2:Verwarnung ―警告― 「―――……」 絶句。 まるでそれらは、画布に描かれた油絵の花を思わせるように。 色とりどりの布切れが部屋中に散らばっていた。 開け放された窓から吹き込んだ風が、それらを美しく舞わせる。 「(ほんの少し部屋を空けただけなのに……)」 壊れた窓、開け放たれたクローゼット。 パーティーに着ていく予定だったドレスは、装飾の部分が剥ぎ取られ、 ずたずたになって床に打ち捨てられていた。 色とりどりの布は、このドレスと私服の切れ端だったのだ。 しかも、そのドレスと共に身に着けていくはずだった宝石もなくなっていた。 高価なものではないが、それを贈ってくれた養父母には申し訳ないと思う。 だが、申し訳ないと思ったのは、単に『盗まれたから』ではない。 『そんなものはどうでもいい』と思ってしまったことだった。 他のアクセサリーが仕舞ってあるクローゼットは後回しにして、 フリーデリカは、物色された痕のある机に向かった。 半分くらい開いている引き出しを、さらに引っ張り出す。 一番奥にあった薄汚れた小さな木箱を取り出すと、フリーデリカは恐る恐るその蓋を開けた。 「……良かった……」 大切なリボンは無事だった。 それを確認すると、もう、騒ぎ立てようという気持ちがわいてこなくなった。 侵入の際に壊された窓は、そのままにはしておけない為、先生への報告は必要だが。 ―――学園は養父母に連絡するだろうか―――それを思うと少し面倒な気もする。 木箱を抱えたまま、改めて盗られたものを確認し、バルコニーを見て、壊された窓を見た。 「……はぁ……」 小さなため息が漏れた。 何もここまでしなくても、とフリーデリカは思う。 これでは、しばらくの間、この部屋は使えないだろう。 部屋はあつらえてもらえるだろうが、荷物の移動は面倒だな、と思う。 ああ、そうだ。 この後クリスマスパーティーがあるではないか。 だが、これでは参加を断念せざるをえない。 エスコートしてくれるはずだったオルフェレウスはもう間もなく迎えにくる頃だろう。 彼には申し訳ないが、お断りするしかない。 彼は怒るだろうか、それとも悲しんでくれるだろうか。 あの美しい心でもって。 そう、オルフェレウスは美しい。 美しすぎるという言葉が、言い過ぎではないほどに。 その容姿も、その理想も、その魂も。 何もかもを神に祝福されているような気さえする。 いや、実際そうなのかもしれない。 彼の傍にいると、卑小な自分などその光に焼き尽くされてしまう、そんな錯覚を起こしてしまうのだ。 「……ふー……」 深くため息をついた後、既にその役割を果たしていない窓を静かに閉めた。 「(しっかりしなくては……この程度のこと)」 散らばったガラスの破片を踏みつけ、部屋の扉を開ける。 オークの分厚い扉が、いつもより重く感じた。 廊下には既に着飾った女生徒達があちらこちらで談笑していた為、フリーデリカは素早く外に出ると扉に鍵をかけた。 部屋の中を覗かれまいとしての行動だったが、そんな彼女のことなど、他の女生徒達はお構いなしだ。 それに、少しの安堵を抱きつつ、フリーデリカはオーガスタの部屋の扉をノックした。 |