「大きな仕事があるの。」

その場にいた全員は一斉にその方向を見た。


























Existence

―無限城"IL"奪還作戦!―


























「どーよ?すげーだろ!」

「ムンクだよ。俺でも知ってるムンクー!」


Honky Tonkの店内、そこにいた蛮と銀次は目を輝かせながら

つい先ほど購入したばかりのムンクの名画を夏美とポールに見せ付けていた。

二人はつい先ほど一仕事を終えたばかりでおり、そこで今見せ付けているムンクの名画を手に入れたらしく。

上機嫌でそれを見せびらかせていた所なのである。



ただし不味いことが一つ、それは今回の奪還料により購入したものであるということ。





何故不味いのかと言えば。




二人は相変わらずポールにツケを溜めていたからなのである。

しかもそのムンクの名画は一応贋作。



ポールは二人がムンクの名画を今回の奪還料で購入したと知った瞬間、


また無駄に金を使ったのだということと、積もりに積もったツケが返ってこなかったということで、



まさにそのムンクそのものの顔になって、哀れな姿をその前にさらし出していた。







――そんな中その光景を見てクス、と笑う者が一人。


バッチリとその笑いを耳に入れたGBの二人はその者に詰め寄った。



「おいテメー。

なんだ今の『クス』は?ああ?バカにしただろすごくバカにしただろ?」

「そーいえばさっきの話だけど。

まさかカヅっちゃんまで奪還屋始めて俺らの商売邪魔しようなんてことは」

「ねーだろーな?」


「あ、いやその話は…」





かづっちゃん、と銀次に呼ばれた『絃の花月』こと風鳥院花月は

丁度店内でコーヒーを飲んでいたところをGBと鉢合わせていた。



いつものように優雅に、その髪についた鈴を小さく鳴らせながら。


GBの二人は花月が士度のように奪還屋を始めたのではないかと、

詰め寄り問いかける。



すると




「彼は私が呼んだのよ。




ねぇ?”絃の花月”クン?」






当然、その場にはいないはずの声が聞こえ全員がそちらを見ると、

そこには花月以外全員が顔見知りである人物がドアに寄りかかっていた。



「ヘブンさん…?」

「おい、どういうこったこりゃ…?」


ヘブンの突然の訪問に蛮と銀次の二人はワケがわからずにいた。


しかしヘブンはそれにかまわず、そのまま話を続ける。


ヘブンに続いて入ってきたのは、はたまた思いもがけない人物であった。



頭にはバンダナを巻き、ジャケットを羽織って少々民族的な格好をした青年。

そしてそれよりも遥かに身長の低い、小麦色の肌をしたショートヘアーの少女。




「士度…?」

「ひ…卑弥呼…てめぇまで…」




「フフ、また一緒になったわね。」


士度はともかく、卑弥呼とはついさっき会ったばかりでしかも敵同士だったのに。

またもや鉢合わせになるとは一体どういうことなのか。

次々と現れる知り合いのメンバーとヘブンの言葉。

さすがに蛮はヘブンに問いかける他なかった。


「おいヘブン、何の話だ?

