036 古代君!
cheese☆彡さん作
古代君!
目の前の奴は手負いだった。
銃口をこちらに向けるがその肩からは血が滲み、両手で銃を支えるが焦点は合わない。
―お前は…おまえ…は・・・―
睨みつける眼が怒り心頭にたぎっている。
だがその中にほんの少し、悲しい光りを感じたのは気のせいか?
―撃て。古代…。―
自らも銃口を奴に向ける。
この男とあの艦が吾が母星を滅ぼし、民族に壊滅的打撃を与えた。
何度殺しても殺し足りないほどの男のはずだ。
だが、なぜか引き金が引けなかった。
出血が酷かったのだろう、目の前で倒れこんだ。
引導を渡そうとトリガーに力を入れようとしたとき、
―古代君!!―
突然どこからか現れ、守るように覆いかぶさった黄色の艦内服の…
(女か?…)
一瞬躊躇した。
まだあどけなさの残る少女に見えた。
だが次の瞬間、奴の落とした銃を手に取りきっと私に向けた顔は……
―あなたはまた罪の無い、か弱き者を傷付けているのですね…―
―人聞きが悪いな、スターシア…。私はこの星を、この民族を守るため邪魔なものを排除しているだけだよ。正当防衛と理解してほしい。―
私が何かする度にいちいちお節介にも苦言を言ってくる隣の星の誇り高い女王。
美しい女(ひと)だった。
その微笑みはさぞかし周りを幸せな気分にさせてくれるだろうと思うほど。
だが私にはその微笑みはない。
きっと非難するような眼差しを返し、
―それはあなたの驕り以外の何物でもありません。貴方には愛する者の姿が見えないのですか?―
穏やかに話すがひどく怒っているのは明らかだ。
その鋭い眼差しの中に悲しい光りを漂わせながら…
私に勇ましく銃口を向ける女のその表情はその隣人を思い起こさせた。
やがて銃を持つ手はぶるぶると震えだし、瞳にいっぱい溢れんばかりの涙を湛えた女は奴の呻きに銃を手放し、
―古代君、古代君。大丈夫よ。貴方…。―
その姿はあまりにも無防備であまりにも犯しがたい光景。
意識の混濁している奴は
―地球は…ちきゅう…は―
囈を繰り返す。
―古代…おまえはそれほどまでに地球の事を…―
その想いは私の心に風穴を開け…
その男を守ろうと抱え込み、古代君、古代君と繰り返し呼びかける女の姿に、今までない感情がポツリと灯った。
ヤマトへの、古代への恨みや憎しみが解けて流れていった瞬間でもあった。
第一空母に移り、私はタランに艦の修理とこれからの行き先を告げた。
―吾が母星へ。―
別れを告げて新天地を探そう。
できたらあの美しくなつかしい女(ひと)にも…逢いたいものだ…
微笑んで見送ってくれるだろうか…?
微かな期待を胸に秘めて、空母は一路マゼラン星雲へ…
おわり
古代君!と叫んだ雪、ではなくて、それを見ていたデスラーの側からの思い。二人の姿が彼の心に、遠い昔持っていた温かな思いを思い起こさせたんですね。
愛を思い出したデスラーにも、新しい愛が見つかるといいのですが……
あい(2006.10.2)
(背景:Holy-Another Orion)