつらは、俺達の大切な相棒なんだ。

 そして、いつもどおり帰還後のチェックをした後、俺はコスモゼロの機体を磨き始めた。

 特に汚れがあるわけではないけれど、時間があるといつもこんな風に磨きながら、ゼロに話しかけるのが日課になっていた。



 なぁ、コスモゼロ……

 お前に出会ってから、もうどれくらいになるんだっけ?

 しっかし、お前に初めて会ったときは、散々だったよな。あはは……今思い出しても冷や汗が出るぜ。

 そう、あれは、ヤマトが発進する一月ほど前のことだったよな。





 あの日、訓練学校にいた俺に、突然、防衛軍飛行部隊から呼び出しが入った。それも呼び出されたのは、俺一人らしい。

 何事があったのかと地球防衛軍の特別飛行場へ行ってみると、そこには2機の真新しい戦闘機があった。

 1機は黒と黄色に彩られた単座の戦闘機。そしてもう1機は、白を基調に赤と黄色の色彩に飾られた複座の戦闘機。

 そう、もちろんそれが、ブラックタイガーとコスモゼロ、お前達との初めての出会いだったんだ。

 最初に連れて行かれたのが、ブラックタイガーの前だった。

 で、そこには訓練学校に何度も指導に来たことのある上官がいて、いきなり「テスト飛行のつもりで、ちょっと乗ってみろ!」だろ。

 確かに俺は砲術科所属ながら、戦闘機のS級ライセンスも取得していたし、訓練では、今まで地球防衛軍所属の戦闘機は一通り乗ったことがあった。

 けど、今日は初めて見る機体だし、さすがにちょっと躊躇してしまった。

 「この戦闘機には乗務したことがないのですが……」

 恐る恐る確認する俺に、上官は事もなげに答えた。

 「心配するな、操縦方法は従来の戦闘機と変わらない。お前の力量なら問題ない」

 そう言われてしまえば返す言葉もない。何がなんだかわからないまま、言われるがままに乗ることになったんだ。





 まあな、乗ってみると、ブラックタイガーってのは、今でも加藤達が愛用してるとおり、なかなかの乗り心地だったよ。

 そうだなぁ、一言で言うと、素直。

 トラなんていう獰猛な名前のわりには、ネコみたいに素直に言うこと聞く奴だな、なんて思ったもんだ。

 それなのに、性能は今までの戦闘機より格段にいい!

 スピードも出るし、旋回も鋭いし機動力もいい。同じ操縦方法と言われたものの、計器の扱い方はさらに便利で使いやすく出来てたし……

 こりゃあいい戦闘機が出来た! 思わずそう思ったね。





 そして、ブラックタイガーから降りてきた俺は、思ったとおりの感想を告げた。

 すると上官は満足したように頷くと言った。

 「これがヤマトの艦載機になる」……と。

 俺は大きく頷いた。

 確かに、これならガミラスとも対等に遣り合えるに違いないって思った。

 なにせ、それまでの地球防衛軍の戦闘機は、スピードでも性能でもガミラスのそれには叶わなかったからなぁ。

 これから乗艦することになるあのヤマトを始めて見つけた時、勝手に乗っちまったあの機だって、すっげーポンコツだったしさ。

 あれからそんなに経ってないのに、良くこれだけのものができたなと、すごく感心したのを覚えてるよ。

 そんな俺の心の中を見透かしたように、上官は言った。

 「これもヤマトの波動エンジン同様、君たちが持ち帰ってきたイスカンダルという星からのエンジン設計図を応用して作った」

 そうだったのかと納得しつつも、反面、こんな短期間で、ヤマトのエンジンも改造した上で、艦載機のエンジンにまで応用してしまった防衛軍の技師の能力にも舌を巻いたのも事実。

