091 誰にも負けない
せいらさん作



雪が部屋を出て行った。

『しばらく帰りません。探さないで下さい』

という置手紙だけを残して。
俺は手紙を手にしたまま、深いため息とともにソファーに沈んだ。

― 俺のせいだ・・・ごめんよ、雪・・・ ―

あの夜の事をどんなに悔いても、雪は許さないだろう。
俺は雪を・・・・・裏切って、傷つけて・・・しまった・・・・・・・・


(1)

事の起こりは同窓会。
俺がまだ父母と暮らしていた頃の友人たちとの、数年ぶりの再会だった。
懐かしい顔ぶれに、俺はすっかり気持ちを許して飲んでいた。
まだ幼かった友人たちは、皆それぞれに大人になっていたが、特に女性陣の変わりようには目を見張るものがあった。
紹介されても、誰だったかすぐに顔が浮かんでこない。
男どもは多少顔がしまって精悍になったくらいなのだが、女の子ときたら容姿はもちろん、話し方や仕草まで女性になってしまっているのだから、もう幼い頃の面影なんてなくなっていた。

それでも、用意のいい奴が昔の写真を持ってきていて、皆で大騒ぎしながらそれを覗き込んでなんとか昔と今の顔が一致してきた。


「へえ、君があの泣き虫紗枝ちゃん?」

俺の隣に座っていた、妙に豊満な体を持った女の子に俺は覚えがあった。

「きゃあ!嬉しいわ、古代君が覚えていてくれたなんて!」

大袈裟な叫び声を上げながら俺に抱きついてきた彼女に、俺は正直なところドギマギしてしまった。

「うん、君、飼育当番が出来なくっていつも泣いてただろう? 俺はそういうの嫌いじゃなかったからさ。 先生に『お前がこいつの分も面倒みてやれ』っていつも一緒に組まされてたよなあ」

「うれしい! 覚えていてくれたの?」

「まあね。・・・それにしても、変わったよね、紗枝ちゃん。あの頃は痩せっぽちで泣き虫だったのに。」

「うふふ、今じゃ笑い上戸のオデブさんでしょ? でも、変わったのは古代君の方よ」

その豊満な肉体を俺に押し付けたまま、酔って潤んだ瞳で見上げる彼女は、お世辞にも美人とは言えなかったが愛嬌のある女の子になっていた。
その無邪気な笑顔と潤んだ瞳が、確かに俺の記憶の中にある紗枝ちゃんだ。

「そうよね〜、古代君が一番変わったのかもしれないわ。昔のあなたを知ってる人なら、あなたが軍人になるなんて思いもよらないでしょうからね。しかも今では地球の英雄だもの」

昔から学級委員をいつも任されていた、しっかり者の真希ちゃんが俺を正面から見据えて言う。

「止めてくれよ。そんなの・・・」

俺は昔っから真希ちゃんのこの目に弱かった。
と言うか、いつも真っ直ぐに人を見て堂々と話すことの出来た彼女は、俺のあこがれの女の子だった。

少しずつ昔が甦り、俺もいつの間にか『ヤマトの古代』ではなく、『弱虫の進君』に戻っていた。
友人たちは、面白がってヤマトの事や軍での生活のことなんかを聞きたがったが、機密に触れることも多くあまり詳しくは話せない。
その代わり、と言っては何だが、今度は俺のプライベートのことを根掘り葉掘り聞き出そうとした。

プライベート、と言っても大半が宇宙勤務なので特に面白いこともない。
「恋人は?」と聞かれたので、「いるよ」と答えた。

その頃には、殆どの連中が出来上がっていて、会話もあっちこっちに飛び火している。
酒にはめっぽう強い俺は、適当に答えながら彼らとの時間を楽しんでいた。
時間が進むに連れ、特に女の子たちは目が据わって来だしていた。

