029 My Sweet Home
せいらさん作
(1)
ご飯は 食べた。
風呂にも 入った。
仕事は 今日はない。
見たい番組も なかった。
雪は・・・OK、雑誌見てるだけ。
よしっ!
「ゆきぃ〜、そろそろ・・・」
ルルル・・・ルルル・・・
「あら、今ごろ誰かしら?」
《ちっ・・・ほんとに誰だよ!》
「はい、あら!えっ・・・そうなの?まあ、うん、うん、・・・・」
せっかく今から・・・という時に掛かってきた電話。
どうも 長くなりそうだ。
誰なんだよ〜!
俺は今日、帰ってきたばかりなんだぞ!
少しは遠慮してもらいたい。
それにしても、なんだ。しんみりしたり、笑ったり・・・誰からだ?
といって、ここで俺がでると物笑いの種になったりしそうだからな。
「明日?ええ、もちろんいいわよ。ええ、ええ・・・」
・・・えっ、明日の予定のことなのか?!
それにしても女の電話は長いよなあ・・・
「おい、雪。誰なんだ?」
満面の笑顔の雪が振り向いた。
電話の画面を覗きこむと・・・俺は雪から受話器を取り上げた。
「土門!土門じゃないか!もう起きていいのか?そうか、そうか、よかった・・・」
「ねえ、それでね、病院の外出許可が出たから、明日うちに来てもいいですか、って。」
「よし、いいぞ、来いよ。迎えに行ってやろうか?なに?坂巻に赤城に大門もか・・・まあ、雪がいいって言ってるんだからいいよ。じゃあ、明日」
「ねっ、喜んでたでしょ?うふふ・・・。えっ?あら、いいのよ。じゃあ、明日待ってるわ。」
電話を切ると、雪が「本当に良かったわね」と、呟いた。
俺も、「ああ」と答えた。
最後の最後で、土門に死線を彷徨うような怪我をさせてしまった事は、俺にとっても雪にとっても大きな棘となっていた。
指揮官として、上官として、死者を出すほどつらいことはないんだから・・・
(2)
翌日、奴らは時間きっかりにやって来た。
さすが、みんな俺の部下たちだ。
雪は皆を招き入れ、特に、まだ歩く事もおぼつかない土門を抱えるようにしてソファーに座らせた。
「へえー、ここが艦長と雪さんの愛の巣ですか。」
「・・・坂巻、死にたくなかったら変な言い方はよせ。」
「いやあ、思ったより小ざっぱりしてますよね。」
「まあな、あまり家にいる時間もないしな」
「すごいごちそうですね!雪さんが全部作ったんですか?」
「まさか!全部じゃないわ。買って来たものも、彼が作ったものもあるわ」
「ええっ、艦長が料理するんですかぁ?!」
「そりゃあー、一人暮らしも長かったしな。」
「はい、じゃあ まずはビールでね。」
「土門の回復を祝して、かんぱ〜い!」
それまで家の中を探っていた連中も、酒が入ればそれまでだ。
それぞれが、ヤマトでの思い出話や今後の希望を語り、時間は過ぎていく・・・
「艦長たちって、お休みの日は何してるんですか?」
「同棲し始めたきっかけは?」
「二人の時って、なんて呼ぶんですか?」
「初チューは、いつですか?」 (バシッ!)
「初エッチは・・・」 (ボカッ!!)