 まあ、その技師達っていうのが、真田さんを中心としたチームだったっんだから、今から思えばさもありなんってところだよな〜





 で、次がいよいよお前の登場だった。

 「それでだ……」

 上官がもう1つの戦闘機を見やって俺に言った。

 「あれはコスモゼロという名の戦闘機なんだが……」

 上官の言葉は、なぜかくぐもっていた。

 「何か問題でも?」

 「うむ…… 実はあれは今乗ってもらったブラックタイガーよりも先に開発されたんだ。性能もブラックタイガーより上だ。だから、今回のヤマトの艦載機の指揮機として乗せる予定だったんだが……」

 口ごもる上官の意図が俺には見えない。

 「あの……何か欠陥でも見つかったんですか?」

 「いや、欠陥はない。いや、欠陥がないといえば嘘になるな」

 なんだかよくわからない。とにかく要領を得ないんだ。

 「それは、どういうことなんですか?」

 「つまり、言うとだな…… この機を誰も満足に扱えんのだ」

 「はぁ?」

 「こほん……つまり、今のところ、この戦闘機を乗りこなせる奴がいないんだ」

 「はぁ……!?」

 俺はその言葉に目を丸くした。

 「今ここに在籍している防衛軍生え抜きのテストパイロット達も音を上げた。反応がきつすぎる。フィーリングが合わない。理由は様々だが、とにかく誰が乗っても、下から見ていても扱いかねているのがわかるほどだった」

 俺は、ちょっと待てよ、そんな戦闘機を俺に乗れってのか!?と突っ込みたくなるのを必死に抑えて話の続きを聞いた。

 「それから、ヤマトの飛行隊に配属する予定の訓練学校の飛行科の連中の中から、チーフにするつもりのダントツでトップの成績を誇る奴にも操縦させてみたんだが……」

 上官はここで一つため息をついた。

 「やっぱり物に出来なかった……」

 俺は思わずまじまじとコスモゼロの機体を見たよ。ある意味感動すら覚えた。そんなすごい機があるんだってね。

 「それを俺に……ですか?」

 「物は試しだ。乗ってみる気はないかね? まあ、嫌だというのなら、無理にとは言わん。ただもし乗りこなせれば、ものすごい戦力になるはずなんだ」

 人間ってのは不思議なもんで、さっきまでそんな戦闘機に乗せるつもりかよ!なんて思っていたのが、嫌なら乗らなくてもいい、と言われると、俄然乗りたくなってしまうんだよなぁ〜

 え? それって俺だけかな?

 「よぉしっ! やってみようじゃないですか!!」

 俺は燃えた。誰も扱えないじゃじゃ馬娘なんて、めったに出会えるもんじゃないだろ?

 ここで一丁、俺が絶対に乗りこなしてやるって思ったんだ。

 すると、上官はほっとしたような笑顔を見せた。きっと藁にもすがるような思いだったんだろうな。

 「そう言ってくれると思ったよ。だが、何度も言うが無理はするな。開発を担当した技師ですら、ちょっと性能を追い求めるあまり、凝り過ぎてしまったと言わしめた機だからな」

 「はぁ、でもどうして僕に……?」

 性能を追い求めるあまり凝り過ぎたって? まったくとんでもない技師がいるもんだと思ったけど、それもやっぱり真田さんだったんだから、やっぱりさもありなん……だ。

 「うむ……それがな、誰も乗りこなせなくて、この機は使い物にならんと、もうあきらめかけとったところに、例の開発した技師から、もしかしたら古代なら乗れるかも、って推薦があったんだよ」

