「まずはこちらの二人が奪還屋GBの美堂蛮と天野銀次――
となりが同じく奪還屋の冬木士度。
そして奪還した標的を無事にお届けするために、Dr.ジャッカルこと赤屍蔵人、
レディ・ポイズンこと工藤卑弥呼の二名の運び屋も同行致します。
最後の二人の内、一人は案内屋としてチームを先導することになる
無限城出身の裏新宿ジャンクキッズ・グループのリーダーの”絃の花月”。
そして最後の一人、奪還屋や運び屋などのすべてのサポートに回る
よろず屋、ミス・レッドムーンこと。
以上八名が今回の”IL”奪還作戦のメンバーです。」
Existence
―無限城"IL"奪還作戦!―
2
暗い部屋。
電気は先程まではついていたらしいものの、すでに消えて跡であった。
特に何の音もたたず、あたりは静寂の中。
ふと、室内から外を見ようとすると薄いカーテンが外からの風で小さく揺れているのが目に入る。
波のように揺れるカーテンの奥には小さなベランダが一つ。
ここが上の階の方だからということで風も良く通り、眺めも新宿一帯を見回せるほどである。
はそこにいた。
丁度ベランダの手すりの棒に腕を預けるような感じで、
前かがみになって夜の新宿の景色を見ていた。
真っ直ぐ先を見つめていたは一つ、小さく息をはく。
「ついに明日か…」
そう呟いた後、
はふと、今日のことを思い出した。
――メンバーと顔合わせをし、すぐにその後
依頼人との待ち合わせ場所である無限城の城下町にある廃墟の中へと向かった一同。
待ち合わせ場所が無限城の城下町の廃墟、ということもあり少々怪しい感じはしたものの
今はそんなことを言っている場合ではなかった。
「ヘブンです、今到着しました。」
ギギギギ…と音がし、重い鉄の扉が開かれる。
自動的に開いたその扉は、余計に何かしらの演出感を感じさせる。
開かれたドアは再び荒々しく閉まり、全員はその方向を振り返った。
「フフ…本当に凝った演出だ。
鬼が出るか…蛇がでるか…」
「私です!ヘブンです!!」
ヘブンが声をあげるものの、辺りに響くのは静寂だけ。
だが、ヘブン以外の全員は背後から忍び寄る殺気を感じ取らずにはいられなかった。
「ち!もったいぶりやがって。
これだからヘブンの持ってくる仕事は…」
スッ…と、蛮の手があがった。
「気がのらねぇんだよ!」
ガシィィッと握られるコアラのマスク。
「ぐああっ…!?」
悲鳴が上がり、次々と現れる動物の顔のマスクを被ったスーツ姿の者たち。
背後から感じられた気配はこれだった。
「こんなご丁寧な出迎えがあるなんて
聞いてねぇぜ!?」
メキメキと相手の顔をつぶす音を立てて、蛮の圧力が上がる。
バチィッ!
「冗談にしちゃ…ちょっとサムイよね…?」
銀次の体から電気が発せられる。
「おのれえええっ!!」
叫びを上げながら襲い掛かる者たち。
だが、それはまた男達に巻きついた細い絃によって遮られた。
「なに……い、絃!?」
――リン…
となる鈴の音。
「ま、さしずめ腕試しってトコですか…」
「気にいらねーな…」
――ピィィ…
士度の獣笛によって、集まる大勢のネズミが相手を襲う。
「あら?腕だめしだったんだ…
だったらちょっとやりすぎたかしら?」
サァ…といい香りが辺りを包む。
その匂いをかいだ相手は、途端に猿のように仕草をし、声を出す。
全員は襲い掛かる者たちを次々と、その自身の能力を持って倒していく。
だが、ただ一人、相手に襲われもせずにいた者がいた。
「どうしました?私を試すのでしょう?」
メスを数本出して、帽子から顔を除かせている赤屍からは、蛮や銀次たちからはまったく違う殺気が放たれていた。
あまりにも恐ろしいその殺気は相手を怯えさせるには充分のもので。
現に、赤屍の周りにいるものはその殺気だけで近づけずにいた。
相手のその怯えた姿に赤屍は少々つまらなそうな顔をした後、
素直にもその場を立ち去ろうと振り返る。
だがその瞬間、ドシャ…と鈍い音と共に切り刻まれた死体が辺りを飛び散った。
あまりにも早いその動きに全員は驚愕の表情を浮かべる。
(い…いつの間にあんなバラバラに刻んだんだ?
この僕にも見えなかったぞ…)
(ヤロウ…)
その時、バァンと大きく壁に何かがぶつかる音がし、
見ると銀次が赤屍の胸倉を掴んで壁に叩きつけている所だった。
「…これはこれは銀次君!