etc… etc…
「お前らなあ、芸能レポーターじゃないんだから、他にいう事ないのか?」
こいつら、俺が答えないでいるとどんどん際どい質問をしてくる。
酒がまわってくると、どうもその手のことに集中してくるんだな、男って。
雪は慣れたもので、ほんとーに適当にあしらっている。
それでも楽しそうに、逆に奴らの話を聞きだしたりして・・・遊んでるよな、それって・・・
「古代君、私買い物に行って来るわね。おつまみやらお酒やら、追加するわ。」
「おい、外はもう暗いぞ。持ってきてもらえよ。」
「うん、でも私も欲しいものがあるし・・・やっぱり行って来るわ。」
「・・しょうがないなあ・・・俺も一緒に行くよ。」
「えっ? あら、いいのよ。」
「いや、行く。荷物にもなるしな。」
「そお・・・?じゃ、頼んじゃおうかな」
そんな俺達のやり取りを聞いてた奴らが、また囃し立てる。
調子にのって俺達の口真似をする奴らに一発ずつオミマイして、俺達は外出した。
「ぜーったいに部屋を覗くなよっ!!」
と、念をおして・・・
外に出ると、雪は大きなため息をついた。
「ばかね、進さん。出掛けにあんなこと念を押したら逆効果でしょ。多分今ごろ家中探検されてるわよ・・・」
「げっ・・・そうか?! じゃあ、早い事帰ろう!!」
俺は車を出すと、一番手近なスーパーに向った。凄い勢いで買い物したのは、言うまでもない・・・
(3)
家主が居なくなった部屋では・・・
「ああ言われても、やっぱり見たいよなあ。あ・い・の・す☆」
「そのために、土門を使ってここへ押しかけたんだしな。」
「今が 最大のチャンスだよな。」
「先輩達!やめてくださいよ!」
「じゃあ土門、お前は来るな。」
「・・・いえ・・・行きます・・・」
「よし!まずは無難なところから・・・」
「ここはトイレだな。窓に葉っぱが垂らしてあるところが、雪さんがいる、って感じだな。」
「風呂場かあ・・・なんか生々しいよな。洗面所に歯ブラシが2本・・・洗濯機は・・・」
『覗くな バカ!!』(ボカッ! バシッ!)
「バルコニーも広いよなあ。いろんな花があるんだな。雪さんの趣味か?」
「では、いよいよお部屋を拝見・・・」
「先ずは、こっちの扉は・・・」
ガチャ
「書斎・・・だな。」
「先輩、心なしかがっかりしてませんか?」
「いやいや。さすが艦長、兵法に精神学、宇宙物理学も読んでるんだな」
「こっちの生理学や栄養学は雪さんだよな。パソコンも各自か。忙しいんだろうな。」
「おい、植物関係の本も結構あるぞ。どっちの趣味なんだろうな。」
がや がや
「あとは目ぼしいものはなし・・・と」
「さて、残るは・・・」
ガチャリ
ゴックン
「ベッドルーム、だよな」
「艦長の制服と雪さんの制服が並んで掛けてあるっていうのが、いかにも、だよな。」
「いやいや、どうして。シーツはラベンダー色、ですか。女性の肌を最も美しくみせるという・・・」
「なあ、あれって・・・」
全員の目が、一点に集中した。
「ティッシュ…」
ボカッ! バシッ! バキッ! ボコッ!
「いってぇ〜!! アッ! 艦長!!」
大急ぎで帰って来たけど、遅かった・・・。
あいつら、思いっきり覗きやがった!
俺の後ろから来た雪は、怖い顔で俺達を睨んでいた。
『おい、俺もかよ!』
(4)
俺達5人の立派な宇宙戦士は仁王立ちの雪に説教され、小さな笑い声と共に許された。
そして俺は、こいつらを煽ったバツとして(何でだ?)お気に入りのワインを一本提供させられた。
「土門君はまだ病人なんだから少しだけにしてね。私も付き合うから。その代わり・・・ねっ、ケーキ買って来たの。ほら」
雪はさっき、自分と土門用に小さなケーキを買っていた。
その小さなケーキに、わざわざプレートを書いてもらっていた。
『はやく全快してデートしましょうね』
見ろ、土門の奴目がマジになってるぞ。
治療の効果は抜群だろうけどな。
坂巻たちが騒ぎ、雪は可笑しそうに土門を見てる。
雪、お前ねえ・・・
「さあ、みなさん。艦長から土門君へのお祝いですよ」
雪がグラスにワインを注いだ。
自分と土門用には、ほんの少しだけ。
雪はワインはそこそこいけるのだが、今日はあくまで土門に合わせる気だろう。
雪が最後に土門にグラスを渡そうとした時、土門の手が震えていたようだった。
「土門君、大丈夫?少し疲れたんじゃない? 熱、上がってないかしら」
雪が土門の手にグラスを持たせ、そのまま奴の額に手を当てた。
「うわっ!!」
べちゃ・・
・・・土門・・・あせったのは判る。しかし、俺にワインをぶっかけるとは、どういうことなんだ?しかも、白いセーターに赤ワインだぞ・・・
「やだっ!進さん、早く脱いで!洗ってくるから」
雪はバタバタと着替えとタオルを取りに走り、俺は謝りたおす土門に「まあ、いいさ」と言いながらセーターを脱いだ。
雪はそれを受け取ると洗面所に走り去る。
と・・・なんか背中に視線を感じるんだが・・・
「艦長、それってやっぱり・・・あれ・・ですよねえ・・」
それ? あれ?
