029 My Sweet Home
iいずみさん作
 「ただいま、雪。俺の留守中困った事無かったか?」

 「え〜っと。そうねえ、まず寝室の電球取り替えて欲しいの。それから網戸が汚れちゃった上に開け閉めが重いのよ、戸車のせいかしらね。それに何だかエアコンの効きも悪くって。」

 電球に、網戸に、エアコンのフィルターか・・・。

 「それから、この暑さのせいかベランダの植木が元気無くって。」

 植木に肥料っと。

 「あと、この頃訪問販売の人が多くて困ってるの。新聞屋さんとか刃物磨ぎ屋さんとか。」

 新聞は変えられると困るな、読み慣れてるのが一番。それから包丁磨ぎは俺のストレス解消だから磨ぎ屋なんかには渡さんぞ。

 「それに何だかお部屋がくすんでるみたいなの、お風呂とトイレも。」

 全館に掃除が必要っと。


 「それから・・・」

 ん?


 「わたしを甘やかしてくれる人がいないの・・・」

 そうか、それが云いたかったのか雪。

 古代は靴を脱ぐと雪をそっと抱き寄せて口付けをした。3週間と4日ぶりに。
 雪の甘い温かい身体を腕の中に抱きしめながら古代は考える。

 『まず、電球替えて、エアコンのフィルター掃除。もう夜も遅いし今日はここまで。夜は長いんだし、あとは・・・』

 「ねえ、古代くん。」

 妖しい妄想に傾きかけた古代の腕の中で雪が甘く囁く。

 「・・・替えの電球、ストックが無いの。」

 「・・・了解。」

 地球に帰還したばかりの古代進、真夜中に電球を買いに走るのでありました。




 「これでしばらくは帰ってこないわね〜。」

 雪はキッチンでコップに水を汲むと1口飲んでほーっと溜息をついた。

 「あ〜あ、なんでこんな時に寝ちゃったのかなぁ。」

 実は今日、雪は古代のためにささやかなサプライズプレゼントを用意してあった。それにはちょっとばかり準備が必要だったのだが、何もしないうちに前日までの激務がたたってすっかりソファで寝入ってしまった。そこに彼のご帰還!!というわけで、雪は彼を何とか言いくるめて買い物に出し、時間を稼いでいるところなのである。

 「う〜ん、どうしようかな、今更手の込んだことは出来ないし・・・。あっ、これなんか良いかも。」

 何を思ったのか雪はペンとメモ用紙を取り出し、ダイニングテーブルの上で何か書き始めたのであった。嬉しそうに何やら鼻歌を歌いながら。




 「帰ったぞ、雪。」

 電球を片手に帰還した古代が見たものは、真っ暗な室内。さっきまでは煌々と点いていた明かりが全て消され、ただ1つ玄関のライトが点いているのみ。

 「どうしたんだ雪。寝ちゃったのか〜?」

 一気にしょぼんの古代だったが、ライトのスイッチの下に紙が張ってあるのに気が付いた。
 そこにはこうあった。

 <お帰りなさい。電球をもって洗面所へ行ってね。雪より>

 何が何だかわからず、取りあえず古代は洗面所へ向かった。
そこで見たものは・・・やっぱり鏡に張ってあるメモ用紙。
次はこうだった。

 <うがいをして手と顔を洗ったら、電球を持ってリビングに来てね>

 『なんだぁ、こんな夜中に。新手のゲームかなぁ。』

 指示されるままに今度はリビングへ。明かりをつけると古代を待っていたのは笑顔の雪、ではなくてダイニングテーブルの上のティーカップ。暖かいレモンティのカップを手に取ると、そこにもまたメモ用紙。

 <お疲れ様。ゆっくり紅茶を味わったらソファのテーブルの上に電球を置いてね>

 『はいはい、わかりましたよ、御姫様。』

 ゆっくり暖かい紅茶を味わいながら古代は思う。

 『さっきは、掃除して欲しいとか云ってたけど、洗面所もリビングも綺麗になってるよなぁ。部屋の中の植木鉢も元気そうだし。何か体よく追い払われたみたいだけど。う〜ん・・・』

 考えているうちにカップが空になったので、それをキッチンで洗ってから次の指令を実行に移す。
そして想像していた通り、其処にもメモ用紙。

 <上着を脱いでソファの上に置いたら、出来るだけ静かに寝室に来てね>

 ここまで来ると惰性である。古代は上着をソファに引っ掛けると、抜き足差し足、寝室の前に忍び寄った。寝室の扉にメモ発見。

 <ノックを3回して素早く入ること>

 トン・トン・トン

 扉をノックした古代が素早く寝室に入ってドアを閉めると、やっぱりそこは真っ暗で。

 『俺が電球買ってくるのが遅かったから、待ちきれずに寝ちゃったんだな、雪。』

 もう電球を替える気力も無く、しょぼんと立ち尽くす古代。なんだか疲れがどーっと湧いてきて溜息がひとつ出てしまった。


 その時。


 ベットサイドの明かりが点き、ぼんやりとベットに腰掛けた人影が見えた。

 「お帰りなさい、古代くん。真夜中の<スパイ大作戦>はどうだった?」

 それは勿論笑顔の雪なのだが、その姿が・・・濃い紫色の透ける素材のベビードールとお揃いの2/3カップのブラと本当に小さなスキャンティだけだったのだ。
その笑顔に引き寄せられるようにして古代は雪の隣にふわりと腰をおろす。

 「私のサプライズプレゼント気に入ってもらえた?」

 その輝くばかりの身体を抱きしめながら古代は答える。

 「気に入ったよ、とっても。」

 夜の帳が優しく2人を包み込んでいくのでした・・・。
 これが2人のSweet Home☆
 ある星降る夜の出来事でした。

おしまい


と、ある曲の「僕がいなくて困っている事はないかな」というフレーズからポンと生まれたものです。

こんなもので良いのかとドキドキものです。
byいずみさん
いずみさんから、初めての100のお題作品をいただきました。幸せな若い二人のワンシーンが目に浮かびます。古代君、雪ちゃん、ずっとずっと幸せにね!
あい(2004.9.17)
以前のアレの『オチ付きバージョン』です。題して『真夜中の雪ちゃん大活躍編』(笑)。
実は、あいさんに素敵なアドバイスをいただき、このような形で再登場することができました。この場をお借りして御礼申し上げます。
あいさん、ありがとう御座いました。
byいずみさん(2004.10.2)

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