061 お正月



  
 2200年の新しい年が間もなく明ける。
 今朝までオクトパス星団前で足止めされていたヤマトも、無事に海峡を発見通過し、気持ちよく新しい年を迎えることができることになった。

 さっそく生活班長の発案で、年末ギリギリではあったが、餅つき大会も行われた。ということで、少しばかりの正月気分に浸ることができたクルー達は、それなりに幸せな年の瀬を迎えていた。

 そして、餅つき大会も終わった大晦日の夜。第一艦橋では、古代進と森雪の二人が、当直を務めていた。
 互いに憎からず思っている二人のこと、本来ならば新しい年を二人きりで迎えられるのは、嬉しくてたまらないはず。互い密かに心の中でガッツポーズをしているはずなのだが……
 なぜか二人は微妙に気まずそうだ。どうも第一艦橋が不可思議な沈黙に包まれている。

 原因は、そう……今日の昼に行われた餅つき大会にあった。





 オクトパス星団を無事に通過することができたヤマトは、かねてから森生活班長が艦長に打診していた餅つき大会が許可され、久々のリクレーションに盛り上がっていた。

 ずっと宇宙嵐の中で暇と力を持ち余していた若きクルー達にとっては、またとない発散の機会となった。

 「よぉ〜〜し! まずは今回の一番の立役者、航海班のコンビでやってもらおうかな」

 年の功ということか、今回のイベントの音頭取り役を買って出た徳川機関長が、島と太田を指名した。

 「よし! 太田やろうぜ!!」

 島が張り切って太田を誘うと、太田も「おうっ!」と答え、二人は張り切って臼の前に立った。島が杵を持ち、合いの手を太田が担当することになった。
 二人は、「よいしょっ」という周りの掛け声にあわせて、見事に息の合った餅つきを見せ、拍手喝さいとともに、あっという間に一臼目がつき終わった。

 出来上がった餅は、女性軍が一つ一つ手で丸めていった。さすがヤマト、見事な連携プレイである。

 続いて、戦闘班飛行科からは名コンビ加藤と山本が登場した。これまた絶妙のタイミングで餅をつきあげていく。

 「ほいっ! いっちょあがりぃ〜!」

 という加藤の一言とともに二臼目がつきあがった。音頭取りの徳川もご機嫌顔だ。

 「ほほぉ〜 さすがにどの組も相性抜群じゃのう。さすがヤマトの名コンビたちじゃんわい。餅つきの杵つきと合いの手ちゅうのは、まあ言ってみれば夫婦みたいなもんじゃからな。息が合わない相手とすると、怪我させてしまうんじゃ。さすがじゃさすがじゃ」

 その解説を聞いて飛び出してきたのが、戦闘班長の古代進だった。

 「よしっ、南部っ! 今度は俺達が息の合ったところを見せてやろうぜ!」

 「おうっ!」

 進に呼ばれて、南部も勇んで登場した。そして、三度(みたび)餅つきが始まった。ここでも砲術を担当する二人のタイミングは抜群だった。

 その様子を、雪が羨ましそうに眺めていた。

 (みんなさすがにいいコンビねぇ。それに古代君と島君だって、きっと…… はじめはけんかなんかしてって思ったけど、いざっていう時は、あんなに二人で一生懸命…… ほんと、男同士っていいわねぇ)

 三臼目をつくのは古代進。まだ本人はもちろん誰にも告げてはいないが、雪が心密かに好きになった相手だ。
 相手の進も自分のことを憎からず思っているらしい。今は、きっといつか彼が好きだと告白してくれるのを夢見ている、恋する乙女なのだ。

 (彼と私でお餅つきしたら、うまくできるかしら? 私と彼の相性いいといいなぁ……)

 そんな気持ちで見ていると、自然と熱い視線を大好きな彼に向けてしまっている。もちろん、彼がちょっと鈍感君で、そんな雪の視線など全然気付きもしないことを承知の上だ。だから結構大胆になってしまう。

 すると周りはそれを感じてしまうわけだ。雪の視線に、徳川が気がついた。

 (ほぉ…… 森君は古代のことばっかり見とると思ったら、もしや、そういうことか? こりゃ、おもしろいかもしれんのぉ)

 徳川が進と南部に歩み寄った。

 「おい、ちょっと手を止めてみい」

 「なんですか?」

 進と南部が手を止めて顔を上げると、徳川はニンマリと笑って雪のほうを見た。

 「お〜い、森君ちょっとこっちに来てくれんか?」

 「はい?」

 「森君もちょっと餅つきやってみんか?」

 「えっ!?」

 「いっ!?」

 驚いたのは雪。そして同じく蛙をひっくり返したような変な声をだしたのは、進だった。そして南部は、二人の表情を探るようにめがねの奥をきらりと光らせた。

 「どうじゃな?」

 「そう……ですね。ちょっとやってみようかしら」

 雪が興味津々で、ちらりと進のほうを見たが、進のほうは押し黙ったまま目をぱちくりさせている。

 (えっ? 雪が餅つき? 誰と??)