こんなワケのわからんメンツを集めていってー何を…?」











「大きな仕事があるの。」







いつになく真剣な表情で言うヘブンに皆は静止し。

ただ事ではないと察した蛮と銀次は、集中して耳を研ぎ澄ませる。


もちろんその他全員も含めて。







「詳しい事は残りの二人が来てから依頼人に直接説明して貰うわ。」

「二人?…まだそんなにいるの?」


二人、というヘブンの言葉に銀次は疑問を浮かべるが、

ヘブンはなおも話を続けた。


「ともかくでっかい仕事よ。

依頼人にもえりすぐりの腕利きを集めるように言われてたわ。



はっきり言って、相当な危険ともなう仕事よ。


受けるか受けないか


それはあんた達次第。




もっとも…銀ちゃんと花月くん、士度くんの三人は断らないでしょうけど?」



「…?」



何故か自分を含め、花月や士度を限定されて不思議に思う銀次。


だが、勘のいい花月はヘブンのその言葉の意図に、すぐに気づいていた。



「『無限城』がらみ……ですか…」


「そんなところね」





「!!」


”無限城”という言葉に、敏感に反応するのはもちろん銀次。





『無限城』




かつて自分が住んでいた場所であり、今ここにいる花月や士度と共にいた場所。

そして、”VOLTS”の頂点に『雷帝』として君臨していた場所。



自分の過去があるその場所に動揺が隠せないのは当たり前であった。




――カランカラン……




ふいにドアのベルがなる。ヘブンは後を振り返り



「来たわ、残りの二人の内の一人が。」


と言葉を発する。




――コツ…と響く革靴の音。



ゆっくりとゆっくりとその音は彼らの耳に響く。


入ってきた者は呆れたような声でドアの前へと歩み寄った。




「やれやれ…やはり新宿という町はいつ来ても好きになれませんねぇ…」







「な…!?」





目の前に入ったのは黒。


だがそれは、全員を驚愕の表情へと変えた。


”残りの二人の内の一人”とヘブンが言い、自分達の前に現れたのは自分達がよく知っている人物。

最強最悪、殺しが趣味と言われる裏業界では恐れられる存在。



静かな声、ひるがえるコート、それにトレードマークのつばの長い帽子。

それは彼しかいない。







「Dr.ジャッカル!?」






運び屋、Dr.ジャッカルこと赤屍蔵人。





「…おや?これはこれは意外な顔触れだ…



なにやら――




楽しい仕事になりそうですね?」


店内に足を進めつつ、その集まったメンバーを視界に入れると赤屍はそう呟く。




「「赤屍…!!」」


赤屍を目に入れた瞬間、蛮と銀次は思いもよらぬ人物の登場に冷や汗を流す。



――ドクンドクン…と鳴る心臓の音。


それははっきりと、自分達の中に響く。


誰かにこの音が聞こえるのではないかと言う程に。


近づいてくる赤屍に警戒心を抱き、二人は互いに戦闘体制をとる。




「いやいや…実に楽しい仕事になりそうな顔触れだ…実にね。」


そんな二人を特に気にもせず、赤屍は笑みを浮かべたまま立ち止まる。



蛮と銀次の二人は未だ警戒心を抱いたまま。


「はいはいよしなさいよ、あんたたち!

まったく…このメンバーでチームを組んで仕事をしてもらおうっていうのに

顔合わせた途端これじゃ先が思いやられるわ!」


ため息をつきつつ手を叩くヘブンに

蛮と銀次はおいヘブン本気か!?と一気に詰め寄った。



――冗談じゃない、なんであのジャッカル(赤屍さん)なんかと…!


口にこそ出さなかったものの、二人の心境はまったく同じ。

ついこの間仕事で敵対して、しかも命の取り合いをしたばかり。

しかも赤屍に殺されかけたのだから。


そんな奴と仕事をするなんて…!!


ギャーギャーと赤屍を指差しながら猛講義をする二人。





そんな時だった。



――カランカラン……



不意にまたドアのベルが店内に響き、全員がそちらへと目をやる。

講義をしていた蛮と銀次もまたそちらへと目線を移し、

背中を向けていた赤屍はドアの方へと振り返った。






コツ…と再び響く靴音、だがそれはさっき赤屍から響いたものはまた違うもの。


入ってきた瞬間、ドアを開けた反動の風がその人物の髪を揺らす。

完全に店内に入ると少し伏せていた目を開け、立ち止まると真正面を向いた。






「んな…!?」




最初に声を発したのは蛮だが、その場にいた全員も驚愕の表情を見せ、目を見開く。


その人物が入ってきて皆の目に入ったのは、

またもや黒という色。


だがその雰囲気はまた赤屍とは違う。



漆黒の長い髪、黒であるけど透き通るような瞳。

漆黒の服を身に纏い、リンとした姿を、神秘的な姿をみせる少女。



「ほう…これはこれは…」


赤屍が全員が驚愕の表情を見せている最中、嬉しそうに感心したように言葉を漏らす。










「………!」







「こんにちは、お久しぶりです。」






赤屍やヘブン以外全員が驚愕の表情を浮かべる中、は平然と、特に驚くこともなく微笑みを見せる。




「すみません、いろいろと事情がありまして……

遅れてしまって申し訳ありません。」



「いいのよ、ちゃん。ちょうどみんなも集まったところだし。」

軽く頭を下げるにヘブンはそう言いながら、来てくれてありがとうと駆け寄る。


「おいヘブン!!まさか最後の一人ってーのは…!?」


不安が胸をよぎり、蛮の予感は的中した。



「そうよ、蛮君達も良く知っているよろず屋、ミス・レッドムーンことちゃん。

みんなもよく知っていると思うけどミス・レッドムーンの噂はかなり有名だからね。

今回頼むことにしたの。

蛮君達とはすでに知り合いっていうことだったから、丁度良かったしね。」


「クスクス」



赤屍も思いがけないが、それよりも思いがけなかったのはの登場。

全員が少なからず驚く中でも、は特にいつものように笑いながら小さく笑っている。



なんでまでいやがんだよ…!



いくら”ミス・レッドムーン”と呼ばれる者とは言え、まだ少女。

確かに卑弥呼も16歳ではあるが、以前仕事を共にしていたためその実力は知っている。


だが、とは今まで仕事をしたこともないし、

しかも今回の仕事は相当の危険を伴う、との言葉。


蛮が心配するのも無理はなかったのである。






「おいヘブン、本当にを今回の仕事に入れていいのかよ。

危険なんだろ!?」



「そうだよ、ヘブンさん!!危険すぎるよ!


