098 Wedding Bell



ともこさん作
「おめでとう。とても綺麗な花嫁さんだね」
真田は、控え室にいるウエディングドレス姿の花嫁に声をかけた。
「ありがとうございます」
花嫁は、初々しいはにかんだ笑顔を見せた。

もうすぐ彼女の結婚式が始まろうとしている。

「で。親父はどうした?」
真田はあたりを見まわした。
「さぁ。照れて逃げたのかもしれません」
花嫁は、声をたてて笑う。
「そりゃ、いかんな。代理で俺が花嫁の父をやってやろうか?」
「わぁ。大歓迎!」
花嫁は思わず真田に飛びついた。

「誰が、大歓迎だって?」
穏やかな声が2人の背後から聞こえた。
「誰も逃げてないが」
そう言いながらも、彼の目は娘を嫁がせる父として、何とも言えぬ目をしている。

冗談だよ、古代。
と言いながら、父娘の最後のひとときを邪魔せぬよう、真田はそっとその場を離れた。


ふむ。

教会の参列者の椅子に座って待っていた妻と息子の傍らに、彼も腰をおろした。

振りかえると、昔の仲間達も徐々に集まって銘々が順次着席している。
久しぶりに会うあいつらとの積もる話しは、この式が終わってからにしよう。
なんのかんのと言いながら、現役時代は皆同じ軍に在籍していたから、結婚してからも皆、会う機会は公私ともに多かったが、さすがに退役してからは会う機会も減ってきている。

実際、皆、足腰も弱ってるしなー。
集まるのもひと苦労だ。


彼は、前方に目をやった。

今日の花嫁の母親が長男夫婦と孫達と一緒に座っていた。
真田の視線に気付いた雪は、優しくゆっくりと目礼した。
膝に溺愛している孫娘をのせて抱いている。


あれが、いつも古代が自慢している長男夫婦の娘か、と彼は思った。
雪の美貌は、この孫娘にも伝わったのだな。
今日の花嫁も母親似で相当な美人だが、いやなに、性格は親父そっくりだから、新郎はしばらく馴染むのに苦労するかもしれん。
ただし、わかりあえると、とことん愛してくれる性格だがー。

長男夫婦も真田に目礼した。
古代夫妻の長男の拓は、幼い頃から真田の家によく遊びに来て、彼の息子とも仲が良かった。

拓は、笑うと目元が若い頃の親父そっくりじゃないか。
と、彼は思わず目を細めた。
後ろ姿も、ますます父親に似てきている。


これより式の始まりです、と告げる声が聞こえて、教会内はしんと静まり返って厳粛な空気に包まれた。

いい結婚式になりそうだ、と真田は思う。
花嫁の両親の47年前の結婚式には、新郎の身内はもう誰も出席していなかった。
47年後のそのときの新郎の娘の結婚式には、彼の妻・息子夫婦・孫達と、多くの家族が勢揃いして参列している。

教会の扉が開いて、祭壇で花嫁を待つ花婿の緊張気味な様子を微笑ましく眺めながらも、真田は静かにヴァージンロードを歩む花嫁と、その腕を持つ父親に心からの拍手を送った。

2人とも、目を真っ赤にしながらも、嬉しそうであった。


本当に、よかったな。古代。

彼の家族達に視線を戻すと、真田は、ゆっくりとつぶやいた。

(終)


古代夫妻も70歳になっちゃいました(笑)
こんなにタイムラグがあって、、いいのかなあ・・    by ともこさん

ともこさんちの古代君ちの一人娘さんの結婚式ですね。確か、お兄ちゃんの拓君とは随分年が離れて生まれたんですよね。娘の結婚式に涙する古代君の姿を想像してしんみり、そしてにっこりです。
でも……70歳ですかぁ〜〜〜〜(^^;) ってことは、真田さんは……おおっ(大汗)
あい(2003.10.2)

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(背景:pearl box)