093 やきもち
せいらさん作
(『93.秘密』の続きとなっております。そちらから先にご覧下さい)


(1)

5日間の予定の出張の最終日、雪はデヴィットの誘いで湖に面したレストランでディナーを摂っていた。

「雪さん、疲れたでしょう。今日は二人だけですので、ゆっくりしてくださいね。」

デヴィットはいつも通り朗らかに笑いかけると、雪を真っ直ぐに見詰めた。

「お願いついでにもうひとつだけ、あなたにお願いしたいことが出来たのです。実は今、大統領が日本にいましてね。私も大統領に同行して日本の基地の視察にまわることになったのです。これは予定にはないことでしたから、誠に図々しいお願いだとは承知しているのですが・・・どうでしょう、明晩、もう一回だけ日本でのパーティーに同行してはいただけませんか?」

雪はこの5日間で、この青年将校の不思議な魅力をなんとなく感じていた。
古代とは全く異質の、陽気で朗らかながら人に有無を言わせないその強引なまでの態度のため、雪はずっと彼のペースで動かされてきたし、今回も結局はそうなることはすでに予想できた。

(日本でのパーティーとなると、知った顔にも出会ってしまうかもしれないわ。でもまあいいか。どうせもともと別世界の人たちばかりだし。それで今度こそ開放されるなら・・・)

何より雪は、ここのところ体調が思わしくなかった。
連日の移動と緊張の連続、そして連夜の慣れないパーティーに、さすがの雪も疲労の色を隠せずにいる。
今夜も、この場をとっとと切り上げて一刻も早くベットに潜り込みたかった。

「判りました。では、明晩まではご一緒いたしますわ。」

「ありがとう、雪さん。感謝します・・・」

デヴィットは朗らかに話し続けたが、雪は痛みを増してきたこめかみを押さえて、そっとため息をついた。



時を同じくして、古代もマーガレットと大統領に明晩のパーティーへの参加を打診されていた。
軍人である古代にとって、大統領直々の依頼は『命令』に等しいものがあった。
特別に断る理由も見当たらない以上、承諾する以外にない。

「はい。承知いたしました…」

古代は渋々返事をし、マーガレットは歓声と共に古代に抱きついてきた。


遠く離れた空の下、進と雪は同時に大きなため息をついていた・・・


(2)

大統領を迎えてのパーティーは、日本の政財界の大物達が催しただけあって、かなり大規模なものであった。
古代は着慣れない礼服に身を包み、正装したマーガレットに連れ回されていた。


ダンスだけは絶対にやらない古代は、マーガレットが踊りに出たときだけ開放されて一息つく事が出来た。

「こ・だ・い・さん。見てましたよ〜、お疲れのようですね〜。」

呼ばれて振り向いた古代は、思わず頭を抱え込んだ。

「南部に相原・・・お前らどこからわいて来たんだ・・・」

「いやですねえ、人を害虫みたいに。僕を誰だと思ってるんですか?今夜のパーティーは南部重工も主催してるんですよ。主催者側の人間なんですから、出席しててもおかしくないでしょう」

ニタニタと笑う南部の横から、相原が声をかけた。

「今夜は絶対に面白い物が見れるからって、南部さん、わざわざお父さんに出席できるように交渉したんだそうですよ。僕にも声を掛けてくれました。」

悪びれずに言い放つ相原に、古代の目がつり上がってきた。

「お前ら、『面白いもの』ってのは何のことだ!」

そこへ、ダンスが終ったマーガレットが、小走りに古代のもとに戻ってきた。
ちょこん、と古代の袖をつかむ美少女に、笑いをかみ殺しながら南部と相原は自己紹介を済ませた。


その時、古代達とは対角線にあたる位置から、一組の若いカップルが姿を見せた。

男のほうは、北米艦隊に所属していることを示すモスグリーンの軍礼服を着ていた。
長身のうえ、軽くウェーブのかかった金髪を後ろに流し、かなりハンサムなのだろう、女達の視線が彼に集まっていた。
女の方は、パウダーピンクのローブデコルテ(襟ぐりと背中の大きく開いた正装用ドレス)を纏(まと)い、綺麗に結われた栗色の髪が彼女の清楚な佇まいを引き立てていた。
男に連れられて人々に挨拶しているその女性を、古代はじっと見詰めた。

