036 古代君!
望さん作


「だって、古代君が死んじゃう・・・」
そう言って、私はコスモクリーナーDを作動させた。

イスカンダルで、守さんとスターシャさんが抱き合う姿を見て、「次は僕たちの番だ。」
古代君は、確かにそう言ってくれた。「うん。」とうなづいた私は、キュン、と胸が締め付けられる思いだった。お互いに気持ちを確認しあったわけではないけれど、もしかして、古代君も・・・?そうなのかしら?そう思った。

古代君のいない地球なんて・・・。
古代君がいなくなったら、私はどうして生きていけばいいの?
お願い!死なないで!

私は、その一心でコスモクリーナーDを操作していた。
やがて。

ヒューーン、という作動音と共に、艦内の空気が、みるみる正常な色に変わっていった。
「やったぞ、雪!成功だ!」
真田さんが大声で叫んでいた。
あぁ、これで古代君が助かる・・・・。
そう思った瞬間、全身から力が抜けていくのがわかった。
そして、すうっ、と遠のいていく意識。
こ・・・だ・・・い・・・くん・・・・。

気が付いたら、私は、地球にいた。
赤銅色に染まっていたはずの空は、青さを取り戻していた。
抜けるような、すがすがしいスカイブルー。
波の音が聞こえる。
潮風がほほをなでる。
胸いっぱい、深呼吸した。
「空気がこんなに甘いなんて・・・。」
地下都市での生活や、ヤマトの艦内では味わえなかった開放感。
全身が癒されていく感じがした。
「良かった、地球は救われたのね・・・」
甘い空気を満喫しながら、私は海辺を散歩していた。

すると突然。
「雪さん・・・」と、女性の声がして、振り返った。
初老の紳士と、ご婦人が微笑みながら、こちらを見ていた。
「初めてお目にかかりますよね。なぜ私の名を?」
二人とも、それには答えてくれず、やさしい笑みを浮かべたまま。
「いろいろと、ありがとうございます。あなたは本当に息子にはもったいないくらいですよ。」
初老の男性は、目を細めながらそう言った。
「さぁ、もうお帰りなさい。ここは、まだあなたの来るところではないですよ。あの子を、進をよろしく頼みますよ・・・」ご婦人は、より一層優しい微笑だった。
そう言って、ご夫婦の姿はすぅっと消えていった。

もしかして、このお二人って、古代君のご両親・・・?よろしく、って・・・?

体中が痺れる感覚がする。
でも、少しずつだけど、抜けていた力が戻る感じがした。
ぴくっと指が動く。
深呼吸を、する。
うっすらと、ぼんやりとながら目が覚めた気がする。
ゆっくりと、目を開けた。
「雪・・・?」
古代君の声。
第一艦橋。
目の前には、赤い地球。

一体何が起こったの?
瞬時には判断が付かなかった。
「古代君・・・私、どうしたの?」
私がそうつぶやいた刹那。
「雪!雪!」
古代君は私の名を連呼し、私を抱いてくるくると回っていた。
彼が指差す地球。
(帰ってきたんだわ・・・)
喜びと共に、そっと彼の肩に寄り添った。
古代君、私の大切な人・・・。
彼の無事を確認すると、私の意識はまたふっと遠のいていった。



「雪!」
彼女が居なくなった地球に帰り着いても、これから先どうやって生きていけばいいのか。
僕はただ、そのことを考えていた。
地球が救われたとしても、僕の心は永遠に闇に閉ざされたままなのだろう。
そう思うほどに、このイスカンダルへの航海のなかで、雪の存在は僕にとって欠かすべき存在になっていた。
第一艦橋。
彼女が深呼吸する様を目の当たりにし、彼女が生き返ったと確信した。
彼女が意識を取り戻したとき、僕は歓喜の声をあげていた。
雪!これから二人で新しい地球で、共に生きていこう!
そう彼女に言うんだ、と喜んだ瞬間。

彼女は、僕の腕の中でくずおれるように意識を失っていった。
「雪!」
失いたくない!これ以上。
「早く!雪を佐渡先生のところへ連れて行くんだ!」
真田さんの声に、僕は瞬時に反応していた。
雪を抱きかかえ、医務室へ。