 「え? そうなんですか?」

 その時は、誰だが知らないけど、俺の技術を認めてくれてるんだなって偉そうにも過信してたけど、本当は違ったんだよな。

 そう……本当は……





 そのわけを聞いたのは、ほんのこの間のことだった。

 あの日もお前を磨いてた。そしたら珍しく格納庫に真田さんが降りてきて……俺に話してくれた。

 真田さんがお前を作るときに考えていたのは、兄さんのことだったってことを……

 『今だから言うがコスモゼロはな、実は……古代守仕様なんだよ』

 驚く俺に、真田さんは、ゼロをなぜながらゆっくりと語り始めた。

 『こいつを開発していたのは、ちょうど冥王星の海戦が終わった直後からだった。

 イスカンダルから届いたエンジンの設計図からヤマトのエンジンを改造するのと同時に、戦闘機も設計して欲しいと言われていたんだ。

 イスカンダルに向うヤマトには、ガミラスに対抗できる艦載機が必要だから……と。

 だがその時の俺の頭の中は、あの冥王星海戦で喪ったと思っていた友のことで一杯だった。

 ああ、今、守がいたら、一緒にヤマトに乗ってイスカンダルまで行っただろうにってね……

 どうして何とか生きて帰ってきてくれなかったんだってね。

 そのせいなんだろうな。知らず知らずのうちに、このコスモゼロを、守が操縦することをイメージして作ってしまったらしいんだよ。

 あいつも艦載機の操縦テクニックは相当のものがあったからなぁ。

 気が付いたら、作り上げていて…… まったく俺としたことが、出来てしまってから、しまったと思ったが、もう後の祭りだ。

 これじゃあ汎用機にはならないって慌てて別の機体を開発して出来たのが、ブラックタイガーのほうなんだよ。

 で……残ってしまったこいつをどうするってことになってな。性能は抜群なんだから、守並みのトップパイロットなら御せるだろうってことで、乗ってもらったんだが、うまくいかない。

 やっぱり実用にはならないかとあきらめそうになった時、ふとお前のことを思い出してなぁ。

 もしかしたらあいつの弟のお前なら、この機を扱えるんじゃないかって思ったんだ。

 しかし、大当たりだったな。お前は俺達の予想以上に、こいつをうまく乗りこなしてくれた……

 いや、今のお前とコスモゼロを見ていると、守以上にフィーリングがあっているような気がするよ。

 なんだか不思議なもんだなぁ……』

 真田さんは、そんな話を笑いながらしてくれたよ。

 ゼロ、お前と俺との因縁は、お前が作られる前から深い深いところで繋がっていたのかもしれないなぁ。





 まあ、それはさておき、その時は、まず乗ってみないとってことになった。

 とにかくとんでもない機だってことはわかったけど、具体的にそれがどんななのかはわからなかったし、あの頃の突っ張ってた俺には、恐いものなんてなかった。

 お前に初めて乗るのだって、全然恐いとは思わなかった。

 けど……それが大変な間違いだったのは、すぐにわかったよ。

 とにかく乗って、発進したろ?

 そしたらさぁ、お前ときたら、いきなりビュ〜〜ッン!だもんなぁ〜 あれにはびっくりしたぞぉ〜

 なんっつ〜んだろうなぁ。いい意味で反応良過ぎってのか? 俺の指示に従うっていうよりか、俺が今からやろうと思ってることを、先先に勝手にやっちまうって感じだったよな。

 ほんっと参ったぜ。

 直進、右旋回、左旋回、宙返り…… あんときの俺ときたら、とびっきりの暴れ馬とロデオでもしてる気分だったぜ。

 とにかく操縦桿に捕まってるのが精一杯っていうか。

 まあ、それでも、一応は行きたい方向にお前を動かすことはできたし、お前のすごい性能も体感できたのも事実。

 しかし、戦闘機の操縦でこんなに苦労したのは、初めて戦闘機に乗ったときでもなかったんだぜ。

 で、なんとか一通りの操作を終えて着陸したが……

 地上に降りたときは、一瞬くらっとして、ふらついちまったんだぞ。正直、こんな風になるのは初めての経験だった。

 任せとけと豪語したわりには、お前にいいようにおちょくられたような気分で、管制塔の方へ戻っていく俺の心は、ちょっとばかり憂鬱でさえあったんだ。

 なんたって、お前をいっちょ揉んでやるか!くらいの勢いで乗った俺が、はっきり言ってお前に揉まれたようなもんだったからな。

 上官からも、えらそうなこと言っても、やっぱり訓練生だな、なんて思われるのがオチだと思うと、悔しくもあってさ。





 ところが……だ。戻ってくる俺を迎えた上官の顔には、摩訶不思議な表情が浮んでいたんだ。

 嬉しそうなそれでいて驚きが隠せないって言うか…… あれをなんて表現すればいいんだろうなぁ。

 う〜ん、あ、そうそう、嬉しい誤算って感じかなぁ?