知った顔も多いのだろう、男は人々に彼女を紹介すると、優雅に挨拶し談笑する彼女を愛しそうに見詰めている。
ドレスの華やかさを競う女達の中にあって、この女性のシンプルで品の良い、そして一目で上質と判る絹地のドレスは、古代の大変好ましいものであった。
女の顔は見えないが、古代はその背中のラインや仕草が雪のようだと思い、つい目が離せずにいた。

古代の視線に気付いたマーガレットが、古代の腕を突付いた。

「進、あの女(ひと)は絶対ダメよ。私のお兄様の想い人なんだから。あっ、そうそう、あの軍服の人ね、私の兄なの。」

古代は驚いたが、同時に自嘲気味に笑った。

(雪がこんなところにいる筈もないのに・・・雪に逢いたさで俺はどうかしちまったんだな)

何人かの客と談笑した後、そのカップルが古代たちに近づいてきた。

「お兄様、こっちよ。ここにいらして!」

メグの声に男が振り返り、女性の背中を押して古代とメグの前にやってきた。

古代は、その女性の顔を見て凍りついてしまった。

そして彼女もまた、ゆっくりと上げた瞳の中に映った顔に、声もなかった・・・


(3)

(やっぱり雪!)
(古代君!どうしてここに?)

周りの喧騒も掻き消されたように、進と雪は目を見開いたままお互いを見詰めた。

「進、紹介するわ。兄のデヴィット。私の自慢のお兄様なのよ。雪さんですよね、初めまして。妹のマーガレットです。これからはメグって呼んで下さいね。進と雪さんは当然お知り合いよね。」

「え・・え・・・でもどうして・・・古代君がここに・・・?」

雪はやっとのことで声を絞り出して尋ねた。

「うふふ、私のパートナーよ。私、彼にお会いしたくて父と日本にきましたの。この3日間、ずっと進とご一緒できて、とても楽しかったわ。いろいろな所に連れて行ってもらっちゃた。今日もね、パーティーがあるっていうから、『私、進とじゃなきゃ出席しません』って言っちゃたのよ。ねっ、進」

何の屈託もなく話すこの少女を、雪はまじまじと見た。
年のころは16、7だろうか、波打つ金色の髪、明るいすみれ色の瞳、上気したピンク色の頬・・・若さと快活さに溢れた美少女だった。
もしもサーシャちゃんがいたなら、こんな感じだろうか・・・
進を見詰める目は間違いなく恋する少女のそれであり、対して「少女」と呼ぶには相応しくない成長しきった肢体が、雪には眩しかった。
進の腕に自分の腕を巻きつけ、全身を古代に投げ出して明るく話すマーガレットに、雪の胸が締め付けられた。

古代もまた、全身が震えだすのを懸命にこらえていた。
先程からチラチラと見えたこの女性の横顔・・・
雪のようだと思ったのは、自分の気のせいではなかったのだ!
だとしたら、どういう事なんだ?
この二人は、どう見ても仲の良い恋人同士ではなかったか?
この男・・・すらりとした長身に軍人らしいがっしりとした体つき、そして何よりも、その吸い込まれそうに蒼い瞳・・・。
女なら誰もが憧れそうな、「いい男」なんだろう。
確か、アルフォン・・・とか言ったあの男・・・あいつもこんなだったんだろうか。
しかしこの男、「雪を想っている」だと!?

今また、古代の視線を感じたように、デヴィットが雪の腰に置いた手に力を込めた。



そこへ、大統領がホールに現われ、人々の歓声と拍手が沸き起こった。

「あら、やっとお父様のおでましよ。お兄様、お父様にご挨拶はしたの?」

「いや、僕はいいよ。明日はずっと一緒なんだしね。メグから僕達が来てるって知らせといてくれるかい?」

デヴィットは、わざと『僕達』というところに力を込めて言った。

「判ったわ。進、行きましょう。では雪さんまた後ほど。兄を宜しくお願いしますね」

マーガレットは微笑むと、進を連れて大統領の元へ去って行った。
雪は呆然としながら、デヴィットに尋ねた。

「デヴィット、あなたのお父様って、まさか・・・」

「ああ、連邦政府の大統領ですよ。」

事も無げに言うデヴィットに、雪はどっと疲れが噴き出した。
どうりで、どこへ行っても彼には知り合いが多く、一介の青年将校に対するにしては丁寧な扱いを受けると思った。
ただの軍人らしくはない、とは思っていたけれど、まさか大統領のご子息だったとは!


