「おやおや…どうやらやっと楽しめそうになってきたようですねぇ。」


月明かりの照らす中、漆黒の男は姿を現した。

























Existence

―闇の戦場―

























スッと建物の間を風が通り抜ける。

ヒュンッ…と切るように、流れるように。


少女はしばらくして足をピタッと止めた。




「確か今回の仕事はディスクの奪還よね。

今日この工場でその取り引きをするって話だから、そのとりひきが終わった後奪還したほうがよさそうね。」




が現在いるのはとある工場地区。周りには無数の建物が広がっている。


…とは言っても現在はその壁も柱もさびつき、窓ガラスは無数に割れている所からして使われていないようだ。



ある意味では不気味である…。








さびついた臭いが自身の鼻をくすぐった。



「さてと、そろそろ潜り込みますか…」



誰もいないのを確認すると、は暗い工場の中へと姿を消していった…








―――タッタッタッ…と足音だけが響く闇の中。


割れた窓から差し込む月の光だけが頼りとなっていた。



だが少し進んだ後、はピタッと足を止めた。






「おかしい……」






いくら夜の廃工場だとは言え、あまりにも静かすぎる。


そろそろ取り引きも行われていていいはずなのに、その声さえも聞こえず。


ましてや気配さえも感じない…。



「確かに、ここで取り引きを行うって話だったんだけど…。」



もしかして間違えた…――?















ピッ













「…?」






暗闇に突然聞こえた機械音。



人の気配さえも感じないこの中、なぜ機械音が聞こえるのだろうか…?


しかもそれはピッピッピッ…規則正しくリズムを刻んでいる。


は辺りを見回し、その音の元を探した。




すると、柱に取り付けられた黒い機械が目に入り、


もっとよく見ようと目を凝らした。



目に入ったのは……







5、4、3…とだんだんと減っていく赤い数字…








―――……!!




























ドォオオオオオオン!!!!!!!!!
















































