「おい、どうしたんだよ。」
突然前にいた蛮の足が止まり、その後をついて行くようにしていた士度は不思議に思い、声をかける。
どこからどう見ても相性の合わなそうなこの二人。――
あの毒煙にまかれてその場を立ち去った後、ひょんなとこから一緒になった…
…いや、なってしまったと言うべきだろう、蛮と士度の二人。
先ほどまではお互いに犬猿の中とでも言いたげな雰囲気を出しながら少々距離をおいて歩いていた。
お互い嫌そうな顔をしてはいたものの、別れて行動するよりは一人でも多く仲間がいた方がいいのは事実であったため、
しぶしぶ共に行動していたのだ。
…最初こそはそうではあったが、向かってくる敵との応戦内にだんだんと互いの戦闘能力の高さを感じ取っていた。
特に士度においては、先の不動拓磨と“鮮血のジョーカー”笑師春樹との戦いにその蛮の強さは一目瞭然であった。
――コイツはやっぱりやれる…
さすが、銀次のパートナーだけだったことはあるな――
そう、本当に思った。
だが、その蛮が今突然足を止め、空のほうを無限城の高い位置から眺めた。
それは無表情ではあった…だがしかしどこか様子が変であった。
「いや、なんか月がな…」
どうしたのかと聞かれ、蛮はそう答えた
「月?あぁ今夜は満月だな。
で、月がどうかしたのかよ。」
「別に…、なんでもねぇよ……。
ただ…」
「ただ?」
「…………」
「?」
そこから先の言葉はなく、再び不思議そうな顔で蛮を見る。
空に神々しく照らされている月をじっと見つめたまま、未だ動かない。
――何か…何か嫌な予感がするな…
見上げる月を神秘的で美しいとも、
神々しいとも思うこともなく、
唯一自分の中で起こっていることと言えばこの渦巻いている胸騒ぎ。
―そういえば…
とふと思い出す、彼女のこと。
――アイツ、どっかで苦戦してなきゃいいんだけどな…
一応今まで同業者としてやってきているし、
さっきまでの戦いを見てると雑魚の連中は相手にしてもそう支障はないだろう。
だがもしマクベス直属の仲間に会っていたとしたら、さすがに不味い。
――もし不動にあたっていたとしたらマズいな……
アイツ…不動はヤベェ…―
昔の仲間であり、つい先程自分も一戦を交えた相手。
まさかここにいるとは思ってなかったためにさすがに驚いた。
――何もなきゃいいけどな…
不安が胸を過ぎる。
らしくもない、と本心そう思ってはいるものの
何故だか何かが気になる。
目を細め、暫く眺めていた月から目を離すと、
再び前を向いて蛮はまた足を進め始めた。
Existence
-無限城"IL"奪還作戦!-
8
――ギィ…
とドアの開く時の軋む音が空間に響く。
最初は少しだけ開いていたのだが、数秒静止するとそれは更に大きく開かれた。
両手で開けられたそのドアは全開に開けられ、外からでも中が十分に見える状態となる。
そのドアを開けたのは一人の少女。
少々の重みがそのドアにはあったものの、中に敵がいないと確信すると彼女は勢いよくそのドアを開けた。
が、勢いよくとは言っても、彼女自身にさほど力があるわけでもないので。
その重みを持ったドアは普通に開けられた。
――…は中に敵がいないと再び確信すると、その部屋の中へ足を進めた。
かなり広い方の部屋ではあるものの、特に何があるわけでもなく。
静寂のみがその部屋をつたっている。
天井や壁などを見回しては見るものの、やはり大したものはない。
「…ここにも何もない…か………」
先ほどからいろいろと見回ってはいるものの、特に手がかりのようなものはなく。
むしろ自分は何かに踊らされているのではないかと思うようになってきていた。
「なんだか…さっきから空回りしてばかりのような気がするんだよね…」
今自分のいる部屋が広く、無の空間であるせいか
