その昔、とある村の外れ。

山の斜面に立てられた美しく、青い城があった。

そこに住んでいたのは、古代より続きし月の一族。

彼らは皆それぞれ特別な力を持ち、代々それを受け継いでいた。


だが、温厚な性格であった一族は長生種とも短生種とも共存することを選び、

決して力で押さえつけることをしなかった。


村の人々と平穏でいることを望み、平和に暮らすことを望んでいた彼らは、

静かに、村の外れでひっそりと暮らしていたと言う。





















過去と未来、

そして裏切りと忠誠

―予感―


















、おいで。」


「はい、お爺さま。」


名前を呼ばれ、満面の笑みで老人のもとへとかけていく一人の少女。

艶やかで長い銀の髪と、美しいアイスブルーの瞳。

まだ幼く愛らしい顔は数々の人々を魅了する。





月の一族。

古代から続いてきたその一族は、山に立つ城にその身を幾年にも置いてきた。


昔に比べ一族の人数は少なくなったものの、その血は受け継がれている。

そして今その末端にいるのが、

今現在、月の一族の長となりうるであろう、唯一存在なのである。



それもあってなのか、は現在の一族の長であり、祖父でもあるヴェルナーに特にかわいがられていた。

唯一の孫であり、愛らしい表情を見せるは、ヴェルナーにとって大事な大事な存在。


もまた祖父のヴェルナーが一番好きであったために、

たびたびヴェルナーの元へと行くことも多かったのである。






















――――「……それで…な…ですが…いかが…」


「そう……というのは…どうで…………か…」













「………………?」



とある日のこと。

がいつものようにヴェルナーの元へと行こうとしていたところ、

その途中にある謁見の間から2人の話声が聞こえてきた。

いつもはあまり使うこともない部屋なのだが、何故か今日はその部屋から声が聞こえてきたのだ。





―――「……ならば………にまた……」


距離があるためにその声はほとんどが聞こえなかったのだが、

二つの内の一つが長の声であることはすぐにわかった。



しかし、もう一つの方は聞いたことがないものであった。




―――お爺さまにお客様かしら……―――




自分が知らないのならば、恐らくそうであろう。

数少ないとは言え、この城には客人が来ることもある。



だが、なんとなくその一方の声が気になったは、少々申し訳なくも思いつつも。

謁見の間の重い扉をゆっくりと開き、中へと静かに入っていった。









「では、これで失礼致します。また次回に、長殿。」


「えぇ、次の調印の時に。」




中に入ると、の予想した通り、

奥の方で話をしているヴェルナーと、自分に背を向けた状態でいる一人の男がいた。

ちょうど話が終わったのか、二人は同時に椅子から立ち上がったところだった。


男は長に挨拶をすると、くるりとこちらに向き直り、

自身のマントを翻して、のいるドアの方へとやってきた。


だんだんと近づいて来るのでわかったのだが、

男はまだ若く、背の高い、顔の整った人物であった。




自分がその人物を知らなかったのも含め、男の容姿をじっ、とついつい見上げてしまっていると、

向こうもこちらに気づいたのか、の横を通る際に自分に対して笑みをつくり、軽く会釈をしてきた。


「失礼致します、お嬢さん。」




その時印象に残ったのは、男の嫌に丁寧な口調と、口の端をつりあげた嫌に妖しい笑み。

そして、口元に光る二つのもの。

そして男はスッ、と自分の横を通り過ぎていった。





―――あれは…―――





通り過ぎてもなお、その姿を目で追い。

姿が見えなくなってからも、男のいなくなったドアを見続けた。




しばらくしてハッと我に返り、

はようやく今しがた男のやって来た方へと足を進めた。

足を進めた先にいるのは、もちろんヴェルナーの姿。




「お爺さま…」

少し遠慮しつつも声をかける。


「おぉ、か。どうしたのかね?」


どことなく疲れた顔をしていたヴェルナーだが、の姿を確認すると、

すぐにいつものに向ける優しい笑顔にへと戻っていた。



「いえ、特に用事というわけではないのですが…あの…

お客さまがいらっしゃってたんですね。


お邪魔して申し訳ありませんでした…。」


「いや、ちょうど終わった頃だよ。こちらへいらっしゃい。」


「はい。」


近づいていくと、少し祖父の顔色が良くないのがよくわかる。


そんな顔をしたヴェルナーに対し、は今しがたのことを切り出した。

先ほど男が通るときに見た、”あれ”について聞くために。




「お爺さま、もしかして今の方は…」

のその言葉の続きを察したヴェルナーは、それに頷くと

真剣な表情をして言った。



「あぁ…そうだよ。今の方は長生種だ。」







――長生種。


彼らは属に吸血鬼、ヴァンパイアとも呼ばれている。

だが、それは彼らを侮辱する言葉に値するために、あえて長生種と呼んでいる。


もそのことに関しては承知済みだった。

長の顔色があまり良くないのも、きっと長生種の方相手だからであろう。

彼らから出る雰囲気というものは、合わないのか、それとも慣れないせいなのか。

彼らを相手にすると、その雰囲気に影響されてこちらの気分が悪くなってしまうのである。




しかし……何故彼らがここ、一族の城へとやってきているのか。

にはそれが不思議だった。



「お爺さま、どうして長生種の方がこちらに?

私たちは長生種の方とも、短生種の方とも決して干渉はせず、共存することを決めていましたよね?