だって無限城だよ!?」



信じられない、とばかりにヘブンにつめよる蛮と銀次。

だが、それはその二人の近くにいた人物によって遮られた。



「彼女なら大丈夫ですよ、美堂クン、銀次クン。」




「…どういうことだ、ジャッカル。」



蛮と銀次とは正反対に、さも嬉しそうに笑みを浮かべながらそう言う赤屍を

蛮は睨みつけながら低く唸るように声を上げる。



「彼女、さんとは以前にお手合わせを致しましてね……

少女だと思って私も最初は少々油断していたのですが…なかなか力の強い方でして。


この私が傷を受けましてね。



仲間にしても問題はないと思うのですが?」




あの赤屍が少女に傷を負わされた


その言葉を聴いた途端、場はすぐに凍りついた。

ヘブンや赤屍、以外は驚愕のあまり目を見開いたまま固まってしまったのである。



「……」


蛮と銀次の表情を見つつ、笑みを浮かべたまま赤屍はの方へと近づいた。



「…お久しぶりです、さん。この間の仕事以来ですね。

前回はあなたと敵同士でしたが、今回は共に仕事を出来るというので…


なかなか楽しみだ。」


「お久しぶりです、あ、お怪我治りましたか?

この間はすみません…ちょっとやりすぎてしまったかもと思って。」


「ええ、もう大丈夫ですよ。

ですが私としてはもっとあなたの力が見たいものですね。」



相変わらずですね、とクスクス笑うに赤屍も笑みを浮かべる。


二人のそんな雰囲気にも驚きつつ、また一人、に近づくものもいた。



「ま、確かにあんたなら問題ないかな。

…久しぶりね、。」


「卑弥呼…?」


へと近づく卑弥呼とその言葉に蛮はつい卑弥呼の名を不思議そうに呼ぶ。


だが。



「卑弥呼ちゃん!」


久しぶりだね!と目を輝かせながら言う

卑弥呼もまたそれに応じていた。



どうやら見た所、二人は知り合いらしく。

蛮はおい、お前ら知り合いなのかよ?と問いかけた。



「まぁね、とは以前一緒に仕事をしたことがあったのよ。」


「ええ!!そうなの?ちゃん。」


はうん、そうなの、と問いかけてきた銀次に笑顔で言った。


自分の知っている人物がとも関係のある



しかも。


「花月さんと士度さんもお久しぶりです。この間は本当にありがとうございました。」

「いいえ。またお会いしまいしたね。」


「え!かづっちゃんと士度まで!?」


なんとこの場の全員がとは一度会っているとのこと。


―…一体これは偶然なのか、それとも必然なのか。


あまりにも次々に起こる出来事に驚かずにはいられなかった。




一通りの挨拶が全員に終わったところで、ヘブンはまた話を切り出した。


「…ということだけどどうする?


GBのお二人さん?」



場がまた静かになる。

蛮と銀次の二人は複雑そうな顔をしていた。


赤屍にという以外な人物の登場。


特にに到っては、本人こそ特に動揺もせずに平気そうな顔をしてはいるものの。


やはり二人にとっては心底、心配を隠し切れなかった。

心配、というのもに向かってするのは失礼な事だとは思うものの。


何せ今度の仕事は無限城。

特に以前無限城にいた銀次にとってはそれが心配の種であった。



「ちなみに言ったけど、今回はそちらの”絃の花月”クンが言っていた通り、

無限城がらみの仕事よ。



そして銀ちゃんキミのよーく知っている人も関わっているわ。」



ピタッと銀次の動きが止まる。

動揺が体を走り、進む足が止まる。





銀次の目が曇ったのを、蛮は見逃さなかった。



「…ヘッ、上等だ!

オレらもプロだかんな組む相手は選ばねー。



ただし――」





全員を見回すようにして蛮が皆の中心へと移動する。




今までにない危険な仕事。

そして場所はあの新宿の廃墟ビルの集合体、無限城。


何が待ち受けるかは誰にもわからない。

だが命を懸けた戦いが待ち受けるであろうことは確か。



――それでも全員の決意は変わらない。




そこに何がある限り


そこで何が待ち受ける限り








蛮は息吸い込むと、


大きく荒々しく全員に言葉を発した。






「足引っ張んじゃねーぞテメーら!」


















今、無限城で新たな戦いが始まる―――


























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久々のアップです。遅くなってしまって本当に申し訳ありませんでした!!
が、なんか今回の文章は本当にワケのわからないものになってしまいました…(泣)
何度も何度も考えて書き直したりしたのですが…あぁやっぱりダメでした…。
そしてヒロイン、微妙な登場率です…(汗)

というわけで、まぁIL奪還編突入という訳なのですが、一体どこまで話が続くでしょうかねぇ…(遠い目)
おそらくヒロインさんの過去が微妙に話に出てくるかと思います。
IL奪還はたくさんキャラクターが出てきますからね!!その中にヒロインと関係のある人もいますし。
頑張って書かねば!!長くなるとは思いますが、どうか見捨てずお付き合いください。

それでは。


H.16.8.5