余計にそう感じてしまう。
「…みんな…どうしてるかな…」
そういえば、しばらく同じ仕事に向かうメンバーのことを考えていなかった事に気付く。
別に心配をしているわけではない、少なくとも誰かと誰かは落ち合っている可能性もある。
それに皆、腕の立つメンバーばかりなのだからそう簡単に倒される事もないだろう。
ただなんとなくそう言葉がもれただけ。
ただ、銀次と花月と士度は以前無限城にいた経験があり
しかもあの3人は元”VOLTS”の幹部。
どうやら今回のこともその3人に関係しているようであるし
その辺のことで何か事も起きているのだろう。
――無事に済めばいいんだけど…
銀次の様子から見て少々心配ではあるけれど、
かと言って自分も本当はそんなことを言っている場合でもない。
自分だって、この無限城に思い入れがないわけではないのだから…
「確か銀ちゃん達は…ロウアータウン全体を取り仕切ってたんだよね…」
この無限城にある、3つの階層。
下層階ロウアータウン、中層階ベルトライン、
そして、上層階バビロンシティ。
聞く限りでは、銀次はロウアータウンの支配者、雷帝として君臨していたと言う。
その中には雷帝の存在に恐れるものも、忠実に遣えていたものもおり
ロウアータウンでは絶対的な存在であったと。
その頃はまだ、ロウアータウンにそういう存在がいるというだけで特に追求はしなかったものの、
今よく考えてみれば彼はロウアータウンの住人にとっても、この無限城にとっても
必要な存在だったのだろうと感じられた。
「雷帝の時の銀ちゃんって、
どんな感じの人だったんだろう…」
今の姿からは想像出来ない。
そもそも蛮とも何故奪還屋を組むようになったのかも不思議である。
「ロウアータウンか…」
自分はあまりその場所を知らない。
それに――――
「…あれ…?」
フッと、言葉の続きを頭でうかべていたものを何かが過ぎる。
本当にふと思ったことだが…
だが何故かそれに重要さを感じる。
「そういえばロウアータウン…の下って…
地下…があったはずだよね…」
何に使われているのかはわからないが、
確か以前そんなことを聞いたような気がする。
「地下…」
その言葉がひっかかる。
何に使われているかはわからない…だが……
「何に使われてるかはわからない…
でも私達は今までずっと、"IL"が上にあると思ってきた…んだよね…」
――ちょっと待って…まさか…
「まさかILの本当の在りかって…!?」
そうだ、そう考えればつじまじが合う。
上へ上っても敵の出現率が低くなる理由。
探索してもILの見つからないワケ。
すべてが、の中で繋がった。
「となったら…早く行かないと…」
急がなければ。
みんなきっとすでに気付いているはず。
――私、とんだ勘違いをしてたみたいね…
しまったと、もっと早く気付けばよかったという後悔がおそう。
広い無の部屋の中をきびすを返し、
再びドアへと向かう。
先ほどよりも歩調は早く、しっかりと。
ところが…その時だった。
――…
「…え……?」
ふいに自分を呼ぶ声が耳に入り、後を振り向く。
一瞬、幻聴かとも聞こえ、気にせず先へ進もうと一歩踏み出す。
が、再び
――……
と自分を呼ぶ声が聞こえ、歩き出そうとした足を止めた。
――……!
「誰……?」
――ここには誰もいないはずじゃ……
人の気配を感じないところからして、誰もその部屋にはいるはずがない。
なのに何故か聞こえる、自分を呼ぶ声。
――……!
なおも聞こえ続ける声。
―――私、この声を知っている…?―――
聞いたことのあるような声。
心の中にまで響くような、溶け込んでしまいそうな声。
優しいけれど、でもどこか必死で。
確かに、自分はこの声を知っている。
―――そうだ…この声は…―――
お母さん…?