 だってさぁ、俺を迎えて開口一番、こう言ったんだぜ。

 「古代! よくやった!!」

 「へっ!?」

 予想もしてなかった言葉をかけられて、俺はすぐに敬礼するのを忘れて間の抜けた返事をしてしまったくらいだったよ。

 その後はもう大騒ぎだったんだ。

 上官達みんなが満面の笑みを浮かべて俺に駆け寄ってきて、肩をバンバン叩くし、俺を抱きしめた人もいたっけなぁ。

 そして最後にこう言ったんだ。

 「よぉっし! これでヤマトの飛行隊の隊長は決まったな!」

 なんだか、こんなにお前をうまく扱えたのは、俺が初めてだったらしいんだ。

 俺としてはとてもうまく扱えたとは思えなかったんだけど、あの程度でも上官たちが大喜びなんだから、それまでの連中が相当散々な目にあってたんだなぁ。まったくお前ときたら……

 とにかく、何がなんだか訳わからないけど、俺とお前のフィーリングはピタリと一致したらしい。あれよあれよという間に、俺はお前の専属操縦士ってことになっちまっていた。

 それはすなわち、この時点で、ヤマトの戦闘班長兼ブラックタイガー隊のチーフになるってことが確定してしまったってことで……

 あの時までに、ヤマトの戦闘班長として戦闘の指揮をすることは、俺も知っていたんだ。

 けど、飛行科の連中を差し置いて、ブラックタイガー隊も指揮するってのは聞いてなかった。

 ……っていうか、その日までそんな予定はなかったらしいんだけどな。





 まあ、後で聞いたところによると、ブラックタイガー隊の指揮官は、加藤が第一候補だったらしいんだけど……

 俺の前にお前に乗って散々な目にあった飛行科のトップって加藤のことだったんだな。

 いや、加藤の名誉のために言っておくが、あいつの力量が俺に劣ってたわけではないと、今も俺は思ってる。

 お前とのフィーリングが合わなかった、ってことだと思う。

 とにもかくにも、俺が最後の牙城だったらしくて、お前を扱えなかったら、ヤマトの指揮機としてお前を使うのをやめるつもりだったそうだぞ。

 よかったなぁ、お前。お蔵入りにならなくてさぁ〜 出来て間もないのに、スクラップじゃ、お前も浮かばれなかったろ?

 ははは…… そう怒るなって。だってさ、お前がじゃじゃ馬すぎるのが悪いんだからな!





 それから、俺とお前は、毎日のように訓練したよなぁ。

 最初はお前ときたら、なかなか簡単には言うこときいてくれなくて……

 それでも、しばらく四苦八苦しているうちに、日一日としっくりいくようになってきて……

 次第に、俺の気持ちを理解してるみたいに反応していくお前が、どんどん可愛くなっていったんだ。

 そしてヤマトが発進する直前には、すっかりいい仲になってたよな。

 んでもって、今じゃ俺にとってはなくてはならない相棒だよな、コスモゼロさんよ〜〜!

 今から思えば、やっぱり真田さんの古代仕様ってのが当ってたのかもしれないな。意外と俺と兄貴って似てるのかなぁ〜 たはは……

 まあ、しっかし、あの頃のお前のじゃじゃ馬ぶりは、今でも忘れられないぜ〜!

 それを寄り好んで乗ってた俺も、結構物好きだったかもなぁ。





 ん? あれ? 今急に思いついたんだけどさぁ、そういや、お前って誰かさんに似てんじゃねぇのか?

