「うーん…まずったなぁ…」



暗い廃墟ビルの中、辺りに電気はなく頼れるのは日の光だけ。

前を見ても後ろを見ても先に見えるは闇であり、物音一つもない静寂だけであった。






「うーん…」





ただ唯一聞こえるのは、少女の困ったような声。


























Existence

―無限城"IL"奪還作戦!―




























「しまったなぁ…とっさのことだったから、ついみんなとは別方向に行っちゃったんだよね…。」


先程から同じ場所に立っていた少女、はとにかく困り果てていた。


なんとか無事に無限城の中にはたどり着いたものの、早速追っ手が現れ、

戦闘状態に入ってしまったのだ。


しかもその中に毒煙を使うものが現れ、その煙を吸うまいとその場を離れたのである。










…が、それがそもそもの間違いだった。








「まさか…みんなとはぐれちゃうなんて…」


しまった…と顔に手をあてて気持ちが沈む始末。

あの時せめて誰かと同じ方向へ逃げれば良かったと、今更ながらに後悔してしまう。



「はぁ…。まぁ仕方がないか……」


依頼人から貰った地図も、結局は花月が持っているために。

進む先も結局のところはわからないのだ。

諦めるしかない。




しかしにはそれとは別に


一つ気がかりなことがあった。





「地図がないのは諦めるとしても…



銀ちゃん…



大丈夫かな…。」


思い出すのは今回同じ仲間である奪還屋の彼のこと。



























――毒煙にまかれる前、無限城時代に仲が良かった…確かシュウと言っていただろうか。


自分達を襲ってきた中に一人の少年がいた。


赤屍に殺されそうになったところを銀次に助けられたのだが、

なんとそれは銀次がVOLTSのリーダーだった時の仲間だったらしい。



「久しぶりだね、シュウ」


「銀次さんっ!」


嬉しそうに銀次に飛び付く少年。

久々の再会。


二人のその姿は、今この状況には合わないものではあるものの、

少年の本当に嬉しそうな笑顔を見ていたらそんなこともすっかり忘れてしまった。



――銀ちゃんって…よっぽど信頼されてたんだね…

なんだか羨ましいな…



――あんな風に信頼されて


――あんな風に慕われて










―…雷帝の噂は前から聞いたことがあった。


ロウアータウンを支配するほどの相当の力を持ち、

皆、彼について行くと。



雷帝と呼ばれていた彼は、今の外見からは見えないものの。


相当の力があったのだろう。



でもそれだけが、彼が雷帝と呼ばれていた理由ではなく、

彼のその皆を引きつけるような雰囲気が、彼を雷帝としていたのであろう。




――力だけが全てじゃないん…だよね。




そんなことを思いながら銀次と少年を見ていた






その時だった。










「…ど、どういうことだよ銀次さん!」


急に銀次と話をしていた少年が声を荒げ、動揺の表情を見せる。

は銀次とは離れた後の方にいたために、話の内容をよく理解していず、

少年の声を良く聞こうと耳をそばだてた。


「…仕事なんだ、シュウ。

オレたちはそのためにここに……」


「仕事?”VOLTS”を復活させるためじゃないのか!?」


「ごめんシュウ…


オレはもうここにはもどらない。


今は蛮ちゃんと二人で奪還屋をやってるんだ…」


そう言っている銀次は、言葉とは裏腹に。


とても辛そうな表情をするしかなかった。



「だから―――」









「あんた分かってんのかよ………」







ググ…と握る手に力がこもる。

怒りがこみ上げてきてならない。


「あんたが消えたせいで今この無限城で何が起きようとしているのか…」



「シュウ…?」



マクベスが何をしようとしているのか!!」








「よけいなことをペラペラと……」














――言葉と共に広がった光景は一瞬だった















「シュ…シュウウウウウ!!!!!」






最初は何が起こったのか、皆にもわからなかった。


スローモーションのように倒れていく少年。


その背中に見えたのは、数箇所に渡って刺さった刃物。

それが目に入った瞬間、何が起こったのかは一瞬にして理解できた。


それでも思考回路は繋がらなかった。



「シュウ!!」


駆け寄り、少年を抱き上げる銀次の姿が目に入る。

必死に名前を呼び、何度も何度も声を上げる。





――ザアッ…と、一つの光景を頭が過ぎった。












――おかあさん!おかあさん!!



