とある町の中心の公園。



もう夕方ともあり、人気はほとんどなく。

小さな子供達の声も、もう聞こえない。



どこにでもあるような木のベンチはどこも空いていて。

風を受けるブランコはゆらゆらと小さく揺れている。


砂場には忘れてしまったのか、置き去りにされたままの遊具。

水道の蛇口からは水が滴り落ちている。







そんな公園のそばに一台の小さな白い車が止まっていた。

本来なら駐車禁止の場所なのだが、まるでおかまいなしと言ったように堂々と止まっている。



もちろん、中にいるのは毎度毎度車をレッカーされる金運のない2人組み。



片方は助手席のシートを倒したまま、すやすやと寝ており。

もう片方の運転席側の方はシートはそのままにして目を開けたまま寄りかかり、

フロントガラスの先を見つめたまま特に何かをする素振りも見せない。









蛮は隣ですやすや眠っている銀次をふと横目で見ると、ふぅ…とため息をもらした。

ところが突然身を起こし、ドアに手をかけ外に出る。








静かにドアを閉め、ポケットからいつもの煙草を取り出すと

蛮は車に寄りかかった。




煙草を口もとへ運び吸うとゆっくりと煙を吐く。






煙は一本の筋からだんだんと広がっていき、空中へと消えていった。




















―One Day's Evening―




















「遅くなっちゃったな、早く帰って夕食の支度しなくくちゃ。」

もうだいぶ日が落ちてきた頃、は夕日の照らす中を腕時計を気にしつつ歩いていた。

手にはスーパーの袋。


服装はまだ制服のままであった。


「生徒会の仕事が結構大変だったからな〜。

もうすぐ行事も近いし、なんだかいろんな所から仕事が参りこんできて…。


なんとか一区切りはついたんだけども。」




ふぅ…と一息のため息。



ふと、腕時計から目を離し立ち止まると、自然に空を見上げる。

自分を染めている赤い夕日に多少の切なさはこみあげてくるものの、その寛大さには目を見張るものがあった。








「綺麗………」







赤く照らす夕日に思わず感激の言葉がもれる。










――まるですべてを包み込むかのよう





自分という存在がちっぽけに思える。









だが静かにその光景を見ていた



夕日の綺麗さとは対比して、




寂しそうに微笑む。




その真意はわからない。





そしてしばらくすると、はその夕日に向かって再び走り出した。















――所戻って公園のそば。


蛮もまた手に煙草を持ちつつ、夕日を眺めていた。

呆然とした切なさを感じつつも、その自然現象にはやはり目を奪われる。











が、その時だった。











――ザッ…!!














「え?」









止めてあった車の側の茂みの音と誰かの声に、ふと目が行きその方を向く。


猫か何かであろうとあまり気にもしていなかったが、




なんと自分の目に映ったのは…






茂みを越えてきた





少女の顔。








「どわあああっ!?」


「きゃあああっ!?」






叫びと共に着地に失敗した少女はもちろん、自然と蛮の方へ倒れこむ形となり、




ゴン



と鈍い音が地面に響いた。























「って…!なんだんだよ一体…!!」





頭をさすりながら仰向けになっていた姿勢を起こすと、


蛮は自分の方にうつ伏せに倒れこんでいる少女を目に入れた。




静かに鑑賞にひたっている所に突然現れた少女。

とりあえず頭で整理してわかったことは、


ものすごい跳躍力で今目の前にいる少女が茂みを超えてきたということ。


頭に不快感を覚えつつよく見ようと、蛮は目を凝らした。



少女が体を起こし、その表情もゆっくりと表れる。






「いたたた…ご、ごめんなさい…てっきり誰もいないのかと思って…調子に…」




少女は顔を上げ、そういいながら目を見開いた。



ところが。




「…あ、あれ?蛮君…?」








「…………。」








飛び込んできたのはあまりにも意外な人物で。


しかもまだ最近であったばかりの少女。



黒い髪を持ち、黒い瞳を持つ。


裏世界では名の知られた少女。



蛮は驚きのあまり目を見開いた状態のままとなってしまった。





「うわっ!ごっ!ごめんなさい!!!