 え? そんな奴いるかって?

 ほらぁ、いるだろぉ〜? ヤマトの中で一番こわ〜〜いお姉さんがさぁ。くくく……

 ヤマトの生活班長にして、第一艦橋レーダー手、さらに看護師で、ちょっとした調査艇なら操縦しちまうっていう多才なお嬢さんがさぁ〜

 すごい才能の持ち主の癖に、これまたお前さんに負けず劣らずじゃじゃ馬でさぁ〜

 俺なんか何度彼女に怒鳴られたことか……

 ――古代君! そんなことわからないの!

 ――古代君!! この前も言ったでしょ!!

 ――古代君っ!!! そんなことしちゃダメっていったじゃないの!!!

 うっひゃぁ〜〜 思い出すだけでも数え切れないよ〜

 ほんとはさぁ、俺って艦長代理なんだから、彼女にとっては上官ってことになるはずなんだけどさ。

 そんなこと、彼女にとっちゃ、まったくお構いなしだもんなぁ〜

 すっげー美人なのに、あのじゃじゃ馬振りじゃあ、嫁の行き手もなかなかないぞ。

 え?俺?? お前を手なずけた俺なら大丈夫だって? 言ってくれるじゃねぇか、コスモゼロさんよ〜〜

 だははは…… そうなんだよなぁ〜〜〜 俺ってさぁ、実はあのじゃじゃ馬お嬢さんのことが……へへへ……

 おっと、お前誰にも言うなよ!

 って、口の利けないお前が言えるわけね〜よな。あはは……

 けどさぁ、俺にとっちゃ、あっちのじゃじゃ馬娘の方が、もっと一筋縄じゃいかないような気がするんだよなぁ〜

 お前の扱い方は、とにかくガンガン行くことで手に入れたけど、あっちの方の扱い方は、実はまだ良くわかんね〜んだよなぁ。

 ガンガン行くってわけにもいかないし、かといって黙ってたんじゃ気持ちも通じないだろ?

 逆にけんかになりそうなこともあるくらだしなぁ。

 けどね、時々、おおっ!て思うくらいいい雰囲気になることもあるんだぜ。

 だけど、その後が続かない……

 またすぐに振り出しに戻る……になっちまうんだ。

 え? 告白はしないのかって?

 まさかぁ、するわけないだろぉ!

 今は大事な任務の途中だぜ。それをちゃんと終わらせないと言えるわけないだろ〜が!

 ……なぁ〜〜んてさ、まあ、それは大義名分で、もし告白したとして、この狭い艦内じゃあ、振られた時にあわせる顔がないってのがホンネかもな。

 それに、あのじゃじゃ馬振りを乗りこなせるかどうかもなぁ…… っつ〜か、俺、既に尻に引かれてるんじゃね〜かって思うこともあるからなぁ。

 あっちの方は地球についてからってことさ。





 まっ、とにかく、後もう少し、地球に無事に戻るまで、お前さんにはがんばってもらわないとな。

 ガミラスは蹴散らしたとはいえ、残党が残っていないとは限らないからな。

 お前達と行く毎日の哨戒はかかせないんだ!

 さぁて、今日のところの手入れはこれくらいでいいか? すっかり綺麗になったろ?

 うん、よしっ!! ピッカピカの美人さんだぜ!

 ……って、お前さんって女だったっけ???





 とそんな時、格納庫のドアが開く音がした。振り返ると……

 「古代君っ!!」

 うわっ、噂をすればナントヤラ、あっちのじゃじゃ馬さんがやってきちまったよ。

 「どうしたんだ?」

 「どうしたもこうしたもないでしょ! 今日は戦闘班の健康診断日だって言ってあったじゃないの!」

 しまった、いつものことだけど、忘れてたよ。ってか、健康診断とかってめんどくせ〜んだよなぁ。

 「あ、そうだったっけなぁ。あはは……ごめん」

 と謝ったけど、それじゃあ問屋は卸さない!?

