073 大好き! 
※注※
この作品は、ともこさんの作品「056二人きり」の続きになっています。まだお読みでない方は、先にそちらをお読みいただくとよいかと思います。
ともこさん作
「よく寝たな」
休日の遅い朝、古代はゆっくりと1人で目を覚ました。
昨晩、思った以上に酔って帰宅するなり寝てしまった妻は、まだ傍らでかわいい寝息をたてている。

「おい」
妻のほうに横向きになった彼は、妻の頬を軽く指先でちょんちょん、とつついた。
けれど一向に動じず、彼女は眠り続けている。

そのあまりにもかわいい、無心な寝顔に彼はそっと唇を合わせた。
乾いているけれど、温かな感触が彼に唇ごしに伝わってきた。

それでも彼女はもまだすやすやと寝ている。
アルコールが入ってよく寝ついたのもあるだろうが、心の底からくつろぎきって寝ている、といった感じである。

今日は、雪も仕事は休みだ。
のんびり寝かせてやろう。

彼は、静かにベッドを滑りぬけてリビングに行った。
キッチンでコーヒーを入れてソファに座ってのんびり飲んでいても、片手には軍の仕事上の資料を持っている。
コーヒーを飲みながら、つい目で活字を追ってしまう。

(根っからの仕事中毒だな。俺もー)
よくも悪くも長年の勤務状況から見にしみついた習慣は、簡単には抜けきれない。
密かにそんな自分に苦笑する。

しばらく資料を読んでいると、うしろから、ふわりと抱きつく気配がした。

(雪ー)
反射的に心の中で名前を呼ぶ。

抱きつきながら、彼の背中に自分の頬を強くこすりつけて甘える妻が、なんとなくいとしい。

「どうした?おはよう」
資料を傍らに置き、彼は笑いながら、声をかけた。
彼女のいい匂いのする髪をくしゃりと撫でつける。

「目が醒めたら、いないんだもん」
やや不機嫌な声がした。

「一瞬、黙って宇宙に戻ったのかと思っちゃった」
そう言いきると彼女は、夫の首筋に強くしがみついた。

「はは。そんなこと、しないよ」
彼女の頭を撫でながら、彼は何気なく答えると、彼女を自分の膝の上に座らせた。
「大事な女房をほったらかして、誰が黙って出て行くもんか」
彼の口調が不意に強くなった。
雪は何も言わずに、夫の手をぎゅっと握った。

「雪ー」
そのまま、彼は黙って妻をきつく抱きしめた。

妻の手の力強さと自分の発した言葉が、思わずひきがねになってしまってー。

予期せぬはずみで、理性が飛んだ。



「こんなこと朝からいやー」
ラグの上で夫に荒々しくのしかかられながら、雪が軽く拒否した。
けれど、それは言葉だけの拒否であって、既に彼女の胸元ははだけられて夫の愛撫を受けていた。

舐めたり含んだりつまんだり。

女としての雪が満たされる。

「いやなら、やめようか?」
彼女のパジャマを脱がせながら、意地悪く古代が尋ねた。
「それもいや」
雪が素直に柔らかく自分の両足を開く。

「まだ昨日の酔いが残ってるの?」
喘ぎながら、彼女が尋ねた。
「だから、こんなことをするの?」

彼女の問いかけには何も答えずに、古代は愛し続けた。

「酔ってたのは君のほうだろ」
力強い動きに雪が反応の声をあげた。
「酔ってなんか・・ない・・」
かぶりを横に振った。

そのまま彼女の言葉は、彼の唇で荒っぼくふさがれた。
彼の動きで生じる彼女の喘ぎ声が、唇のあいだからわずかに漏れた。

彼女の両腕が強く夫の背中を抱きこんだー。

法悦状態の彼女は、そのまま夫にされるがままになった。

自分の中に深く入りこんだ夫に愛される、この一瞬のためだけに自分は日々を過ごしてる。
それを彼女は、快楽に浸りきっている脳の中で幸せに実感した。



終わったあとも、横向きに向かい合いながら2人は、軽くじゃれてキスしあっていた。
抱き合ったり、みつめあったり。

セックスのあとのこのひとときも、また捨てがたい、といつも彼らは思う。

「今日は、かわいかった」
古代が妻にささやいた。

「かわいい?」
雪が首をかしげる。

「うん。かわいかった」
古代が再び、頷く。

「俺にしがみついてる雪が1番、かわいい」
そう言って彼女を自分の胸板に抱き寄せる。

昨日の夜の雪もかわいかった。
自分だけを頼りにしてくれて。自分だけにまとわりついて。

酔いざましのために外に出たあとも、いつもいつも俺のほうだけを、にこにこ笑って振り向いていた。

何も言わずに、ただただ俺だけを見て幸せそうに笑っていた雪。

いつもいつも俺だけを見てくれる雪。

けれど、今朝俺に抱かれていた雪は、もっともっとかわいくてー。

俺にしがみついて、ひたすら俺の名前だけを呼び続けていた。

結婚しても、夫らしいことを何ひとつしてやれてないのに、なんでそんなに満ち足りた笑顔で俺を見るんだよー。


まっすぐに妻を見つめる彼の視線が少しだけ、涙でほんわりとゆるんだ。


彼女は何か言おうとしたけれど、そのまま黙って夫の頭を自分の腕で抱きしめた。

妻の鼓動を直に感じながら、彼もまた、黙って彼女の胸に優しく抱きすくめられていた。

しばらくそれは続いたのだけれど、それは決して気まずい空気ではなかった。

(終)


「056 二人きり」のお預けくらった古代君のリベンジ編、なぜだか急遽書き上げることができました。
厳密にはリベンジではないのですが、まあ、似た雰囲気のシチュ、ということで。
by ともこさん
「056二人きり」の感想の中で古代君お預けくらったのねって書いたところ、ともこさんが答えをくださいました。やっぱりねっ!(笑)
あい(2003.12.8)

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