033 叶わぬ恋
ともこさん作
「お前は、気楽でいいな」
古代は、ミーくんの頭を撫でた。

「1日好きなところで寝てさ、好きなときに食事してるんだものな」
可愛がられている猫は、ごろごろと喉を鳴らしている。
「雪に久しぶりに会えて、うれしかったろ」
猫は、にゃあんと鳴いた。

「正直な猫だよな。まったく」
古代は苦笑した。

佐渡医師が所用で自宅を留守にするので休暇中の彼は昨日、ミーくんを自宅で預かった。
この猫を可愛がっている自分の妻が喜ぶ、と思ったのだ。
ところが、妻は急な休日出勤となり、彼は今、思いがけず猫と休暇を過ごしているー。


こうしてみると、かわいいよなあ。
日の差す明るいリビングの床に横向きに寝っ転がり、彼は猫をまじまじと眺めた。
同じ艦に乗っていたときも絶えず目にすることはあったのに、結婚して心身ともに落ちついた状況でこの猫に接してみると、こんなにかわいい猫だったんだなあ、という新発見があった。

好きな女と結婚して心が落ち着くというものがこんなにいいものだとは思わなかった。
と、彼は思う。
それに至るまで、本当にさまざまなことがあったけれど。

それらに関する今は答えの出ない、いろいろな思いに真摯に向き合いつつ、自分の幸せを求めて行くことが今の自分にとっての生きかたなのだ、と彼は自分なりに解釈している。

それは決してたやすいことではないけれど。


しばし、真面目に考え込んだ古代の頬にミーくんが、ぽわぽわした体をすりよせてきた。
毛がふわふわしてて、温かくて、心地よくて。
思わず彼は猫を抱きしめた。

いとしさのあまり、猫を自分の腕の中にぎゅっと抱きしめる感覚は実は好きな女を抱き寄せる感覚に近いものがある、と彼は密かに思っている。

「お前って、本当にいいヤツだな」
古代のつぶやきに、ミーくんが、なーお、と返事をした。

結婚してずっと女房にくっついていたが、たまにはこうやって猫と遊んでみるのもいいものなのかもしれないな。
ミーくんにボールを転がしてやって遊ばせてやりながら、いつしか彼自身も楽しんでいた。

「お前、雪のこと好きか?」
古代の突然の質問に、ボールを追っかけていたミーくんが振りかえって、にゃん!
と返事をした。

「そうか」
彼の顔がほころぶ。
「雪は優しいものな。俺も大好きだ」
ミーくんは、しっぽを嬉しそうに振っている。

「俺も猫になろうかな」
古代は大の字に寝転んだ。
「めんどくさい任務やら、しがらみやら全部忘れて、お前みたいに気楽に生きて行けたら楽かもしれんな。雪も猫にして、お前と仲良く1日、みんなで日向ぼっこでもしてみたいもんだな」
もう、ミーくんは何も答えずに彼の脇に来て丸まっている。
その体温の温かさを体で感じながら、彼もごろりと横になった。

「でも、猫になるとさ」
古代は不意に続けた。
「雪を巡って俺はお前と恋のライバルになるわけだ。そうなると、お前と仲良くなんかできないんだな。やっぱり、俺は人間でいたほうがいいのかもな」

ミーくんは、目を閉じたまましっぽをぱたぱたと軽く振った。

「そうか。そうだな。人間だから雪と結婚できたんだものな」

古代は頷くと、猫と一緒に短い昼寝に落ちた。

あまりにも心地よい眠りだったから、昼寝は思いの他、長引いてしまい彼の妻が夕方帰宅しても、古代とミーくんはぐっすりと寝息をたてて互いに寄り添って寝ている途中だった。

(終)


ミーくんになんだか、本音をつい言ってしまう誰も知らない古代君の姿を描いてしまいました。
私が猫が好きだから、こんな内容になってしまったんですが、猫と過ごしてるとなんだか心がほっこりしてくるんですよねぇ。
by ともこさん(2003.10.9)

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(背景:pearl box)