017 生きる
みーこさん作
今晩は満月・・・・
すっかり秋らしくなったそんな日の夜、お風呂から上がって髪を乾かした私はホット・レモンの入ったマグカップを手に、バルコニーへ出た。
夜空は澄み切って雲ひとつない。都会の夜空だから星の数はそんなに見えないけれど、お月様だけはきれいに見える。
普段はお月様なんて、あまり気にも留めない私だけど、この時期だけは特別・・・。
こうしていると思い出すのは、地球を守るために白色彗星との戦いで散っていった加藤君を始めとするコスモタイガー隊のみんなの事・・・・。
謀反を起こして飛び立ったヤマトに月面基地から、それを承知で合流してくれた。
それがどんなに嬉しかったか・・・、そして彼らがどんなに頼もしく感じたか・・・。
今でも秋の夜の満月を見ると、彼らがそこにいるような気がする。
「雪、古代は絶対に俺が無事に帰してやるから!」
いつの頃からだろう、あなたは私にそう言ってくれるようになった。
敵の攻撃が始まると、脇目も振らずに格納庫へと走って行き、コスモ・ゼロで飛び出すあの人を私は何度不安な気持ちで見送っただろう・・・。
本当は言いたかった。
― 行かないで ―
でも、言えるはずもなく、私はただあの人の無事を祈るだけだった。
そんな私の気持ちを見透かしたように、あなたは言ってくれた。
― 絶対に俺が無事に帰してやる ―
本当にその言葉通り、あの人はいつも無事に帰ってきた。
「まったく、余り無茶すんなよ、古代。雪が心配するぞ。」
食堂で、医務室で事あるごとにあなたにそう言われたあの人は、
バツが悪そうに、少し頬を染めて苦笑いをしていた。
そのうちに私は飛び出していくあの人の背中を、冷静な気持ちで見守れるようになった。
そして・・・・
あの日の前夜・・・・。
地球艦隊はことごとく叩きのめされ、地球のみんなが生きる事を諦めかけている時。
とめどなく押し寄せる不安を抱えて、私は一人で展望室に立っていた。
― 今度、飛び出していったら、あの人はもう帰って来ないかもしれない・・・・ ―
どんなに否定してみても、私の中に広がる不安は大きくなるばかりだった。
「よう、雪。どうしたんだ?そんな顔して。」
「加藤君・・・。」
いつもは格納庫で仲間たちと過ごすことの多いあなたが珍しく展望室にその姿を現した。
こんな非常時でも、その表情は普段と全く変わらない。
「心配なんだろ?古代の事。無理もないか、アイツは無茶するからなあ。」
「・・・ん・・・。」
私の心の中を読んだように、そう言うとあなたはいつものように言った。
「例え敵の懐に飛び込むことになっても、古代は絶対に俺が帰してやる・・・!」
それが私の聞いた、あなたの最後の言葉になるなんて・・・・。
あなたの言葉通り、あの人は帰ってきた。
でも・・・・・
加藤君・・・あなたは・・・あなたは帰って来なかった・・・。
私たちが見たものは、あなたの亡骸だけだった。
もう、魂が抜けてしまったあなたの姿・・・。
痛かったでしょう・・・・?苦しかったでしょう・・・・?
だけど、あなたの表情は眠っているように穏やかだった・・・。
その顔に微笑みさえも残して・・・・。
約束通り、私にヤマトにあの人を帰してくれた。
でも・・・加藤君、あなたはその使命を全うしたように逝ってしまった。
「雪・・・・、そんな格好で外にいると冷えるぞ・・・。」
お風呂から上がった進さんが薄手のカーディガンを掛けてくれる。
「ありがとう・・・。」
「また、月を見ていたのか?」
「ええ・・・。」
「まったく・・・、あいつら一人残らず、逝っちまいやがって・・・。」
そっと私の肩を抱いた進さんは、目を細めながら言った。
私は生きている温もりが欲しくなって、進さんの首に両腕を回した。
― 生きている、生きている、生きている・・・・!―
「抱いて・・・進さん、もっと強く・・・・!」
「雪・・・・。」
ぎゅっと背中に強く回された腕、頬にかかる吐息、シャツの上から伝わる心臓の音・・・。
どれをとっても私たちが今、生きている証・・・。
あの戦いで加藤君たちに貰った生命<いのち>。
「生きていこう、雪・・・。あいつらの分までこれからも・・・。」
私は生きる。
加藤君たちの分まで、進さんと共に。
そして、私の中に宿った小さな生命<いのち>と共に・・・・。
今年は終戦60周年でテレビの中ででも、いろんな話題が提供されていますが、特攻隊のお話は涙なくて聞くことが出来ません。
ヤマトの中で特攻隊と言えば、「さらば」と「パート2」のCT隊。
若い命を地球のために散らした、加藤君を思い出す雪ちゃんの「生きる」ことへの意欲を書いてみました・・・。
by みーこさん(2005.7.3)
(背景:Holy-Another Orion)