「ねえ、古代君。彼女って誰よ。」

真希ちゃんの目が、いつもよりさらに据わっていた。

「そうよ、どんな女? 私たちの古代君をゲットするなんて、許せないわ」

「おいおい、『私たちの』ってさ・・・」

「あら、知らなかったの? 古代君って昔から可愛くってほっとけなくって、人気があったんだから」

紗枝ちゃんが、ニジニジとにじり寄って俺の腕を掴んだ。

「それは・・・どうも・・・」

俺は、男の本能ってやつが頭をもたげて来るのを振り払っていた。
紗枝ちゃんは・・・やたらと短いスカートから弾けるような足を見せ、その豊満さを強調している胸に俺の手を持っていくのだ。

俺は、はやし立てる観衆の前に慌てて手を引っ込めようとしたが、紗枝ちゃんはしっかり握って離さない。

「いいぞ、紗枝ちゃん!そのまま襲ってやれ!! こいつの彼女は超美人の才女らしいぞ。その彼女に今のシーンを送りつけてやる」

「おいっ、冗談じゃないぞ」

俺は本気で慌てたが、そいつは記念写真を撮るつもりで持ってきたカメラですっかりそのシーンを収めてしまった。
すると今度は、真希ちゃんが俺の襟首を掴んだ。

「古代君、写真、あるんでしょ。見せなさいっ!」

「へっ???」

「彼女よ! か・の・じょっ!!」

「えっ・・・? まあ・・・でもさ」

「出しなさいっ!」

真希ちゃんの目が恐ろしいほど本気で、俺は渋々いつも持ち歩いている雪の写真を取り出して見せた。
案の定、皆が黙りこくってしまった。
確かに、雪は俺には不釣合いなほどの美人だってことは自覚してるけど、さ。

「どんな女なの? 何処で知り合ったの? 結婚するの?」

ただ真希ちゃんだけは俺を見据えたまま怒ったように質問責めにし、俺は困ってしまって聞かれるままに答えた。
他の連中も面白がって、次々に割り込んでくる。
しばらくすると、真希ちゃんは俺の胸にすがってすすり泣き始めた。

「うっ・・・私、ずっと古代君のこと好きだったの・・・ひくっ・・・だから、今日会えるのを本当に楽しみにしてたのに・・・うっく・・・お願い、今夜だけでもいいから・・・うっ・・・私と・・・うっく・・・・お願い・・・」

少々飲みすぎの真希ちゃんは、泣きながら俺の胸で眠ってしまった。
皆が、ドンチャン騒ぎではやし立てた。

「古代、行け! 真希ちゃん送って行けよ!」

「そうよ、真希は今夜はこの近くのホテルを取ってるのよ。教えてあげるわ」

「美人の彼女には内緒にしとくからさ、行けったら!」

「そうだそうだ、我等が沈着冷静な委員長殿を泣かせた罪だぞ!ちゃんと送ってやれよ」
「ついでに真希の願いも叶えてね〜〜!」

みんな無責任に面白がって騒いでいる、
結局俺は、皆につまみ出されるようにして真希ちゃんをホテルまで送る羽目になった。
千鳥足の真希ちゃんを何とか部屋のベッドに寝かせると、俺もどっと今夜の酔いがまわって来た。

その後の事は・・・正直、記憶がない。
気が付けば朝で、俺の目の前で真希ちゃんが笑っていた。



(2)

うちに帰ると、雪はもう出勤した後で留守だった。
俺はほっとしてシャワーを浴びると、そのままベッドにもぐりこんだ。
目が醒めるともう夕日が傾きだしていて、昨日の後ろめたさもあってか、俺は腕をふるって夕食を用意した。

帰宅した雪は感嘆の声を上げて喜んでくれ、俺の朝帰りに対してあまり追求はしなかった。
もっとも、その話にならないように俺が一晩中雪の口を塞いでいたせいもあっただろうが・・・

そして翌日、雪が出勤し明日からの地上勤務に備えて俺が家で仕事をしていた時に、電話が鳴った。
相原からだった。

「古代さん、おととい合コンしませんでした?」

「合コン? 同窓会と言ってくれよ」

「やっぱり・・・古代さん、その時やっちゃいましたね〜。もう僕のところにも噂が耳に入りましたよ。雪さんが知るのも時間の問題・・・」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 何で俺の同窓会のことまで軍で噂になるんだ?」

