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なおこさん作


静かな夜だった。

嵐の前の静けさ…とでもいうのだろうか。

安住の地を持たず、流浪の身となっている今、常に宇宙の静けさの中にいるのではあるが、今日だけは…いつもとは違った空気が流れているように思えた。

何かの前触れのような…

そんな夜だった。


彼は自室で、ひとりグラスを傾けていた。


あの男とは、もっと早くに出会いたかった…と思う。
もっと早く、違った形で出会っていれば、自分は彼女に「愛している」と素直に言えたのかも知れない…

彼女とふたりで、滅び行く自分達の星の最期を、見届ける事ができたのかもしれない…


だがあの時私が地球を手に入れようとしなければ、あの男とは出会えなかったのだ。


自分にとって愛などというものは、無縁の言葉だと思っていた。

あの男が私にそれを教えた。
憎むべき敵であった私に、両親の命さえも奪った私に。


そして彼女が愛したのは、あの男の兄だった。
ふたりの出会いが運命なのだとしたら、それを演出したのはこの私という事になる。

運命とは皮肉なものだ。

いや…すべては自らが撒いた種の結果にすぎない。

今私がこうしているのも、運命などではないのだ。



彼は故郷の星に想いを馳せる。



あの時、自分が愛だと信じて疑わなかったガミラスに対する想いは、間違っていたのだろうと今は思う。

あの星の最期を早めてしまったのが、自分であるということも、痛いほど分かっていた。


だからこそ…



彼は傍らのテーブルにグラスを置いた。
琥珀色の液体がゆらゆらと揺れる。



滅び行く我が星。

滅び行くイスカンダル。


その時、彼女はどうするのだろう…

その時、自分は、彼女の為に何をしてやれるのだろう…



静かに瞳を閉じる。

漆黒の宇宙の海に、愛すべき二つの星が寄り添うように浮かんでいるのが見える。

自分が本当に望んでいた姿がそこにあった。



来るべき運命の瞬間(とき)

彼女は何も望まないだろう。

ならば私は、静かに彼女を見守ろう。



戦うこと以外に術を知らなかった自分の…

それが彼女のにしてやれる、最初で最後の愛の示しかたなのだ…



目を開けて彼は苦笑する。


そんなことを思うなど、随分ヤキが回ったものだ。

だがそれは、思いがけず彼を心地良い気持ちにさせた。


こんな夜もいいものだと…その時彼は、確かに思っていた。



夜は静かに、その時を刻々と刻む…


抗えない運命は


間もなく彼の前に、その扉を開けようとしていた。

「新立ち」のあの一連の出来事が起こる前夜、ひとり物思いにふける総統の姿などを想像してみました。
結局彼は、またしても戦うことで自分の星を失い、その結果、愛する女性も目の前で失うわけですけど…
身を挺してスターシアを守ろうとした彼は、あんなことがなければ、ひとり静かに彼女を見守り続けたのかもしれないなぁ…と思う。
by なおこさん(2003.10.19)

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