 突然の徳川の申し出に、進が固まっているのとは反対に、南部は涼しい顔で事の成り行きを楽しんでいるようだった。

 「それじゃあ、雪さん、僕と代わりましょう。杵でつくのは女性には重労働ですからね」

 例のごとく?フェミンニン振りを発揮した南部が、雪との交代を申し出た。

 「じゃあ、古代君、よろしくね!」

 期待通りの展開に大喜びの雪は、飛びきりの笑顔を進に向けた。

 この笑顔が進のハートを直撃した。今、雪の機嫌はとても良かった。ヤマトの航路が開け、さらに自分の発案した餅つき大会も順調に進んでいる。その上、大好きな進と一緒に餅つきができるというのだ。
 雪としては、その嬉しい気持ちを表情一杯に表現したのだが、それがこれまた最高に美しい笑顔になった。

 ドッキ〜〜〜ン!!!

 進の心臓がこれ以上ないほどに大きく鼓動した。アドレナリン全開、血液が体中を駆け巡り、衝撃が進の中に走った。嬉しいような苦しいような体がしびれてくるような感じもした。

 一方、そうとは知らない雪は、何も答えてくれない進を、不安そうに見た。

 「古代君? どうかしたの?」

 「えっ? あ、ああ……こちらこそ、よろしく……」

 そこでやっと進は我にかえって頷いた。だが早打ちを始めた心臓は止まらないし、思考はほぼ停止状態、体も半分硬直したままだ。
 しかし、進がそこまで動揺していることなど知らない徳川は、二人が了解したことに満足して、餅つきの再開を宣言した。

 「よっしゃ、それじゃあ餅が冷めんうちに再開じゃ!!」

 「班長頑張れ!」

 「第一艦橋クルーの息の合ったところ見せてくれよ!」

 戦闘、生活それぞれの班員から声がかかる。こうなればもう後へは引けない。進は観念して餅つきを始めることにした。

 「よ、よし…… それじゃあ、行くぞ」

 「はい!」

 進が杵を振り下ろすのに合わせて「よいしょ!」と声がかかる。そして、振り上げると同時に雪は餅をまとめるために手を差し入れた。雪はタイミングよく同じ調子で、進が振り下ろす杵の合間をぬって作業をこなした。
 しばらく同じ仕草が何度も続いて、

 (うふふ…… 古代君とのコンビもなかなかいいかも〜〜)

 と雪が嬉しそうに微笑んだ。

 だが、実は進のほうは全くそうではなかった。南部と一緒についたときに比べて、格段にぎこちない。顔にはさっきまで見えなかった汗が光り始めているし、どうしても一定の調子を保てなくて、四苦八苦しているようだ。

