テクテクテクテクテク……
スタスタスタスタスタ……
クルッ
「…………」
テクテクテクテクテク……
スタスタスタスタスタ……
「…………」
―――あぁ………どうしてこんなことに……
Existence
―無限城”IL”奪還作戦!―
4
「……どうかしましたか?」
「…い…いえ……」
――ビクビクビクビク……
歩いては振り返り、歩いては振り返る。
先ほどから繰り返されるこの行為に、
前後で言う後にいる男はついに口を開いた。
とは言っても別に不快である様子はなく、むしろニコニコとしている。
が、前にいる少年は全く反対であった。
ニコニコするどころか、先ほどからまるで身の危険を感じたように
ビクビクと脅え続けているのだ。
「クス、大丈夫ですよ。
そんなに恐がらなくても。」
少年の歩いては振り返る行為の繰り返しの意味を察知したのか、
前にいた男は少年を安心させるかのように言う。
とは言っても少年にとってはただの恐怖でしかなかった……
―――IL奪還メンバーと離れてしばらくたったころのこと。
薄暗い通路の中を一人の少年と一人の男が姿を現していた。
金髪少年はもちろん天野銀次。
かつてこの無限城の雷帝と呼ばれていた少年であり、
今は奪還屋を営んでいる者だ。
そして銀次の後ろにいるのは…茶髪の少年……
ではなかった。
今後にいるのは一人の背の高い黒の服装をした男。
長めのすそのコート、長いつばの帽子、そして帽子から覗く長めの髪に紫の瞳……
運び屋、赤屍蔵人。
会えば敵となる彼だが今回ばかりは違い、共に(嫌々ながらも)仕事のメンバーとなっていた。
銀次にとってはこの世でもっとも苦手といって言い程の男である。
それなのに、何故か今ここにいるのはこの二人だけなのだ。
――うううー……
泣きたいほど嫌で仕方がないのは銀次。
が反面、赤屍は嬉しそうだ。
敵の毒煙によって皆がバラバラに散り、銀次が目を覚ましたときにはこの男がいたのだ。
シャリシャリ…となにやら嫌な音が聞こえたので振り向いてみた所…
そこから今の状態にいたったのである。
――うう…何でオレがこの人なんかと一緒に………―――
神のいたずらなのか、それともただの偶然なのか…
どちらにしろ、銀次にとってこれほど苦痛な事はない。
しかも自分が前にいるために、いつ背後を狙われるか分からず、
ただただ歩いて振り返って、とするしかなかったのである。
「まぁ、そう恐れずに。それに、あなたは私を一度は血まみれにした男なんですよ?
何を恐れる必要があるのですか?」
「!」
―――あ、そうか!オレ一度こいつに勝ってたんだっけ。
よーし、もし何かあったらまたあの時みたいに電磁力攻撃で……――
以前自分が倒したことなどすっかり忘れていたために、余計に嬉しくなってしまう。
ビクビクしていた自分がなんだか馬鹿だったようにみえてしょうがない。
―そっかそっかー、オレ一度赤屍さん倒したんだよねー。すっかり忘れてたなぁー。
「あはは!そうだったそうだった!」
「そうそう、その調子ですよ。あなたは強いんですからもっと自信を持って。」
すでに気分は有頂天…のままでいるはずだった。
「でないと私も退屈だ。」
ピタッと動きが止まり、銀次がクルッと後ろを振り替える。
赤屍の”退屈”という言葉がなんだか気になり、え?退屈って?と聞き返してしまった。
それが不味かったと気付いたのは後のこと。
「ほら見てくださいこのメス。
あの時あなたに磁力で体から引きずり出された経験を生かし、
磁石につかないチタン合金製のものに変えたんですよ。」
語尾にハートマークをつけんばかりに、メスをとりだしながら言う赤屍に。
銀次はあ、そうなんですかーとあっさり言うと。
とたんに怯え……
――それって………
更に恐怖を覚えたのであった。
――それってまさしくオレ対策〜っ!?
僕はもう…ダメかもしれません……
蛮ちゃん――
あなたはいったいどこで何をしているのでしょうか?
