黒い夢の終わりに待つものは…?
「暗い顔してる。」
眉間にしわを寄せ、ティアラがオレの顔を覗き込んでくる。
大きな銀の瞳を、今はほんの少し細めて。
口はへの字に曲がっていて。
「別に…」
心配をかけたくない、とかそんな理由ではなくて。
ただその時は、話すのが酷く億劫だったから。
体がだるくて
目眩がして
吐き気がして
…あの夢を見た後はいつもこうだ。
「……」
あまりにも気分が悪かったものだから。
つい、とティアラから視線をずらしてみた。
別に、悪気があったワケではなかった。
本当に、何かを考える事が億劫で。
何も考えられなくて。
だが軽く体を傾げて、ティアラが再びオレを覗き込んでくる。
心配そうな表情を浮かべながら。
「…………」
今度は反対側を向いてみた。
同じようにティアラはオレの顔を覗き込んでくる。
…ただ、随分とそのバランスは悪くて…
そのまま同じ方向に視線をずらしていく。
ティアラもそれを追って、追って、追って…
どしゃ!
「イタタ…」
「…バカ」
はあ、と思わず溜息が漏れた。
こんなお約束、まさか地でやるヤツがいるとは…
全く、驚きを通り越して、呆れ返ってしまった。
しかも、その大マヌケをオレは…
オレは…
倒れたティアラを抱き起こし、そのまま腕の中に閉じ込める。
そうすれば、おそらく真っ赤になっているであろう、情けなく格好悪い己の顔を見られないですむから。
「る、瑠璃君!!」
いつまでたっても、変わらないこの反応。
「はなーせーっ!!」
じたばたと暴れ、
「んーっ!う〜んっ!!」
一生懸命オレの腕から抜け出ようとするのだが…オレだって簡単に離す気なんてない。
そう、出来るのなら一生…いや…
…永遠に…
目の前に翳した手すら見えないほどの、深い深い闇の中
そのうち、歩いているのか、止まってるのか、それすらもわからなくなってくるほどで
おとなしくなったティアラの、その髪に自分の顔をうずめる。
花の香のような、甘い、女の子の香がした。
「ティアラ…」
目の前にいるのに
こんなに傍にいるのに
コイツのあたたかさに触れているのに
「オマエは…オレをどう思ってる…?」
不安なんだ
「…ど、どうって…好き、だよ…?」
苦しいんだ
ティアラを抱きしめる腕に力を込める。
「……瑠璃…くん…?」
痛いんだ
「…瑠璃く………んっ…!」
こうして唇を重ねていても
強く強く抱きしめていても
不安で
苦しくて
痛くて
怖くて
たまらない…
「好きだ…ティアラ…」
驚いたように、ティアラがオレの瞳を覗き込んでくる。
「…好きだ…」
もう一度、独り言のように呟く。
「僕も好きだよ?」
いつもどおりに微笑(わら)うティアラが、何故だか今日は、消えてしまいそうなほど儚く見えた。
漆黒の闇の中に小さな光を見つけ
オレは走り出す
光に向かって走っているはずなのに
それにはなかなか近づけなくて…
やっと見つけたのは
手に入れたのは
ほのかに光る小さな羽
震える手でそれを拾うと
嘘のように、儚くそれは消えた
後に残されたのは
深い深い漆黒の闇
孤独と絶望感
なぁ…
オマエもいつか、この羽のように儚く消えてしまうのか?
この夢は…
オレへの警告なのか…?
[END]