「何でも、それに参加していた誰かが、うちの受付嬢の友人だとかで・・・」

「なっ、なにぃ〜〜〜!」

嘘だろぉ? 相原の詳しい噂話に俺は本気でうろたえた。
雪になんて言い訳しよう・・・

「とりあえず、事前にお伝えしましたからね。何とか対策を考えて下さいよ。古代さんが撒いた種なんですから」

画面の向こうで、相原の顔が気の毒そうな、楽しそうな顔をしていた。
その後、仕事が手につかなかったのは言うまでもない・・・


その夜、日付けが変わりそうな時間に雪は帰宅した。
雪は何も言わないまま、ただ黙々といつもと同じ行動をとった。
ただひとつ違っていた事は、いつものベッドでは寝なかった事。

雪は、無言のまま毛布を引っ張り出すと、俺たちが仕事部屋として使っている部屋に入ってピシャリと戸を閉めた。
俺は何とか言い訳をしようと扉のこちら側から声をかけたが、雪は何とも答えてくれない。
俺はしばらく扉の前をうろうろしていたが、やがてソファーで眠り込んでいたらしい。
窓外が眩しくて目覚めると、置手紙を残して雪の姿がなくなっていた。



(3)

「で、雪さんの行方は判らないままなんですね」

「雪さんのことだから、ちゃんと考えた上での行動だと思うんですけどねえ」

落ち込んだ俺への陣中見舞いと称して、相原や南部、また運悪く?地上勤務中の島や太田までが昼休みに俺の元へやってきた。
皆、もうすっかり例の噂は知っていて、出勤時にちらっと南部に雪の家出をほのめかしただけで、そのこともすぐに伝わったようだ。

「でもまあ、あれはまずいでしょう。」

「うん、雪にとっては、何よりもつらい事だったろうしなあ」

「ちょっと待ってくれよ、あの噂は大袈裟になっていたけどさ、事実はだなあ・・・」

「古代さん、言い訳しようっていうんですか?」

「お前、雪の前でも言い訳したんじゃないのか? ああいうのはだなあ、言い訳すればするほどドツボに嵌まるってもんだ」

「いや、しかし・・・」

こいつ等は慌ててる俺を完全に面白がっている。
俺は、終業時間を待って綾乃さんに連絡を入れた。
彼女なら、何か知っているかもしれない。
しかし、電話の向こうの綾乃さんは、申し訳なさそうに言った。

「ごめんなさい、雪に口止めされてるの。でもね、雪を信じてもう少し待ってあげて。彼女もこの事態を何とかしようとがんばっているのよ。雪が自分に自信を持てたら、そのときは必ず古代さんの元に戻ってくるから。お願い、黙って待っていてあげて。」

俺には教えてくれないが、綾乃さんは雪の行き先を知っているらしいこと、そしてそれは俺たちの関係を修復するために必要らしいってことは判って、俺は少しほっとした。
雪にしたって、仕事を放り出したままいつまでも行方をくらましている訳にもいかないだろうから、そう長い期間でもないだろう。
一切の連絡手段を絶たれた俺は、綾乃さんに俺が心から謝罪していることと、一日も早く戻って欲しい旨を伝言して、とにかく雪からの連絡を待つ事にした。



3日後の早朝、雪からの電話が俺を起こした。

「へ・・・? 」

今ひとつ飲み込めない俺に、雪は念を押すように告げた。

「だ・か・ら! 今日のお昼休み、中央公園の芝生よ。 お昼ご飯は食べないで来て欲しいの。判った?」

「うん、判った・・・」

「でもね、朝ご飯はきちんと食べてよ。」

そう言うと、4日ぶりの雪との短い会話が終わった。
俺は、狐につままれたような気持ちで昼休みに芝生に向かった。

中央公園は軍の施設内にある大きな公園で、特に今日のような天気のいい昼休みはお弁当を食べる職員で一杯になる。
俺は、やはり大勢が寛いでいる公園に来て、雪の姿を探した。
が、それは探すまでもなく俺の目に飛び込んできた。

芝生広場の真中で、大きなシートの周りに人だかりが出来ている。
その前で、俺に大きく手を振っている人影・・・雪だ!
俺が慌てて駆け寄ると、シートの上には大きな3段の重箱が置かれていた。



