098 Wedding Bell
かずみさん(イラスト&文)作
「では、誓いのくちづけを。」
その言葉を合図に、進は花嫁のベールをそっと上げた。
うつむく雪の瞳はもうすでに潤んでいた。
長い間、待たせた。
万感の思いをこめて、進は愛しいひとの名を呼ぶ。
「雪……。」
「古代君……。」
進は涙でぬれる雪の頬に手を添えて、ゆっくりと顔を近づけた。
〜〜〜〜ここでしばし、参列者の心の声をお聞きください。〜〜〜〜
(やっとこの日を迎えることができたなあ〜。)
(古代、弟の晴れ姿をどこかから見ているか?)
(この教会、なかなかいいかも。)
(ぼくもいつかは、晶子さんと……。)
(このあとのパーティー、立食形式だったよなあ。)
(((((それにしても)))))
(長い。長いぞ、古代。)
(古代よ、お前の教育か、これは!?)
(ひゅー、やるじゃない、古代さんも♪)
(ぼ、ぼくもいつかは晶子さんと♪♪)
(腹、へったなあ。)
(((((この『誓いのくちづけ』ってのはいつまで続くんだ?)))))
〜〜〜〜ざわめく参列者一同〜〜〜〜
二人の前に立つ神父様も、雪の両親も、そして参列している防衛軍のお歴々も。
とまどいつつ、ことのなりゆきを見守っている。
と言うか、見守るしかなかったり……する。
一方、主役のふたり。
同じ立場でありながら、状況はまったくちがっていた。
雪は困惑しつつも「照れ屋な彼」のキスがうれしい。
もう少しこのままでもいいかな、なんて考えていたりする。
そして、進。
彼は……。
完全に『場の雰囲気』に酔っていた。
目の前の美しい花嫁がたったいまから自分の妻だ。
進を虜にしてやまないそのやわらかなくちびるも、今日は一段と甘い。
しかし、周囲のざわめきは次第に大きくなり、雪の困惑に拍車をかける。
(古代君、古代君。)
名前を呼ぼうにも、そのくちびるは進によってふさがれたままである。
(なんだか恥ずかしくなってきちゃった。どうしよう、古代君てば。)
彼の広い胸に置いた自分の手をそっと押し戻してみる。
(ああん。)
自分の頬に添えられた彼の手にいっそう力がはいってしまった。
(古代君てば、続きはまた今晩できるじゃないっ。)
意を決して、ドレスの中で雪がそっとヒールを脱ぎかけたとき―――。
「「「古代ーーーぃっ!!」」」
教会中に響く大声で『悪友』どもがはやしたてる。
「続きはあとにしろおーー!」
「なにもここでそんなに張り切らなくてもーー!」
「司令部中にメール送っちゃいますよーー!」
ハッと我に返った進の顔は、気の毒なくらい真っ赤であった。
「お、お前らーーーーっ!!」
式の進行を無視した悪友達は調子に乗って、新郎新婦のまわりに集まり出した。
「さあっ、外でも待っている人たちがいっぱいいるんですからね。」
「ライスシャワーですよ!」
「いや、こんな鈍感なヤツには豆でもぶつけとけー!」
「お前らの指図は受けねーよっ!」
進は言い放って、雪をふわりと抱き上げる。
「古代君!?」
「つかまってろ、雪!」
ヴェールをゆるやかに揺らして、ヴァージンロードをふたりが駆け抜けてゆく。
周囲からは「おめでとう!」の声、声、声!
そして後ろからは「パーティーに遅れるなよ!」との悪友達のありがたい忠告。
「結婚してもなんだか大変なのは変わらないみたいね。」
と、輝くような雪の笑顔。
「そうさ、覚悟してくれ。よろしくな、雪。」
進は雪を抱く腕に力をこめて、晴れやかな笑顔でそう言った。
終わり
感動的に厳かに、と思っていたのですが、私のカラーが思い切り出てしまいました。
でも、ここにくるまでたくさんの悲しみや痛みを味わってきた二人なので、思い切り賑やかに結婚式を挙げてほしかったのですわ(^^;)
by かずみさん(2004.3.17)
(背景:Pearl Box)