「ベルナール兄さんっ!」 君が満面の笑顔を浮かべて、大きく大きく手を振るものだから。 僕の顔も自然と綻んでしまうんだ。 「やぁ、待たせてしまったかな?小さなアンジェ」 「いいえ。待ち合わせの時間ぴったりに着いたの。兄さんは今日も忙しいのでしょう? それなのに5分しか遅れていないわ」 慌てたように、ふるふると首を振るその姿は、本当に本当に愛らしい。 けれども、さきほどまで僕に向けて大きく振ってくれていた手が、 今はポケットに納まっているのを僕は見逃さない。 「……本当かな〜?」 「ええ。私が兄さんに嘘をついたことがあるかしら?」 胸を張って答えているのだが、残念ながら僕だってジャーナリストの端くれ。 それも、可愛い可愛い君のことに、僕が気付かないわけがない。 「それじゃあ、可愛い小さな嘘つきさん? 君のチャーミングな鼻がこんなに赤くなっているのはどうしてかな?」 「ええ!?」 君はとても慌てた様子で、ポケットに入れていた手も取り出して、両手で自分の鼻を隠してしまった。 そんな動作が、さらに墓穴を掘っているのだということに、君は気付いていない。 「それにほら……ポケットに入っていたはずなのに、君の手はこんなに冷たくなっている……」 僕は、鼻を隠していた君の小さな手をそっと自分の手で包み込んであげる。 つい今しがたまで暖かな部屋にいた僕の手は、当然温かいわけで。 だからこそ、君の手が氷のように冷たく感じてしまう。 「……ごめんなさい……やっぱり兄さんには敵わないわ……」 ほうっと、君の唇から漏れ出たため息は、冷たい空気の中で白く色づいた。 「どうして君が謝るんだい?悪いのは、君を待たせてしまった僕だよ」 「……そんな、こと……」 消えてしまいそうな程小さな声で囁かれると、僕はどうしていいかわからなくなってしまう。 いい年をした大人のはずなのに。 君を護れるほどの大人になったと思っていたのに。 全くもって、まだまだのようだね、僕は。 「さぁ、そんな顔をしないで、アンジェ。折角のデートなんだからね」 『デート』という言葉に、君は頬を染めてこくりと頷いた。 全てがチャーミングな君。 僕は、ほんの少しでも君の表情に期待を抱いてもいいだろうか。 僕は、もう少しだけ、君の手を握っていてもいいだろうか。 十数年前、この関係に名前をつけるとすれば、それは兄妹というのが一番適当だった。 けれど、この想いに気付いてしまった今は。 「僕の可愛いアンジェ。君に一つお願いがあるんだ」 そう、この想いに気付いてしまった今は。 兄のような僕。 妹のような君。 ……なんて関係ではいられない。 この関係に名前をつけるとすれば ---------------------------------- そう、欲しいものはたった一つ |