何か御用ですか?」
銀次のその行動に少々驚いたものの、赤屍はいつものように笑みを浮かべながら銀次を見る。
「…殺す必要はなかった…なのに……!」
銀次が怒りの表情を向けそう言っていた
その時だった。
「!」
突然卑弥呼がを呼ぶ声が聞こえ、銀次も赤屍も皆の向いている方向を向いた。
もまた当然ながら敵である相手に囲まれており、
戦闘態勢をとっている最中であった。
「ちゃん!?」
銀次が叫び、蛮がチッと舌を鳴らして吸っていた煙草を捨てその方向へ向かおうとした。
だが――
ヒュウ…との周りを風が吹く。
途端、の雰囲気が変わったことを察知し
蛮は向かおうとした足をピタッと止めた。
の周りを、弧を描くように煙が立つ。
顔を少し伏せたまま、スッと手を前に差し出し、
顔を上げて一心に前を見つめた。
その顔はいつもの彼女の表情ではない、瞳に信念を宿らせたの真剣な顔であった。
「竜風翔!!」
ゴオオオッ…!と、の言葉と共に、
彼女の周りを円を描くようにして吹いた風は一気に上昇し、
周りにいた敵を全員、吹き飛ばしたのであった。
その攻撃と共にうめく声。
それでも敵は次々と襲い掛かかって来る。
しかしはまったく攻撃を受けず、それどころか、次々と敵をなぎ倒して行く。
彼女の能力である風を操る能力によって。
その姿はまるで、舞を舞うかのごとく。
軽やかに、流れるように、風にのって。
「…………」
その様子を見ていた全員は、呆気にとられるようにして立ちすくんでいた。
赤屍や卑弥呼は今までの戦いを見たことはある。
その他は少しの能力を使うところを見たことはあったものの、
改めて見るのは今回が始めて。
赤屍や卑弥呼でさえ一度見たことはあっても、
それでも相変わらずの彼女の戦いぶりには、感心をもたずにはいられなかった。
まさか、これほどの実力を持っているとは。
彼女のことを心配していた蛮は、特に驚きを見せていた。
こりゃ…ミス・レッドムーンって呼ばれてんのもわかんなくはねぇな……
赤屍が大丈夫だと言っていた理由に納得がいく。
当の本人は帽子から覗かせている口元に笑みを浮かべているのだが。
――綺麗だ…まるで舞を踊っているのかのように…
一方で花月もの戦いに驚きはったものの、
それよりもその舞のような動きに目を見張っていた。
そしてもう一つ、確信したものもあった。
――さっきのさんの技から見て、やはり彼女は……
――最後の一撃が相手にダメージを与える。
ストン、と軽やかに着地すると、すでにそこに風は無く。
ただあったのは、地面に突っ伏しているたくさんの敵。
瞳は今だ真剣さを宿したまま、一心に前を見つめている。
誰一人として、その場にいたものは口を開かなかった。
スッと目を閉じ、しばらくしてまた開くと。
は皆の方を向いて軽く笑みを浮かべた。
「ごめんなさい、少し出遅れちゃいましたね。」
先ほどまでの表情とは全然異なる、いつもの雰囲気のに
全員はこうまで普段の時と仕事の時の表情は違うものなのか…と
少なからず思っていた。
――その後明かりがつき、依頼人が現れたものの。
顔は全員仮面で覆われており、その姿を捉えることは出来ずにいた。
ターゲット名称はイニシャルを取ってI・L
”IL”(イル)と呼ばれるものであり。
それが何なのかは知ることは出来なかった。
だが余程のものであるということだけは、全員理解していた。
現にその依頼の交渉が済んだ後、廃墟は大きな爆音を立てて崩れたのだから。
何一つ痕跡を残さないその手口。
仮面をつけた依頼人。
そしてその依頼場所、謎の依頼品。
どちらにしろ怪しいことには変わりなかった。
――いずれは行くであろうと思っていた。
それが仕事で行くのか、個人的に行くのかは当然わからなかったけれど。
あの、裏新宿の無限城へ。
ヘブンから今回の仕事を依頼された時、正直迷ったところもあった。
別にそれは、無限城に行くのが怖い訳じゃない。
――無限城には自分の過去があるから。
こういうことをトラウマ、というのだろう、恐らくは。
自分の心の中が葛藤でいっぱいになる。
正直、行くべきか迷った。
行ってしまったら、もしかしたらまた……
それでも、行かなくてはならないと思った。
一度踏ん切りはつけたけれど、でも行かなくてはいけない。
何故なら、それが自分にとって必然であるかのように思えたから。
今回の仕事の依頼が自分に来たのだって、もしかしたら偶然かもしれないし、必然かもしれなかったから。
いずれにしろ行かなくては行けないのだから、どちらも同じ事。
ふと、ある人物がの頭をよぎる。
今もまだ、無限城にいる彼のことを。
「…彼は…元気にしているかな…」
力なく微笑むその顔は、決意と迷いの交差。
会うことはないだろうと思う。
だがそれでも何となく思い出してしまう。
会えばどうなるだろうか。
何もないかもしれないし、何かがあるかもしれない。
そこに何が待ち受けるのか、自分にはわからないけれど。
自分で決めた事だから、前へ進むしかない。
少々ふいていた顔を上げ、真っ直ぐ先を見る。
先に見えるのは、まさにこれから自分が行こうとしている場所。
回りが小さな建物ばかりということもあり、それは余計に高く、大きく見えた…――
決意と迷いを胸に。
そして自分の過去を共に。
その日、真っ直ぐ先にそびえ立つ無限城を。
は一人、見つめ続けていた――
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”IL”偏、第2段です。今回は少々短めでしたね。
本当はこの回から無限城へ入る予定だったのですが…
つながりの関係上もあり次からという事になってしまいました…
すみません、力不足で…(汗)そして無茶苦茶な進みでごめんなさい。
まぁ恐らくご察しの通り、無限城へ突入する前日のお話です。
ヒロインの心境も書きたかったので、書かせて頂きました。
無限城にあるヒロインの過去、そしてヒロインの言う”彼”。
そして花月のヒロインに対する確信。
いずれも少しずつ今回の所で明らかになっていく予定です。
過去に関してはまだあんまり出せないかもしれないのですが…(どっちだよ)
あ、ちなみに”彼”とは誰のことかお気づきになったでしょうか?(笑)
気づいた方は拍手です。
あぁ早く続きも書きたいですね〜。
頑張ります!ではでは…
H16.8.8