「雪さん、踊りましょう」

雪は、あっけにとられたままデヴィットに引っ張られ、ホールの中央に立たされた。
ワルツのリズムが流れ、デヴィットのリードで雪が踊り始めた。
その姿といい物腰といい、とても優美な二人に周りの誰もが注目し、感嘆し、見惚れていた。
大統領父娘と、その傍らの古代進もその一人だった。

「ほら、お父様。今お兄様と踊っている人が、雪さんよ。」

「ほう、思った以上に美人じゃないか。で、デヴィはもうプロポーズしたのかな。」

「いやだわ、お父様。気が早すぎます。」

「何、男と女が愛し合うのに時間はいらない。私としては、来年の選挙までには決めてもらいたいね。元ヤマト乗組員なら、最高のブランドだ。彼女が我が家の嫁になれば、私の票も安泰だな。」

「まあ、お父様ったら。でも、昨日電話した時にお兄様も言ってたわ。『いずれ僕が大統領になったときも、彼女なら最高のファーストレディーになれるだろう』って。お兄様っ子の私としてはとても悔しいけれど、あの二人を見てたらこれ以上お似合いのカップルはないような気がするわ。そうは思わない、進?」

満足そうに笑う大統領の隣で、古代は叫び出したいのを必死で押さえていた。
そしてその後ろで、南部と相原が事の次第を楽しげに見守っていた。

「ほらな、面白いものが見れただろう?」

「古代さん、そのうち暴れだしたりしませんかねえ」

「くっくっ、そりゃ有り得るな。それにしても、予想以上に面白い展開になりそうだよなあ〜。藤堂長官なら絶対に犯さないミスだな、これは。こんな面白い場面を用意してくれた近藤代理に感謝するよ。」

「南部さん、あなたって人は・・・・・一体なにを期待してるんですか?」


(4)

やがて曲が終わり、デヴィットは雪の手を引いて壁際の椅子に誘(いざな)った。

「冷たい飲み物を取ってきますから」

そう言ってデヴィットは立ち去り、残された雪は進の姿を目で追った。


濃紺地に白いラインの軍礼服は、それを着るものが地球防衛軍司令本部付宇宙艦隊のエリートであることを示していた。
そして、詰襟の装飾と肩にかかる金モールは、その中でも更に一握りの者だけに与えられた栄誉である。
雪の目には、ここにいる誰よりも進が立派に見えた。

雪でさえ殆どお目にかかれない進の晴れ姿だというのに、どうしてその隣にいるのが自分ではないのだろう。

大統領父娘の隣に堂々と立っている進は、まるで大統領の娘婿のように見えた。
マーガレットも、相変わらず進に纏(まと)わりついて離れない。
この3日間の様子も、推して図るべし、といったところだろう。

雪のこめかみが、またズキンズキンと音を立てて痛み出した。



「雪さん、冷たいシャンパンをどうぞ」

デヴィットがグラスを手渡し、雪の耳元で小さく囁いた。

「すみません。私の後ろにいるご婦人が、是非私と踊りたいと・・・。1曲で戻りますので、ここで待っていていただけますか。」

もちろん、雪に依存はない。
むしろ、「1曲と言わずに何曲でもどうぞ」と言いたいところだった。


この光景を離れた場所で見ていた古代は、デヴィットが雪にキスをしたと思った。
そして、雪が彼のその行為に微笑を返したように思った。

爪が食い込むほどに拳を握り締めた古代は、全身の力を込めてデヴィットを睨んだ。
今、一歩でも動こうものなら、間違いなく公衆の面前で彼を殴り倒してしまいそうだった。
そうとは知らず、マーガレットは「進、進」と甘えかける。


雪もまた、古代とマーガレットの姿に息苦しさを感じていた。
もう、古代を見ているのが辛かった。

雪は、足元をふらつかせながら人ごみを縫い、よろよろとバルコニーへ出た。
バルコニーのベンチに座ると、熱を持った体が夜風にあたって心地いい。
少しうとうとしただろうか・・・雪はゾクッとした悪寒と共に目が醒めた。


