034 母から娘へ
みーこさん作
― 行ってきます。―
たった一行だけの書置きを残してあなたは行ってしまった。
壁にかけられたままの真っ白なウェディング・ドレス。
ドレッサーの上に置かれた進さんと二人で写った写真の中のあなたは
幸せではちきれんばかりの笑顔。
机の上にはいくつかの旅行会社のパンフレット。
『古代君ったら、雪の好きなところでいいよ、っていうのよ。無責任だと思わない?』
文字は怒っていても、その響きは幸せに満ちていた。
そして、その横に置かれた花柄の白い封筒・・・
それはあなたが結婚式の招待状に使ったもの。
まさかそれをこんなふうに使う日がやって来るなんて
きっとあなたも思ってなかったでしょう?
ママも思ってもみなかった・・・
わずかひと月前、希望に溢れた表情で友人・知人に宛名を書いていたあなた。
その日が来る事を指折り数えて待っていたあなた。
本当にその日はあなたの足元までやって来ていたのに・・・。
・・・・・・なのに、・・・・その希望と幸せは呆気なく崩れ去った。
あの日、『古代君を迎えに行ってきます。』と、嬉しそうに
そしてちょっと恥ずかしそうな顔をしてドアを閉めたあなた。
そのはにかんだ笑顔はママにでさえ、眩しく映ったのに・・・・。
その日の夜、帰るなり自分の部屋に閉じこもってしまったあなた。
『疲れて帰ってきた進君に、何かわがままでも言ってけんかでもしたんじゃないか?』
ってパパは笑って言ったけど、あなたの淋しそうな表情は
ママの心にある小さな影を落とした。
そして、次の日
その小さな影は希望の光を飲み込んだ・・・。
『行ってきます。』
いつもと朝と同じように、いつもと同じ口調であなたはドアを開けた。
― 行かないで・・・・!!―
ママの心が悲鳴を上げた。
後を追って、この家に、この部屋に引き戻したかった。
だけど、どうしてもこの足が動かなかった・・・
この口も、いつもはお喋りなこの口さえも、唇を結んだまま
開く事さえ忘れていた・・・・。
どうしてなの・・・・?
その理由はママが一番よくわかっている・・・・。
悲しいけど、辛いけど、女性としてあなたの気持ちはママが一番よくわかっているから。
今、あなたが一番必要としているのは
ママでもパパでもない・・・・
あなたが一番必要としているのは、古代 進というたったひとりの男性−ひと−。
今、あなたを一番必要としているのは
ママでもパパでもない・・・・
あなたを一番必要としているのは、古代 進というたったひとりの男性−ひと−。
愛する人を信じて、黙ってじっと待つのも愛ならば
愛する人を信じて、行動を共にするのも愛・・・。
あなたは行動を共にする愛を選んだのね・・・。
・・・・・・例え、その先にどんな危険が待っていようとも・・・・。
あなたはあなたの愛する人と共にいるのが
一番の幸せ・・・・なのね。
・・・・・そんなふうにひとりの男性−ひと−を愛せるあなたを
・・・・・そんな一途な心を持ったあなたを
ママは心から誇りに思うわ・・・・・・・雪・・・・。
だから・・・・
ママはあなたにこう言うわ。
― いってらっしゃい ―
あなたの愛する人を信じて、愛する人と同じ道を歩みなさい・・・。
そして・・・・
ママに、『お帰りなさい』、を言わせて・・・・・・。
例え、あなたがどうなっても、どんな姿になっても
雪―――――――。
あなたが私の娘であることには変わりはないのだから・・・。
雪―――――――。
私の可愛い、大切なたったひとりの娘・・・・。
あなたの愛する人と共に
― ただいま・・・!―
と、その愛らしい輝く笑顔を見せて・・・雪。
ママはその日が来る事を
いつまでも、いつまでも信じて待っているわ・・・・雪。
おわり
古代君を追ってヤマトに密航を企てた雪ちゃんに気づいた時の美里ママの心境は・・・。同じ女性として、雪ちゃんの気持ちも理解しようとしたはず。でも、母親として娘を思う気持ちも当然山のようにあって・・・。
内容的に<さらば>的な雰囲気もありますが、「2」です☆ 美里ママの願いどおりに、雪ちゃんは愛する古代君と一緒に帰ってきますよ〜(^^)
by みーこさん(2005.4.21)
(背景:pearl box)