「ザ・イヤー・オブ・シェアリング」の挿絵です。 新聞紙のカラー部分を切り貼りしました。 (ハリー・ギルバード著 オックスフォード大学出版) |
|
リチャードは村の静かな暮らしに退屈しています。 彼のあこがれは自動車を運転すること。それも、ビュンビュン飛ばして。 でも、リチャードの暮らす未来の世界には車は一台もありません。 そこには自転車と小さな村と緑の森があるだけです。 |
|
村には厳しい掟がありました。 どの子も12歳になるとたった一人で森へ行き、野生動物と暮らさねばなりません。 このパーティーが終わったら、いよいよリチャードも旅立ちます。 「必ず生き抜いて、ここに戻る」彼は心に誓います。 |
|
豊かな森の中に点在する塀で囲まれた人間の村。 村人はその中でつつましく暮らし一生を終えます。 かつてはこの星も文明が栄え人類が自由をおう歌したこともありました。 しかし今、自由に生きられるのは野生動物だけなのです。 |
|
パーティーの翌朝、リチャードを待ち受けていたのは鹿の家族でした。 「こんな逃げ回る動物じゃなくて、もっと強いやつがよかったのに」 リチャードは心底がっかりします。 |
|
鹿の家族には役割分担があります。 父鹿は家族を守り、母鹿は子鹿に食べ物を教え、兄鹿は妹鹿にジャンプの仕方を教えます。 リチャードは鹿の兄妹とすぐに仲良くなりますが、ごはんも服も家もない暮らしに不安を覚えます。 |
|
森に入って初めての夜。リチャードは空腹と暗闇と寂しさに苛まれます。 ホームシックにかかった彼を救ったのは母鹿の温かいお乳でした。 妹鹿と一緒に母鹿に寄り添って、彼はやっと眠りにつくことができました。 |
|
森の中で最悪の二週間が過ぎました。 あこがれていた自由な暮らし。 それは雨にぬれて寒くてヘトヘトで、いつも何かに怯える情けない日々でした。 傷だらけのリチャードは葉っぱで服を作ります。 |
|
ある日、木立の中から一匹の狼が現れました。 鹿の家族は急いで逃げようとします。 「たった一匹の狼に、鹿が四匹と僕がいるじゃないか」 リチャードは闘うことを決意します。 |
|
兄鹿も居残りました。 リチャードは石投げが得意だったので、簡単に狼を追い払えると思ったのです。 ところが石は一つも当たらず、別の狼が猛スピードでこちらに向かって来ます。 |
|
リチャードは兄鹿を逃がすと命からがら木のてっぺんに逃げました。 そして、このまま一人で生きてゆこうと決意します。 しかし、必死でリチャードを探し歩く母鹿の姿に胸打たれ、再び家族のもとに戻ります。 |
|
狼の遠吠えは、ずっと続いています。 鹿の家族は何度も水に入り森や平原を抜け、彼らの追跡を振り切ろうとします。 リチャードは、この危機を乗り越えるため武器を作ります。 兄鹿は妹鹿にハイジャンプの仕方を教えます。 |
|
ある日、妹鹿が足に大けがを負いました。 父鹿は仕方なく妹鹿を茂みに隠して移動しようとします。 しかし妹鹿が心配になったリチャードは、再び家族と別れてその場に残ります。 |
|
数日後、二匹の飢えた狼に見つかったリチャードは、武器のパチンコで一匹の狼を殺します。 逃げ帰ったもう一匹の狼が、今度は大家族を引き連れてやって来るに違いありません。 |
|
大きな湖を長い時間泳いで、リチャードたちはやっと向こう岸にたどり着きました。 疲れておぼれそうになるリチャードを救ったのは、泳ぎの得意な妹鹿でした。 |
|
ついに、鹿の家族は喜びの再会を果たします。 しかし、狼の遠吠えはドンドン近づいて来ます。 リチャードは、妹鹿の足の傷口から再び血が流れ出ていたことに気づきます。 |
|
遠くへ逃げるにはもう手遅れでした。愛する家族を守るため、リチャードは一人で平原へ向かいます。 めざすは岩だらけの丘でした。「そこなら狼も登れない」 リチャードはひたすら走り狼の群れは彼を追いかけます。 |
|
やっと安全な場所にたどり着いたリチャード。しかし、あたりは狼たちでいっぱいです。 「ゆっくり眠りたい。最後にごはんを食べたのはいつだったか」 疲労困憊したリチャードは、彼らの飢えた叫びに耳をかたむけます。 |