「!」
「…え…?」
まるで現実に呼び戻されたようにはっきりと、
今度は明確に声が聞こえる。
それは自分の背後からで、当然、は振り返った。
が、しかしそこには…
「お、か…あさん…?」
――――「……!?」
ハッと、目を見開き、後を振り返る。
後を見れば当然のごとく士度がいるのだが、
見ているのはそこではなく、もっと遠く、向こうの方を見ていた。
突然蛮が振り返ってこっちの方を見たので士度は当然不思議そうな顔をしていたのだが、
振り向いて静止したままの蛮におい、と声をかけた。
「おい、どうしたんだよ美堂。」
「いや…何か声が聞こえたような気がしてな…」
「声?」
「いや、いいんだ別に。
先進むぜ。」
「あ?ああ……」
――さっきから、何か美堂の様子が変だな…
別に動揺しているというわけではないのだが、
どこか、何かを気にしているように見える。
一体それが何なのかはわからないが、本人が「いい」と言っているし
今はとりあえず先に進むのが先決なのだから行くしかない。
だが、蛮は内心、やはり気にしている事があった。
――さっきよりも嫌な予感が増してやがる…しかも……
アイツ…に…――
同業者だから大丈夫だろうと思っていたのだが…
今聞こえた声は何だかの声であるような気がしたのだ。
しかもその声は、どこか弱々しい感じをもたせているようで……―――
蛮は足を止めた。
「オイ、猿回し………」
――「お母さん…?」
どうしてこんな所に…
いや違う、だってお母さんは……
「!!」
目の前にいる女性が、自分を読んでいる。
必死に、何度も何度も声を荒げて。
「お…」
「お母さん!!」
ハッと、自分が言おうとした言葉を誰かに遮られ、
当たりを見回す。
すると、自分の少し前に小さな女の子がいた。
黒く長い髪を持つその子は母親の方へと駆け足で駆け寄っていく。
の母親である女性は手を差し伸べ、小さな女の子の手を握り締めた。
――あれは……私……?
駆け寄っていった小さな女の子にも見覚えがあり、
見てみればそれは幼いころの自分。
だがどこか、その幼い自分も焦っている用に伺えた。
いつの間にか周りの景色も変わり、見覚えのある光景が目に入る。
ここは確か…
――の家だ………
ひっそりと、山の中の神社のように静かにひそむの家。
昔自分が住んでいた、懐かしい家。
夜のせいか、当たりは暗く火の回りだけが少し明るい。
周りには木々が生い茂り、静寂が当たりを包む。
の視線の先には本家とも言える、自分も住んでいた家が佇んでいた。
ところが…
「いたぞ!!」
「追えー!!」
突如火が灯り、の前に複数の黒い影を作っていた。
それはまたしても背後に忍び寄るもので。
振り返った瞬間、
身体が硬直するように、動かなくなってしまった。
「あ……」
目が見開かれ、ドクン、と
の中で心臓の音が鳴る。
ドクンドクンとそれは嫌に響いて耳に届く。
ガタガタと…手や足の振るが伝わってくる。
――まずい…さっきの感覚が……
先ほど、銀次の少年を抱く姿を見た時と同じように
動揺が走る。
「追え、追うんだ!!」
「、早く!」
「お母さん!!」
母親と幼い自分が、手を握り締めてその場を走り去る。
片時も離さず、お互いに強く手を握り締めて。
―――頭の中が混乱していく。
親子の後を追うように、複数の者たちもその場を過ぎ去っていく。
どうやら自分は見えないらしく、その場を勢いよく通り過ぎていった。
――なんで、どうして……
どうしてあの時の光景が、こんなにも鮮明になっているのだろう。
先ほどの銀次の時とは違う、それよりも明確となって
映像となって自分の前に現れている。
――再びスッと、光景が変わり
今度はどこか、森の中の広い場所へとその視線が移った。
周りは木々で囲まれているものの、その中心部を拠点として明かりがともっている。
を更に動揺させるには、すでに十分の光景が広がっていた。
そう、ここは――――
「お母さんっ!!」
再び母の名を呼ぶ幼い自分は涙を幾重にも流し
その雫を地面へと落としていく。
俯いてあまり伺えないその表情。
だが、様子からして動揺しているのはすぐにわかった。
「お母さんっ……!」
だらん、と力を失って動かない母親を抱きかかえている幼い自分。
自身の顔からも涙が頬を伝って流れ始めた。
―――いや……
思い出したくない。
考えたくない。
見たくない。
大粒の涙が幼いと、それを今見ているの頬を伝って止まらない。
震えが止まらない。
抑えようとしても、余計に震えるだけ。
じりじりと、幼いを囲んで複数の者達が集まってくる。
それと同時に明かりも近くなるために、と母の姿がはっきりとなる。
――いや…やめて…その先は……
そして突然
何かがその場所の空気を揺らした
――いや……
――どうして…
――お願い…
――どうして……
――止めて……
――私は……
――止めて…………!!
