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ピピピピピピピピピ………… 「うわぁっ!?」 静かな朝にけたたましい目覚ましの音と叫び声、 その声の張本人であるはガバァッと、一瞬にして身を起こした。 「え!今何時!?」 バッと、壊さんばかりに時計をひっつかみその文字盤の指すものを見る。 「うそっ!もう8時じゃない!! しまった…学校っ!!」 昨日も夜に仕事があったせいか、疲れが残り、ついつい寝過ごしてしまった。 ここのところやたらに仕事の依頼も多く、特に夜は忙しい。 仕事が来るというのは確かに悪い事ではないものの。 自分は世間一般で言う女子高校生。 いろいろと忙しい部分もあるのだ。 もっとも…あの奪還屋二人なら忙しいことは何よりの喜びであろうが……。 ――半ば布団を投げ出すようにベッドから飛び降り、制服に手をかける。 光が透き通って見えるカーテンを両手で開け、 すばやい動作で愛用のチェックのパジャマを脱ぎ、 制服のシャツに手をかけた。 その時だった。 「…あれ?」 ピタッと、 ボタンを上から2番目ぐらいまで止めていたボタンの手を止める。 ――そういえば今日って… ひょっこりと、あることを思い出す。 その確認をするように、壁にかけられたカレンダーを見やる。 今日が火曜日だということだけは確信があり、 そこを辿って、昨日の日にちを思い出す。 4週目あたりまで来たところでピタッと手を止め、よーくそれを見る。 「あ……」 指のたどり着いた先の指すものは ”11月23日” 「そっか今日って…」 ――勤労感謝の日でお休みなんだっけ…… ほーっと、その瞬間胸をなでおろす。 と、またハッと何かを思い出したようになる。 「あれ…今日は勤労感謝の日…だよね… でもなんか他にあったような〜…」 ん〜なんだろう…とあごに手を当てて思い出そうとする。 何か、何か今日はあったような気がすると、考え込む。 すると、ふとあることが頭が過ぎり、あ、と声を漏らす。 「そうそう!そういえば今日って…」 Labor Thanksgiving Day 「はい!みんな!!これどうぞ〜。」 「うおーーー!!食い物だー!」 「わーい、おいしいものだー!!」 今日は休み、ということがわかり朝から”Honky Tonk”にやってきた。 当然のごとくいる奪還屋の2人組に、めずらしく今日は花月と士度も来ていた。 二人とも仕事ではなく、たまたまコーヒーを飲みに来たらしい。 丁度いいね、とが言うと、皆は不思議そうな顔をして一体何なのかと思いきや。 が差し出したのは籠にのせられたおいしそうなクッキーと切り分けられたケーキ。 においもそうだが、見た目もおいしそうなそのお菓子は真っ先に奪還屋の2人を引きつけた。 「うーん、おいしいよ〜ちゃ〜ん!」 「ホント?ありがとう!」 「ここ最近何にも食べてなくて…また飢え死にしちゃうところだったよぉ〜。」 ガツガツと次から次へとケーキやら何やらをひっつかみ食べていく二人組。 無言のままどんどん食べ続ける蛮。 そして涙を流しつつも、感動しながら食べていく銀次。 はその光景を見て、「相変わらずだねぇ〜」とクスクス微笑ながら言った。 そしてもう一つ籠を出すと、今度はそれを花月と士度の前に差し出した。 「はい、士度くんと花月さんも。」 「お、いいのか?サンキュな。」 「すみません…では一つ。」 こちらは先ほどの二人とは違い、多少遠慮をしながらそれを受け取る。 同時に口に運ぶと、満足そうにしていた。 「おいしいですよ、さん。お一人で作ったんですか?」 「ええ、こういうのを作るのも結構好きなんです。」 「クスクス、さんらしいですね。」 「へぇ…結構うまいな。」 「ありがとう、士度くん。 あ、マスターもどうですか?」 「お、いいのかい?じゃあ頂こうかな。」 そういってマドレーヌを一つ取り食べると、ポールは「うん、いけるぞ」と笑いながら言った。 「…んでも、何でこんなに作ってきたんだよ?突然。」 もぐもぐと、今だ口を忙しく動かしながら蛮が訪ねてきた。 「あ、うん。今日が勤労感謝の日だから…今日はみんなに”日々のお仕事お疲れ様です”って 言う気持ちで、お菓子作ってきたんだ。」 ………………………… 「あれ?みんなどうしたの?