3:Zweifel ―疑惑― ぱらぱらと、女生徒達が寮から出てくるのを、オルフェレウスとエドヴァルドは門の傍で見ていた。 中にはエスコートしてくれる男性を尻目に、彼らに声をかけてくる女生徒や、 エスコートしてくれる相手のいない女性徒が、意を決して誘ってきたりする場面もあった。 ある程度は、そういったことがあるだろうと想定していたため、かなり早い時間に待ち合わせていたのだが。 「フラれたんじゃねぇの?」 「……どうしてもお前は、そういうことにしたいようだな」 とは言ったものの、約束の時間から早いもので一時間が経とうとしている今。 楽観的に構える続けるのはそろそろ限界だった。 朝方から降っていた雪が止んでくれたのは、神が手を差し伸べてくれたのかもしれないが、とにかく寒い。 エドヴァルドは何度か車で待とうと言ったのだが、オルフェレウスは耳を貸さない。 一人車で待つのは気が引けた為、渋々ながら、親友の傍で待ち続けた。 「エド、お前こそ今日は、誰かのエスコートはしないのか?」 「あーいう堅苦しいのは性に合わねーんだよ。 ……そんなことより、誰かさんの恋路を応援してる方が楽しそうだしなっ!」 「……邪魔、の間違いだろう?……どうせ、お前の方こそ、誘いに応じてくれる者がいなかったじゃないのか?」 「……言ってくれるじゃねぇか、オルフェ……言っとくが俺はなぁ!」 そんなやりとりを続けていると、見慣れた少女達がこちらに近づいてくるのが、視界に入った。 フリーデリカと共にシュトラール補佐委員に選出された、オーガスタ、ヴェルヘルミーネ、マリーンの三人だ。 「ごきげんよう。オルフェレウス様、エド様」 「……君たち……」 「あれ?あのお嬢さんは?」 「残念ですが、フリーデリカは今日のクリスマスパーティーを欠席するそうですわ」 「なっ……!」 「君は、理由を知っているのか?」 「……気分が優れないと。オルフェレウス様には、申し訳ないと伝えて欲しい、と申しておりました」 オーガスタらしい淡々とした口調で、動揺している風でもない。 笑顔ではないが、心配の色もその表情からは見て取れなかった。 他の二人も、いつもの表情を崩さない。 「なんだよそ」「伝えてくれてありがとう」 エドヴァルドが何か言おうとするのを、オルフェレウスは手で遮り言った。 これ以上何かを問いかけても、この少女の答えは変わらないだろうと思ったからだ。 「お力になれず、申し訳ありません。私達は三人で参りますが、よろしければご一緒にいかがでしょう?」 「すまないが、エリカ君に見舞いの品を贈ってから向かおうと思う」 「わかりました。会場でお待ちしておりますわ」 三人はそれぞれ一礼をすると、待たせていた車に乗り込んで行ってしまった。 後に残された二人―――特にエドヴァルドの憤りはかなりのものだ。 「馬鹿にしてるとしか思えない!一時間も待ったんだぞ!?この寒い中を!!」 当のオルフェレウスはというと、突然の事態に、多少の戸惑いを感じていた。 エドヴァルドのような憤りは感じなかったが、疑問はあった。 「昨日までピンピンしてたじゃねーか……」 そうなのだ。 昨日までの彼女はいたって元気そうだった。 オルフェレウスは、今日の約束について直接言葉も交わしていたのだから。 今回のエスコートに関しても、それなりに楽しみにしてくれていると思っていたのだが。 「(……私の勘違いだったのだろうか……)」 そう思えば物悲しくもなったが、本当に具合が悪くなったのかもしれない。 憶測だけで判断してしまうのは、フリーデリカにも悪いと思うし、自分の哲学にも反する。 オルフェレウスが何も言わずに、考え込んでいた所為だろう。 頭上の空のように曇っていく親友の表情を見ているうちに、エドヴァルドの怒りは頂点に達した。 「……やっぱ、直接会って文句言わねえと……気がすまねぇ!!」 「!?……エド!!」 まるで、ここにフリーデリカがいたら、彼女の胸倉すら掴みかねないと思わせるほどの剣幕で。 さすがに、女性に対してそんな態度はとらないだろうと、オルフェレウスは信じているのだが。 「止めたってムダだオルフェ!お前はあのお嬢さんに惚れてるから我慢できてもなー…… ……俺は我慢の限界通り越してんだよっ!」 「ほ、惚れているわけではないっ!……いい加減なことを……あ!エドっ!!」 オルフェレウスの静止の声も聞かず、エドヴァルドは女子寮へ向かって駆け出していた。 真っ白な雪を溶かす炎のような赤い髪が、上下に大きく揺れて次第に小さくなっていく。 オルフェレウスは、混乱した頭を抱えながら、その後姿を見つめることしかできなかった。 |