 そしてある瞬間だった。雪が手を引くよりもわずかに早く進の杵が動き出してしまった。

 「雪さん、危ないっ!!」

 そばで見ていた南部の大きな声に、雪は臼に伸ばしていた手を慌てて引いた。その直後に進の下ろした杵が落ちてきたのだ。

 「きゃっ!!」

 「うわっ!」

 危機一髪、手を進の杵に押しつぶされるのから逃れた雪であった。

 「ご、ごめんっ!」

 慌てて杵を投げ捨てて謝る進に、雪は呼吸を整えると、笑顔を作って頷いた。

 「ううん、大丈夫よ、古代君。かすってもいないわ。こちらこそ、ごめんなさい、私、よく見てなくて……」

 「いや、俺の方が……ちょっと、その……」

 二人して恐縮しているところに、島がずかずかとやってきて、大声で訴えた。

 「ああ、もう見てらんねぇな! 古代、俺と代われ!!」

 「島……」

 進は情けない顔で島を見た。

 「大丈夫よ、島君、私なんでもなかったし……」

 懸命にフォローしようとする雪に、島は強い口調で首を振った。

 「ばか言え、もうちょっとで雪の手は今頃ぺしゃんこだったんだぞ。もう古代にはやらせられない。ほら、代われよ」

 「あ…… ああ……」

 半ば強引に、進が持っていた杵をつかんだ島だったが、もう限界だと自分でもわかっていたのだろう。進は素直に杵を島に渡した。

 雪はしばらく残念そうに進の後姿を見ていたが、徳川に促され気を取り直して、島とのコンビで餅をつき始めた。
 島と雪は、進の時とは打って変わって、とても小気味よい調子で餅つきをこなした。周りからは、やんやの喝采が起こる。こうして、三臼目の餅がつきあがった。

 その後は、特に問題もなく、五臼の餅がつきあがり、できあがった餅の試食会も行われた。そして大盛況のうちに餅つき大会は終了した。





 その晩、夕食時に皆が話すのは、もっぱら今日の餅つき大会の出来事だ。それが進や雪の耳にもちらちらと聞こえてくる。

 雪が耳にした生活班の女性達の会話の一部は……

 「ねぇ、今日の戦闘班長の古代さんと、うちの班長、なんかぎこちなかったわよね。特に古代さんよねえ。南部さんとのときはタイミング合わせて上手に杵を振り下ろしてたのに、森さんの時はすごくやりにくそうだったわ。やっと合間を縫ってやってるかなぁ、って思ったら、あれでしょう?」

 「そうそう、もうちょっとで班長の手をつぶしちゃうところだったわよねぇ〜〜」

 「あれってやっぱり息が合ってないとだめなんでしょ? けんかしてる二人がやるとうまくいかないんですって」

 「ええ!? それじゃあ、あの二人仲悪かったの?」

 「え? 逆にあの二人結構怪しいって話だと思ってたのにねぇ」

 「違うわよ、昨日の様子じゃ、怪しいのは島さんとのほうじゃないの? すごくいい雰囲気でお餅つきしてたじゃなぁい?」

 「そうそう! なんかこう、ピッタリきてたわよね〜」

 「そうよねぇ〜 班長の本命って島さんだったのねぇ」

 すっかり誤解されてしまった雪は、もちろんその誤解を解く術(すべ)も知らず呆然としてしまった。



 同じく進が耳にした戦闘班の奴らの会話の一部は……

 「昼間の餅つき大会は面白かったなぁ」

 「ああ、やっぱり各班、みんな相性ばっちりだよなぁ」

 「そりゃそうさ、そうでなくちゃ一緒に戦えないさ!」

 「だよな。うちの飛行科の連中もそうだったし、戦闘班長と南部さんもばっちりだったよな」

 「ああ! けど、意外だったのは古代さんと森さんだよな」

 「あ、そうそう…… 同じ第一艦橋勤務同士だし、あの雪さんとだから古代さん一層張り切っちまうかと思ったら、意外だったよな」

 「あの二人、もしかして実は犬猿の仲だったとか?」

 「え?そうなのか?古代さんは雪さんに惚れてるって聞いたことあったんだけどなぁ……」

 「どう考えたって、あんな調子じゃうまくいくわけねぇよ」

 「だな、ははは…… やっぱり本命は島さんのほうかなぁ」

 「うんうん、すっごくタイミングあってたよな。やっぱ雪さんのお相手って航海班長のほうだったのかなぁ」

 雪の笑顔に悩殺されて動揺しまくっていたとは、とても言えようもない進は、がっくりと肩を落とした。





 とまあ、こんな出来事のあった直後の二人きりの当直となったわけで、二人ともどうも口が重くなってしまっていたのだ。

 電光掲示板の時計の数字だけが刻々と過ぎていく第一艦橋。今のところ敵襲の恐れも全く感じない当直。
 いつもなら軽口の一つも叩いて、結構いい雰囲気にもなるのだが、今日ばかりは計器の作動する音と、ヤマトのエンジン音しか聞こえてこない。

 (彼がもう少しで私の手を叩いてしまいそうになったことは、別に怒ってもいないけど…… 始めた時からなんだかぎこちない感じだったし、そんなに私とやりにくかったのかしら? 島君となら、すごくスムーズにできたのに……
 古代君って私のこと、好きでいてくれると思ってたのに、それって私の勝手な思い過ごしだったのかしら。はぁ〜〜)

