見渡す限りの美しい色彩と、噎せかえるほどの芳しい香。
陽光が降り注ぐ中、それにすら負けぬのでは、と思わせる眩しい笑顔をたたえ、楽しげに遊ぶ少女が三人。
今日はエメロードたっての希望で、瑠璃を含める四人は煌めきの都市近くにある花畑へと来ていた。
花畑など、瑠璃にとってはあまり面白いものではない。
今も、近くにあった手ごろな木に凭れ掛かり、まどろんでいた。
護衛という名目でついてきてはいるが、この辺りは別段、強いモンスターが出てくるわけではない。
そのうえ、ティアラもいる。
…これ以上の騎士はいない。
まあ、そのティアラがいるから瑠璃はついてきたようなものなのだが…
「「る〜り〜くんっ!!」」
明るい二つの声が上から降ってきた。
続いてパサリという音とともに、頭と首に軽い重み。
瑠璃は一瞬のうちに現実へと引き戻される。
自分の首にかけられた花の首飾りと、同じ花で編まれた冠を見つめながら、瑠璃は苦笑する。
「オレに?」
二人は大きく頷くと、顔を見合わせて笑って。
そして瑠璃に背を向け、再び花畑へと駆け出していった。
瑠璃は冠を外すと手で弄んだ。
白い花びらが、陽の光りをうけて、ほのかに光って見えた。
「まあ、いいか…」
冠を頭に戻し、三人の方へ目を向けてみる。
楽しそうな少女達の笑い声。
世界中に祝福されているような光景。
それだけで、瑠璃は満たされたような気持ちになる。
自然と笑みが零れてくる。
―――こんな穏やかな時がいつまでも続けば良い…
瑠璃の素直な気持ち。
決して皮肉などではない、心の底からの願い。
…しかしそんな中で、ティアラの表情だけが何かに真剣になっている。
いや、真剣というより、それを通り越して苦々しいものになっている。
その表情が、明るい雰囲気の中で妙に際立っていて。
「………」
無言で立ち上がり、軽く下衣に付いた草を手で掃って。
瑠璃はティアラ達に歩み寄る。
初めに気付いたのは、真珠姫。
エメロードに目配せをし、二人でそろそろと立ち上がる。
しかし、それでもティアラは気付かない。
熱心に手元で何かやっている。
「るりくんにあげるんだって。」
瑠璃と視線を交わしながら、真珠姫はティアラに聞こえないよう囁く。
エメロードが、ぽんと瑠璃の肩を叩いた。
顔を真っ赤にしながら、それでもこっくりと瑠璃は頷く。
すとん、とティアラの横に腰を下ろすが、やっぱりティアラは気付かない。
瑠璃は面白そうな表情を浮かべ、ティアラを覗き込む。
ティアラの手には三本の花。
どうやらそれを結ぼうとしているようなのだが…
「…ん…っ!」
ティアラがちょっと力を込めた瞬間。
ぷちり
………………
「ああ、もうっ!!」
ガックリと肩を落とし、ティアラは切れてしまった茎を見てから、
「ねえ真珠、やっぱ……って、わぁぁっ!!」
ようやく瑠璃がいることに気付き、ティアラは大袈裟すぎるほどの反応を示す。
「ああ〜、びっくりしたぁ…」
ほっと胸を撫で下ろすティアラをよそに、瑠璃は、ティアラが勢い余って放り投げた花を拾いあげる。
「何してたんだ?」
花をくるくると回しながら、瑠璃は聞く。
「へ?…ああ、僕も瑠璃君に何があげたくて…でも…」
不器用だから…と、頭をかきながらティアラは苦笑する。
瑠璃が回している花に気付き、
「真珠が、ネックレス作って、エメロが冠作ったから、僕はブレスレットでも作ろうかと思って…たんだけど。」
話しているうちに、ティアラの声のトーンはどんどん低くなり、どんよりとした空気が漂う。
「…瑠璃君?」
「話し掛けるな。」
今度は瑠璃が手元で何かし始めた。
不思議そうにティアラが眺めていると、
「ほら。」
手渡されたのは、一本の花で作られた指輪。
「これくらいなら誰だって出来るだろ?」
ふっ、と笑いながら瑠璃が言う。
途端に、ティアラの顔がぱあっと明るくなって。
「やってみる!!」
瑠璃が作った指輪をそっと脇に置くと、早速作り始める。
(まるで子供だな…)
―――数分後
「ほら、見て!!」
出来たばかりの指輪を、得意げに瑠璃の目の高さまで掲げてみせる。
子供のように瞳をきらきらさせているティアラが、無性に可笑しくて。
…可愛くて。
くすくすと笑いながら、瑠璃は先ほど自分で作った指輪を拾い上げ、ティアラの手を取る。
「じゃあ、これはオレから。」
目を丸くして、それを見ていたティアラだったが、しきりに手を太陽に翳したり、間近で見つめたり。
そうかと思えば、少し離して見つめてみたり。
それらを何度か繰り返したあと、ティアラはくすぐったそうに笑って。
「ありがとう…!!」
じゃあ、と今度はティアラが瑠璃の手を取る。
「あげる。」
にっ、と照れたように笑って、瑠璃の返事を待たずにティアラはごろりと寝転がった。
「い〜い天気だなぁ…」
どこかわざとらしいその声音に、なんともいえない優越感を覚えて。
「ああ、いい天気だ。」
瑠璃はそう言って、ティアラの隣に身を投げ出した。
二人の寝顔を見下ろす影が二つ。
「気持ちよさそうにねむってる…」
「私達も寝よっか?」
「…じゃましちゃわるいよ…」
「いいじゃん、どうせ寝てるんだし!」
言うが早いか、エメロードが寝転がった。
ちょっとだけ遠慮して、ティアラ達と対称に。
「もう…」
そう言いながらも、真珠姫もエメロードの横に寝そべる。
緑の匂いがする
土の匂いのする
くすぐったい草のベッドで
やわらかな風に頬をくすぐられ
互いを想い、互いの夢を見る、恋人達。
幸せを体いっぱいに感じながら眠る、少女達。
たとえば、いつの日か…
永遠に別れてしまうその日が来たとしても。
このあたたかな、光り溢れる日々は
永久(とわ)に色褪せない…
[END]
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