025 帰りたい……
艦長室のドアを開けて中に入る・・・・。
俺はこの一瞬が一番嫌いだ。
特に地球を旅立って初めて独りになる時のこの一瞬が。
2日目、3日目・・・・・と、だんだん日数を追うごとに気持ちは楽になってくる。
艦橋でみんなと一緒にいる時は、こんな気持ちにはならないのに。
だけど、一日中艦橋にいるわけにはいかない。
<休んでください、艦長。>と、部下に追われるようにして艦長室に戻る。
今日もそうやって艦長室<ここ>に戻ってきた。
今回、一緒の任務に就いた親友のアイツが操縦席から俺を振り返って、苦笑いを浮かべた。
アイツにはバレているんだ。
俺がどうして特に航海初日に独りになるのを嫌がるのかを。
艦長室のドアを開けて中に入る。
部屋の窓からは星の海が広がる。
どんなに目を凝らしても広がるのは星の海と、愛しい君の顔・・・・・・。
艦長服を脱ぎもせずにゴロンとベッドに横になる俺。
今回の航海は出航前にトラブルがあったおかげで、結構疲れているはずなのに
目を閉じても全く眠気がやって来ない。
地球で、君の側にいる時は、
あんなに心地いい眠気がやって来るのに・・・。
俺がココに戻るのが、独りになるのが嫌な理由は
ココに戻ると独りきりだと言う事を、嫌でも実感するから。
・・・・・・・君がいないと言う事を、思い知らされるから・・・・だ。
つい24時間前は、君をこの腕に抱いて、
君の体温を感じて、君の息遣いを感じて、
君のその柔らかい体をこの腕に感じていたのに。
24時間後の今、俺の体に触れるのは無機質な堅いベッドの感触だけ。
それがこんなに物足りないなんて、君を知る前の俺には想像も付かなかった。
普段、俺のことを<鬼の古代>なんて呼んでいるヤツら、こんな俺の本性を知ったら
さぞかし驚くだろう、大笑いするかも知れない。
だけど、これが本当の俺なんだ。
元ヤマトの戦闘班長でも艦長代理でもない、地球防衛軍の期待を一身に背負っていると世間が褒め称えてくれる俺でもない。
ただひとりの女性が、愛する人が・・・雪が・・・
側にいないというだけで、夜も眠れないくらいに俺は弱い人間なんだよ・・・。
そんなに彼女の側にいたいなら地上勤務を申し出ればいい、
訓練学校の教官だって常に人材不足じゃないか・・・・
って、きっと他のヤツらは言うんだろうな。
俺だって考えたさ。
それでも・・・・
ずっと君の側にいたいと思う気持ちとは裏腹に地上にいると
今度は星の海が恋しくなる・・・。
わかっているさ、俺が自分勝手だっていうことくらい・・・・・・・・・。
そんな俺だから、雪・・・、
君じゃなきゃダメなんだ。
こんな俺を笑顔で見送って、笑顔で迎えてくれるのは
雪・・・・、君だけだ・・・。
こんなに大好きな広い宇宙空間で、無数の星に抱かれていても
今夜の俺はこんなにも君が恋しい・・・。
わずか24時間前、君をこの腕に抱いて
わずか12時間前、君の笑顔に見送られたばかりなのに。
そして、こんな時に思い知らされる、俺は君を愛していると言いながら
本当のところは君に愛してもらっている・・・ということに。
帰りたいよ、雪・・・・。
そんな君のところへ・・・
帰りたい・・・・。
いつも航海に出てしまうと、雪ちゃんへ連絡もしなくなる古代君。
そんな古代君の本心はどうなのだろう?と思っているうちに古代君の隠された本音を書いてみたくなりました(^^)v
なんだかんだ言っても、雪ちゃんが恋しい古代君です。
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