しっかりして!!



















おかあさああん!!!―――























―――「あ……」


急に息苦しくなる。


自分で服の胸のあたりを掴んで、身体を曲げる。


息が出来なくなるのではないかと思うほどに、吸う息が少なくなる。


心臓の音が恐ろしいほど、



ハッキリと


鮮明に聞こえてならない。



このまま心臓がとまってしまうのではないかと


息づかいが荒くなる。



――おかあさん!!






目の前がどうなっているのかさえ、よくわからない。

冷や汗がツ…と頬を伝う。




?」


隣で自分を呼ぶ声が聞こえる。


だが、そちらを向くことはなく。

ただただ視線は床に落ちたまま。







―――おかあさああああん!!!!











―――「……!!!!しっかりしなさい!!!」



ハッと、目前に広がる光景の焦点が合わさってくる。


苦しかった息も。

うるさいほどに鮮明に聞こえていた心臓の音も。

床に落ちていた視線も。


元通りとなっていた。




ただ一つ、目の前には煙が広がっていることに関しては違っていた。



「ちょっと!アンタ急にどうしたのよ…!

突然人が変わったように……」


「え…あ…卑弥呼ちゃん…」



自分にかけられた声が彼女のものであったのだと、ようやく気づいた。

きっと、必死に自分に声をかけて体を揺さぶっていてくれていたのだろう。

自分の肩に手を置いていた卑弥呼自身、動揺していたのである。


「ともかく、それより早く!!!!

この煙、シカバネソウの葉から抽出した

猛毒アルカロイドよ!!


吸い込まなくてもヒフからしみ込んで体をマヒさせるわ!!

早く逃げるわよ!!」


「え!?あ、う…うん、わ、分かった!!」



そういった途端、タッと地を蹴って卑弥呼の後を追おうと、背を追いかける。


が、途中二人の間を煙がさらに通過し、

口元を手で抑えてそれを遮る。


「ちっ…!」

!!」


卑弥呼から差し出された手を掴むことも出来ず、別のところへ方向転換する。







「銀次ィ!なにやってる、早く逃げろ!!

ここはやべぇ、早くドアから外に…!!」



遠くの方で蛮の声が聞こえ、毒煙で囲まれている周りの中を声のする方へと振り向く。



だが、その間にもどんどん毒煙は広がっていく。

「仕方ない…!!」



銀次がとても気にはなったものの、とりあえず今は自分の身を案じて、

まだ毒煙の薄い方へ駆け出した。



「銀次ィィィィィーッ!!!!」









――蛮の叫びが




空しくも




廃墟の中に響いた。










―――「………なんだか久々に…思い出しちゃったな……」


ここ最近は忘れてしまっていた。

いや、もしかしたら故意に思い出さないようにしていたのかもしれない。




少年を抱き、叫びながらその名を呼ぶ銀次の姿が。

あの時の自分と重なってしまっていた。



何度も何度も


名前を呼ぶその姿が。









―――おかあさあああああんっ!!!!


















「……吹っ切れたと思っていたけれど…





まだまだ私もダメだな…」








自嘲気味に笑うことしか、今の自分に出来る事はない。

ただただ、この空しさを感じている事しか………―――


















「…先へ、進もう…」



――今はとにかく、前へ進むしかない……





















立ち止まっていた足は、動き始めた。


























BACK/TOP/NEXT




”IL”偏、第3段。久々の更新です〜…アハハハハ…


申し訳ない(泣)


確かに確かに部活で忙しかったというのがあったんですけれども…
それにしても更新しなさすぎですよね…すみませんすみません(泣泣)

さてさてヒロインの過去が微妙に(ホント微妙ですけど)出てきましたね。
実はまだまだこの先この過去の部分が詳しく出る予定なんです。
ヒロインの謎的な部分を気にしてくださっている方もいらっしゃるようなので
ぜひぜひそこを上手く書けるようにしたいと思っています…で、出来れば…。
誰か文才をくださいー!!(叫)


それでは(簡潔)


H16.9.12