「遅かったわね、古代君。さあ、お昼にしましょう。」

雪は、昨日までのことが何も無かったかのように、ごく普通に俺に微笑みかけた。
俺は言われるがままにシート腰掛けた。

「さあ、皆さんもよろしかったら召し上がれ。たくさん作りすぎてしまったの。だって、外で食べるには最高の日なんですものね。さあ、どうぞ」

雪がにこやかに人だかりに向かって話し掛け、箸と小皿を手渡した。
それを受け取った一人が、感嘆の声とともに尋ねた。

「すごいなあ、これ本当に雪さんひとりで作ったんですか?」

「ええ、もちろんよ。時間はかかってしまったけれど、全て私の手作りよ。お味の保証はないけれど、よかったらつまんで行ってちょうだい」

そのとき、俺は初めて重箱の中身に目をやった。
信じられないほど煌びやかな、そして手の込んだ料理の数々が、3段のお重にびっしりと詰められている。
雪は手際よくそれらを取り分けると、一番最初を俺に、そして観衆に次々と手渡した。
俺は、恐る恐る卵焼きをかじった。

「う・・・うまいっ! 雪、本当に美味しいよ。これもこれも・・・すごい、まるでプロの料理人が作ったみたいじゃないか! 本当に美味いよ!!」

観衆たちも、信じられない美味さに大喜びだった。

「あらいやだわ。私、いつもと同じように作っただけじゃないの。古代君ったら、なにも今更のように誉めてくれなくても・・・」

雪が意味ありげに俺に目配せをして寄越した。

― えっ・・・?  いつもと・・・同じ??? ―

俺が首を傾げていると、重箱の下に一枚のチラシが見えた。
それをそっと引き抜いて、今回の騒動の全てを俺は理解した。

「いやあ、本当に雪さんは料理の天才ですよ。あんなうそっぱちの噂を流したのは、どこの誰なんだろうな〜〜。」

「ほんと、雪さんを妬んだ誰かが、適当なことを言ったんですね〜」

単純に誉めてくれる職員たちを前に、雪がにこやかに応対していた。
俺は、さっきのチラシをそっと懐にしまいこんだ。



(4)

夕方、昼間の騒動を聞きつけた奴等が俺の元にやってきた。

「おい古代、聞いたぞ昼間の弁当の件。一体どうなっているんだ?」

「そうですよ、雪さんのお弁当が職人が作ったみたいに凄かったって。それも最高に美味かったって・・・」

「そんなバカな・・・」

「うん、有り得ない」

こいつら、人の彼女のことを言いたい放題言いやがって・・・

「いや、本当だよ。本当に美味かったんだ」

俺は、少し得意げに言った。
やつらは、そんな俺の態度に不信感を抱いたようだ。

「だって、例の噂の元は古代さんの発言でしょう? 雪さんの料理はブタの餌並みだって・・・」

相原の奴、臆面も無く・・・

「いや、俺は『ブタも食べないくらいひどい』って言ったって聞いたぞ? 俺もさ、否定できなくって困ったよ。さもありなん、って言っといたけどさ。」

太田、覚えてろよ!

「だから俺は、そんな風には言ってないって! ただ、同窓会で雪のことをあれこれ聞かれて、何となく誉めるばっかりじゃバカ彼氏に見えるかなぁと思って、それで謙遜な気持ちで『家事は苦手で、特に料理は・・・gonyo gonyo・・・』って言っただけだぞ!」

「古代、噂なんて尾ひれがついてそんなもんさ。 しかしその話、雪にとっては否定できないだけに辛かったろうな。 ところで、そもそも雪はこの3日間何処で何をしてたんだ?」

島が、冷静に突っ込んできた。
俺は、懐から一枚のチラシを取り出すと奴等の前に広げた。


『服部川料理道場    ココにくればどんな初心者も料理名人になれる! 花嫁修業のあなたも、プロの料理人を目指すあなたも、お気軽にお申込み下さい。  尚、短期集中 合宿コースも用意してございます。    合宿コースお申込みの皆様は、卒業検定試験として、豪華3段重弁当を最終日に制作していただきます。輪島塗豪華重箱はそのまま差し上げます。』