「雪さん、こんばんわ。今宵のクイーンがこんな所で何してるんですか?」

雪が顔を上げると、南部と相原が笑っていた。
雪は、ほっとしたように微笑むと、哀しげ言った。

「とても疲れちゃったわ。早く帰りたい・・・」

「あれ、雪さん、泣いてたんですか?」

相原は、雪の大きな瞳が潤んで、頬が上気しているのに気付いた。
ニタニタと笑っていた南部が、真顔になって「ちょっと失礼!」と言うと雪の額に手を当てた。

「雪さん、すごい熱じゃないですか!いつからこんなに・・・」

「ああ、そう?だからこんなにだるくて・・・」

「相原、お前すぐに古代さんを呼んで来い!急げっ!」

相原はあたふたと室内に戻り、それと入れ違いにデヴィットがバルコニーに姿を現した。

「雪さん、探しましたよ。夜風は体に毒です。さあ、中に入りましょう。」

デヴィットは丁寧な口調だったが、雪に触れている南部に気を悪くしている事は明らかだった。
雪の手を南部からひったくると、雪を立たせてホールへ歩こうとした。
しかし、雪の重い足がもつれ、その勢いで南部の腕の中に倒れ込んだ。

「あんたなあ!雪さんこんなに熱があるのに、今まで気付かなかったっていうのか!?
一体どういうつもりなんだよっ!」

南部が喰い付いた。デヴィットは少し顔色を変えると、雪の頬を両手で包んだ。

「熱だって?本当だ・・・それならば私の部屋で休むといい。さあ、雪さん・・・」

相原に連れられた古代がバルコニーにやってきたのは、丁度そんなやり取りをしているところだった。

急を聞いて掛け付けた古代だったが、雪の体に手を掛けているデヴィットを見て、その場で足が止まった。
後ろから、マーガレットもついて来た。

「お兄様・・・いったいどうしたの?」

無言で睨み合う男達と、その真中でぐったりしている雪を交互に見て、マーガレットがそろそろと尋ねた。
その均衡を破ったのは、南部の声だった。

「古代さん、雪さんがひどい熱なんですよ! 何ぐずぐずしてるんです! 上に親父が部屋を取ってますから、そこへ雪さんを運びます。雪さんをこいつの部屋へ連れて行かれてもいいんですか? 古代さんっ!!」

「こだいくん・・・」

雪が古代の方へ歩み寄ろうとして、つまづいた。
一瞬、そこに居た誰よりも早く雪の体を抱きとめたのは、やはり古代だった。

「こ・・・だい・・・くん・・・」

それが古代の胸の中だという事を確認すると、雪の全身から力が抜け落ちた。

「南部、部屋へ案内してくれ!それと相原、医者の手配を頼む」

古代は、慣れた様子でさっと雪を抱かかえると、人々の注目も気にせずごった返すホールを突っ切った。
南部は古代を先導し、相原は医者の手配に走り、デヴィットとマーガレットは慌てて古代たちの後について走った。


(5)

「古代君・・・赤ちゃんが・・・私、妊娠・・・かも・・・確認して・・・薬はそれからに・・・」

エレベーターの中で雪が言った言葉に、一同は仰天した。
古代も内心の動揺を押さえながら、「判った」と短く答えた。

医者が来て診察が始まり、やがて静かに出て行った。
ベットルームから出てきた古代に、南部が詰め寄った。

「古代さん、雪さんは? もしかして、本当におめでた・・・?」

古代は小さく首を振ると、

「いや、ただの風邪らしいよ。このところ微熱が続いていたから、もしかして、と思っていたらしい。今点滴をしてるから、1時間もすれば落ち着くそうだ。」

と言った。南部も

「そうですか・・・雪さん、ショックでしょうね・・・」

と答えると、それ以上言葉もなく全員が押し黙った。

「ああ、心配をかけて申し訳ない。その事は・・・まだこれから先もチャンスはあるさ。」

古代は努めて明るく答えたが、つい先程、ほんの少しばかりの期待をしてしまっただけに落胆の色は隠せなかった。
自分でさえこんなに残念なのに、ずっと楽しみにしていた雪の落胆を思うと、古代の胸が痛んだ。