―――「ふぅ〜危なかった〜〜…。」


眼下に見えるのは先ほどまで自分がいた、


今は地震と煙を立てて崩れ落ちている工場。




「妙に静かだと思ったら、もともと爆弾をしかけてあったってわけか…。


きっと取り引きの場所っていうのもデマで、こっち側の依頼人が何らかを雇うと推定してたんでしょ。

そのために爆弾をしかけたってわけね…油断したわ。






まぁともかく、早いとこディスクの在り処を見つけてさっさと奪還するしかないようね。」





そう言って踵返し進もうと瞬間。









ハッ、と突然身も凍るような殺気が一気に自分の体を襲った。







「!?」






―――何なの…この恐ろしいまでに凍りつくようなこの殺気は…


こんなの感じたことがない……





一体…!?―――



バッと顔を上げ、向こう側を見る。








コツ……と響く靴音と共に目にうつったのは…………























―――漆黒の男























「おやおや…どうやらやっと楽しめそうになってきたようですねぇ…。」





静かで単調な声。でもそれでいて体全体を覆う、恐ろしいほどのオーラ。



男は黒い帽子、黒の裾の長いコートを身にまとい、

目こそは帽子で隠れて見えないが、黒い髪を持つ者だった。


自分よりはるかに身長が高く、180センチはゆうに超えているだろう。

そのために、体系もしなやかでスラッとしている。





「…そちらの依頼人がディスクを奪いに来るだろういうことで、

こちらの依頼人が嘘の取り引き場所を流し、爆弾装置をしかけておいたのですが…


どうやら無意味だったようですね……クス…」


不適に笑みをもらす男に、は冷や汗を流しつつも真剣に男を見据えた。


男は帽子を軽く持ち上げ、その紫暗の瞳との漆黒の瞳を交差させた。




男の瞳をとらえた瞬間。


またもや背筋がぞっとするほどの感覚を受ける。






―――今動いたら確実に殺される……






そう悟り、は一歩もそこを動かず無言のままの状態のまま。


その恐ろしいほどものを感じつつ、は口を開いた。




「…私はよろず屋です。奪還屋ではありません…。


ですが、今回の依頼はそちらにあるディスクを奪還すること。


……ディスクを渡していただけませんか?」


手をスッと前に出し、いつになく真剣な様子で男を見据える。




クス…と男はまた笑うと帽子のツバに手をかけてまた引いた。


「ほう…よろず屋ですか…。


残念ですがそれは出来ませんねぇ…。


今回の私の仕事はディスクを無事に運ぶことですから、あなたの要求に応えることは出来ません。」


もともと素直に向こうが渡すとは思ってもいるはずがなく。

は軽く息を吐き出すと目を伏せ、そしてまたゆっくり開いた。




「そうですか…では力ずくでも奪うしかないようですね…。」




覚悟を決めキッと相手を睨むかのごとく見据えると、


はかまえる状態へと移った。





「そうそう…そうでこなくては。


やっぱり仕事はこうでなくてはね…。」






風のせいなのか、それとも男の殺気のせいなのか。


男のコート裾がフワッと浮き上がった。







――スッ…



「!?」




――――しまった…!後ろを…!!




目の前にいたはずの男が、瞬きの一瞬で消えの後ろへと回っている。

はあまりにも早い動きに目がついていけず、目を大きく見開いた。








―――ガキィィィィィィン…!!











「ほう…剣…ですか。これはなかなかおもしろい…。」


の手に握られているのは少し細長めの剣。

白く透き通るようであり、月の光に反射する姿はまた神々しい。



男が自分の後ろにいるとわかった瞬間、は一瞬の速さで振り返り、

自身の剣で攻撃を受け止めた。



だが男と女の差ははげしく、衝撃音と共に圧倒的な力で押されたまま。

少しでも気を抜いたら終わりだ。



押されぎみではあったものの、渾身の力で男の攻撃を振り切り。

両者は後ろへと飛んで体制を立て直した。



冷や汗が先ほどよりも増している。








「私を楽しませてくださいね…」











―ヒュンッ!





男の一言の後、風をきるように光る物があった。


月の光に反射し、輝いていたのは刃物のように見える。

はハッと我に返り、すんでの所でそれをかわした。





―メス…!?―






男の顔を見ていたために気づかなかったのだが…

あまりにも意外なものが目に入り、驚愕しつつもは次の攻撃もかわした。

そして次のメスが飛んできた所では地を蹴り、一気に前へ出た。




――キィィィィン…!となる金属音。

互いに剣を引いたり振りかざしたりしてまた距離を縮め、そして離れる。



男の次のメスがこちらへ飛んでき、またそれも交わそうとする



…が今度は着地のタイミングに失敗していまい、ピッ…との顔に一筋の線がはしった。






そこから出てくるのは一適の赤い滴…






はそれに多少は驚いたもののまたまっすぐに前を向いた。



「…クス。


どうやらちょっとやそっとでは動揺しないようですね…なかなか一心な心をお持ちだ…。

ではこれはどうでしょう?」



ザアッと、男が上に腕を上げると、そこからたくさんのメスが飛び出した…



その矛先は彼の真上。それは空高くあがっていく。



いつ自分の方へと降って来てもおかしくないほどの量の…。






あのメスをかわすのは到底難しい。







――………………







「さぁ…どうしますか?これだけのメスをかわすのは少々困難かと思われますが…」


クスクスと笑いながら楽しそうにしている男に対し、はまだ姿勢をくずさない。






ところが、途端。

はふいたまま持っていた自身の剣をスッ…と、

矛先を下に受ける形で降ろした。




男はのその行動に眉をピクッと動かしたが、すぐにまた不適な笑みを浮かべる。




「おや、降参ですか?そうですか…それは残念。







あなたもまあまあでしたよ…、でもその程度のようだ…。




…それでは……さようなら………………


















ブラッディ・レイン(赤い雨)」










集中豪雨のようにやってくるメス。

は微動だにしない…










なおもそれは速度を上げ、迫る


































ところが……























―――――ガキィィィィィィィィン………!!



