もしかして何か問題でも…」


「いや、そういうわけではないのだよ。



それが…むしろその逆でな、


我々月一族と長生種が今度、正式な共存をすることへの調印をすることになったのだよ。

短生種…人間の方とはすでに調印はされていたものの、長生種の方とは暗黙の了解という形になっていた…

…とはいえ、確固たるものではなかったから、いつ崩れてもおかしくない。


それを向こうも感じたのか、

向こうからの持ちかけで、今回ようやく調印の取り決めをすることが決まったのだよ。」



「そうなんですか……」


―――確かに…今まで長生種の方とはほとんど交流がなかったものね…―――






思い返せばそうだ。お互い暗黙の了解を保っていたとは言え、いつ崩れてもおかしくななかった。

いや、むしろ今まで何の音沙汰もなかったのが不思議なのかもしれない。

今回の調印確固したものとなれば互いのこの状態も改善されるはず。


だが………

―――でも実を言えば、どうして……どうして今更調印を…?


しかも長生種の方から赴かれるなんて、なかなかない話よね……―――


正直に言えば、長生種はあまり平和的解決を好むような者たちではない。

いや、中には静かな生活を好むものたちもいるであろう。

だが、大半は私欲にまみれたものが多い。


―――長生種の方に偏見を持ちたくはないけど、実際はそうだものね……―――

自分はまだまだ子供ではあるが、それなりにこの現状はわかっているつもりである。

それに、月の一族との関係の不安定さは長生種との間に限ったことではない。



―――短生種の方ともそう。

表面上では昔、調印をかわしたものの、

私たちのことを本当は良く思っていないものね…―――


月の一族の立場というのは微妙なところにある。

長生種でもなく、短生種でもない自分たち。


短生種と違うところといえば、やはり特別な力を持っているということであろう。

皆それぞれに古代から続く力を秘めており、それをあまり外に出す機会はないものの、

やはり人間にとってはそれが脅威となっているのである。


こちらにその気がなくても、いつ自分たちが襲われるかと、恐れているはずである。

そのための調印ではあるが…あまり良い印象をもたれていないことは確かだ。



不安がいろいろと過ぎり、自身の眉を下げてヴェルナーの方を向く。


「お爺さま…………」


のその不安な表情が指すものを読み取ったのか、

長はの頭を撫で、安心させるように笑顔でそれに答える。



「お前が心配しなくとも良い。

大丈夫、きっと今に我らも安心して過ごせるようになるだろう。


、お前は優しい子だ。


だから大丈夫だとは思うが…もし。

もし…長生種の方や短生種の方と何か衝突が起こった時、

その方たちを憎んではいけない。

憎しみからは何も生まれない、生まれるのは絶望だけだ。


どうかそれを………忘れないでほしい。」



頭を撫でられながら上を見上げると、ヴェルナー…祖父の微笑みがそこにある。

自分の大好きな祖父の笑み。

優しくて、でもその撫でてくれる手は自分の頭を包み込んでくれるほど大きくて、

安心させてくれる一番大好きな祖父の笑み。




「はい。」



もまたそれに、最高の笑顔で応えたのであった。











―――「そういえば、。」


「はい。」



その後しばらく雑談をしていた後。

ふと、ヴェルナーが真剣な表情でのに向き直った。

は何だろうと、不思議そうな面持ちでヴェルナーを見る。


「お前にも話しておいたほうが良いだろう。


最近、村の方で村人が異変する事件が起こっているらしい。」


「異変…ですか?いったいどういう…」


「村人が村人同士を襲うということが…最近起こっているらしい。

最初はただの殺人事件かと思ったのだが……それが一人や二人ではないのだよ。」


「村人同士で………!?どうしてそんな……!

しかも、ただの殺人事件ではないって…どういうことなんですか?」


「その襲ってくる村人というのがな、どうやら…少し様子がおかしいそうなんだ。

まるで人間ではないような……そんな様子らしい。


それでもう一つ。


これがあまりよくない噂なのだが…


その事件を我々月の一族が何かしたのではないかという噂も…流れているらしい。」



「な……そんな、そんなこと…!!」


「ああ。もちろん、我らがそんなことをするはずはない。

どういうことかはまだわからないが…我々も今調査中だ。


調印をしたとは言え、我らは長生種とも短生種とも違う。

この力が恐れられて、そう思われるのは仕方の無いことだ…。


すぐに判明するとは思うが、も気をつけるのだよ。」


「はい、お爺さま………」






―――人間同士で殺し合い、その様子はまるで人間ではないような様子。


一体どういうことなのかしら……?―――


謎は深まるばかり。

だが今は考えてもしょうがないと思い、調査結果を待つことが優先だと考えた。

あまり推測をしても良くない。



―――今気にしたってしょうがないわよね……今は。

とにかく何か起こらなければいいのだけれど……


…けど、でも何かしら、この不安は………

何かがひっかかるような…この感じは―――


月の一族がそんなことをするはずがないのはわかっている。

だが、何故か不安がぬぐいきれない……。



は気にかかる部分があったものの、

その原因もわからなかったために、そのままにしておくことにした。


























だが、その不安が後で的中することになろうとは………



夢にも思わなかったのである。






























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主人公過去編スタートー!
ああもうなんか変な文ですみませんーっ(汗)
てか展開がおかしいかも…(泣)

次の回までこのオリジ話続きますが…どうかご辛抱を;
3回からは騎士団メンバーが出てきますので…っ!(汗だくー)
どうかお付き合いのほどをーーーー。

よろしくお願いいたします;

あ、次超シリアスです。。。
しかも2話目から書き終えた上に2話目長い!!です……(汗だくだくー)

H18.5.31