018 ありがとう
由紀子さん作
今日の私は少し落ち込んでいた。
部下の泉の仕事上のミスに、つい、きつい口調で責めて泣かせてしまったのだ。
ちょっと言い過ぎたかな・・・・。でも・・・
なんて思っているうちに、玄関が開いて
「ただいま」
古代君が帰ってきた。

「おかえりなさい」
ちょっと暗い顔をしている私に、ん?という顔をして
「どうかしたのか?」って聴いてきた。
!、いけない!明日は休みなんだし、もう考えるのは止めよう!
慌てて笑顔で
「ううん、なんでもないわ。さ!着替えてきて。ご飯にしましょ♪」

何となく釈然としないなって感じで、古代君は着替えに行った。
本当は私もスッキリした気分になれてなかった。
今日は、恥じらいも何もかも捨てて思いっきり古代君に抱かれて、忘れちゃおうかな・・・。
泉さんには、休み明けにフォローすればいいんんだし・・・。


その夜、私はいつもより、積極的だった。
彼の手を自分の一番感じるところに持っていったり、体中で彼を求めて、サービスもした。
彼も、私の心中を察するように熱く激しく応じてくれた。
(古代君・・・・!!)
二人で至福の時を迎え、しばらくそのまま抱き合っていた。

古代君の腕の中で見るでもなく、部屋を眺めていたら急に海が見たくなってきた。
落ち込んだときに海を見ると、その広さに圧倒されて、自分の憂いなんて本当にちっぽけなものに思えてくる。
「ねえ、古代君。今から海にドライブに行かない?」
え?今から?って驚いた顔で私を見たけど、すぐに、(ああっ)って顔をして
「いいけど、お礼は高くつくぜ」なんてニヤッとしてOKしてくれた。
わざと明るくしてくれるのね。


海岸沿いに車を止めて
月明かりの下、二人で砂浜を歩いて海へ向かった。
シーズンオフの初冬の海はコートを着ていても少し寒いけど、冷たい風と潮騒が心地良く感じられた。
心地良いけど、寒さに体がブルッ震えると、古代君は私を後ろから抱きしめてコートの中に入れてくれた。

・・・・暖かい・・・
古代君の体のぬくもりと匂いが、包んでくれたコートの中にこもって、さっき、お互いに求め合ったばかりなのに、服の上からでも、私の全てを包んでくれるようで、とても幸せな気持ちになった。

(古代君、大好き)
私は彼のコートの中で向きを変え、顔を上げて、瞳を閉じた。彼の唇が私の唇に温かく触れる。
(このまま、あなたの体の中に入ってしまいたいくらい大好きよ。)

暫くそうして抱き合ったまま、瞳を閉じていると、
「ほら、明るくなってきたよ」といって、海を見るように促した。
そこには、ピンクやパープルやブルーのパステルカラーの海が広がっていた。
朝もやの白と、パステルカラーが重なって、とても神秘的で「キレイ」という言葉が思わず口に出た。

「夜明けの海ってキレイだよな」
コクリとうなずいて、二人でしばらく海をみていた。
私の気分もいつのまにか晴れていた。
泉さんには休み明けに「言い過ぎてごめんね」って謝ろう。スッキリした気分でそう思っていた。

「気分は晴れたかい?」
「ええ、ありがとう。古代君」
「さ、じゃあ帰って少し眠ろうか。お礼にもう一回してから、ってのもいいけどな?」
ふざけた口調でいう古代君に、ふふっ、と笑って答えた。

彼は私の肩を抱いて、もと来た道を戻り始めた。
何も聴かなくても私の気持ちをわかってくれて、本当にありがとう、古代君。大好きよ。
パステルカラーに広がる水平線。
砂浜には、二人の足跡が残されていた。

終わり


仕事場のちょっとした事で落ちこむ雪を、さりげなく励ます古代君。今日は雪が古代君にありがとう……でした。
いつかまた古代君からのありがとう、もあるのでしょうね。
あい(2003.11.26)

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(背景:Pearl Box)