ゴォッと強い風と神々しい光が男を襲い、



その光のあまりの強さに男は腕を自分の顔の前にかざした。




光が弱くなり、男は腕を降ろす。























「ほう…これはこれは……」

























立ち込めていた煙と光がだんだんと晴れていく。


















目に入ったものは











ちらばったメスと



肩ひざを立てて剣を横へと振りかざす、


顔を少し伏せた、髪をなびかせた少女の姿で。










少女の眼差しはその一心さをあらわすかのごとく、




強い透き通るようであった……。











―――おもしろい……













少女のその姿を目にとらえ、男はニヤリとおもしろそうに笑みを浮かべた。








――…彼女から感じるものからして何かすごいものを感じていましたが…


どうやら私の勘違いではなかったようだ。




これは…思った以上に楽しめそうですね…―――







少女、は目を閉じ、ふたたび開けるとゆっくりと立った。





「…実におもしろいですよ…。あれだけのブラッディ・レイン(赤い雨)を簡単に薙ぎ倒してしまうのですから。


興味をそそられますねぇ。」




「そうそう簡単に殺されては溜まりませんからね。


私だって一応この裏世界を今まで通ってきたんです。



仕事は最後までこなします。」



自信があるような真剣な表情で男を見据える。

だがそれとは裏腹に、は少しの焦りを感じていた。




――とは言ったものの…




尋常じゃないわ…この殺気。

動きの速さといい、攻撃の正確さといい……


ついていくのがやっと…。




一体この人………!―――









がそんなことを考えている間。


さも男は面白そうに笑みを浮かべる。







だが、さっきよりも殺気は十分に増していた。






「その調子で私を楽しませてくださいね…。」










―ザッ…!


今度は2人同時に地を蹴る。


キィン!とぶつかり合う音を響かせ互いに引けをとらない。

何度も何度も金属がぶつかりあう音を響かせながら2人の集中力は更に増す。



―キィィィン…!



激しくぶつかりあった音が響き、互いが後ろへ飛ぶ。


しばらくの沈黙が続き…











2人が同時に構えた瞬間、互いに向かって一気に地を蹴った。














だんだんとせばまる距離。




今か今かとぶつかりあう…その瞬間だった…










しかし














―タンッ


…っとまだ完全に衝突する前には空中で回転しながら男の上を越えてしまったのだ。


男はまだ前を向いていたが、かがんでいた体を戻した。










しかし途端、男の肩がピッ…と







切れていた













「…………?」







――……どういう…ことでしょう、これは…。






何故か、剣がふれていないにも関わらず自分の肩が切れている…。




すばやく切ったというわけでもなさそうだ…

もし直接切ったのならわかるはずなのだから。




確かに、自分に向かって来ていたのは彼女自身なのに……







――なのに、何故切れている…?