今まで謝っていた土門が言った。
「艦長、その・・背中の・・・赤く・・・」
へ? あっ! ああ〜っ!!!
俺はあせった! どうしようもなくあせった!
しかし、ここでこいつらにうろたえる姿は見せられない。
第一艦橋のやつらと同じパターンにさせてたまるかっ!
そうだ、余裕の笑顔だ。余裕だ。余裕。
「ふん、そうだよ。うらやましいだろう。」
「はい、うらやましいです。すごく・・・」
土門、お前ってなんて素直な反応をするんだ・・・
他の奴らは、大受けでまた騒ぎ出す。
「お前ら、雪には言うなよ。また大目玉くらうぞ。」
(5)
その事は、さすがに雪の耳には入らないまま、夜が更けた。
坂巻たちは、そこらにごろ寝してしまっている。
雪もソファーにもたれ、俺の肩に頭を置いて眠ってしまった。
雪にアルコールを飲ませてもらえなかった土門と俺だけが起きていた。
「班長、寝ちゃいましたねえ。」
「あ?うん。昨日、お前が連絡してきてから、ずっとはしゃいでたからな。お前がなにが食べたいだろうかとか、お前に何してやろうとか。今朝も早起きして、一生懸命 本見ながら料理してたし。・・・少し妬けたぞ。」
「艦長が?まさか!」
「俺はいつだって、雪に近づく奴に嫉妬してるさ。お前にだってそうだよ。」
「俺なんて・・・班長の目にも留まってないですよ。」
「目にも留まらん奴に、こんなに尽くす女じゃないぞ。もう少し自信持てよ。」
「あの・・・すみません、艦長。俺・・・班長のこと、好きです。本気です!」
「ふ・・・ん。で、お前、雪のどこが好きなんだ?」
「へ? どこって・・・。 あの・・・強いて言えば、『指』でしょうか・・」
「ぶっ!『指』?なんだ、そりゃ?」
「いや、よく判りませんけど・・・」
「ふーん、まあいいや。なあ、土門。俺がどうして最初にお前を生活班勤務にしたか、知ってるか?」
「いえ・・・」
「俺はお前が気に入った。理由なんか無い。ただ、そう感じた。だから、できるだけいろんなものを見せてやりたいと思った。生活班ならヤマトの中の全てが見える、俺にそう教えてくれたのは雪だ。誰の調子が悪いか、誰と誰が揉めているか。お前、戦闘中に飯を配りに各部署をまわっただろう。何か気付かなかったか?」
「は・・い、そういえば同じ部門の担当でも、指揮者によって随分空気が違うなあ、とか、この人普段と戦闘中の顔が違うなあ・・とか。」
「うん、そうなんだ。でも俺は知らなかった。最初から第一艦橋しか知らなかったからな。だから苦しんだ。・・・下のことがよく判らなかったから、自分の中でああでもない、こうでもないと。」
「艦長・・・」
「お前はいつか、俺を越えるかもしれない。お前ならそれが出来るだろうし、俺もお前ならかまわない。お前がヤマトの艦長になって、俺を使ってくれてもかまわんよ。」
「とんでもないですよ!」
「ただし、それでも雪だけは譲らない。・・・なあ、土門。雪はいい女だろう。惚気じゃないぞ。客観的に見てもいい女だと思う。こいつさえ望めば、大統領夫人だって、どこかの国の王妃にだってなれると思うよ。でも雪は俺を選んでくれた。・・・土門、俺は雪に相応(ふさわ)しい男でありたいんだ。だから、誰にも負けない。」
雪が『う〜ん』と動いたので、俺は雪を抱き上げると寝室へ運んだ。