「あぁ…それにしても…ちゃんとか…大丈夫かなぁ。
一人になってなきゃいいけど……」
遠くを見るような目線ではありつつも、気になるのは彼女、のこと。
今回が初めて共に仕事をすることとなっていたために、
なんだか心配になってしまう。
「無限城初めてだし…それに一人だとしたらどこへ行けばいいかわからないだろうし…
大丈夫かなぁ…」
自分はまだ無限城出身者だからよいものの、きっと初めてであろう彼女は道に迷いはしないか…
などとそんなことが気がかりになってならない。
「クス…銀次クンは随分とさんのことが気になるようで…」
「えっ!?い、いや別にそんなつもりじゃ…」
独り言を言っていただけなのだが突然介入が入り、ビックリしてしまう。
「ただ…なんとなくちゃんって…
時々悲しそうにしてるっていうかなんというか……」
「ほう…?」
銀次の真剣そうな話し方からして、恐らくそういうところが彼女にはあるのだろう。
いつものホワホワとした感じからは見られないことに、赤屍は関心を示していた。
――どうやら銀次クンは…以外に勘がよろしいようですね……
彼の新たな一面にクス、と、また興味がわいたかのように笑みをこぼす。
ふと、赤屍はあることを思い出した。
「そういえば…彼女、はぐれる前に様子がおかしかったですね…」
「え……?」
フッ、と思わず隣を向いてしまう。
帽子のつばに手をあて少し顔を上げた赤屍の横顔が目に入る。
「あなたがあの少年を抱きかかえていた時でしょうか……
急に目の色が変わったように、青ざめていましたね。」
「え、ちゃんが…?」
「ええ。なにやら思いつめていた様子でしたよ。
ピクリとも動かずに、ただじっと…
そういえば、あなたの少年を抱きかかえている姿を凝視していましたね」
――ちゃん……何があったんだろう…
そんなことがあったなんて…彼女らしくもないような行動である。
自分はシュウのことが気になって気付かなかったのだが……
――そういえば………夏美ちゃんが言ってたっけ……
――「……私、ちゃんがあんな子だなんて思わなかったなぁ。」
「え?」
確かあの日は雨だったであろうか。
もう日も暮れたころ、蛮といつものHONKY TONKのカウンター席に座っていた。
つい先ほどまではがお気に入りのカプチーノを飲んでいつも通り仕事にいった後、
が丁度出て行った頃に雨が降り出し、ちゃん大丈夫かなぁと銀次がドアを見ながら呟いていた。
そんな時だった。
すでに洗い終えた食器を拭いていた夏美がポツリ、と呟いたのである。
当然、その突然の夏美の言動に蛮と銀次の二人が気にかけずにはいられなかった。
「どういうこと、夏美ちゃん?
だって二人って元々友達だったんじゃないの?」
「ううん、元々って訳じゃないんだ、それが。」
銀次は驚きで目を見開く。
「え?違うの?」
「ちゃんとお友達になったのは、ちゃんがここへ来るようになってからだよ。」
これまた意外な発言に、蛮も口を開く。
「お前らって同じクラスメイトなんだろ?
だったら普通、一回ぐらい喋ったことあんだろ。」
「それが…以前は全く。
ちゃんが生徒会長ってことはもちろん知ってたけど、
どんな子っていうのかは知らなかったんだ。」
雨の音がサアサアと窓を通して響く。
「ちゃんって美人だし頭も良くて、生徒会長もしてるから学校でも結構有名で。
決して誰とも話さないってことはなかったんだけど……
どこか雰囲気が神秘的というのか、幻想的というのかそんな感じがして…
どこか一歩他人と距離をおくような感じの子だったんだ……」
「そうなの…?」
「うん、少なくとも私にはそう見えたんだよね。
だから、あんな風な子だって知ってビックリしちゃった。」
人ってやっぱり外見じゃわからないものなんだね、と言う夏美に。
蛮と銀次はただただそれを見つめているだけであった。
――考えてみればちゃんって、不思議な点が多いのかもしれない…
ふとあることが頭に浮かび、それを聞くべく赤屍の方を向く。
そこには笑みを赤屍がいたものの、
銀次は特に気にもせず、むしろ真剣な表情で口を開いた。
「赤屍さんって、ちゃんと戦った事があるんですよね?」
当たり前のような発言、だが赤屍は気にせず答える。
「ええ、ありますよ。とても強い方でして…
まるで普段の表情からは考えられないようなほど、戦っている時の表情は目をひきつけますね。
戦い方も優雅で綺麗で…美しいと思いましたよ。
女性であれほどの戦闘能力を持つ方は初めてみましたから、とても興味が湧きましたね。
ぜひともまた、お手合わせ願いたい…」
帽子から見える口元に笑みを浮かべ、目を細める赤屍の姿は本当に興味を持ったような表情であり、
銀次はそれをただただ真剣に見つめていた。
まだまだ謎の多いが気にはなっていたものの。
赤屍の行きましょうか、という言葉に銀次は素直に従い。
途中、なんとなく嫌な予感が頭を過ぎったものの
とりあえず先へ進むことを考えて、足を進めていった。
――ちゃん…どうか無事でいてね……
と、そう願いながら―――
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IL偏第4段です。
すみません…今回は一回もヒロインを出すことができませんでした…(汗)
ヒロインのことをまた少し知ってもらうために赤屍さんと銀ちゃんの対談(回想も含めて)を入れました。
この二人、私は大好きです(笑)銀ちゃんちょっとかわいそうだったかな…?
でも、メスをちらつかせた赤屍さんはつぼでした(笑)
次回はちゃんとヒロインが出てきますよー、しかもあの人も出てきます。
”彼”はまだなのですが…一体どなたでしょうか?
戦闘が入る予定ですので、また頑張って書きまーす。
それでは。
H16.9.27