 「ごめんじゃないわ! 他のクルーたちはもうみんな済ませたわよ! 後は古代君だけよ! 班長がそんなことでどうするのよ!!」

 うへぇ、すげ〜剣幕。やっぱ、こっちのじゃじゃ馬振りの方がすごいかもなぁ。

 「もうっ、今日の哨戒はずいぶん前に終わったって報告あったっていうのに、古代君ったらまだ格納庫で油売ってるんだからぁ!」

 ムカッ、ちょっと待てよ。言ってくれるじゃねぇか〜

 「油売ってって、別にサボってたわけじゃないぞ。こいつの手入れしてただけだろ!」

 俺がゼロをなぜると、彼女はちょっと面白くなさそうな顔をした。

 「あっそ。とにかく、すぐに医務室に来てください! こっちの仕事が片付かないわ!!」

 「へいへい、今行きますよ〜〜〜」

 俺の返事を聞くか聞かないかのうちに、彼女はコスモゼロをチラリと一瞥すると格納庫から出て行った。

 なぁ〜んか、すごく冷たい視線だったよ〜な…… やばいなぁ〜〜




 あ〜あ。今日は失敗だったなぁ。仲良くするどころか、喧嘩になるところだったぜ。

 けど案外すぐに戻ってったな。もっと怒鳴られるかと思ったけど……

 なぁ、見ただろ?コスモゼロ、すげ〜だろ? 参っちまうねぇ〜

 え? なのに、どうして惚れてんだって?

 あはは…… それを言われると辛いなぁ。

 けどな、あれで中々かわいいとこもあるんだぜ。

 ちょっと弱気になって涙なんか見せられたら、もう俺としちゃあ守りたい〜〜!って気分になっちまうしさぁ〜

 それにほんとくるくると良く働くんだ。

 クルーのためにって、いろんなことを考えてくれたり、してくれたり……

 何事にも一生懸命だしさ……





 おっと、いけね。ここでまた時間とられてたら、また彼女に怒鳴られちまう。それじゃあ行くよ。

 ん? 最後にいいこと教えてやるって?

 さっきの彼女、お前のことすごい顔で睨んでたの知ってるかって?

 確かに冷たい視線だったけど、あれは健康診断忘れてた俺に向けてじゃなかったのか?

 え?違う。お前に向けてだったって? 何で彼女がお前に冷たい視線送るんだ?

 それはつまり…… え? 彼女がお前にやきもち妬いてるって?

 俺がお前をかわいがりすぎるから?

 まさかぁ〜〜 おいおい、まじかよぉ〜?

 それに、艦内電話で呼びだしゃいいのに、わざわざ来たのは俺に会いたかったからじゃないかって?

 そ、そう言えば、そうそうかなぁ〜〜〜 えへへへ……



 な〜んちゃってな。

 ははは……

 ゼロがしゃべるわけじゃなし、そんな風に考えちまうなんて、俺ってよっぽど彼女に好かれたいんだな。

 あの子の睨む顔まで、いいように取りたいわけだぁな。

 あ〜あ、まったく自分で自分にあきれちまうね。

 まあ、しゃあないか〜〜 あんなじゃじゃ馬娘でも、惚れた弱み……ってな。



 なぁ〜 ゼロよぉ!

 いつか彼女と俺の関係も、俺とお前みたいに、しっくりピッタリいけるようになれること、祈っててくれよ!

 そんときゃ、彼女と一緒にお前に乗ってランデブー飛行でもやってやるからなぁ〜〜〜!
 
 
 

おわり


古代君とゼロとの出会いと因縁話を書いてみました。

古代君がコスモゼロをとっても大事にしているっていうイメージは結構ありますよね。
でも……半面、古代君ってば、PART1のオクトパス星団のシーンでは、ゼロを大破させたこともあるんですよね〜〜(笑)
それって、扱いぞんざいじゃない!?(^^;)
あい(2008.4.23)

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(背景:Holy-Another 0rion)