060 愛
僕らが重ね続ける幾千もの夜
あれはその中の一夜
そう
君が……
僕に深い愛の思いを告げてくれた夜
確かヤマトを失ってしばらくたった頃のこと
一人になって考えて
君と離れて思ってみて
君の存在の大きさに僕がその命の先を見つけたときから
それほどたっていない夜だった
そう ちょうど……
二人の未来を名実ともに一つにしようと
思い始めていた頃のこと
その夜も僕らは深く強く愛し合い
満ち足りて眠りに入った深夜のこと……
僕らは期せずして二人一緒に目を覚ました
たぶんそれは
ちょうど窓の外からさしていた
月の光に照らされたせいだったのかもしれない
窓の青白い光を背にした僕は
眠っているであろう隣の君を見た
と……
君もその大きな瞳を開き僕を見つめていたんだ
月の光に映えるその美しい顔と白い肌に
僕の鼓動がドキリと鳴った
――雪 起きてたのか?
――ううん 今目が覚めてあなたのほうを向いたら
――僕も君のほうを見た?
――うふふ……ええ
偶然の一致に僕らはクスリと笑いあった
息が合うんだななんて嬉しかったりもした
だけど……
君の笑顔はいつになく頼りなげに見えたのはなぜだろう?
君が何かにすがるように
僕を見つめているようにさえ思えてくるのは
どうしてなんだろう?
僕はすぐにその疑問を君に投げかけてみた
――どうかした?
――え? なにが?
――何か切なそうな顔してる
――そんなこと……ないわ
君はそう答えてそっと目を閉じた
雪……
君はいつもそんな表情をしながら
何も言わず
じっと黙って耐えているんだね
たまには僕に思いっきり甘えて欲しいのに
たまには僕があきれるほど
わがままを言って欲しいのに……
この間からも君に心配をかけたばかりだから
――たまには……俺に甘えろよ
――古代君……
君の瞳が少し潤んだような気がした
――何か言ってみろよ
――何……か……って?
――思いっきりわがままなこと
――…………
君は少し考えるように僕をじっと見つめていた
それからちょっと困ったような顔をしてうつむいていたけれど
しばらくしてしっかりとした口調でこう言ったんだ
――して……
――え?
あまりにも短い言葉に
僕はすぐに君の求めることがわからずにいると
君はもう一度繰り返した
――あなたが欲しいの……
そんなこと……全然わがままじゃないじゃないか
そう思ったけれど
今の君の望みがそれならば
僕は喜んで君を抱こう
――いいよ どんな風にするのがいい?
君のわがままなら
君の望むようにしてあげたいから
そう思った僕に帰ってきた言葉は少し唐突で意外なものだった
――すぐに私の中に入ってきて……
――!?
愛撫も前戯もなにもいらないというのか?
――いいのか?
――いいの……
――よし……
僕は君の望みの通りにすべく
君の綺麗に伸びた二つの足の間に手をそっと差し伸べた
君のひざが少し開き
僕の手を求めるところに容易に招き入れる
僕が触れると同時に
君がはっと息を呑む気配が感じられ
そしてそこは
僕を迎えるために
潤いをたたえていた
君の望みがすぐに叶えられることを確認した僕は
さっそく行動に移った
君の上に覆いかぶさって軽く唇をついばんでから
開いた彼女の足の間にゆっくりと体を沈めていった
――はぁぁ……
僕らが一つに繋がると同時に
君の満足げなため息が漏れる
美しい声だ
そこで僕は君の次の望みを尋ねた
――どんな風に動いたらいい?
するとまたもや意外な言葉が返ってきた
――動かないで……
――どうして? じっとしてても気持ちよくないだろう?
――ううん いいの…… こうしてるのが……いいの
うっとりとした顔で目を閉じた君はそう答えた
それからさらにこう言ったんだ
――あなたの体全部を私の体に預けて欲しいの
――え?重いぞ……
――いいの
――けどな……
いくらなんでもそんなことしたら君を潰してしまいそうで
僕はどうも気乗りがしなかった
すると君は訴えるように僕を見上げた
――だって今夜は私のわがままを聞いてくれるんでしょう?
確かにその通りだった
そこで僕は代替案を提案した
――わかった じゃあ逆にしよう
そう言うと僕は
君の返事を待たずに抱き寄せて
繋がったままくるりと体を半回転させた
君の体が僕の上に乗る
――ほら これならいいぞ
君はちょっと驚いたような顔つきになったけれど
――好きなように体を預けていいぞ
そう言うと すぐに嬉しそうに目を細めて
――うん……
と答え 僕の胸の上に体ごとその身を預けてきた
ゆっくりと君の体が近づいてくる
まずは君の胸の二つのいただきが僕の体に触れ
それから君の髪の毛の先端が僕の首筋をなぞる
くすぐったい……
さらに君の柔らかな双丘が
僕と君の間で押しつぶされていく
こうして僕ら二人の体はぴたりと密着した
華奢な君でもさすがにずしりと重く
僕はその重みに君の震える思いを感じとった
君の中に入っている僕の部分が
その思いに反応している
――強く……抱きしめて
そう告げる君の求めのとおり
僕は両腕で力いっぱい抱きしめた
少し息が苦しいくらいに強く……
――あぁ……
君が吐息のような
けれどいかにも嬉しげな声を上げた
――あなたと私……ぴったりくっついているのよね?
――ああ そうだ
――これ以上くっつけないくらいに……
――ああ 隙間もなくね
――ひとつに溶けてしまうくらいに?
――その通り……
僕の答えに満足したのか
君は頬を僕の胸に摺り寄せた
僕の胸に体をぴたりとくっつけたまま君はつぶやく
――あなたは私のそばにいてくれるのよね?
――当たり前だろ?
――消えてなくなったりもしないのよね?
――大丈夫だ
――絶対ね?
――絶対だ
――よかった…… 私とっても幸せよ……
――雪……?
君はそんなことを思っていたのか?
そんなこと心配していたのか?
それから君はしばらく何も言わずにただじっとしていた
僕の体にしがみついて
二人の体が少しでも離れることがないようにと
苦しいくらい必死に抱きしめ続けていた……
僕は
なんだかとても切ない気持ちになった
なんだか無性に君が愛おしかった
それからどれくらいそうしていたのか覚えていない
ずいぶん長い間そのままだったような気がする
やっと満足した君はゆっくりと体を起こした
――ありがとう
――もう いいのか?
――うん……あとは思いっきり
そこまで言ってから
君の顔がほんのりと朱に染まった
――私を愛して……
――わかった
それから僕らは
いつもの僕らに戻って愛し合った
満月の光の射し込む深夜の部屋に
僕らの激しい息遣いが響きはじめる
切ない声と歓喜の声を織り交ぜながら……
これからもまた
幾千夜が過ぎていくだろう
そして僕らの愛の営みも
同じ数だけ重ねられるだろう
けれど今夜の君のあの求めほどに
君の愛を感じることは
もう
ないかもしれない
Fin
愛……雪ちゃんの愛です。
二人が一つに溶けてしまうくらい隙間なくぴったりとひっついていたい…… 古代君ともう二度と離れ離れにならないように…… 古代君が一人で勝手にどこかに行かないように……
そんな雪ちゃんの思いです。
その思い、古代君も十分に受け止めてくれたことでしょう。
ていうか、私がそうしてみたかったりしてねぇ〜〜〜(爆)
あい(2004.9.29)
(背景:HEAVEN'S GARDEN)