093 秘密
いずみさん作
と、ある朝(といっても何故か昼近く)、リビングのソファで古代と雪は優雅に朝のお茶を楽しんでいた。
『今回は久しぶりに雪と2人で4日も休暇が取れたからな。何しようかな?アレもいいけどアッチも捨てがたいし・・・』
休暇の使い道をあれこれ画策する古代に雪がそっと囁いた。
「古代くん。あのね、前にもちょっと云ったと思うんだけど、私、お友達と旅行に行って来てもいい?1泊なんだけど。」
「ふ〜ん。行っておいでよ。それで、いつ?」
「それが・・・明日から1泊で行って来たいの。」
「え、え〜〜〜?明日って・・・」
見る見る顔が曇っていく古代に、雪はぴったりと寄り添い、その耳元に優しく囁きかけた。
「だから、交換条件。魅惑のアレ・・・秘密・・・・・て、あ・げ・る・か・ら♪」
「ほ、ほんとか〜〜〜ゆき〜!!!」
「ね、だから行ってきて良いでしょう?」
「行って来い、行って来い。月でも火星でも太陽系内なら行ってきて良いよ。だけど『魅惑のアレ』は、先払いだからな。」
「えっ、先払いって?」
「だから、今すぐ、だ。」
「今すぐって、まだ、起きたばっかりだし・・・」
「今すぐでなきゃ、旅行には行かせないからな。」
「まったく・・・せっかちな、古代君。」
雪はひとつ溜息をつくと、胸元のボタンに手を掛けた・・・・。
それから、しばらくたって、また2人はソファの上。
「う〜〜〜ん。十分堪能させてもらったよ、雪。」
上機嫌な古代に、くすくす笑いを漏らす雪。
「じゃあ、約束よ。明日から1泊で旅行に行ってくるわね。」
「わかったよ。気をつけて行っておいで。でも、雪は作戦立てるのが上手いよなぁ。『こんなこともあろうかと』思って、あんなに俺を焦らしてたのかぁ?」
「さぁ、どうかしらねぇ。さて、と。旅行の準備しようっと。」
元気に寝室に消えていく雪に、『お手上げ』な古代であった。
次の日の朝(といっても、やっぱり昼近く)に雪は元気に旅立って行った。
古代もいそいそと外出の準備を整えている。
「ガスの元栓よーし、留守番電話よーし、戸締りよーし。」
思いっきり大声を出しての指差し点検である。職業病というか何と言うか(艦の中では安全の為、全て指差し点検が義務付けられている)、これをしないと今ひとつ安心して外出できない古代である。
点検を全て終えてエレベーターに乗り込むと、古代はさっきの雪との会話を思い出していた。
『サイタマエリアのワコウってところで<趣味の会>があるって云ってたけど、なんなんだそりゃぁ。全国からかなり多くの人が集まるって云ってたし。う〜〜ん、謎だ・・・。』
エレベーターが1階に着くと、古代は小走りで車に急ぐ。雪との会話など、ころっと忘れて車にいそいそと乗り込む。
「よかったなぁ、『魅惑のアレ』・・・。」
ジュルジュル出てくる生唾を飲み込みながら、古代は目的地に向かって車を急発進させるのであった。
このあたりで、賢明な皆様は『魅惑のアレ』が、何か何処か怪しいと思われていることでしょう(当然ですよね〜♪)。そこで。前半のラブラブモードが『ちょっとあっちの方』に行ってしまっても、『魅惑のアレ』の正体が知りたいと思われる方のみ、後半をご覧下さいませ。
それではタイムトリップして、昨日の朝のシーンから。
「まったく・・・せっかちな、古代君。」
雪はひとつ溜息をつくと、胸元のボタンに手を掛けた・・・・。
「パジャマのままじゃ動きにくいから、古代君も着替えてね。」
「了解!!!」
2人は部屋着に着替えるとお揃いのエプロンを身に付けた。
「最初は、器具の用意からね。まず・・・。」
雪の指示にてきぱきと動く古代。気合十分、思いっきり本気モードに入っている。
「最後にこれっ、と。」
雪が冷蔵庫から出してきたのは・・・・・なんと『鳥の腿肉』だった。
「雪、本当に教えてくれるんだな、『魅惑の鳥の唐揚げ』の作り方!!」
「ええ。幕ノ内チーフ直伝の『外はカラッと中身はジューシー冷めても美味しい魅惑の鳥の唐揚げ』の秘密のレシピ、教えてあ・げ・る♪」
たかが『鳥の唐揚げ』と侮ること無かれ。ヤマトのあの天才コック長・幕ノ内が、心血注いで編み出したレシピである。1度でも味わったものは『魅惑の・・・』と聞いただけで、生唾ゴックンものの一品なのだ。DIYの達人、そして料理の達人を目指す古代にとって、そのレシピは喉から手が出るほど欲しい(雪の1泊旅行と天秤に掛けても)ものだったのだ。其れを知ってか知らずか焦らしに焦らし、今日まで秘密にしてきた雪。思いっきり策士である。
それから暫く2人は料理に熱中し、自分が作り上げた初の『魅惑の鳥の唐揚げ』を十分に堪能した古代、先程のセリフになったのであった。
その日、古代が向かったのは近所にあるスーパーマーケット。そこで山ほど鳥の腿肉を買い込み、今晩の宴会に備えるのであった。
『島と相原に連絡しておいたから、まぁ5、6人は集まるだろうな。』
しかし、古代進読みが甘かった。『魅惑の・・・』と聞きつけたメンツが次々と押しかけ、古代は嬉しい悲鳴を上げながら、一晩中『鳥の唐揚げ』を揚げ続けたのでありました。
その頃雪も<趣味の会>のお仲間と、飲めや歌えやの大宴会の真っ最中。
『古代君。鳥の唐揚げは腿肉だけじゃなくで、骨付き肉も美味しいんだけど、レシピがまた違うのよねぇ。今度は何と交換条件にしようかしら・・・?』
大宴会中にもかかわらず、笑顔で作戦をあれこれと思い浮かべる、森雪・・・恐るべし。
そんな2人を満月が笑いながら見守っているのでした。
おしまい
ヤマパ留守番時、こんなものを書いてました(笑)。題して『雪ちゃん、作戦参謀編』です。生ものですのでお早めにご賞味くださいませ♪
byいずみさん(2004.10.19)