4:Einfall ―侵入― 結局。 エドヴァルドは当然の如く門前払いをくらって、憤り冷めやらぬ様子で親友の元に戻ってきた。 だが、手ぶらでは引き下がらないのが彼だ。 一体何処から入手してきたのだろう、女子寮の図面をオルフェレウスの前で広げてみせる。 「まさか、お前……」 「しょうがねーじゃん。顔すらださねえアイツが悪い」 「何を考えているっ!婦女子の部屋に忍び込むなど……」 「しー、声でけーよ、オルフェ……それよりこの辺り、か?」 「……エド、私はお前を見損なったぞ……!」 「お!おあつらえ向きの木があるな。けど、忍び込む輩がいるとマズイから後で切っとかねーとな」 「…………」 もはや、オルフェレウスは彼を罵倒する言葉すら思いつかない。 取っ組み合いの喧嘩になったとしても、彼の意思を変えることはできないだろう。 エドヴァルドはといえば、途中で枝が折れたりしないか、入念に確認している。 「じゃー、ちょっくら行ってくるわ」 「……10分で戻れ。それ以上経ったら通報する」 「オイオイ、そんなに心配すんなって。いくら俺だって今から10分じゃ何もでき」 「エドっ!!」 「わーったよ!可愛い冗談じゃねーか……ったく、お堅いヤツ……」 ため息を漏らすと、エドヴァルドは木の枝に手をかけた。 彼の運動神経がいいことは、オルフェレウスも十分に知っているつもりだったのだが。 そこに雪が積もっていることなど、微塵も感じさせぬほどの速さで登っていく。 そうして、木から塀へと器用に飛び移ると、塀の反対側へとその姿を消した。 「……エドの前世は、木の上で生活する動物だったのかもしれんな……」 眼前に聳え立つ塀の高さは、6〜7メートル……いや、8メートルはあるだろうか。 彼は無事に着地できているのだろうか。 自分のいる外側からは、彼の状況は勿論、彼女の部屋の様子さえも窺い知ることはできない。 なんだかんだ言って、彼が女性を粗雑に扱うことなど考えられないのだが。 いや、それよりもなによりも。 「さて……早急にこの木を切る申請を出さねばならぬな……」 これが、初めてとは思えぬ親友の手際の良さに、オルフェレウスは疲れの色を濃くした。 さて。 一方のエドヴァルドは、フリーデリカの部屋の下であろう場所にいた。 新雪の上だったため、着地の際に受身をとっても衣服はさほど汚れずに済んだ。 とはいえ、あの高さからの落下衝撃は、結構なものだったが。 颯爽とあの場を去った手前、情けない声をあげることは彼のプライドが許さなかった。 「……なんだ、コレ……」 真っ白な雪の絨毯の上に、その結晶とは別に煌く何かがある。 手袋をはめたままの手でひらりとつまみ取ると、エドは眉根を寄せた。 「硝子の……破片……」 今日は朝方からつい先ほどまで、しんしんと雪が降り続いていた。 現在は雪こそ降っていないが、寒さは相変わらずで。 今日は、積もった雪が溶けるようなことはないだろう。 だから、それより以前のものが顔をだしているということはありえない。 つまり。 「(この数時間のうちに……)」 目の前の部屋の硝子は割れていない。その両隣の部屋も、だ。 「(ということは……)」 エドは今しがたまでの憤りが、急速に冷えていくのを感じた。 悪い予感がする。 あつらえたようにそこに植えられた木にエドは手をかけた。 ************************************************************** エド様の丈夫さと運動能力についての追記。 通常の人間が、衝撃を緩和するもの無し(コンクリートとかね)で、 地面に足から着地して無事な高さが4メートルくらいだそうです。 これでもかなりの衝撃があり、骨折する場合があります。 それ以上の高さからだと、着地の衝撃で転倒し頭を打つケースや、 衝撃自体で死亡したりする可能性が出てきます。 1つの階の天井が高い欧米の建築物にも関わらず、 エド様は2階から飛び降りても颯爽と駆けていってます。 アニメでは、崖下に転落しても自力で這い上がって自宅まで歩いて戻り、 ピアノまで弾く余裕っぷりです。 ちなみに沖を暖流が流れるクーヘン王国では、積雪はあまり期待できません。 だから、雪がクッションになるってことはなさそうですが。 まあ、服が泥で汚れない程度には積もるかなーと。 あとは、乙女の部屋が外側から簡単に覗かれちゃったら大変よね。 っていう朝来の独断と偏見により、この高さになりました。 ホントはもっと高くしたかったんだけど、さすがに人間離れしすぎちゃうしね。 決して真似しないで下さいね。(しないとは思いますが) |