カチャリ、と食器が音をたてる。 置かれたのはいくつものティーカップとポット、 そしてそれに添えられたクッキーやマドレーヌなどの菓子がかごに入れられていた。 ティーカップの中からはゆげが立ち、入れたての紅茶の香りが鼻をくすぐる。 ティーカップがそれぞれに渡され、受け取った者たちは皆それぞれ礼を述べて香りを楽しんだ。 Existence ―謎― 「それにしても、少し落ち着いたようで良かったよ、マクベス。」 「うん、朔羅やみんながいてくれるからね、僕も心強いよ。 花月くんも様子を見に来てくれたんだよね。」 「そうだね、あれからどうなったか気になってはいたし。 でも元気そうで何よりだよ。」 「そうそう、そう言って士度はんもやってきたんたで?」 「ああ、確かついこの間の事だったな。」 「士度が?クスクス、みんな考えることは同じだね。」 「もう、二人とも心配性なんだから。」 「でも。それだけ支えてくれる方たちがいるということですよ、マクベス。」 「うん……そうだね、さくら。」 場所は無限城。 マクベスたちのいる所へと、風鳥院花月はやって来ていた。 ”IL奪還”の一件も治まり、その後どうなったのであろうかと元VOLTSの仲間としては気になっていたのであり、 今ここにいるのである。 だがそこには先日までの表情とは一転して。 今は無限城の”少年王”として、 そのリーダーとしての責任を果たそうと、一心に努めているマクベスの姿があった。 それまですべてをひとりで抱え込んでいた彼は今、信じあえる仲間とともに ロウアータウンを良き方向へと向かわせている。 支えてくれる仲間を持ち、 前へ進んでいける今の彼の表情は”輝いている”と言っても過言ではない。 あんなに良い表情をした彼を、一体いつから見てなかっただろうか。 ――…いや、あれはまたVOLTSの時とは違う。 まっすぐに前を向いていて、そして瞳には決意が宿っている…。 良かった…本当に―― 一応解決はしたものの、士度も含め自分も無限城を出て行ったのは事実。 そこには仲間に対し申し訳ないという気持ちが、やはりあった。 だから心配で、自分も士度もこうやってやってきていたのだ。 だが、今見えるマクベスの表情を見て、その心配も安堵へと移ることが出来たのは 本当に良い事であったとかみ締められる。 「そういえばさんも来てくれたんだよ。」 「え?さんが…?」 意外な人物の名が出てきて少々驚く。 まさか彼女がここに来ているとは……意外だった 「はい、無限城を通りかかった折にわざわざ寄ってくださって… 何かあれば自分も助けになると言って下さったんです。 無限城は自分が以前いた所であるし、何か力になれることがあればと。」 「ああ、本当に真っ直ぐな者だ。あの者……は。 以前戦った時にそれを感じた。 真っ直ぐで、自分の信念を揺るがす事の無い心を持っている。 ……あれほどの風の使い手はいないだろう。 の家の中でもかなりの力を持っていたはずだ。」 今は目が見えなくなってしまったものの、筧十兵衛はあの時の戦闘を 今でも鮮明に覚えていた。 迷いの無い瞳。自分に向かって一心に勝負をかけてきた。 十兵衛はそんな彼女に、その時は敵であったとしても感心を抱いていた。 「ああ、さんは家の者としても、そうでないとしても、 本当に素晴らしい方だよ。 彼女の戦う姿はまるで舞姫といっても過言ではない。」 見ればわかる―その戦う姿がどんなに綺麗であることか。 風を操り、舞う様に戦うと言われた家。 その術は今も代々受け継がれている―― 「だけど、家は滅亡してしまったんやろ? はんも、花月はんたちと同じく、 いろいろ苦労してきてんのやなあ。」 「そうだね……しかも彼女はその時一人だったんだろう? 僕には十兵衛やさくらもいてくれたけど…彼女は周りに誰も居ない中を一人で生きてきた。」 そう、彼女も自分たちと同じだけど、唯一違うのはそこ。 