急に黙っちゃって。」 突然自分の一言で沈黙になってしまった周りにハテナマークを浮かべる。 皆、目を見開いたまま固まっている。 「ちゃん、それだけのためにわざわざ作ってきてくれたの?」 「え?はぁ、まぁそうだけど…」 銀次の言葉には曖昧でありつつ、そう返事を返す。 「てかだいたい、勤労感謝の日って言うのは働いてるやつに感謝する日だろ? おめぇだって仕事してるじゃねぇか。」 「あ、そういえばそうだったね。」 「気付いてなかったのかよ…」 蛮の、ツッコミとも言えるその言葉には”そういえば…”と まるで今思い出したようにポンと手をついた。 「でも、”お疲れ様です”っていうぐらいの権利は私にもあるでしょう?」 その言葉に一気に場が静まる。 ニッコリと笑顔を見せながら目の前にたたずむ少女を皆見ていた。 「私もみんなと同じように仕事をしているから多少はわかるもの。 その大変さが、人とは違って。 当たり前のようになったけれど、 私達はこの裏の仕事というものに毎日命を懸けている。 持てる全ての精神力を持って。 大変なのはみんな同じだから、お互いに感謝しあってもいいんじゃないかなと思ったんだ。 だから、今日は私からみんなに”お疲れ様”って言おうと思ったんだ。」 輝くほどのまぶしい笑顔。 最初から思ってはいたが、自分たちと同じように裏業界で働く少女とは思えないほどに。 まるで今まで裏とは関係のない世界で生きていたように。 だが、この裏の世界にもこんな少女がいる。 まぶしい程の笑顔を輝かせるこの少女が。 「…ま、確かにそうかもしれないな。」 煙草を吸いながら、ポールは口を開いた。 「俺のように普通に働いてる奴も、お前らのように日々命懸けているような仕事をしているやつらにも。 こういう日があってもいいんじゃないかと思うさ。」 「…確かに、それもそうですね。」 「ま、勝手に俺らと同じように奪還屋始められて迷惑しているやつもいるがな。」 「はぁ?なんだよ美堂。 ひがみか?」 「なんだとてめぇ…勝手にマネしやがって、猿回しが!」 「なんだと!ふざけんな!!誰がマネしたっていうんだよ!!」 「オメェに決まってんじゃねぇかよ!!」 「なんだと!!ろくに仕事もねぇくせに!!」 「なんだとー!!」 「あぁ蛮ちゃん…士度も抑えて…」 「お前は黙ってろ、銀次!!」 そういって相変わらずの口論を広げている蛮と士度の二人に はぁ…とポールと花月がため息をついてはいたものの、呆れたように微笑み。 その光景に驚きつつも、はクスクスと笑みをこぼした。 「さん、もう一つケーキを頂けますか?」 ふいにの方へと花月がやって来て言う。 「あ、どうぞどうぞ。たくさん食べてください。」 惜しみもなく、お菓子を入れた籠を差し出すに。 花月はありがとうございます、というと 「さんも、お疲れ様です。」 「あ、ありがとうございます、そういって頂けて嬉しいです。」 ケンカをしている士度と蛮を横に、 和やかに微笑んでいる花月とを見て ポールは優しい笑顔をつくっていた―――― ―――――「ふぅ、仕事完了。突然仕事が入ったからどうなるかと思ったけど 今日中に終わって良かった良かった。」 とあるビルの屋上でたたずむの姿。 先ほど仕事が終わったらしくほっ、と一息をついていた。 急に仕事の依頼が入り少々焦ったが、さほど大した仕事ではなく、 滞りなく終了した。 「朝は、みんなお菓子をおいしそうに食べてくれて良かったな。」 ふと、今日の朝の出来事を思い出す。 「花月さんに”お疲れ様です”って言われて嬉しかったし… 去年とは違って今年は良かったな。」 去年までは自分の仕事に”お疲れ様”を言う人間もいなかったが、 今年はまだ出会ってまもないメンバーたちとも過ごすことが出来て嬉しかったと、 本心でそう思っていた。 だがそれが、いつまで続くかもわからない。 「アレが来たときは…何とかしないといけない…」 ――離れたくない…みんなのそばを去りたくない。 本心ではそう思っていても、いつかは皆のもとを去らなくてはならないような気がする。 離れたくない、でもみんなに迷惑はかけたくない、巻き込みたくない。 だから… ――だからそれまでは、この時を自分の中に収めていこう。 いつか来るその時まで―――― 「あれ?」 ふと、何かが目にはいる。 