020 告白
赤のオーロラさん作
私が最期にみたのは,あの人の涙に潤んだ瞳だった。
軍人としていくたびもの死を見てきたけれど,それがわが身に迫ってみると,ただただ思うのは,あの人のことばかり。
あの人の姿が見れなくなってしまう
あの人の声が聞こえなくなってしまう
そう思うと,死に臨む私の心は張り裂けそうだったけど,せめてあの人が心置きなく戦うために,精一杯の微笑みを返すことしかできなかった。
どのぐらいの時間がたったのだろう。
ふと気づくとヤマトの艦内にいた。
激しい戦いのなかで次々と倒れる仲間と見て,はやく医務室に運ばなくてはと思った時,私は残酷な事実に気づく。
ああ,心はこんなにもあるのに。私の体はもう動かず,誰にも触れることはできない。そう,あの人を抱きしめることもかなわない。
悲しみの中,私は自分が何かにふんわりと包まれるのを感じた。暖かい,血の通った腕,大きな胸,かすかな汗の匂い。冷たくなった私の体を,あの人がやさしく抱きしめてくれていた。
古代君…。声が出ないことをこんなに悔やんだことはなかった。
あの人は艦長席の隣にそっと私を座らせると,かつて私が大好きだったあの声でそっと囁きはじめた。
やっと2人っきりになれたね…。
それからあの人は,ゆっくりと,落ち着いた声で,私があんなにも欲しかった告白を贈ってくれた。まるで私が生きてそれを聞いているかのように。
一言一言が冷え切った私の体を温めてくれるよう。
神さまがいらっしゃるなら,どうか私の願いを叶えてください。
あの人の,この思いを込めた告白を,どうか悲しいモノローグにしないでください。
私がどんなに嬉しい気持ちでこの告白を受けとめているか,あの人に伝える術をお与えください。そして,どうかあの人をたった1人でいかせないでください。
神さま,どうかお願いします。
長い告白を終え,古代は超巨大戦艦に向けてヤマトを発進させた。傍らの雪を見ると,その告白が生命を吹き込んだかのように,ゆっくりを目を見開き,彼に向かって微笑む妻がそこにいた。
2人は今,永遠の旅に旅立っていった。
おわり
さらばのラストシーン。もう涙無しには語れません。
雪がラストシーンでいき返ったように描写されているところからヒントを得てつくってみました。あれだけの告白,独白にするには悲し過ぎます。きっと雪ちゃんに届いていると願いつつ…
by 赤のオーロラさん(2003.12.18)
(背景:Holy Another-Orion)