しかも、今だわからないこともいろいろとある。 なぜ家は滅亡したのか…その詳細を。 そして彼女のことについての詳しい事も。 そんな中、皆が静まる中で一人。 先ほどからの話をする中でずっと真剣な表情をして何かを考え込んでいたマクベスがその沈黙を破り、口を開いた。 真っ直ぐに花月を見て、ゆっくりと…言葉を紡ぎながら。 「花月くん……そのさんについて、ちょっと聞きたいことがあるんだ。」 ―――”彼女は自分が無限城出身のものであり、バビロンシティのにいたことがあると自身で言っていた。 家が滅亡し、さまよっていたのを鏡君に助けられたと………、 そこまではいいんだ。 ただ彼女には一つ…いやもっと、不思議な事がある”――― 先ほどの会話が頭に浮かぶ。 マクベスが話していた彼女…さんのことが。 ――しかし一体これはどういうことなんだ…―― わからない。彼女のことが。 謎に包まれて見えない彼女の事が。 家の者であり、バビロンシティの出身者でもある。 しかしそれだけのことしかわからないのだ。 頭の中でそのことを考える。 ぐるぐると、謎が謎をよんで膨れ上がる。 絡み合いながら。 ―――「…!……で……と…だ―――」 「…………?」 しかしそんな時、どこからか声が聞こえてくるのが耳に入った。 かなり大きい声で話しているのだろうが、距離が遠いせいかうまく聞こえない。 ――こんな暗い路地にどうして………―― そう。 自分がいる場所は、めったに人が通らないような所。 しかも無限城の近くという事で、雰囲気もあまり良くなく、むしろ危ない為に 一般人は決して近づこうとはしないはず。 なのに何故………。 不思議になり、少しずつその声の方へ近づいていく。 右へ、左へと角を曲がり、またそこから少しずつ屋根やビルの屋上をつたって 上へと上っていく。 ようやく声も少し聞こえるようになり、周りよりは高いであろうビルの近くへと 辿りついた時、目に見えるのは数人のスーツ姿の男たちとその男達に囲まれている 一人の少女であろう人………… 「…!あれは……!!」 ――――「何度も申し上げたはずです。 ”お断りします”と。」 「ですが……主にはあなた様を連れてくるようにと言われております。 ので、私たちも帰るわけには行かないんですよ。」 「…………」 ―――これで3度目…いや4度目かしら……――― ふう…とため息が漏れる。 学校帰り、はいつものように下校していた所を突然数人囲まれ、 ここまで移動させられたという経路なのだが…… しかしこれは初めてのことでもない。 彼らの目的は”自分”。 その理由はきっと………―― ―――それにしても、学校帰りとは…向こうもよく私のことを調べてるようね。 相変わらずの事だけど…ホントに、誰がこれを向けて来ているのかしら……――― 自分も調べはした。 だが、”自分のこと”を知っているのはごく少数で、むしろいないに等しいはず。 しかし現に今、目の前に居る彼らは………――― 「さあ、参りましょう…… ……闇姫様。」 「………!」 ―――やはりまた……一体どういうことなの…――― その瞬間に、自分の心に激しい動揺が走る。 先ほど呼びかけられた言葉が自分の心を揺らす。 その言葉が自分を襲い、冷や汗がつたう。 ”闇姫様” 自分にとっては離れるはずもない………その言葉―――― 「そうですか…では… こちらも捕まるわけには参りませんね。」 ヒュウ…と一筋の風が両者の間を吹き抜け、 異様な空気が立ち込める。 どちらも身動きをせず、己を制止させている。 「………ならばいたしかたありません。 強制的になってしまいますが………… 我々とともに来て頂きましょう…」 スッ、と合図も無く互いに存在を消し、 そしてぶつかり合う。 ―――ドォン……!! は風を、相手の男はどこからともなく剣を。 そして二人のぶつかり合いにより、男の周りに居た大勢のものがに向かって襲い掛かってきた。 ―――ガッ…! ―――ドオ…………!! しかし、その大勢にもかかわらず、 は的確に敵をなぎ倒していく。 風を使い、すべてを自分の神経に集中させ、目を凝らして 周りに気を集中させていく。 ―――それにしても…相変わらずやってくる敵は大した敵ではないわね…… どういうことなのかしら……?――― この襲来はこれで四度目。 しかし、相変わらずやってくる的は強敵とは言い難いほど、 大したものではないのだ。 相手も何度も自分に刺客を送ってきているのだから、こちらの能力はわかっているはず。 それなのに何故、毎回さほど変わらない刺客を送ってくるのか。 そして自分を来させようとしているその主は一体誰なのか。 ―――あのことを知っているものはもういないに等しいはず……… なのにどうして今頃になって出てくるの………?――― ――ドクン……… 何かが揺れ動き、湧き上がる。 瞬間、頭の中に何かの映像が浮かび上がってくる。 そこにいるのは、顔はわからないがしかし男性であろうその姿。 自分に向かって何かを言っているが、聞こえない。 「っ…………!!」 ”闇姫” どこからともなく先ほどの言葉が現れる。 ―――ドクン…… 再び高鳴る鼓動。 ―――しまった…言葉に動揺して…………!――― 焦りが、冷や汗が。 先ほどよりも強く、自分の心を揺らす。 ―――そんな…こんな…こんな時に……なんで………!――― の動きがピタリ、と静止する。 自分の中から溢れあがってくるものが抑えきれず、心の中で葛藤をし続ける。 が、敵は容赦なく襲い掛かってきており、 の静止を見かねた一人の男が、背後からに襲い掛かってきた。 「おおおおおおっ!!」 「っ…………!!」 ――しまった………!―― 男の動きに間に合わず、ギュッと目をつぶる。 襲ってくるであろう衝動を今か今かと待つ。 ………が、襲ってくるものは依然としてやってこない。 そしてその代わりなのか、何かの音が耳に入ってきた。 澄んだ音色を響かせたそれ… 恐らく…いや、きっとそれは……… ”鈴”の音。 ―――リィン……… 小さく、それでもはっきりと響いた鈴の音。 どこかで聞いたような…そんな音。 それは自分にとって身近で、何度か聞いたことのあるものだった。 自身への衝撃のなさの変わりに聞こえた鈴の音を不思議に思い、 その音を確かめるように、 ゆっくりと自信の瞼を開いた。 瞼を開いた先、そこには…………――― 「……女性を大勢でよってたかって襲うとは……卑怯ですね。」 目の前に誰か一人の姿が見える。 長い髪は風に揺れ、鈴を鳴らし、美しいとも言えるその姿。 始め見たときは女の人だろうと思ったが、 でもすぐに違うとわかる。 その理由は目の前の人が自分がよく知っている人で、内心憧れている人で、 奥義を極めたからこその、その戦いの美しさは数々の人々を魅了したから。 「か…花月さん………!」 「大丈夫ですか、さん。」 思いもよらぬ人の登場に驚きを見せる。 だが、それとともに自分の中から出てこようとしたものが薄れていくのがわかった。 「どうして………?」 「話は後です! 今はとりあえず、この者たちを倒してしまいますよ。」 そうだ、今はそんな場合じゃない。 真っ直ぐと前を向いて体制をとる花月を見、も再び戦闘態勢に切り替えた。 「行きますよ、さん!」 「はい!」 背中を合わせていたのを花月の掛け声とともに放し、敵の中に向かっていく。 次から次へと、確実に敵をしとめて。 二人で広げていく空間が広くなり、ものの数分でその戦いは終わりを告げたのであった―――― ―――「…本当にすみません、花月さん。手伝っていただいてしまって……」 「いいえ、僕が勝手に割り込んだだけです。 あの場はさんだけでも乗り切れたとは思いますよ。」 「いえ。正直、少し危なかったんです。 助けて頂いてむしろ……ありがとうございます。」 