 恋する乙女は、今日の彼の行動にいつもの自信をすっかり失ってしおれていた。

 (ああ…… 雪、すごく暗い顔してる。きっと俺と二人きりになるのが嫌で仕方がないんだろうなぁ。はぁ〜
 俺、なんてことしちまったんだろう。でもなぁ……彼女が出てきたとたん、こう落ち着かなくなって…… 特にあの笑顔が……いけないんだ。
 戦闘中とかだとそんなこと全然気にしてないのに、俺ってどうしてプライベートになると、あんなにだめなのかなぁ。
 その上島の奴ときたら、横からかっさらうように彼女とうまくやりやがるし……
 それともやっぱり、あいつらが言ってたみたいに、俺と雪とは合わなくて、島と彼女が相性抜群なんだろうか。はぁぁぁ〜〜〜)

 後ろにいる雪のほうを、振り向くこともできない進であった。

 時は刻々と進んでいく。午後11時30分を過ぎ、まもなく新しい年が始まる。
 進は時計を見て、再びため息をついた。当直の最初に今晩はよろしくと挨拶して以来、ずっと二人の間に会話はない。

 (くそっ…… でもなぁ、このまま新しい年を迎えるのだけは嫌だ。せめて今日のことだけでも謝っておかないと。でないと、新年の挨拶もできやしない……)

 (古代君ったら、今日は一言もしゃべってくれない。あ〜あ、せっかく二人きりで新年を迎えられるって思ったのに、これじゃあ息苦しくってどうにかなっちゃいそう。
 古代君ったら、本当に私とはもう合わないって思ったのかしら? それとも、私のこと好きじゃなくなったのかなぁ……
 ううん、たった1回のことでそんなこと! だめよ、雪。私今日のことなんて、気にしていないって言わなくっちゃ!)

 「あ、あの……」 「あの、古代君……」

 振り返った進と顔を上げた雪が、同時に声をかけてしまう。実はとっても相性がいい?

 「あっ…… 古代君のほうからどうぞ」

 「いや、君の方から……」

 「…………」

 そしてまたまた互いに譲り合って、再び沈黙が訪れた。が、今度は進が思い切って口を開いた。

 「あの……今日のことだけど…… 本当にすまなかった。もうちょっとで君の手を…… 俺、とんでもないことするところだった。本当にごめんっ!!」

 必死で訴えて、ペコリと頭を下げる。

 「いいのよ、そんなこと…… 私もすぐに気付かなかったのが悪かったの。たまたま運が悪かっただけよ、そうでしょ?」

 優しい雪のフォローの言葉が、進には嬉しい。だから一生懸命言い訳した。

 「いや…… 俺、なんていうか、その…… 君と餅つきするってだけで、すごく緊張しちまって、それで、その…… なんていうか、ドキドキしてしまって…… いや、戦闘中はそんなことないんだぜ。けど、なんか昨日みたいに普通の時はなんていうか、その……」

 懸命に言い訳したが、結局うまく説明できない。もちろん、君が好きで君の笑顔に悩殺されました、と言えれば話は早いのであるが、古代進18歳、口が裂けてもそんなことは言えそうになかった。

 そんなしどろもどろの進の言葉を聞いて、雪は少し気持ちが軽くなった。

 (よかった。少なくとも古代君は私のこと嫌ってるわけじゃないのよね? ドキドキしたってことは、私のことを意識してしまったってこと? それって、私のことが気になるってこと? 私のこと、好きってことなの? ねぇ、古代君?)

 と心の中で思っても、同じく森雪18歳、まだまだかわゆい恋する乙女は、それを直接問いただす勇気はなかった。

 「いいの、古代君…… でも私達相性が悪いわけじゃないわよね?」

 なんとかそれだけは死守しようと訴えると、

 「あ、ああっ!!もちろん!! それは違う」

 進も必死になって力を込めて答えを返した。さらに、

 「俺は…… あ……あの……」

 そこで言葉が詰まってしまった。再び二人の間に沈黙が訪れる。しかしその沈黙はさっきまでのそれとは違い、とてもいい雰囲気の沈黙だった。雪は、進の次の一言を固唾をのんで待っている。

 進には、なんとなく雪が自分の告白を待っているかのように思えてきた(もちろん実際そうなのだが……)

 時はまもなく午前0時を迎えようとしている。新しい年、2200年がまもなくやってくるのだ。

 (雪は俺の言葉を待っている?? そうだ、この際、新年を迎えるのを機会に告白してしまおうか……)