ちょっと急いでいたもんだから、近道しようと思って…

公園に誰もいないものだったから、ついついいつもの仕事の時の癖が…。」




バッと勢いよく起き上がり、ぺこぺこと必死に頭を下げるに、蛮はシャツをはたきつつ口を開いた。



「まったくだぜ。人がゆっくり鑑賞にひたっていたところを突然邪魔しやがって…。


俺だったからいいものの、他のやつに見られてたら大変だったんだぞ。

こんな高い茂みを越えてくるやつがフツーいるか。


お前一応高校生だろ…」




「はい…ごもっともです。ほんっとうに申し訳ないです…」




直もぺこぺこと頭を下げるに、



蛮は不機嫌そうにしていたのを突然ゆるめ、少し微笑みながらを見た。




「ったくしょうがねぇやつだな。」




くしゃくしゃと自分よりは遥に低いの頭をかき回し、


はしばらく呆然としていたものの、



自分の頭をかき回してる蛮の暖かい手に自然と笑みをもらした。








――「んで、なんでお前急いでたんだよ。仕事か?」


「そうなの。別にまだ時間あるんだけど、食事の準備してから仕事に行こうと思って。」


なんとか無事だったスーパーの袋を持ち、それを掲げて蛮の前に見せてみた。



「…お前、一人暮らしてんのか?」


「うん、そうなの。この辺に住んでるんだ。


…意外だった?」


「あぁ…」


蛮の真意がわかったのか、

にっこりいたずらっぽくほほ笑みながら言うに、


が一人暮らしをしているという、意外な返答を聞いた蛮は少々驚いた顔をしながら煙草を吸う。


とは言え、よくよく考えてみれば一人暮しをしている方が自然なのかもしれない…











この裏世界に生きる人間にとっては。











ほとんどの人間がいろいろな事情を抱えて仕事をしている。


何もない、というのがむしろ不思議なくらいだ。








きっともその一人なのだろう。




「ん、でもお前、親はどうしてるんだよ。別居中なのか?」


ふと疑問が浮かび、蛮はへと尋ねる。





…が蛮がそう言った瞬間。










ハッと、の表情から笑顔が消えた。











胸に手を当てて苦しそうな表情へと変わり、目はふせ気味になる。















「両親は…私が…小さい時に…亡くなったの…」













かすれそうなほどに小さな声がしぼりだすようにして音となる。


突然、小さくみえる背中が、切なさを物語せる。


















いつもの彼女の笑顔からは考えられない程、ひどく切なく寂しそうな顔。



蛮は驚きと共にそこに彼女の何かを見たような気がした。







「…悪かった…変なこと聞いちまって。」





申し訳なさそうに言う蛮に、はハッとすると慌てて手を振る。







「あっ、う、ううんっ!!


全然………全然大丈夫…だから…。












気にしないでね………」



そう言っている彼女の顔は笑顔だけれども。




やはりどこか、寂しそうで。




なんだか急に胸が苦しくなりそうな程。




蛮は目を伏せ気味のまま彼女を見た。























「無理すんなよ。」























「…え?」


静寂の中に輪と響いた声。



急に蛮にそう言われたは、驚いて蛮の方を向くと。


蛮は未だ煙草を吸ったまま、こちらを向くことなくまっすぐ先の方を見つめたままであった。




「お前、前から思ってたけど自分で溜め込むような奴だからな。





お前が言わねぇ限り、何もいわねぇけど。


あんまり辛い時は言えよ、溜め込み過ぎんのも良くねぇぜ。








この美堂蛮様がいつでもこころよく相談に乗ってやるから、いつでも言えよ。」




親指を自分の方向に指しつつ、ニッと自身満々に微笑む蛮に対し。


は最初はその蛮の表情をじっと見たままでいたが、







見つめている内に自然と笑みがこぼれた。







「うん!」















”無理するなよ”














その一言が妙に嬉しくて。



その一言がすごく暖かくて。























――「おっし、そろそろ戻るか。

銀次もそろそろ起きんだろ。」




煙草を吸い終わり、ベンチから立ち上がる。



まだ座ったままの状態でいたは立ち上がった蛮を見上げると


背中を向けたままの蛮に、蛮君、と呼び止めた。




蛮は「ん?」と振り返る。















「ありがとう。」














先ほどとは違い輝くような程の笑顔を見せて、



は一言、そう言った。















「…別に、たいしたことじゃねぇよ。」








夕日を背景にを振り向く蛮の笑顔は。





その夕日の赤さによって




彼の姿を引き立てているようだった。





はその笑顔に嬉しさと安心さと、


そして感謝を感じた。

















――ありがとう、蛮君……







本当に、ありがとう………――











――過去は捨て去ることは出来ないけれど。



悲しみを捨て去ることは出来ないけれど。





それでも今は幸せでいられるから……




だから私はあなたに、






ありがとう






と言いたい………












「…そういえば、銀ちゃんはどうしたの?」


「車ん中で熟睡中。そろそろ起こさねぇと。」




「そっか。


あっ、そうだ。


今日のお詫びに今度家に食事に来ない?大したもの作れないけど。

頑張って作るよ!」



「お、そりゃーいいなぁ。

んじゃ今度食わせてもらうか。銀次が喜ぶだろうぜ。」























――赤く染まった夕日を見るのはなんだか切ないけれど。








でも今日は













寂しくはなかった















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GB初短編、初蛮ちゃん夢です。
いやぁ、これ書くの難しかったです…。
本当は昨日の内に書き終わっていたんですけれども、
あまりにも不出来なために今日書き直しました…。
蛮ちゃんのセリフの難しいのなんの…こんなのでよかったですかね…?(焦り)
なんだかヒロインがGBと出会ったのはいいものの、あんまり蛮君とは喋ってない
ことに気づいたので、今回の短編のお相手は蛮ちゃんにしました。
小説は書いてるといつも「難しいなぁ…」と常々思います。
まぁもっともっとたくさん書いてこれからも勉強していきたいですね。
読んで下さりありがとうございました。一言でも感想を頂けると嬉しいです。


H16.7.10