そういって深々とお辞儀をするに、 花月は笑みを浮かべつつ、手で静止をかけた。 「それにしても、どうしてここに…。 ここはめったに人も通らない道沿いはずなのですが………」 「たまたま、マクベスのところに寄ってきた帰りだったんです。 それで声が聞こえて近づいてきてみたら、あなたの姿が。 でも、本当に良かった。」 「はい、本当にありがとうございます。 マクベスくんは元気でしたか?」 「ええ、新生VOLTSの皆に支えられて、とても元気そうでした。 さんからの助けを頂けるようになって、嬉しそうでした。」 「そうですか…私も何か役に立てればと思って……良かったです。」 そう言って嬉しそうな表情を見せたに、つられて花月も微笑む。 が、先ほどのことを思い出し、スッと真剣な顔に戻った。 「…それにしても、さん。 一体先ほどの襲来は何だったのですか。あれほどの人数であなたを襲ってくるなど……」 その瞬間、ピクッ、との肩が揺れ、目線が落ちる。 隠そうとして平静を装うとはしているものの、 先ほどまでとは違うその姿に、花月が気付かないはずも無かった。 「え、あ………あれは…… この間の仕事でぶつかり合った人たちで…きっとその時に恨みを買ったんでしょう。 急に現れて…多分私のようなものに負けたのが悔しくて、恨みを晴らしにきたんだと思います…」 言葉を濁し、だがなお笑みをたやそうとはせず、平静を保ったような姿で は述べた。 「…………」 その明らかに動揺したの姿に、花月は何か反論を言おうと口を開いたが……… のいつもとはあまりにも違う表情に、花月は口に出すのをためらった。 「…そうですか。大変ですね…さんも。」 まるで了解したかのように返答はしたものの、花月は内心不思議に思っていた。 はその返答にほっとしたのか、安堵したように言葉を続けた。 「いえ、よくあるんです、こういうことも。 この仕事をやってる以上、そういうのは了承の上ですから。」 だから、大丈夫なんですよ、と言うの表情に 花月は少し悲しそうに、それでも微笑みを見せる。 ―――…あれはそんなのものではない。 その程度であれば、スーツを着てあんな大勢で襲い掛かってくることがあるはずもない。 あれは明らかに、どこかから送られてきた刺客のはずだ…――― 口に出せないもどかしさ。 でもにとってそれはあまりにも苦しいことなのであろう…… そんなに聞けるはずもない。 「さ、花月さん。 ここはあまり治安も良くない場所ですから、とりあえすこの路地を出ましょう。」 「え、ええ…そう…ですね。」 そう言って先に進むの背後を、立ちすくんだまま見つめる。 再び、マクベスの言葉が頭の中木霊した――― ――――ただ彼女には一つ…いやもっと、不思議な事がある……――― 彼が真剣な眼差しでいったあの言葉。 それが気になり、頭から離れない。 ―――「以前、無限城でみんなのデータを調べた時、赤屍蔵人のデータまでは出てきたんだ。 でも……彼女の…さんのデータだけ…何故か強力なプロテクトがかかって、データを出す事が出来なかった。 ………それがまるで、無限城自体が…僕たちにデータを見られるのを拒絶しているみたいに。 とすれば、これは無限城が大いに関わっている事になる……大事なことかもしれないんだ。 花月さん、さんについて何でもいいんだ。 何か…知らないかな?」――― 自分が知っている事といえば、彼女が今はもう滅亡した家の一族の末裔であり、風の使い手であること。 ただそれだけでしかない。 自分は思ったよりも彼女のことを知らないのだと、思い知らされる。 風が自身の髪と、それについた鈴を揺らす。 視線は依然、へと向かいながら。 風は吹き抜けていく まるでを包むがごとくのように――― ―――さん……あなたは…………あなたは一体…………―――― 進んでいく少女の背中を見つめ、花月は一人、 物思いにふけていた。 BACK/TOP/NEXT |