045 たったひとり
池永明生さん作

たった一人でここで過ごす。遥か地下のこの場所で。

これは天罰。『何か』が私に下したもの。

罪を犯せば報いが来る。そして私はここにいる。

透明で無機質な機械と家財道具が置かれてあるそれ。

私には自由がない。報いを受けた後、忌まわしい侵略者がこの星にやってきたのだから。
何もない廃墟の星に何の価値があるのだろう?
だが彼らはお構いなしに私が住むこの場所ごと幽閉してしまった。

果てしない孤独が続く。この孤独は何時まで続くのだろう。何もない無機質な時間が過ぎていく。

しかし・・・ちょっとした事から侵略者達の素性、意図を知ってしまった。

それは全宇宙の征服。彼らは宇宙を駆ける放浪者達。もう何代もそれは続いていて、「侵略すること」
がごく自然にかつ当たり前に考えている種族。
余りにも身勝手で余りにも残酷なそれに私の心は動く。
だが、私の能力は幽閉された時に封印に近い状態にされてしまった。
恐らく、私を見つけた時に私がこの星を滅ぼした張本人でなおかつ高レベルの能力者だというのがわかったのだろう。

どうすればいいの?私に出来る事は何?
祈ること?でもそれは以前の私。内乱を少しでも早く終わらせたい、平和な星になって欲しい。
でもそれは自分の中に眠っていた恐ろしい力を引き出す引き金になってしまった。
気がついた時にはもう星は滅び、残されたのは廃墟に佇む私だけだった。

でも・・・・・見過ごせない。どうすればいいの?どうすればいいの?
答は出ない。私はひとりぼっちなのだから。
考えている間にも侵略者達は星々を侵略していく。

駄目!私の心が叫んだ。

そして。

「私は・・・・・」

通信機を通じて私は祈りを込めて警告を流し始める。今この宇宙で起こっている脅威を。
限りなく広い宇宙に向かって流し始める。
だけど何の反応も起こらない。答えてくれる者もいない。
本当に来るのだろうか?焦りと不安。だけど私に出来る事はそれだけ。
ひとりぼっちの私。協力者もない中でそれは際限なく続いていく。
限りなく孤独。まるでこの星の中に一さじ分の水を落とすような感覚。

『もしもし・・・・・・もしもし・・・・・・』

それは信じられない出来事だった。答えてくれた人がいた。
最初は信じられなかった。でも現実に通信機の受信ランプは点滅し、声が聞こえてくる。
胸が高鳴った。嘘じゃない、見つかった。私の声が通じた人が。
ボタンを押し、その人の声に答える。
通信状態が悪いとはいえ、確かに声が聞こえてくる。嘘じゃない、嘘じゃない。

そして・・・・・今。
私はその人が来るのを心待ちにしている。
その人が乗る宇宙船がこの星に来ることがわかったのだから。

「たったひとり」だけど『たったひとり』じゃない。
今日もその人と言葉を交わす事が出来た。それだけでも幸せだった。
侵略者の脅威はその人が乗る宇宙船にも及ぶ。彼らはその人の故郷の星をターゲットに定めたのだから。
私は出来る限りの事をその人に伝えた。

これ以上侵略者の思うがままにさせないように。
宇宙船が無事にこの星に到着出来るように。
声に答えてくれたその人に会えるように。

「たったひとり」だけど、『たったひとり』じゃない。

そして今日もまたその人に『会う』ために通信機に向かう。

「私はテレサ、テレザートのテレサ・・・・」

end

END


たったひとり……のはずだったけれど、一人じゃないことに気付いたテレサ。
その時から、彼女はもう一人のその人に恋をしていたのかもしれませんね。ひとりじゃないことは……とても幸せなことだと思います。
あい(2003.9.29)

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