どうやら人らしく、歩いているように見えた。 ―でも、こんな人気のないビルの集合体に人なんて… そう思い、目をよく凝らす。 すると、あ、と一言言葉を発した。 「あれってもしかして………」 ――暗い路地に一人の男が歩いている。 その服装は黒、と言い切ってもいいほど、ほとんどが黒で覆われていた。 運び屋、赤屍蔵人も先ほどまでは仕事をしていた。 だが、今日の仕事はつまらなくてしょうがないと、本人には言わざるを得なかった。 「まったくもって今日はつまらない仕事でしたね…」 少々不機嫌さが伺えるその表情に、帽子のつばにかける手。 長いロングコートが、風で揺れている。 が、ふいに人の気配を感じとる。 「…どなたでしょうか…」 不機嫌そのものの声で殺気を放つ。 すると、 「あ、赤屍さん!私です、です!」 ひらりと、どこからか軽々と着地して誤解のないように言う。 敵と間違えられて攻撃されては元も子もないからだ。 「おや、さんでしたか…これはこれは今晩は。」 「お久しぶりです、今晩は赤屍さん。 お仕事ですか?」 「ええ、でも今日の仕事は非常に退屈でしてね…少々物足りなさを感じていた所ですよ。」 「ああ、それで不機嫌そうだったんですね。」 「おや、顔に出ていましたか?」 「殺気に出ていました。」 「そうですか…それは失礼。」 初めて仕事で出会った時とは違い、多少の和み感がそこにはあった。 特に赤屍自身の心情は先ほどよりも良く、が現れたことで何かが緩んでいた。 それは不思議と…赤屍にもわからない程に。 「あ、そうだ赤屍さん。 良かったらひとつどうですか、コレ。」 そう言って出してきたのは透明な袋に入った、おいしそうに焼けたクッキー。 「おや、コレはさんがつくったのですか?」 「はいー、あんまりおいしくないかもしれないけれど… あ、その前にもしかして赤屍さん甘い物嫌いですか?だったら…」 「いえいえ、大丈夫ですよ。あなたから頂けるとは、光栄だ。」 「そんな、たいしたものじゃないんですけど…良かったら。」 ありがとうございます、と言い白い手袋をつけた手で受け取ると赤屍はそう言った。 「それにしても、何故突然コレを?」 「あ、それはですね。 今日が勤労感謝の日ということで私が自主的にみんなに”日々お疲れ様です”っていう意味をこめて渡してるんです。 今朝は蛮君と銀ちゃんと花月さんと士度君にも渡してきたんですよ。」 「そうですか…あの奪還屋のお二人さんにも…。 わざわざありがとうございます。」 「いえいえ。」 ”奪還屋のお二人”と少々意味深けな口調だったが ――赤屍さんってやっぱりあの二人お気に入りなんだなぁ。―― などとのんきなことを考えていたのであった。 「あ、あとですね。コレを…」 「…………?」 再びごそごそと何かをとりだそうと、えっとーなどと言いながらそれを探す。 赤屍はのそれを不思議そうに何かと見下ろしていた。 「あ、あったあった! えっと、赤屍さんお誕生日おめでとうございます!」 唐突にそう言って目の前に出されたものは一つの黒い箱。 本当に突飛な発言であったので、数秒の沈黙がながれたものの 赤屍は目を見開いて驚いたような顔をしていた。 「誕生日…ですか?」 「はい!あれ?今日ですよね、赤屍さんの誕生日。」 「ええまあ…ですがそんなこと私自身、すっかり忘れていましたね。」 「ありゃりゃ、そうなんですか? 私は今朝気付いてましたよ。」 「もともと誕生日というものに面識があまりないですからね。 大分そんなことも忘れていたので、すっかり頭から抜けていましたよ。 …それにしても…さん、よくご存知で。」 自分でも忘れていた誕生日、なのに何故か誕生日を知っている彼女。 赤屍のその言葉にはきょとん、とした顔の後、 フッ、と艶然とも言える顔を映し出した。 「クスクス…赤屍さん。 私はこの裏業界で働く”よろず屋”ですよ。」 お忘れですか?とそう含みを込めて笑うの表情は 先ほどの雰囲気とは少々違う、この裏業界で生きてきたと思わせるほどの艶然ぶりであった。 赤屍はのその艶然ぶりを見つめていたものの、 クス、とそう笑うと下向き加減に自身の帽子に手をかけた。 「クスクス…確かに、そうでしたね。 少々あなたを見下してしまったようで、申し訳ないことを言ってしまいましたね… お詫びしましょう。」 