俺が雪の着ていた服を持って出てきたのを見て、土門が目を丸くした。
「艦長、着替えまでしてあげるんですか?」
「そうだよ。おかしいか?」
「いえ、ただ・・・なんか意外で・・」
「ははは、俺は自他共に認める雪にぞっこんだからな。」
「・・・はっきり 言いますねえ・・・」
「お前がライバルにならないように、釘さしてるんだよ。」
「ぐっ・・・」
俺は、残っていたワインを土門に勧めた。
「ところで土門、お前なんで戦うんだ?」
「なんで・・・って、地球を守るため・・・ですか?」
「そうか・・・俺は違うな。俺の居場所を守るためだよ。俺の居場所はべつに地球でなくても、ヤマトの艦長室でなくてもいいんだ。もちろん、この家でなくてもいい。・・・雪の居るところなんだ。雪が居てくれる場所が俺の帰る場所なんだ。俺はそれを守るために戦っている。だから、誰にも負けない。そういう意味では、お前も異星人もおんなじだよ。お前が本気で雪を好きだというなら、俺も本気で戦う。俺は、俺の居場所を全力で守るぞ。覚悟しとけよ。」
土門のやつ、黙って俯いてしまったじゃないか。
おい、もうリタイアか?
ふん、それくらいの気持ちで俺に挑戦してくるなんて、甘いぞ。
・・・泣いてるのか?土門。
まあ・・いいか。こんな試練も人生には必要だよ。
俺は立ち上がると、土門を残して寝室へ行った。
(6)
翌朝、いつもの通りのトレーニングメニューをこなして帰ってきても、まだ奴らは寝ていた。
雪が、散らかしっぱなしだったリビングを片付け、みんなの朝食を作っていた。
俺がシャワーを浴びて出てきても、まだ起きて来る者はいなかった。
「お腹すいたよなあー、もう起こそうぜ。」
「そうね。あっ、髪の毛びしょびしょのまま歩かないでって、お願いしたでしょ!!」
雪が俺の首に掛けていたタオルを広げ、髪をわさわさと拭きだした。
半乾きになったところで、手櫛で髪を梳いてくれる。
雪の白い指が、何度も俺の頭を撫で付けて気持ちがいい。
でも俺は、思いっきり不機嫌そうな顔をしてやる。
「いいじゃないか、めんどくさいんだ。」
「だーめーよ。めんどくさいなら、短く切りなさい。」
「げええ!もっといやだよ。」
「どうしてよ。似合うわよ、きっと。」
他愛無い会話。これが俺の幸せ。
短くしたら、君に髪を拭いてもらえなくなるじゃないか。
雪の指で撫でてもらうのが、気持ちいいんだ。
・・・ん?そういえば、昨日、土門が『雪の指が好き』って言ってたよな。ははは・・・まさかな・・・
雪、君の居るところが、俺の陽だまり。
一番 優しい 甘やかな場所。
君が俺の 帰る場所なんだ。
*** お わ り ***
古代くん語りです。雪への真っ直ぐな気持ちです。私は女として、こんな風に愛されたいかな・・・と。いや、雪だから、愛してもらえるんでしょうけど・・・。
男も女も、大きくて 広くて 懸命な愛しかたをされたら、いい男・いい女になりますよね。そうやってこの二人が出来上がったんだと思っています。
本当は若い二人ですが、経験はもう人並み以上ですもの。こんなセリフも言わせてください。
(2.片思い と併せてご覧ください)
by せいらさん(2004.7.17)
(背景:pearl box)