097 I Love You





冬の寒い日

その朝はとうとうやってきた

あなたがあいつのもとへと嫁ぐ朝

美しい花嫁衣裳に身を包んだあなたは

輝くばかりに美しく

僕の心は激しく揺れ動いた


とうとう……とうとう……

行ってしまうんだと……

出るはずのない涙が

僕の頬を伝ったような気がした

この日のことは

とうの昔に

覚悟してたはずなのに



思えば長い年月だった

初めてあなたと出会ったのは

もう5年以上も前のこと

医務室にいた僕に

先生は紹介してくれた

「今日からわしの手伝いをしてくれる看護師じゃ

新米だからよろしく頼むよ」

そして先生の隣にあなたは笑顔で立っていた

「よろしくね!」

綺麗な声でそう言ったあなたは

輝くばかりの笑顔を僕に向けてくれたんだ

その時から……

僕はあなたを愛していたに違いない

あなたは

僕の心に「愛」という字をインプットしてくれた



それからの一日一日は

僕にとって何ものにも代えがたいものになった

照れ屋の僕は

あなたへの気持ちを素直に表現できなくて

まるでいたずらっ子のガキどものように

あなたを怒らせてばかりいた


でも

怒るあなたに追いかけられるのも

最高に楽しかった


イスカンダルへの旅に立つと先生が宣言した時

あなたもはっきりと言ったんだ

「私も志願します!」

驚く先生の隣で

僕も誓った

どんなことをしてもヤマトに乗るぞ……と



ヤマトに何とかもぐりこめて

僕はとても嬉しかった

けれどその時

それが僕にとっては辛い時の始まりになるとは

思いもしなかった


僕よりもずっとずっと嫌っていると

そう信じていたあいつに

あなたが惹かれていると気付いたのは

いつのことだっただろうか


あいつがあなたに惚れているのは

あいつと出会ったその日から知ってたけれど

あなたまであんな奴に惚れてしまうなんて……

あいつより

僕のほうがずっとずっと

早くあなたに出会っていたのに……


だからあの時

僕は焦っていたのかもしれない

あいつらに

僕の気持ちをばかにされたせいもあるけれど

あんな時、あんなところでプロポーズをするなんて

自分でも驚いた

そしてその時のあなたの受け答えに

僕はさらに落ち込んでしまった


それでも僕は

あなたを愛する気持ちだけは抑えらなかった

見知らぬ星であなたと二人捕らわれの身になったとき

僕はあなたを守り抜こうと思った

この命を懸けて


なぜなら……

愛する女性を守って死ねるのなら

それが男の本望だと

僕は心から思っているから

あなたのために

僕は死んでも悔いはない

それは今も変わらぬ深い思い


けれどあなたは

助けに来たあいつに

一目散に駆け寄った

その時僕は

はっきりと僕の失恋を認めざるをえなかった

ただ……

「人間なのよね、あなたの心は……」

「あなたの気持ちは嬉しいわ、でも……」

あの星で、そしてヤマトに戻ってからの

あなたの気遣いの言葉が

ほんの少しだけ僕の慰めになったけれど



それから……

僕はじっと見守ることにした

何も望まず何も恨まず

あなたの想いとあいつの戦いを


あいつは本当に立派な男で

男の僕も惚れてしまうほど

男気のある奴だった

何度も地球を救った英雄だった


けれど……

あなたはずっと

走り続けるあいつの背中を

ひたすら追いかけ見つめ続けていた

結婚の約束も

ずっと先に延ばされて

それでもあなたは文句ひとつ言わず

ただいつも微笑みをあいつに送り続けていた


だけど僕は知っている

あなたが時々人目につかないように

そっと……泣いていたことを

あいつが泣かせたに違いない

あいつを想うあなたの愛が

あなたを……泣かせたんだ


僕は……

あなたを泣かせる奴は

大嫌いだ!