古代たちの会話を壁にもたれながら聞いていた兄妹は、そっと部屋を出て行った。

「あーあ、そういう事だったのね。私、進のこと結構本気だったのに・・・残念だわ。」

マーガレットはそう言うと、兄の顔を見た。
デヴィットは、血の滲むほどきつく唇を噛み締めたまま、何も言わずに歩いた。
そんな兄の態度に、妹は兄が本気だっだ恋を無くしたことを知った。


(6)

その日の明け方近く、自宅のベットの中で目覚めた雪は、薬のおかげであのだるさが無くなっているのに気付いた。
隣では、進が寝息を立てている。
雪は、進を起こさないようにそっとベットから滑り降りると、シャワーを浴びに行った。
濡れた髪を拭きながら雪がリビングに戻ると、暗闇で進が座っていた。

「シャワーなんて浴びたら、また熱が上がるぞ。」

「だって・・・髪の毛を結い上げていたから、洗わないと気持ち悪かったんですもの・・・」

「来いよ。拭いてやる。」

進は、自分の前に雪を座らせると、乾いたタオルで雪の髪を拭ってやった。
雪の瞳に、壁に掛けられた礼服の金モールが光った。

「マーガレットさん、かわいい人だったわね。」

「・・・・・」

「サーシャちゃん・・・あんな感じだったのかしら・・・」

「・・・・・」

「・・・今日ね、あなたとマーガレットさんの姿見てたら・・・私、すっごく妬けちゃったわ。とても辛かった・・・」

古代は思わず手を止めた。
古代はこの3日間、サーシャと過ごせたかもしれない日々を思いながらマーガレットと過ごした。
雪は、もしかしたらそんな自分の心にも気付いているのかもしれない・・・。

「ねえ、私、彼とは何にもなかったわよ。なにしろ自分は妊婦だと思っていたんだし」

雪が、泣き笑いの顔で言った。
古代の中に、雪への愛しさがこみ上げて来た。

「・・・なあ、雪・・・」

「・・・ん・・・?」

「抱いても・・・いいか?」

「・・・もちろん・・・」

今夜は古代だって辛かった。多分、雪以上に。
雪が自分とマーガレットの姿にやきもちを妬いたとするなら、自分は雪とデヴィットの姿に嫉妬で叫びだしそうだった。
我ながら、よく我慢したものだと誉めてやりたい。

「今夜の俺へのご褒美だな」

「えっ?あっ・・・」

そう言うと、古代は今宵の褒美の逸品を、心ゆくまで堪能した。



−−翌日−−

食堂で南部と相原がランチを摂っていた。

「考えてみたら昨夜の古代さん、すっごくかっこ良くなかったですか?」

「そうなんだ。美味しいとこ、もって行かれすぎたよなあ」

「こう・・・古代さんが抱えた雪さんのドレスがパーっと広がって、人々の注目の中を横切って・・・まるで、映画のワンシーンですよねえ。いいなあ、ああいうの。僕も早く恋人が欲しくなりましたよ。」

「君には10万年早いっつーの!」

「ふん、自分だって、この人!っていう女性にはなかなか巡り合えないくせに・・・」

「なんか言ったか?」

「いえいえ・・・あっそうそう、南部さん。僕、来月からしばらく、南十字島に出張に行く事になりましたから。新たな土地で、新たな出会いがあるかも知れませんよねえ」

「ないない。お前には100万年後まで無理だよ。」



いやいや、相原君。
君にも運命の出会いが・・・ほら、もうすぐそこまで来ていますよ。

おわり


拙作『29.My Sweet Home』の中で、古代君に「雪は大統領夫人にだってなれたのに・・・」という発言をさせてしまいましたので、大統領夫人になり損ねた雪ちゃんを書きました。
このお話の古代君は、「やきもち」なんて可愛い心境ではなかったと思いますが、本当に嫉妬したのは最後に雪ちゃんをかっさらわれた彼の方だと思います。
個人的に軍服は詰襟が好きなので、詰襟の軍服を着る古代君を書きたかったというものあります。
by せいらさん(2004.10.27)

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