不思議そうに自分の肩を見つめていると、

男に背を向けたままの状態でいたが、ゆっくりと振り返った。





「不思議ですか?剣が直接触れてもいないのに、切れてしまう…。


確かに普通じゃありえませんよね。」





淡々と説明するを、男は深くかぶった帽子の下から見つめる。




「ではどうしてでしょうか…ありえないことが起こってしまうなんて……




…簡単です、一種の自然現象なんですよ。」





のその言葉を聞き、勘のいいその男はすぐにその言葉の意味に気づいた。










「なるほど…風…ですね。」










「ご名答です。






風は静かに揺れる時もあれば台風のように激しくも吹くときもある…




風は自身でそれを決める事が出来ます。


ある意味では自然現象とは言えませんが……






これが私の風を操る能力です。」




自信のある一心の黒い瞳、綺麗な微笑み。

月光に彼女の姿が生えるほどに、その姿は綺麗さを感じる。



男はのその姿を見つつ、笑みをこぼした。




「…要するにあなたはその風を操る能力を持って、私と接触する前に風を起こし、




その目にも見えない速さを持って私の肩を一瞬で切った…というわけですか…。



非常におもしろい能力をお持ちのようだ…。」


帽子のツバを軽く抑えながら笑みを浮かべる男。

男はそのまま言葉を続けた。



「…まさかあのミス・レッドムーンが…

あなたのような少女だとは思いませんでしたよ。」




男の口から少々意外な言葉が出てきたため、は多少の驚きを見せた。




「私をご存知なんですか…?」





「ええ。よろず屋であり、その容姿、年齢等はまったく不明だが…頼まれた仕事は必ず100%こなす。





裏世界ではひそかに名の知られている方ですからね…。


風を使う方と聞いていましたので、最初はわかりませんでしたが…」




「クスクス…なんだか恥ずかしいですね。


別にあえて隠しているわけではないんですけども。」



少女の笑い方はその幼さを感じさせる。





男はふと思い出したように口を開いた。



「失礼ですが…お名前を教えて頂けますか…?」







です、これでも一応高校生をやってます。



えっと……」





「私は赤屍蔵人です、運び屋をやっております。」




「あ、そうなんですか…どうもよろしくお願い致しま…」


今は敵なのにも関わらず律儀にも頭をペコ。とさげようとした時。







は重大なことに気づいてしまった。






「え?あ、赤屍蔵人さん…ですか…?」


「はい、そうですが…?」



「えっとぉ〜…もしかして…



かの有名な”Dr.ジャッカル”さんでしょうか…?」



「ええ。」



「あの運び屋業界では最低最悪と言われた…?」



「ああ、確かにそう言われてますね。」













































―――しまった…………























急に青ざめたに、赤屍は頭に?と浮かべる。





「どうかされましたか…?」



「あ、いえその………」










――あの人にはぜったい!


ぜったい!!


ぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっったい!!!!!!!!!!!!!!




近づいちゃダメだよ!!!!――――









――銀ちゃん私……









すでにお近づきになってたみたい……―――










「?」




「あ、いえその…私の友人に2人で奪還屋をやってる方々がいて…



そのうちの1人の方にあなたにだけは絶対に近づくな…と言われていたのですが…



すでに近づいていたようですね…。」






「クス…なるほど…奪還屋さんですか…。


だいたいの見当はつきますね……」



クスリと意味ありげな笑みを浮かべて赤屍は帽子のツバを抑えた。


はまだ困惑したような顔を浮かべていたのだが……






「…さん。」





「は、はいいいいぃぃ!!」




急に赤屍に声をかけられ、


本日3度目の大きな、動転した声を上げてしまった。


しかもいつのまにか自分の近くに寄って来ている。




スッ…と赤屍が何かをだし、の前に差し出した。



「え…?」


「差し上げます。」




差し出されたのはなんと。



が奪還するはずだったディスクであったのだ。



「え…いやでも…これを運ぶのが仕事なのでは…?」



「私にとって、仕事とは結果よりその過程がいかに楽しめるかですからね…。



今日はあなたとお手合わせ出来ましたので…もう充分に楽しみました。」



「は、はぁ…。」



――よ、よくわからない人だなぁ…




そんな風に思い、ふと自分より遥に身長の高い赤屍を見やった。








風で赤屍の髪がサアッ…とゆれ、先ほどよりも赤屍の顔がよくわかる。



揺れる黒い髪、きりっとした深い紫の瞳、形のいい顔つき。




魅せられてしまうその姿には言葉を失くした…








「………………」





「どうかされましたか?」





「あ、いえ!なんでもないです!!」










―――綺麗な人だな………















「ではそろそろ失礼させて頂きます。


またいずれお会いしましょう…さん。」



「あ…そうですね。




またいつか。」





互いに向かい合い笑顔を向けると、



赤屍はコートのポケットにへと手を入れ、歩き出した。






――…去る途中、赤屍は帽子を深くかぶり、そこから見える口元に笑みを浮かべた。





「…実に気に入りましたよ、さん…またお会い出来るのを楽しみにしています…」






には聞こえない程度に呟きながら、漆黒の男は夜の闇へと姿を消していった…―――















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お…終わった……。
さすがにこんなに長いと疲れますね…(汗)
というのか、超長すぎで本当に申し訳ありません(土下座)
でもやっとこざ赤屍さんとの出会いをアップ出来て嬉しいです。


前編後編も考えましたが、切るに切れなかったもので…。
ここまで付き合ってくださった方、本当にありがとうございます。

実はこの赤屍さんとの出会いの小説は以前からあったんですが
話のつながり上、かなり書き換えてしまいました。
一応ネット上にアップなんかしてたりするので〜…
根性のある方は頑張って捜してくださいませ(笑)

こんなのしか書けなくて本当にすみません。
頑張って修行積みます!!それでは!!



H16.6.12