「いえいえ、かまわないでください。 一見したら、私は行動的なことしかしていないように見えますし。」 まあ実際外にでて行動する事の方が多いですしね、と付け加えながらはそう言っていた。 見ている限りでは割と、は確かに外での行動の方が多いように見えた。 だが、あくまでは”よろず屋”。 実際は内職もしており、情報を手に入れる、などというのはのはお手の物であった。 そのために赤屍の誕生日も知っていたのである。 「でも、良いのですか?頂いてしまっても。」 「どうぞどうぞ。もともとそのつもりで持ってきたんですし… 私、人の誕生日を祝うのが好きなんです。」 「そうですか、では…遠慮なく頂きましょうか。」 「ええ、受け取っていただけると嬉しいです。」 再び黒い小さな箱を差し出す。 「では改めまして… 赤屍さん、お誕生日おめでとうございます。」 「ありがとうございます、さん」 月の光が差し込む中、 二人の着ている黒服が風で揺れていた――――――――――― 数日後、馬車と卑弥呼と赤屍の運び屋3人で組んだときの事。 卑弥呼が赤屍のある異変に気付いていた。 「ジャッカル、あんた… いつのまにネクタイピンなんてつけてたわけ?」 黒いネクタイから少し覗いて見える、銀色のネクタイピン。 それは特にどうと言う形をしたわけでもなく、シンプルに出来ていた。 数日前まではそんなものを見たことがなかったために 不思議になった卑弥呼はそう問いかけた。 「ああ、これですか…いえ実はある方から頂きましてね…」 「…プレゼントってこと?」 「ええ、まあその通りですね。」 「ふーん」 「どうしたんじゃ、卑弥呼。」 隣から馬車の声がかかり、そちらへと話相手を変えると 卑弥呼は腕を組んだまま馬車に向かっていった。 「いえ…なんだか今日はジャッカルの機嫌がいいと思って。」 「そういえばそうじゃのう…あんなに機嫌がいいのも珍しいじゃな。」 「でしょ?なんだかちょっと怪しいような、気持ち悪いような気がするわ…」 「卑弥呼、それはちと言いすぎじゃ…」 そう言いつつも、二人は妙に機嫌の良い赤屍を見ながら 不思議そうにしていたのであった。 ――「本当に、彼女は面白い方ですね…」 数日前のプレゼントをくれた少女の顔を思い出す。 始めてあった時は例外ではあるが、 は赤屍を特に警戒し恐れるような人物の一人ではなかった。 自分も認めるほどの戦闘能力を持ち、”ミス・レッドムーン”という名高い通り名ともつ、 まだ17、18ぐらいの少女。 だが、その雰囲気は和やかであったり その表情は艶然であったり、 時に不思議な神秘的な雰囲気をだす少女。 赤屍はという存在にいろんな意味で興味を持っていた。 それは戦闘だけではなく、雰囲気なども含めて。 実際、このプレゼントやお菓子を貰ったときも嫌でも何でもなく むしろ嬉しい方であったのかもしれない。 「また、近いうちにお会い出来るといいですね…」 キラリと光るネクタイピンを覗かせ、 いつもどおり長いつばの黒い帽子に手をかけ、黒いコートを翻せながら 夜の闇へと足を進めていったのであった―――― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ はいー、勤労感謝の日と赤屍さんの誕生日を兼ねて書きましたー。 グス…本当は23日にアップしたかったのに…間に合いませんでした…(泣) 他の赤屍さんドリームを書いているサイト様はちゃんとその日に更新していたのに…。 裏業界で仕事をしている方たちにもぜひ日々の感謝を!というのと、 赤屍さんお誕生日おめでとうございます、そしてあなたは実のところ一体何歳なのですか という趣旨で頑張って書きました。 ちなみに題名は「勤労感謝の日」を英語に直したもので、そのまんまなんですよ(笑) 文章事態が意外に長くなったので書いた本人もビックリです。 結構長編の方はシリアス要素が多いので、たまにはこんな風にほのぼのを書くのも楽しいですね。 微妙にギャグも書いてみたいですが…それはまた今度ということで(笑) 長い文章にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。 最後にもう一度、赤屍さんお誕生日おめでとうございます!! H.16.11.27 |