「これは・・・」

誰もが絶句した。

「俺も、昼間 重箱の下で見付けたんだ。 どうやら、ここで修行してきたらしい。」

「・・・しかし、なんとまあ・・・雪も究極の負けず嫌いだなあ・・・」

「ああ、『たった3日間でマスターしたのは道場始まって以来だ』って、先生に誉められたらしいよ。『弟子入りしないか、って誘われたのを振り切ってきたんだからね』って自慢気に言ってたよ。」

あの後、雪にこのチラシを見せたとき、雪はぺろりと舌を出して「あら、もうばれちゃった」と笑った。
でも俺は、そう言った雪の指が傷だらけだったことを見逃してはいなかった。
ため息まじりに感心していた島が、急に真面目な顔して俺に言った。

「しかしな、古代。雪がそんなに必死に料理の勉強をしたのは、噂を否定したかったためだけじゃないと思うぞ。 雪にしたら、お前が『雪の料理はまずい』って人前で言った事がショックだったんだろうし、上手くなろうとしたのだって、お前のためだろうし・・・」

「ああ、判ってるよ。 あれは俺の雪への裏切り発言だった。どんなに雪を傷つけてしまったか、この3日間よ〜く反省した。もう二度とあんなことは言わないよ。」

「というか、もう言う必要もないだろうけどな」

皆で、「そうであることを祈るよ」と言いながら笑いあった。

「あ〜あ、結局は雪さんの古代さんへの愛情の深さが判っただけの騒動だったんですね。何となく面白くないな〜〜」

そう言った南部の言葉に皆はもう一度笑い、俺も頭を掻いて笑うしかなかった。


今回は、俺の不用意な発言のおかげで大騒動になってしまった。
しかし、俺の『つい、』発言と雪の負けず嫌いのおかげで、事態は思いがけない方向へ好転したようだ。
少なくとも、今日の弁当のメニューは雪のレパートリーとして今後もお目にかかれるだろう。

その夜、俺は雪の待つ我が家へお腹をすかせて帰って行った。





そうそう、読者の皆様に誤解の無いように付け加えると・・・


あの同窓会の翌朝、俺が目覚めると真希ちゃんが笑っていた。
でも、俺たちは二人っきりじゃなかったんだ。

「あら古代君起きたの? うふ、驚いた? 此処に来てすぐ、あなたったらぐっすり寝込んじゃうんですもの。いくら起こしても起きてくれないし・・・でね、みんなを呼んだの。だって、私達二人で泊まったら、いくら否定しても変に誤解されちゃうしね。 ちょうど帰れなくなったメンバーが2人いて、一緒に泊まってもらったのよ。」

その時、話し声で起きた旧友が割って入った。

「古代、真希ちゃんの配慮に感謝しろよ。お前は有名人だから変な噂は困るだろうって、わざわざ俺たちを呼んで、一緒に泊まるようにしてくれたんだから。尤も、ホテル側には内緒な、やばいから」

そう言って笑う友人は、昔 先生にイタズラをしてはバレて叱られていた奴だった。
一緒に笑いながら、真希ちゃんがポツリと言った言葉を、俺は聞かなかったことにした。だって、真希ちゃんらしくなく、目を逸らしていたんだから。

「私、本当は古代君とならよかったんだけど、な。 古代君のことを最初に『絶対に素敵な人になる』って思ったのは、私だと自負してたんだけど・・・残念だわ」

ありがとう、真希ちゃん。 
俺は、いつか雪に真希ちゃんに会ってもらいたいと思った。
きっといい友人になりそうな気がして・・・

そしてもうひとつ。
例の紗枝ちゃんの胸に手を突っ込んだような写真は・・・酔っ払いのカメラマンのおかげでまったく違うものが写っていた。

― おわり ―


古代君の失言が、雪ちゃんの女心に火をつけました。
愛する人にとって最高の女性でありたいと願うのは、古今東西を問わず誰もが思うところでしょう。
それに雪ちゃんの行動力が加われば・・・
しかし、それも「怪我の功名」? これからは古代君もヤマトの面々も、さぞ美味しい手料理をいただけることと・・・ 多分コーヒーも、ね(^^)v
by せいらさん(2005.4.25)

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