――どうして私はここに存在しているのだろう…―――
パリィンと、何かが砕け散る音が響き渡った――――
―――周りの光景はすでにもうなくなり、再び無の部屋が現れた。
はいつの間にか膝をついて屈み込み、
両手を心臓に押し当てていた。
意識が朦朧とし、の精神状態はすでに荒さを増している。
――まずい…
息遣いは荒く、肩は揺れ、額には汗が出ているものの
今にも消えそうなほどの意識を保とうとする。
――このままじゃアレが起こってしまう……
視界はだんだんとぼやけ、意識がなくなっていく。
――いやだ…
ドクン
――いやだ……
心臓の音が響く
――止めて……
頭が混乱する
――こんな所で……
ドクン……
―――いや………
何かが迫ってくる
―――いや………!!
ドクンドクンドクンドクン
「いやあああああああっ!!!!」
―――私はどうして生まれてきたんだろう……―――
――……
……………
――……
声が…する……
――……
さっきのお母さんの声じゃない……
――………!
誰…
――………!!
誰………?
――「!!オイ!しっかりしろ!」
力強い声が、はっきりと聞こえる。
誰かが自分を支えてくれている。
意識が少しずつ戻り、朦朧とする中、
顔をあげて誰かを目に捉える。
「ば…ん…くん……?」
意識がはっきりとし、視界が開け、すべてが晴れ渡ったとき。
目の前にいたのはいつも通り紫のサングラスをかけてかがんでいる蛮であったことに気付いた。
「!!」
「大丈夫か!?!!」
もう一人の声が聞こえ蛮の隣を見ると、そこには自分を覗き込む士度の姿もあった。
「蛮君…士度君……」
ゆっくりだが、はっきりと名を呼ぶ。
がそう言った瞬間、二人は安心したように表情を緩めた。
「ったく、テメーは…なにやってんだよ。」
そうは言ってはいるものの、
そこには蛮の優しい笑顔。
自分を支えていてくれたのは、そう、蛮であった。
「…ッ………」
安心のせいか何なのかはわからないが。
その蛮の笑顔を見た瞬間、の頬を
再び一つの涙が流れた。
自分の肩を支えていてくれる蛮の手が暖かく感じられて。
それがあまりにもいとおしくなって。
涙が、こぼれてしょうがなかった。
「大丈夫か?」
蛮のその問いかけにもかかわらず、涙がとまらない。
頬を伝って地面へ落ちていく雫。
次の瞬間、
は蛮にしがみつくようにして泣き始めていたのであった―――――
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うわぁ…ホントにシリアスですね…
ええと、はい、無限城IL偏第8弾です。
サイトも改装し、早速これを更新させて頂きました。
…で、突然ですがこの話
一度データが飛びました。
ええそうなんですよ、ひどいと思いません?
しかもですよ、飛んだのが、ちょうどこの後書きを書いていたときです(爆)
くそーーーーーーーっ!!
最初の方はまだ保存してたからいいんですよ。
ただ飛んだのが、丁度見せ場の所だったんです…!
結構順調にかけていたのに…
この…このパソコンめー!!
最後、後書き書く前に一度保存すればよかったとどんなに思ったか。
あー…もう、少しずつ思い出しながら書き直しましたよ。
今度からちゃんとこまめに保存することを誓います。
えっと、テスト明けのIL偏だったのですが、どうでしたでしょうか?
この間更新したのが赤屍さんの誕生日夢だったのでえらいギャップでしたが…。
一応ですね、コレがこのIL偏の山場と言ってもいいような所だったんですよ。
主人公の過去含め、”アレ”のことなど。
まあよくあるような話っちゃ話ですよね。久々にこんなに長いの書きました。
長くてごめんなさい(汗)山場ですので…。
IL偏はあと2、3話ぐらいで完結です。
その先の準備は…実はもうすでに始めていたりして(笑)
さーて、遅くとも今年中にはこのIL偏を終わらせるつもりで致しますので。
どうかお付き合いくださいませ。
それでは、また。
2004.12.16