 さっきまでの気まずい雰囲気が逆の効果を及ぼして、進の心が一気に動き始めた。彼女に抱き続ける思いを、この機会に吐露してしまおうという衝動に駆られていく。

 「俺は……君が……」

 雪の瞳が期待で大きく見開かれた。

 カウントダウンが始まる。新しい年まで、あと10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1……

 「俺は君のことが……」
















 「あっけまして〜〜
  おめでとう〜〜〜〜〜!!!」



 「うわっ!?」 「きゃっ!」

 慌ててドアの方を振り返った二人の目の前には、第一艦橋の仲間達、島、南部、太田、相原がニコニコ顔で立っていた。

 「お前ら……?」

 「みんな……」

 いきなりの登場に、二人は今何をしようとしていたのかも忘れて入ってきた四人を見た。

 「いやぁ〜 今日の餅つき大会のことがあったから、二人で気まずくなって、くらぁい正月迎えたらかわいそうだと思ってなぁ」

 島がニヤリと笑った。

 「そうそう、雪さん、気にしないでくださいねぇ。古代の奴、雪さんがあんまりかわいかったから、動揺しただけなんですからねぇ」

 南部がおかしそうに笑いながら雪にウインクすると、進は慌てだした。

 「な、なんぶぅ〜!!」

 「あれ?違った??」

 意地悪そうにニヤニヤする南部に、今まさに告白しようとしていたはずの進は、全く反対のことを口にしてしまう。

 「ベ、別に俺は雪だからってわけじゃあ……」

 「あれぇ、そうだったっけなぁ?」

 太田も一緒になって突っ込むと、相原もニコニコ笑っている。

 「そうそう、古代は女性には免疫ないからなぁ。女の子と一緒に餅つきするってだけで緊張しちまったんだよな?」

 と、島が駄目押しをすると、進は返す言葉を失った。

 「うっ……」

 それまで黙って聞いていた雪が、少し気の抜けたような声で話し出した。

 「あら……そ、そうだったの。私……だけじゃなかったのね。他の人でも……緊張、しちゃうんだ、古代君は?」

 少々落胆気味にではあったが、雪は努めて明るく話そうとした。

 「ま、そ、それは……その…… そうなんだよ! あはは、どうも慣れなくて、あはは……」

 さっきまでの雰囲気で雪と二人きりなら、『そんなことはない、君だけだ!』ぐらいなことも言えそうな進だが、ニヤニヤ顔の四人組の前ではとてもそんなセリフは吐けそうもなかった。

 「そう、そうだったの…… うふふ、かわいいのね、古代君って」

 半分自棄だ。雪は少し余裕を見せて微笑んだ。

 「わっははは…… かわいいんだって、こっだいく〜〜ん! よかったなぁ、雪に嫌われなくってさぁ」

 島が高笑いすると、南部も元気な大声を出した。

 「よかったよかった! さぁ、みんなでもう一度新年の挨拶しようぜ!」

 「おうっ!!」

 ここからは若者達のパワー全開だ。進も雪もさっきまでのことは横において皆と笑顔で盛り上がることにした。

 「明けましておめでとうございます!! 今年もよろしくお願いします!!」

 「絶対にイスカンダルへ行って帰ってこようぜ!」

 「そうだ! 来年は地球で新年を祝うんだ!!」

 「おうっ!!!」

 その晩、若者達は新しい年の新たな抱負を夜遅くまで語り合った。





 ヤマト艦内でも2200年の新年が明けた。しかし、古代進の新年の大告白は、仲間達の温かいお節介のおかげで露と消えてしまった。

 雪が彼の愛の告白が聞けるのは、まだまだ先のことになりそうだ。そしてこの2200年の新年の出来事が、実はこれからの古代進の恋の前途を大いに暗示しているのであった。

 そう……



  
友人の温かいお節介には要注意!!


 

おしまい


明けましておめでとうございます!

 ヤマト艦内のお正月風景。オクトパス星団を通過して、ちょっとばかし気が楽になったクルー達の明るい笑い声が聞こえいたでしょうね。

 今回告白し損ねた古代君。このお邪魔虫君たちは、これからも影に日向に二人の応援?をし続けてくれることでしょう。よかったね! 古代君!!(爆)
あい(2004.1.2)

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(背景:Holy-Another Orion)