それからどのくらい時間が経ったのだろう。
ただただ、彼女の無事を祈ることしか、そのときの僕には何もできなかった。

シュッ。
医務室のドアが開く音で、はっと気付くと、目の前に佐渡先生がいた。
「先生!雪は・・・雪は無事なんですか?」
僕は、かみつくような勢いで佐渡先生に詰め寄っていた。
「ああ、大丈夫じゃよ。どこも異常はありゃせん。」
良かった・・・。これ以上大事な人を失うことには、耐え切れなかったから。
「ただ、今の雪には、薬が必要じゃ。」
佐渡先生は、真剣な顔をして、そう言った。
薬!? 彼女の状態は、それほど重篤なのだろうか?
手に入れなければ、どうしてでも手に入れなければ!
僕は、彼女を失いたくない!
僕には彼女が必要なんだ!
「それは・・・どうすれば手に入るんですか?」
気が付くと、僕は佐渡先生の肩を、両手で揺さぶっていた。
「まぁ、そんなに慌てんでもいいぞ、古代。」
佐渡先生は、どことなくいたずらっぽい顔でそう言った。
「特効薬があるからのぅ。それは、お前自身じゃ。」
えっ?
あまりに意外な佐渡先生の答えに、僕は正直戸惑いを隠せなかった。
「僕・・・・?」
「細かい説明は抜きじゃ。早く雪のところへ行ってやれ。」
ウインクをしながら、佐渡先生はそういうと、ゆったりと医務室を離れていった。
僕は、混乱しながらも、医務室の中に入っていった。

まだどことなく青白い顔をして横たわっている雪。
僕たちの命を救うため、自らの命を投げ出してまでコスモクリーナーDを作動させた君。
「雪・・・」
僕は彼女の手を握り締め、ただただ彼女の意識が回復することを祈っていた。
それから、一体どのくらいの時間が経ったのだろう。

ふうっ、と安らかに、雪は目を開けた。
「あ、古代君・・・」
薄紅色に頬を染めながら、彼女は僕の名を呼んだ。
彼女の無事を確認すると、僕は、急に自分の感情を押し殺すことができなくなったようだ。
「なんて無茶なことをするんだ!雪!もう少しで死ぬところだったんだぞ!」
「古代君・・・・ごめんなさい。あなたが死んでしまうと思ったら、私、どうしてもそうせざるをえない気持ちになってしまったの。」
彼女の瞳には、今にもあふれ出しそうな涙を湛えていた。
「でも、僕の気持ちも考えてくれよ。君を失ってまで、生きていたいとは思わないさ。」
「雪、僕には君が必要なんだ。地球に帰るまで、この気持ちを伝えるのは我慢しよう、そう思ってずっと自分の気持ちを抑えていた。けれど、もう無理だ。雪、僕は君のことが好きなんだ。今回のことで、僕にはそれが痛いほど良くわかったよ。僕の中の、君の存在の大きさにね。」
きっと、普段の僕ならば、そんなことを言うなんてできなかっただろう。
でも、僕は必死だった。
君を永遠に失ってしまうことに比べれば。

「古代君・・・。」
雪は、いつもの優しい笑顔を浮かべていた。
「私ね、古代君のご両親に会ったわ。進をよろしく、って。早くあの子のところに帰りなさいって、そうおっしゃってたの。」
雪は、静かにそう言った。
「私ね、今回のことで良くわかったの。古代君、大好きよ。他の誰よりも、ずっと・・・」

その時、僕の顔も、彼女の顔もかぁっと真っ赤に染まっていたに違いない。
でも、お互いに確信した。

お互いが、欠くべからぬ存在であることを。

雪、これからも共に歩んでいこう。まだ僕は未熟な存在ではあるけれど・・・。

古代君、大好きよ。何があっても、一緒に歩んでいきましょう・・・。


そして、地球は青さを取り戻していった。

望さんから、初投稿の作品です!

 舞台はいわずと知れたPART1のラストシーンです!! このときの「古代君が死んじゃう!」は、すっかり名ゼリフになっていますものね〜〜(*^^*)
 2人のファンにとっては、ちょっぴりウルウル、でもとっても嬉しいシーンでもあります。

 古代君のお父さんとお母さんに託された雪ちゃん。とってもうれしかったでしょうね。でも、その後、大変な苦労が待ってるなんてこと、このときは思いもしなかったんでしょうけれど……(^^;)
by あい(2005.10.4)

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(背景:Holy-Another Orion)