だから

何度僕は言おうとしただろうか

あんなやつなんか見限ってしまえって……

宇宙愛だの宇宙の平和だの

四の五の言ってる奴よりも

僕の方が

ずっとずっとあなたを愛しているって……


でも……

あなたにはきっと

そんな僕の言葉など聞こえはしなかっただろう

僕が人間じゃないからとか

ロボットだとか

そういうことではなくて

あなたはずっとあいつを追い続けていたから

それでもあなたは

あいつを愛し続けていたから


そして

あいつもやっぱり本当は

あなたをずっと求め続けていたんだと……

地球のために自らの身を投じながらも

あいつの瞳の最後の最後にある先には

やっぱりあなたがいたんだと……

気がついたのはほんの最近だったかもしれない


あいつとあなたは

二人でひとつ

ひとつの体の片割れ同士

それに気付いて僕は

もう一度徹底的に失恋をした



そして今日

この日をずっと待ち続けていたあなたが



幸せな花嫁となる

あいつを見つめるあなたの瞳は

輝き、そして涙で潤む

あなたを見つめるあいつの瞳も

限りなく優しくて……

そっと手を出したあいつの手を

あなたは嬉しそうに握った


羨ましいほど似合いの二人

やっとたどり着いた幸せのスタートライン

今日は素直にこう言おう

おめでとう!


あなたの幸せが

僕にとっての幸せだから

今だけは……僕の胸の痛みを忘れよう

あなたの極上の笑顔を見られるのなら

僕はどんな地獄に落ちてもいい

例えあなたがあいつのものになろうとも

僕の気持ちは永遠に変わらない

僕のたった一人の愛するあなた

これからもずっと

あなたのそばで見つめていたい

ずっとずっと……


だから今

おめでとうの言葉と一緒に

僕の心の中だけで

あなたにこの言葉を送ろう







 I Love You......forever......













それからの年月も

僕はずっとずっとあなたのそばにいるという

決意をしっかり実行した


あいつはいつも宇宙(そら)を飛んでいる

僕はいつでもあなたに会えるから

きっと会ってる日数は

あいつに勝っているはずだ

なんて

変なところで優越感に浸ってたりして……



結婚式から1年が経ち

あいつとあなたの間には

もうすぐ赤ちゃんが生まれる

あなたは大きなお腹を愛しそうにさすりながら

僕に向かって微笑んだ

「とっても楽しみなのよ」

あなたは幸せなんですね?


僕はそんなあなたのそばに

もっともっといたかった

あなたの幸せをもっと近くで見つめていたかった

だから僕は真田さんにある頼みごとをした







ボクハモウ 分析ロボットデ イルノハ 飽キマシタ

新境地ヲ 開キタイト 思イマス

ソコデ僕ヲ

育児ロボットニ 改造シテクダサイ!!!!







それを聞いた真田さんが

涙を流して笑い転げてしまったのは

どうしてなんだろう?

僕は真面目に頼んだはずなのに……







結局僕は

今も分析ロボットを続けている

あなたへの想いを心に秘めたまま……

 

Fin


なんとなく哀愁を秘めたポエムは、ヤマトの名物男?例の彼……アナライザーのひとりごとでした。
これを書きたくなったのは、たぶん先日見たDVD『AI』の影響だと思います。ご覧になった方はご存知だと思いますが、最新AIを装備した子供のロボットが預けられた先の母親に愛されたくて愛されたくて、長い長い旅をするちょっと悲しくて切ないお話でした。

この主人公の愛情は、その母親を愛するようにインプットされた結果でしたが、アナライザーの場合は、自分の意志で雪ちゃんに恋をしたんですよね。
そういう点で、アナライザーは外見は100%ロボットでしたが、心は雪ちゃんが言ったとおり、人間なんだと思います。

でも、ロボットだったからこそ、彼の愛は何の曇りもなく永遠にまっすぐで、それは例え雪が結婚してしまおうとも、永遠に変わらないものでした。
純粋すぎるほどの想い。心変わりを知らないまっすぐな気持ち。それは人間らしいアナライザーの、実はロボットらしい想いだったかもしれません。

ちなみに、本編ではPART1で切ない思いを吐露したアナライザー君でしたが、その後の作品では、お笑いに徹してしまって、雪ちゃんへの気持ちはどうなったの?ってところがありましたが、私としては、この作品のようにずっとずっとひたすら愛し続けていた……と思いたいです。
あい(2004.5.17)

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